私たちの問題意識はそれ以前だったが、3年ぐらい前、円高の影響もあって製紙パルプの輸入価格が大幅に下がり、それに加え、自治体のリサイクル活動の活発化が古紙の過剰供給を生んだことがあった。リサイクル活動が活発になるにつれて、回収業者や直納問屋の立場をますます悪くしてしまうという皮肉な結果を生んでしまった。
この結果わかってくるのは、回収部分でのリサイクルを活発化させてもサイクル全体でうまくいくという保証はどこにもないということだ。そこで私達はこのサイクル全体を見ようとしたが、対象が大きすぎるという問題点がある。
紙はリサイクルされても紙に戻るので、リサイクルに問題があるとすればそれが顕著に表れて分かりやすいのではないのかという理由で、調査対象を紙にしぼった。
そこで重要だと分かってきたのは、リサイクル社会においては消費者のリサイクル行動と、消費行動がちゃんと結びついていることが必要だということである。
3 印刷業界自身による調査からみえてくるリサイクル社会の本質
多少古くなるが、日本印刷産業連合会が1994年に実施した「印刷産業における廃棄物対策に関する調査研究」によると、リサイクル活動を積極的に行っているのは大企業が多いことが見て取れる。この結果からみえてくるのは、リサイクル社会の本質はスケールメリットであり、規模の経済であるという事である。
工場生産においては絶えず一定量の原材料が安定供給されることが必要不可欠である。この点大企業においては、リサイクルに適した良質原料が定常的にまとまった量排出されるため、回収業者も集まりやすく、取引条件も良好に保つことができる。リサイクル意識と同時に経営的観点からも、リサイクル活動に力を入れる利点が生じるのである。これに対して小企業ではリサイクル原料をまとまった量安定供給することは難しいため、回収業者も集まりにくく、また限られた従業員の中からからリサイクル活動に人員を配置するゆとりはない、といった事情がある。
4 紙リサイクルの国際比較
紙のリサイクルにおいてdeinkingという作業は欠かすことはできない。deinkingとは、回収した紙を溶かしたときに付着していた染料を取り除く作業のことである。
日本で再生紙用のプラントを1〜2増設をしたことで、古紙の需給バランスが変わってしまった。それくらい古紙の需給バランスというものはマージナルなものなのである。
ドイツもアメリカも古紙業界は輸出部門が最重要部門になっている。そこで重要なのは必ずしも大量に輸出することではなく、古紙の需給バランスを調節することが一番の目的である。
しかし日本では輸出できる状態にはない。どこが違うのか。1つ目に規模が違う。2つ目には敷地がない。人がすんでいるところに小学校1つや2つ分の敷地が欧米にはあるが日本にはない。この点からみてもやはりリサイクルは規模の経済である。
その上、欧米では古紙業者というものはあまりない。基本的には産廃業者である。産廃業者というものはお金をもらって物を集める。それに対し、日本の伝統的な古紙業者は有価物をお金を払って集めている。
また産廃業者は多角経営である。そこでは、古紙でなくてもビンや缶で収支をあわせることができる。このように複雑な要素が絡んでいるビジネスを変えるということは簡単ではない。
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