環境の世紀VII  [HOME] > [講義録] > 5/12 「環境保全と貧困緩和−フィリピンの事例」

HOME
講義録
教官紹介
過去の講義録
掲示板
当サイトについて


講義録



環境保全と貧困緩和
−フィリピンの事例

5月12日 中西徹


1 はじめに

問題の視角

 発展途上国の環境問題としては、熱帯林の減少などが有名だが、都市における貧困層が関係する問題も大変深刻である。貧困層は環境汚染の加害者・被害者・環境対策の阻害要因という側面を持ち、途上国における環境問題を考える際に貧困問題は避けて通れない。

 今回は、経済発展・貧困緩和・環境対策を両立させることは可能なのか、ということについて具体的な事例を挙げて考えてみたい。

中西徹



2 事例

 東京工業大の石川先生との共同のプロジェクトが途中段階のため詳しい内容は公開できません。もうしわけありません。

 ただ、この研究のアイデアは、貧困層が現在では「投棄している」屎尿について、堆肥肥料に転換するという需要を創出すれば、河川の水質汚濁と貧困層の雇用問題の同時解決が可能かもしれないということです。

 もうすこし一般論として別言すれば、開発、貧困、環境問題の同時解決に向けての政策があるとすれば、市場機構を逆手にとって、異なる社会階層の人々のインセンティブを引き出すような政策である、ということです。

 このような虫のいい夢のような政策が簡単に見つかるとは思えませんが、文系理系を横断する学際的研究によってそのような努力をこれからもすべきだと私たちは考えています。




3 持続可能な効率的環境政策の枠組み

持続可能な効率的環境政策の枠組み

主体説明
地主ラテンアメリカ的な大規模な商品作物農園における地主の関心事は生産性をあげることではなく、資産を増やすこと。雇用者を選挙の際の票田として認識しており、支配階級である財閥層にいかに大きな影響を与えるかを考えている。
富裕地方の
小作人
農地改革実現後、かつての小作人が土地なし労働者を雇うことで余剰労働力となり、都市に移住する。
最貧地方の
土地なし層
農園で雇用されたとしても生産性に関心のない地主のもとでは生産のインセンティブが沸かないので、都市に移住する。
NGO政策を行う際の財閥層との利害関係を調整する役割を果たす。また、個別の地域の事情に精通しており、その土地に本当に必要なことを知っているため低所得者層と政府との橋渡しにもなる。情報を有しているという点で、政策履行に必要な諸費用を削減する働きをなし得ると考えられる。



4 コミュニティー

 フィリピン、インドネシア、タイなどの東南アジアにおいては、コミュニティーの機能が弱い。土地相続の仕組みにおいて父系・母系ということが決まっておらず、その土地の相続者決定が不安定な状態であることが大きな要因の一つである。

 したがって、コミュニティーの自発的な発展は困難であり、NGOの介入が必要になってくる。




5 メッセージ

 環境問題はあらゆる分野にまたがっている。貧困緩和と環境対策の両輪を回すためにまず考えなくてはならないのは、貧困層に如何にして環境を汚染しない選択肢をとるインセンティブを与えるか、ということである。

 環境問題の最大の問題は、このような人間同士の利害調整である。今回お伝えしたフィリピンの事例はまだアイディアの段階です。

 この講義は、環境問題に関心を有する意識の高い学生が参加していると思います。みなさんからもどんどんアイデアを出していただければ幸甚です。

Top
Back Next