「環境の世紀 未来への布石V」報告書

  

第9回 事例研究 駒場のごみとリサイクル〜紙について

監修 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学  岸野 洋久
研究・発表 環境三四郎
 

 
目次
      1 発表にあたって
      2 本調査の目的・理念
      3 紙の一般的知識
      4 駒場キャンパスにおける紙の現状把握・問題分析
      5 改善にむけて
      6 おわりに
  

1 発表にあたって
 まず、発表の機会を与えていただき、また調査において貴重なアドバイスをいただいた岸野先生に心から感謝の意を申し上げる。なお、発表を行う環境三四郎は、本講義I〜未来への布石V〜」の企画および運営に協力している環境サークルである。
  
2 本調査の目的と理念
 調査活動を行う一番の動機は、自分たち自身で調べることで「知ろうとする」ことにある。そして、その目的は単にmる」ことにとどまらず、最終的には、現状を改善することである。そのために、現状把握・問題分析・解決へ向けての提言という一連の作業を行う。

 ごみとリサイクルのもつ意味を、一言でいうと、蝸諱E大量生産・大量消費・大量廃棄社会への警鐘」ということができる。産業革命以降急速に世界中に広がった「大量生産・大量消費社会」は、その前段階として蝸諱vを有し、そこでは現在資源の限界という問題が生じている。また、その後段階である蝸p棄」では、環境の限界という問題が生じている。ごみとリサイクルは、これらの問題に対して警鐘を打ち、変革を促す、という意味を持つ。

 なお、ここでの「リサイクル」とは、3R+1L、すなわちreduce  reuse  recycle long lifeをさしている(広義のリサイクル)。

 駒場はひとつの社会である。ひとつの社会を扱うこと自体に大きな意義があるとともに、駒場生にとって最大公約数的な環境であること、そして規模がそれほど大きくなく、問題点・改善方法が明確であるため、結果を出せる場であることから、現在駒場について調査・改善を行うのは、大変意義深い。

 なお、発表対象として「紙」に絞った理由は以下の4つがあげられる。

T 紙は「資源ごみ」であるため、reduce / reuse / recycleについて論じることができ、現代の構造的問題に取り組む上での応用性が高く、その意味で一般的・普遍的であること

U リサイクル率が低く、無駄な使用が目立つなど、改善の余地が大きいこと。

V 大学では紙の使用が多く、ビラ・シケプリ(試験対策プリント)といった特有の使用形態があり、かつその使用量もかなりの量にのぼることから、他と比べ、駒場に限定して調査する意義が特に強いこと。

W 古紙市場は比較的全国的で一般的であり、市場原理と関係性が強いこと。

  
3 紙の一般的知識
3.1 紙の消費

 世界の紙・板紙の生産量は、年々増加傾向にあり、特に経済発展のめざましいアジアでの増加が顕著である。また日本の生産量は、頭打ちになっているものの依然として高い生産量を維持しており、世界の生産の約1割のシェアを持っている。

 一人当たりの消費量については、アメリカ・フィンランドが特に多い。日本人はそれほど多いほうではないが、全体消費量での影響は少なくない。また、先進国が紙資源の大半を消費している。推移で見ると、先進国までも消費量が増加している。原因としては、生活様式の変化、とくに情報化による印刷量の増加が挙げられる。日本は高度経済成長期を境に、家庭でのライフスタイルの変化にともなう新聞雑誌の増刷・容器・包装用紙の増加、オフィスでのOA機器の普及などがすすみ、紙の使用量は急増した。近年では、紙消費を減らすのではと期待された情報機器の普及が逆に、印刷用紙の消費の拡大を招いたり、コピー機の普及で気軽に複写ができるようになったことなどで、さらに消費量は増加している。 それでは、紙の大量消費がもたらす影響には、どのようなものがあるのだろうか。一つには、森林資源の枯渇・熱帯林の破壊というものが想定される。しかし製紙業界はそれらに根拠は無いものとして反論している。

 その論拠は、以下の4点である。

・ 日本の製紙原料の約半分は古紙であり、世界でトップクラスのリサイクル率である。
・ 製紙用パルプの輸入先は約7割が先進国であり、熱帯林の破壊とは無縁である。
・ 製紙パルプの原料は製材の時にでる余剰木材などを主原料とする。
・ 日本の製紙業界は、植林事業を通じて、持続可能な林業を支えている。

 いわゆる「紙の大量消費=熱帯林の破壊」というイメージは必ずしも正確な認識ではないことが分かる。しかし、世界各国で日本の様に紙が消費されたら、現在植林事業などの努力で維持しようとしている持続可能な林業が成立することは考えにくい。また古紙リサイクルには限界があり、必ず一定量の一次繊維を投入しなくてはならないことからも、大量消費を温存したままの状況で世界的な持続可能性を確保するのは、不可能であろう。そうした意味で、現在の日本の紙の消費を減らし、有効利用し、リサイクルしていくことが重要である。

3.2 紙の3Rの現状

reduce:先進国での紙使用量の増加傾向から、一人当たりの消費形態はますます悪い方向に向かっていると言える。両面印刷などの手法で消費を減らす試みもあるが、出版物などでは、両面印刷は半ば当然なのに対し、個人的コピーの場合は逆に片面コピーする方が多い。

reuse:残念ながら裏紙利用というreuseがどの程度行われているか正確に把握できない。少なくとも現状でそうした利用を促進する仕組みは無い。

recycle:製紙原料に含まれる古紙の比率をみると、全体では約半分が古紙が利用されている。しかし板紙は古紙の割合が年々増加しているのに対し、紙における古紙利用の割合は低く、推移もほぼ横ばいである。古紙回収は世界では42.7%で、アメリカなど改善の余地の見られる国の回収率向上で世界的に古紙回収率は増加している。日本は比較的上位に位置しているが、回収率は横ばいでドイツをはじめ各国に追い抜かれている。日本ではリサイクル可能である紙が消費量の約65%あり、古紙回収率51.6%を引いた14%(約400万トン)がごみとして処理されている。

3.3 紙のリサイクル

 古紙は金属などと違い原子を単位として利用するのではなく、繊維として利用するためリサイクルをする度に、繊維は短くなり質は低下する。用途によって異なるが、大体3〜5回くらいが繊維の限界である。従って紙がまた同質の紙になるというのではなく、より質の低いものへと向かっていくのである(カスケード・リサイクル)。したがって、必ず生じる廃棄分の一次繊維を投入しなくてはいけない。また強度の問題から、新聞紙は半分ほどを、一次繊維を投入しなければならないなど個別の制約もあり、紙のリサイクルには限界がある。

 製紙会社でつくられた紙は小売店を通して、我々消費者のもとへ届く。そして何らかの利用をした後、リサイクルもしくは廃棄される。リサイクルとして排出された紙は、清掃業者によって集積所へ運ばれる。それを回収業者が直納問屋へ輸送する。直納問屋では、製紙原料として使用できるよう、分別保管や一定量をストックすることで、製紙会社のニーズにあう条件を整え、最終的に製紙会社へと回している。上質紙・新聞紙・雑紙・段ボールというように分別が必要な場合、消費者がある程度の分別排出をした後で、清掃業者あるいは回収業者が分別し問屋において最終的なチェックが為されるのが一般的なようである。なお、動脈産業側である製紙会社・パルプ製造会社・紙製品会社が概ね大規模な企業で占められるのに対し、静脈産業側の回収業者と直納問屋は、家族経営のような零細企業が大半である。

 世界的に見ると、近年需要の低迷から、価格が暴落し、リサイクル産業は危機に瀕している。需要の低迷しているのは板紙原料となるような雑紙や板紙で、引き取る際に引取料を払うという逆有償が現状となっている。特にドイツなど古紙回収の進んだ先進国で、古紙が大量に余っており、数年前までは、これらを東南アジアなどに輸出して需給バランスを調整していたが、一連の経済危機で需要が低迷し、世界的な供給過多が慢性化し、古紙価格は低迷している。零細企業主体であり、人件費・地価の高い日本では、価格競争力がなく、余った古紙の在庫を赤字輸出しているケースもある。当面はこの構造は続くであろうが、系内で需給バランスを取るためには、再生紙需要の拡大や新用途の開発そして消費量の削減をしていかなければならない。

  
4 駒場キャンパスにおける紙の現状把握・問題分析
4.1 現状把握

 調査の結果、1年間に駒場キャンパスで購入・使用される紙は、約87tに及ぶことがわかった。これは、B4に換算すると、約1500万枚になる。ただし、この場合の紙とは、印刷用紙・コピー用紙・プリンター用紙を指し、新聞・雑誌等は除く。では、この紙はいったいどこから来て、誰がどのように使い、その後どのように処理されているのだろうか。

 まず、消費、すなわち誰がどのように使うか、について述べる。

 駒場で紙を消費している主体としては、まず前期課程の学生(約7700人、74%)が挙げられる。これは、駒場全体の使用量の約66%にあたる約1000万枚の紙を使用している。

 この1000万枚の紙全体における古紙配合率(再生紙利用率ではない)は、34%である(ただし、学友会ではいわゆる再生紙は導入してなく、更紙のみになってしまうのと、学生会館で再生紙を導入してから5ヶ月にしかなっていないため、実際にはもう少し高いと思われる)。この値について、もう少し詳しく見ていく。前期課程の学生が使用する紙としては、学友会、学生会館の印刷用紙、学生会館、生協のコピー用紙、情報棟のプリンター用紙が挙げられる。これらを、印刷用紙とそれ以外に分けて古紙配合率を出してみる。すると、学生全体の約40%にあたる印刷用紙以外の紙では、古紙配合率は約70%まで急上昇する。これに対して学生全体の約60%に当たる印刷用紙は、古紙配合率は6%まで下がってしまう。この差を産み出すのは、消費者である学生が紙を直接選択できるか否か、であると考えられる。学生は紙の選択の際、外観などのイメージや、価格によって決定するようである。

 なお、もう一つの紙の消費形態として、両面印刷か否かがあげらるが、ゲスプリンターでの大量印刷の場合に、両面印刷がある程度すすんでいるのに対し、コピー印刷に関してはほどんどなされていない。 前期課程の学生以外の主体としては、研究棟で活動する後期、研究課程の学生、教職員があげられる。人数は約2700人、前期課程の学生の35%に過ぎない。しかし、紙の消費についてみてみると、枚数にして約500万枚の紙を1年間に消費していることが分かった。これは、一人当りに換算すると、前期課程の学生より多くなっている。したがって、駒場を改善する際には、こちらの方も考えなければならない、といえる。紙の用途は、主に講義資料、研究資料である。 駒場キャンパスの事務室の紙は、経理課用度係の管轄で、購入は事務室が行うが、代金を用度係が支払うことで、全ての紙の量を把握している。ただし、事務室の中にも、研究室が独自に管理している事務室があるため、全て把握する、というわけにはいかないようである。 古紙配合率は、約33%で、前期課程の学生とだいたい同じくらいである。

 次に、使用後の紙がどのように処理されているかについて述べる。

 まず、学部ルートについて説明する。

 ゴミにはすべて経理課用度係の管轄で、ここでは清掃業者、回収業者の選定と、彼らへの賃金の支払いを行っている。清掃業者の仕事は、学内のゴミを集めて指定された倉庫へ運ぶことで、回収業者の役目は、そのゴミを外部へ持っていって処理することである。学生、教職員が排出した紙は、清掃業者オーチューによって回収され、リサイクルに回せる分は、一号館中庭にある紙リサイクル専用の倉庫に保管される。倉庫がいっぱいになりしだい回収業者を呼び、リサイクルに回す、というシステムになっている。回収業者、ハッピー運輸が回収した紙は、直納問屋を経由して、板紙専門メーカーセッツに運ばれ、段ボールにリサイクルされる。業者の選定方法は基本的に入札だが、回収業者については、紙は量が少なく、回数も少ないため、随時契約している。ただし、リサイクルすること、を条件としている。回数は1年に3回くらいで、一回に8tくらいの量がある。しかし、実際に紙リサイクル専用倉庫を見てみると、段ボール、新聞がほとんどで、印刷用紙は10%にも満たない。

 では、駒場キャンパスで使用された1500万枚の紙はどこへいったのだろうか。

 まず、1000万枚を使用する前期課程の学生についてみてみる。これについては、クリーンボックスに入れられた分についてはきちんとリサイクルされることになっている。学生が使用する紙の用途は、ビラ、シケプリ、ノートコピー、サークル会誌などが挙げられるが、クリーンボックスは主にビラを回収・リサイクルする。ビラは年間約10tくらい消費されており(学生の色上質紙消費量+自治会の紙の消費量=ビラの使用量と仮定)、仮に全てのビラが回収されるとしたら、紙全体におけるビラの占める割合は、約42%となる。これは、前述の紙リサイクル倉庫の様子と矛盾している。

 駒場から出た紙がリサイクルに回される条件として、他の可燃ゴミ(紙コップなど)が入っていないこと、そして再生紙が入っていないことの2つがあげれられる。現在、残念ながら、クリーンボックスに入れられるビラは、ほとんどない。しかし、ビラをいつまでもおいておくことはできないので、清掃業者オーチューが清掃業務の一環として回収、できる限りリサイクルに回しているが、これだと他のゴミ、あるいは再生紙が混じってしまうため、ほとんどリサイクルに回すことができない。 次に、研究棟の学生、教職員について見てみる。 研究棟、事務棟の場合は、上 質紙、新聞、雑誌の3つに分けられた紙回収ボックスが廊下に設置されている。また、各事務室、研究室で、段ボールやまとまった量の紙が出た場合は直接用度係かオーチューに電話して引き取りに来てもらう。紙リサイクル倉庫を見ると、段ボール、新聞、研究室から出たと思われる雑誌が大半を占めており、研究棟、事務棟についてはリサイクルが比較的うまくいっている、と思われる。 

 もう一つの紙リサイクルルートである生協ルートについて簡単にのべると、特徴として、段ボールの占める割合が多いこと(約76%をしめる)、排出の時点できちんと分別されていること、そして段ボール以外のものにリサイクルされること、が挙げられる。詳細については報告書を参照していただきたい。

4.2 駒場の構造分析

 駒場の環境負荷を低減するにはまず消費量を減らすこと(Reduce)が第一であるが、使わざるを得ない必要最小限の紙に関しては、Reuse(裏紙利用など)・Recycleをできるだけ積極的に行うような消費構造が最も望ましい(ただし実際には漂白工程での塩素の使用の有無などの環境負荷項目やコストの観点からの評価も不可欠である)。こういった視点から駒場の現状を考えてみると、以下のような問題点が挙げられる。

  ・ 全体に紙の無駄な使用が多い。(Reduce)
  ・ 裏紙の利用がほとんど為されていない。(Reuse)
  ・ ごみとして排出される割合が高い。(Recycle)
  ・ INPUTにおける再生紙の割合が少ない。(Recycle)

リサイクルに回される部分についても、分別が適正に行われていないために本来ならば再生紙になれるはずの上質紙が雑誌扱いとなり、板紙になってしまう。(Recycle)

4.3 問題点

 問題点を3Rに分けて考察する。

まず、Reduceについて述べる。現在の消費量のうち無駄な部分も多く存在する。その大きな要因として紙に代わる情報伝達の媒体がないというのがあるが、その消費を抑制するようなシステムや学生、教職員の意識が欠如していることが現状をさらに悪化させている。以下紙の主な用途であるビラ、シケプリ・資料、情報棟に分けて述べる。

  ・ビラ

 現在、授業前にすべての教室のすべての机の上にビラが置かれ、廊下にはサークルなどのビラが連なって貼られている。新歓期のサークル勧誘のビラも莫大な数にのぼっている。今年4月に1年生のほぼすべてのクラスに対して行われたビラに関するアンケートによると、受け手側の意識は高いということがわかるっ。しかし、ビラに代わる有効な手段がないため現状の改善に結び付いていない。また、もっと効果的・合理的にビラを配布、貼付するために必要なシステム、例えば十分な掲示板などが絶対的に不足していること、ビラが習慣化していることも理由として考えられる。印刷が簡単で値段も安いため、ビラの排出を抑制するようなシステムは皆無であるといえるだろう。

  ・シケプリ・資料等

 現実問題として紙による資料を減らすことは難しい。よって両面印刷をすることが最も望ましい対策となるが、そのやり方が普及していないというのが最大の問題点であろう。

  ・ 情報棟

 情報棟におけるプリントアウトにも無駄な部分が多い。理由としてはやり方がわかりにくく、取り消しコマンドが普及していないこと、無料で枚数制限も無いこと、片面印刷しかできないことが考えられる。ビラと同じように抑制システムがほとんどないことが無駄な使用を助長していると言えよう。

 次に、Reuseについて述べる。紙は基本的に何度も使うことは難しいが、裏紙面を使用することによって、2度使うことは十分に可能である。しかし駒場に於いて、裏紙使用が適正に行われているとは言い難い。以下、裏紙供給の場所として、情報棟、ゲスプリンター、コピー機という3つと、ビラ、シケプリなど場所が不特定なものとにわけて述べたいと思う。

  ・ 情報棟

 情報棟のプリンターについては、前述の通りすべて片面印刷であるうえ、ミスプリントが多い。しかし、これらはプリンターに再び用いることはできず、情報棟では計算用紙などとしてのニーズも無いので、裏紙を利用するルートがない。

  ・ ゲスプリンター

 学生会館のゲスプリンターについてはここが需要の場でもあるということだ。多くの学生が裏紙を活用しているようであるが、印刷済みのものがきちんと分別されていず、サイズもまちまちなので多少使いにくい。また、需給バランスがうまく取れていないときもあるので、供給が多いときは、裏紙を製版、試し刷りのみに使うのではなく、レジュメなどとしても活用すべきである。

  ・ コピー機

 コピー機についてはゲスプリンターほど量は多くないものの、同じような裏紙の供給があるが、ここにはしっかりとしたボックスが設けられていない。ゲスプリンターと同様なボックスを設け供給の受け皿を作ると同時に、需要の創出という面から手差しのやり方も普及させなくてはならない。

  ・ 場所が不特定のものについて

 ビラ、シケプリのように排出する場所が固定していない場合はそれを集めるのは困難ではあるが、利用ルートが全くないというのは問題である。

 最後に、Recycleについて述べる。

 大学から排出される紙は、オフィス古紙という分類に入る。製紙原料の条件は、質的に一定であること、量がまとまっていること、供給が安定していることである。産業古紙は、製本・印刷工場や断裁所などから発生する裁落や損紙であり、質的に一定、量が大量、安定供給である。それに対し、オフィス古紙には様々な問題点がある。一つ目は、分別が困難な点。紙の場合、見た目だけでの区別が困難であるため、排出者が分けて出すことが困難である。一方、清掃業者・回収業者による分別も、労働集約的作業で人件費を要する。二つ目は、量がまとまらないという点。駒場は比較的規模が大きいとはいえ、産業古紙とは比べ物にならない。しかも、中小企業体を対象としたネットワークをそのまま利用するには潜在的な古紙の量が多すぎる。三つ目は、逆有償という問題。分別が徹底できないことから、比較的需要のある上質紙も、ランクが低い雑紙扱いとなり、引取量を払って持って行ってもらう逆有償となってしまうため、事業者がそれほどリサイクルするメリットを感じなくなってしまう。

 次に、駒場内部の問題点について見てみる。 

 駒場のシステムとして特徴的なのは、クリーンボックス制である。しかし、システムをきちんと理解している学生は少ない。これは、学部側の説明不足が原因である。また、学生の協力の得られない現状で、リサイクルをしようとすると清掃業者に過度の負担を強いることになる。 

 では、学生の意識についてはどうだろうか。

 リサイクルに関する知識がないと、必要性に納得がいかず、意味がないということになる。また、知識はあって、頭ではリサイクルの必要性を理解していても、自分の問題とは捉えていないことから、実際には行動しない場合もある。しかし情報が不足している点では同程度であるはずの一般家庭での古紙リサイクルは比較的定着していることから、認識不足という問題よりも、駒場が自分の生活する環境であるという帰属意識やコミュニティー意識が欠如していることがより問題であると考えられるだろう。過度に学生側に期待を持たず、システムの習慣化による解決も重要であるが、最終的な解決は各人の意識の持ち方にかかる部分が大きい。

 次は学部側が改善に向けての取り組みをする上で、現状の制度における問題点を考えてみる。 

 学内環境を中長期的に改善するためには、明確な方針を持ちねばり強い政策実施が必要になるのだが、現状では非常に困難である。ごみ管理を担当する経理課用度掛は、学部の環境部門という訳ではなく、学内管理を具体的に実施する場である。またそうした継続的改善を担うであろう環境委員会においても、委員の年度交代という制度から中長期的計画を立てることは困難である。古紙問題に限定すれば、集まる古紙の量・頻度から回収業者とは不定期の随意契約とならざるを得ず、管理が散漫になる可能性もある。また、管理者(例えば用度掛)が完全な学内の実態把握をすることは、少なくとも現状では不可能である。以上より現状のシステムでは、適正な環境管理を阻む要素が多く存在し、継続的・包括的学内管理は難しいと言えよう。

 また、リサイクルは分別排出とともに再生品購入があってはじめて成立する。そうした意味で、再生紙購入という行為もリサイクルの一環である。学内の紙全体における古紙配合率は、約35%であるが、コピー用紙、情報棟プリンター用紙をのぞく印刷用紙、すなわち学生などが、自ら種類を選択し、購入する紙については、古紙配合率は6%に過ぎない。再生紙購入を進める官庁などと比較して、駒場キャンパスでの再生紙使用率は、概して低いといえる。リサイクルの循環の輪をつなぎ、支えていく意味で、駒場でも全面的な再生紙の購入が必要となり、駒場でも導入が望まれる。

  
5 改善
 以上の議論を踏まえ、この問題に対する長期的改善および短期的改善について論じる。長期的な改善についても、短期的な改善についてもいえる指針として、3R(reduce/reuse/recycle)が挙げられる。短期的な改善では、3Rについて実行可能かつ成果の上がりそうな対策に取り組んでいくことになる。一方、長期的な改善では、3Rを効果的に進めていく上で、長期的には取り組んでいかなくてはならなくなる対策を講じる。

5.1 長期的改善〜vision

 まず、対象である紙自体について考える。これは、改善の余地も、改善にともなう効果も大きい。現状を見るに、古紙の需要が供給に対して少ないことが大きな問題となっている。長期的な改善についても古紙の需要の拡大は重要な課題である。

 改善方法としては、

  ・ 製造技術・リサイクル技術の向上
  ・ 用途の拡大
  ・ 外部費用の内部化/コストの適正化
  ・ 代替原料の開発・普及(パルプにかえて)
  ・ 紙の代替物の開発・普及

の5つが考えられる。

 次に、駒場のシステムをどう改善すればいいかについて論じる。具体的には、 以下の2つが考えられる。

 一つ目は、システムを自律化される、ということである。これは、システムを長期に渡って機能させるには必要不可欠である。 現在、駒場でごみ回収や清掃にあたっているオーチューは、システム上分別してもしなくても得失には直接には関わってこないため、分別して回収することに対するインセンティブ(動機付け)もそれ程働かない。

 リサイクルシステムを自律的に機能させるためには、回収業者が回収した紙を市場に出せるようにすることが有効だと考えられる。

 2つめは、「つながり」をつくる、ということである。例えば、本郷では自らの機密書類から作ったトイレット・ペーパーを使用しているが、このような「つながり」を作ることで、循環の実感がわき、意識が向上する。少なくとも、使用している紙がどの国(複数かもしれないが)のパルプでできているのか、また消費した紙がどうリサイクルされていくのかについて「つながり」が明示されるようになることが望ましい。

 最後に、主体について述べる。

まずは学部について。環境問題を考える上では、対処療法的な管理に加え、長期的な視野に立った管理が必要になる。学部の活動を通じての環境負荷や環境リスクを低減し、発生を予防するための行動を継続的に改善していく必要がある。この点で、学内に環境マネジメントシステムを導入し、学内環境を改善するための取り組みが為されているかどうかという組織の方向性自体を評価していくことが長期的な目標となる。

 また、学内に積極的情報発信を行い、学生などにもこうした問題に関われる場があれば、より包括的な解決策の推進が可能になるのではないだろうか。

 次に、学生について。これには2つのレベルがある。まずは知識の獲得である。これには学生の主体性のみならず、学部など他者からの呼びかけが必要である。これによって意識が向上した後は、 実際に行動に反映させなければならない。きっちりとした分別も、ビラなどのreduceも最終的には主体一人一人の行動にかかっているということを忘れてはならない。

5.2 短期的改善〜今できること〜

 まず、Reduceについて述べる。最終的には紙以外のもので代替可能なものは代替し、特にビラのようにリサイクルしにくいものは大幅に削減する必要があるが、新しい代替物への移行には時間がかかる。そこで、現在の機能を使用して効果的に紙減量に結びつける方法を挙げる。

T 両面印刷の普及〜「紙半減キャンペーン」〜

 問題点のところで挙げたように、現在両面印刷は、ゲスプリ印刷では普及が進んでいるが、コピー印刷ではあまり普及していない。両面印刷を行なえば、片面印刷と比較して紙の使用量が半分で済む上、印刷機の機能としてすでに導入されていることから、有効かつ実現が比較的容易な改善案と言える。

 次に、Reuseについて述べる。

T 裏紙利用〜裏紙利用ルートの確立〜

すべての印刷を両面印刷にし、裏紙など存在しないのが理想だが、実際には情報棟などで裏紙が多量に排出され、利用されることなく処分されている。一方で、計算用紙、メモ用紙として上質紙が使用されている。そこで、この需要と供給を結ぶルートを確立する。

 最後に、Recycleについて述べる。

 現在のリサイクルルートにいくつもの問題があることは、すでに述べた。以下では現在可能な改善方法をいくつか挙げる。

T 上質紙のリサイクル〜「シケプリプロジェクト」〜

 現在、後期課程以上の学生・事務職員の使用する紙の約半分、前期課程の学生の使用する紙のほとんどが上質紙である。その中には、試験対策プリント(以下、シケプリ)のように、すぐにいらなくなってしまうものも多く含まれる。現在それらは可燃ゴミとして処理されるか、あるいは再生されるとしても、他の紙と混ざっているためダンボールにしかなっていない。上質紙は本来上質の古紙原料となり、白色度の高いコピー用紙等の印刷用紙の原料となりうる。需要も多く、雑誌古紙と違って有料あるいは無料で引き取ってもらうことが可能である。

 そこで、「シケプリプロジェクト」と題して、一年でもっとも上質紙が排出される前期課程の学生のテスト期間に、試験的に上質紙のみを分別回収し、業者にひきとってもらうことを提案する。 実際にいくつかの業者にあたり、インク印刷の上質紙のみ分別回収し、かつ量がまとまっていれば、有償で引き取ってくれるところをみつけた。

U 白上質紙以外のリサイクル〜「うれしいトレペ」大作戦〜

 上質紙の他にも、再生紙、更紙、色上質紙(ビラ等)が排出されるが、現在のルートでは再生紙はリサイクルできず、混入した場合、すべて可燃ごみになってしまう。一方再生紙を除いても、行き先は現在供給過多に陥っている板紙原料で望ましくない。そこでそれらをすべてトイレットペーパーにしてしまおうというのが「うれしいトレペ大作戦」である。排出源である企業・大学等は同時にトイレットペーパーの大消費主体でもあることから、作られたトイレットペーパーを、元の主体で利用することが可能である。これは本郷でも一部導入されており、駒場で導入することも十分可能である。

V 再生紙の導入〜駒場リサイクル70計画〜

 現在日本社会において古紙の供給過剰により、紙リサイクルが危機に瀕している。これは、対策が排出後の紙に偏り、リサイクル後の対策が遅れているのが一因である。前に述べた通り、リサイクル社会を構築するには、リサイクル後の紙の利用まで考慮に入れなければならない。すでに官庁、大手企業では再生紙の利用に積極的に取り組みはじめている。しかし、現状のところで見た通り、東京都庁など官庁と比較して、駒場では再生紙の導入が進んでいない。また導入されている再生紙も「白い再生紙」と呼ばれる環境負荷の高いものである。そこで、「駒場リサイクル70計画」と題して、駒場の紙を白色度70、古紙配合率70%の再生紙に変えることを提案する。

  
6 おわりに
 駒場キャンパスにおける「ごみとリサイクル」について、紙を取り上げた。駒場において、紙は大量に消費されている上、その多くがリサイクルされることなく、廃棄されるにいたっている。また、官庁などに比して、再生紙の利用は普及していない。そのことに関する問題点は、主としてreduce reuse recycleに分類して指摘した通りである。それを踏まえて、どう改善すれば良いかは長期的・短期的視点から提示した。

 「改善」につなげることを目的に調査を進めてきたのだが、実際に駒場を変えていけるか否か、また変えていけるとしたらどのようなものにするのかは今後の私達の行動にかかっている。私たち一人一人が駒場の環境における当事者であり、それゆえ改善するのは私たち一人一人に他ならないのである。

 今回の調査発表が「改善」のために行動していく際の一助となることを願っている。

  
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