後藤です。来学期にジュニア向けに環境地球科学という講義をしますので、今日丸山先生が強調されましたシステム的思考というものを主軸に講義を開きますので、そこでも私の考えを聞いていただきたいと思います。
テーマ講義に関して、丸山先生らしく非常に美しくまとめていただいて、別にシニカルではありませんが、私はどちらかというと、環境庁とか現実的なところで仕事をしていますので、環境問題を考えるというのは必ずしも美しいことばかりではなく、政治的にはどろどろとした面もあるかと思います。ただ、システムを構築する、あるいはシステム的思考をするにしても、できれば美しいとしみじみしながらものを考えてほしいですね。
1 現在の価値観
コメントしていただいたことについて復習するというお話ですが、最初、生命系の危機ということを強調されていましたが、わたしもそうだと思います。ただ、今の屈折している社会というか、今の時代ですね、我々の生命体に対する価値観がどこかひんまがっているなあという印象を受けるわけですが、少なくともですね、
人間の生命というものに非常に高い価値観が付与されているという恵まれた社会、歴史的に見るとレアな社会ですね。日本人だったら分かると思いますが、社会的な目標よりも、個人の生命というものが上にあるという社会は現代に限られていますね。むしろ西洋的には生命が第一ということが昔から言われているわけですが。今日我々は非常に豊かな社会に住んでいるという印象、そういう事実があります。
ただ、逆に今ほどですね、医療のミスとかは別にして、人間の生命に対する危機というものを身近に感じられないという世代も少ないんじゃないかと思うんですね。人間は常に自分の生命というものを考えながら生きてきたわけですが、今はほとんど自分たちの危機というものを考えない。しかし、各人の行動が今度は肥大化してじわりじわりと社会全体の生命を危機にさらして行くという、誰が悪いわけでもないし、自分たちが自分たちを苦しめているという非常にパラドキシ感がある時代に生きている、そういう印象を持っています。
2 強力な経済的システム
そのためにそういうところから抜け出るためにはシステム的思考だと思うんですね。ただ、システムと言ってもいろんなシステムがあって、経済学的なシステムから、生態学的なシステムまであって、そこでどう折り合いをつけるかというのを考えるのが問題ですね。
しかし、このシステムの中で一番強力なものは何かと考えますと、実証的にも人間の経済的なシステムですね。あなた方も心理の探求や、知的好奇心とかそういう目標を立てられて生きていることと思いますが、実際は経済的な動きが支配しているということが事実としてあるのです。そういう非常に強力な経済的システムとどう折り合いをつけるかですね。経済的なシステムとは何かというと、一応私は経済学者と称しておりますが、最大にもうけようとする効率であるわけです。各主体が、ぎりぎりのところで競争する。最も得意なところで、最大限の力を発揮する、そういう社会であるわけですね。あなた方がこれから社会に出て、自分の能力を発揮していくためには、残念ながらシステム的思考ではなく、小さく小さく見て行く方が楽だという、そういう事実があるわけです。
私はもともと工学部の原子力工学科というところにいましたが、工学系の研究者というのは、単純というと失礼ですが、ある程度、目先を小さく持つんです。ある技術を開発するとか、効率を非常に高くするとか。例えば20%の効率が70%になると、その研究の貢献度は大きいですね、成功なわけです。それが、70%を経済学的なシステムではどうかとか、生態学的なシステムではどうかということを考えていたら、今度は仕事が進まないわけですね。
ただ、今日の社会はますます経済化とスピード化が進む社会です。そういう流れの中にあるわけですね。良い悪いはともかく、我々一人一人がシステム的思考というものができなくなっています。世の中はだんだん余裕がなくなってるということですね。精神面のことを考えていると遅れていっちゃう。私もここに来てですね、それまでは違うところにいたんですが、自分の研究をしているうちにコンピュータが全然分からなくなっちゃった。昔経済学部にいたときはですね、パソコンについて一番詳しいといわれていたわけですが、今は一番遅れているわけですね(笑)。非常に忙しい社会だな、と思うわけです。
3 システムを思考錯誤する
こういう社会で、我々はどうしたらいいのかということですね。では、エコロジカルなシステムはあるのかと言う時に多分誰も答えられないと思うんですね。丸山先生の理想的なエントロピーシステムの経済はどういうものなのかということは、我々答えられないわけですね。やはりこういうものは思考錯誤的に作って行くものではないかなと思うんですね。今の社会で悪いのは理想がないということだと思うんです。社会的にある種の非常に悪いシステムを確立したということですね。マーケットの場合にしても、現状のシステムを好き勝手に見ながらどんどん加速していきますね。
そこで、いかなる環境政策にしても、制度というか、システム、理論のところにどういうふうに入れるかというところを考えていきたいと思います。私が関わっているのは温暖化対策ですが、まずどういう制度で対応していくかということを考えます。これから環境問題というのは永続的にシステムとして作用していくと思います。例えばおそらくこれから話題が高まっていくと思うんですが、税制の変革というのがあります。そういう一つの社会制度として、環境に前向きな社会制度を築いていくというようにですね、常にシステムで考えるということは、理想的なシステムなら考えやすいわけですから、いいのではないかと思います。
4 豊かさとシステム
それから競争社会における豊かさということを強調されましたが、現実的な観点からしますと、人々は物質的なものに豊かさを感じていないんじゃないかという気がします。今日は一般的な豊かさを紹介しようと思ったんですが、流れが変わってしまうので言いませんが、5年か10年くらい前までは家庭にFAXを入れるとか言われていましたが、今ではそういうことは言いませんね。そういう意味で、我々の世代は、物質的な豊かさではなくて、相対関係というかね、経済社会とか、社会システムの中で、豊かさを見ていこうとする世代なのではないか、と私は考えています。昔からそうかもしれませんがね。
だから、豊かさの価値観を変えようとしても、その元になっている社会システムを変えようとして、システム的思考をしていたんでは間に合わないわけです。なぜなら理想的な社会システムというのはまだ誰にも分からないからです。そうすると、先ほど言った思考錯誤ということになるんですね、なんかシステムを作っていかなければならないということです。最終的には人間がルールを作っていくわけです、いい悪いじゃなくてね。多くの人がルール作りに関われる社会という意味では、環境倫理とか情報化によって一つの社会を構築するということも必要ではないかと思うわけです。
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