環境の世紀IX  [HOME] > [講義録] > ゼミ「『環境の世紀』演習編」(林衛)

HOME
講義録
教官紹介
過去の講義録
掲示板
当サイトについて





ゼミ「『環境の世紀』演習編」



5月31日 林衛


グループディスカッション

 今回のゼミでは3人が検証報告をした後、その3人を中心に3グループに分かれ、ディスカッションを行いました。

検証報告

検証報告(メディア規制)

グループ1:メディア規制

検証報告

 調べてみての感想は、各紙でこんなにも内容、印象が違っているのかということでした。

 メディア規制法って聞いたことのある人、どのくらいいますか?
(聞いたことのない人数人)
4月の一ヶ月しか調べていなくて、もしかしたら5月に新しい動きが出たのでそっちに関するコメントをしているのかもしれませんが、4月に限って言えば、実は、日経や産経では全くと言っていいほど取り上げていないので、知らない方がいてもおかしくないです。
 他には、毎日、読売、東京、朝日を調べましたが、東京もかなり少なかったです。よって今回は他の3社についてお話したいと思います。

 毎日はかなり反対色が強くて、毎日のように同じ内容を、発言者を変えながら掲載していきます。作家、ジャーナリスト、教授、発言者の社会的スタンスは変わりますが、言うことは全く変わりません。

 一方、朝日新聞は、朝日新聞の記者が射殺された事件が5月に時効を迎えるということで、言論、表現の自由について、非常に強い意見を持っていたようですが、(3月の報道が非常に活発でした)4月の報道ではきわめて客観的スタンスを保ちます。例えば、同じ紙面上に、法案に対する賛成の方と反対の方の両方を掲載する。しかし同時に、社説など朝日新聞社の意見は?というときには反対のスタンスを明示するし、また同時に、メディアとして自主規制をしていきますという意見も言っていく。私はこういう朝日の態度にかなり好印象を持ちました。

 それに対して、読売は4月中、これといった意見は提示してきませんでした。国会で何があったとか、反対デモがあったとか。しかし、5月12日、一変して、「修正試案」を提示し、それが政府にすぐに受け入れられます。読売は修正案を提示していた日本新聞協会の一メンバーであったにもかかわらず、それとは違った、ある意味相反する内容を読売は提示しました。

 ここで、今回論議したい内容ですが、この問題は、メディアが消費者のためというよりは、メディア自身のために報道しているように思います。そのこと自体を良い悪いという気はないのですが、他の題材に比べても、この題材は各紙の独自色が表れやすいと思うので、各紙のスタンスを私たちが消費者としてどのように捉えるかを考え、それを踏まえて、各紙は消費者に、あるいは社会に、何を伝えたいのかを推測していき、では、メディアの理想的な形って何だろうということに触れていけたらと思っています。


グループディスカッション

 3社ともかなり違った報道の仕方をしていましたが、まずは読売のスタンスについて考えたいと思います。

<読売はなぜ4月までは沈黙し5月になっていきなり修正試案を提示したのでしょうか。>

・反発するだけでなく、自分で出したかった。読売はいつもこういった修正試案を出している。今回に限ったことではない。
・他紙と横並びは嫌だ
・メディアから消費者を保護するという立場をとることで、消費者、政府と歩み寄った
・パフォーマンス 4月中の沈黙はやはり独自色を出したいという思いから来るものだろう。


<上のあり方はメディアとしてどうなのでしょう?そもそも、メディアの役割ってなんでしょうか。>

・社会発信(啓蒙)→良い社会、今回ならば、民主主義社会を目指す動き
・事実を伝える


<毎日の場合、社の意見の要素があまりにも強すぎてメディアリテラシーに反するようにも思う。というのは、新聞は普通の人はそんな何紙も読むわけではないのでだから、偏った情報にすることはある意味洗脳に近いのではないか。メディアとしての理想の形って何でしょうか。>

・社説などでの社の意見の部分をはっきり区別すべき
・いろんな情報があったほうが良い。各紙各紙の独自色があって、それを消費者が比較できることが良い。情報の寡占独占は一番良くない。また、例えば共同通信社の出す情報だけが掲載されている新聞を読んでも何も伝わってこないし、社の意見が色濃く反映されてしまうのはしょうがない。
・朝日は多くの人を対象にしている一方、毎日は少数派なので、朝日は客観的スタンスを保たなければいけないという意識があるのではないか。


<そのために、できることは?>

・各紙がどんなスタンスの記事を書くかという情報は流れているはずだし、消費者として、批判的な目で新聞を読んでいくことが不可欠。
・各紙が自己分析をもっとしていくことが必要。民主主義を目指すならそのあり方が本当に正しいのかどうかという目を持つこと。(第3者による新聞、放送に関する評価は最近広がってきている。)


グループ2:みずほシステム障害

検証報告

▼みずほのシステム障害の概要

 4月1日に統合。同日ATMの障害発生。7日8日に沈静したかに見えた。しかしシステム障害はその後も手作業での復旧も手伝って、何度も繰り返す。三行を二行に統合する世界一複雑ともいわれた大統合。その出だしにあってはならない致命的なミス、基本的なミスが起こった。日本の金融システムへの信頼を失墜させる今回の事件。原因を追求し1ヶ月。新聞各紙では人災との味方が定着しつつある。

▼システム障害の原因(考察含む)

 障害発生直後、予想量を超えたデータ量が流れたことが原因とされた。そのパンクの原因は、各行を連結するシステムの脆弱さにあった。その背景には、システムを勧銀のものに一本化せず、三行それぞれのシステムを連結させていく方式へと変更をさせた、主導権争いなどの影響があった。統合準備への2年以上の十分すぎる時間も三行間の争いに費やされた。順調な統合とはいえなかった。しかし、今回のような障害をおこすことを免れることはできたはずだ。

障害を招いた原因の一つに、経営者のシステムへのリスク認知の歪みがあげられる。

−−−情報非公開のリスクの過小評価−−−
 「入念なテストが行われたのに。」事件直後の関係者の言葉の引用。
しかしその後、前月22日のテストでデータ処理の遅れなどが発覚している。にもかかわらず、みずほは金融庁への報告では、「順調」と答える。さらに、この統合への不安を察知した東京電力からのテスト要請も退ける。情報の非公開。システムへの過信。自分に不利な事実を隠すことがどれだけ傷口を広げることになるかをわかっていないのではないか。

−−−システム障害リスクの過小評価−−−
 さらに前日最終テストを全てこなせず。システム担当の方から、統合を延期するよう申請も。しかし、企業幹部は、障害があっても、復旧作業に1日ほどあてれば問題ないとし、統合に踏み切る。リスクを見誤ったのだ。

▼海外での前例

 アメリカでの統合などの際のシステムへのリスクは大変重要視されている。銀行統合でのシステム障害はすでに5,6年前に起こっていたからだ。経営者のリスク認知の歪みは、海外の事例を把握していれば、少なからず修正されたはず。

情報非公開・リスク認知の歪み・海外の前例
人命などに関わる事件では、薬害エイズに似たような構造が見て取れる。
今回の「みずほ事件」。
議論では、他の薬害エイズ・水俣病・О−157などの企業・行政・ジャーナリズムの働きの異同を比較し整理することを私からは提案する。

グループディスカッション

・事件のあった4/1以前、若しくは再発した4/9や4/18の前にメディアはシステム障害を予見できなかったのか?
(2月にUFJがシステム障害を起こしたばかりだったし、97年にはアメリカで大銀行合併の際の大規模なシステム障害もあったのに…)
 →巨大システム信仰があった?
  予見できても、実際に事件が起こる前の報道は困難では?
  みずほ銀行のイメージを悪くするようなことはできなかったのでは?
  銀行内につっこんで、従業員の声を直接聞くような取材をしていたらまた違っていたのでは?

・4/1以前に過去の事例から注意を喚起する報道ができていたら、世論、ひいてはみずほ銀行上層部の、システム障害に対するリスク認識に役だったのでは?

・システム的なことにつっこんだ報道が少なかった
 →IT技術の発展についていけている記者がそもそも少ないのでは?
Cf.クローン人間関連では、日ごろからの記者の勉強があってかなり技術的な報道を速やかにすることができた、という例も。
←→技術的な記事はおもしろくないのでは?理解できすに飛ばしてしまう市民がいるのでは?
←→大きい事件が起きたときこそ、科学的技術的な報道をして一般の市民に科学・技術への関心を持ってもらうのが大事

・事後検証は十分年か
 みずほ銀行を叩くばかりで、技術的問題にふみこんでいない新聞も

*みずほ銀行や、管理システムを作ったコンピュータ会社ではシステムを復旧するために過労が起こっていたのではないか?
 →みずほを叩くのみの新聞がある一方、みずほ職員の苦労を強調して報じた新聞も

*ジャーナリズムの意味は?
 ・事前に予見・報道がなされていれば、事件そのものを予防・規模縮小できた?
 ・再発を予見できていたとして、混乱の規模縮小になった?

*みずほ事件で、銀行の合併に科学的・技術的側面があると認識されるようになったのは 重要


グループ3:クローン人間妊娠に間する報道について

検証報告

【報道事実】

 五日のアブダビ発のタス通信によると、クローン人間計画の推進者であるイタリア人医師セベリノ・アンティノリ氏はアブダビでの講演で、クローン技術による妊娠に成功し、現在8週間に達していると発表した。アラブ首長国連邦のガルフ・ニュース紙の報道として伝えた。どのようにして妊娠に成功したかなど詳しい経過についてはまったく不明。同医師がクローン人間の妊娠を明らかにしたのは初めてで、事実とすれば、史上初のクローン人間が年内にも誕生する可能性がある。アンティノリ医師は、妊娠した女性の国籍などは示さなかったという。(朝日新聞より)


【問題の構造】

上の事件について、考えられる報道姿勢は4つである。

(1)(講演で発表されたが、)本当に妊娠したのか?

(2)(妊娠したとしても、)クローン人間の誕生につながるのか?

(3)(クローン人間を誕生させることができるとしても、)やってもいいのか?

(4)(やってしまったとしたら、)今後どのように対応すべきなのか?

 以下、大手新聞(朝日、読売、日本経済、東京、産経、毎日新聞)の報道姿勢を検証し、 4つの分類に整理し、比較したい。


(1)(講演で発表されたが、)本当に妊娠したのか? →報道事実への懐疑

『報道されている話は考えにくい』(日経新聞より)
『動物実験で妊娠の成功率が低く、・・・』(東京新聞より)
文部科学省菱山豊・生命倫理・安全対策室長
『事実かどうか、まず確認が必要。冷静に対応したほうがよい』(産経新聞より)
米生殖医学学会のキー会長
『明確に科学的証拠が出されない限り、自称専門家の主張は警戒よりも懐疑心で対応すべきだ。』(毎日新聞より)
ペンシルベニア大生命倫理センターアーサー・カプラン博士
『遠隔地の会議で、口頭発表するのはアンティノリ医師らのグループのやり方だ。彼らは実証可能なデータや写真を何も明らかにしておらず、妊娠が真実かどうかは疑わしい。』(毎日新聞より)
→朝日・読売新聞は表立っては言及せず


(2)(妊娠したとしても、)クローン人間の誕生につながるのか? →科学的分析

成功率:不妊治療に詳しいセントマザー産婦人科医院の田中温院長
『牛やネズミでさえクローンで正常に生まれるのは数%。それも何十回と実験を繰り返しての数字』(日経新聞より)
安全性:タラントル・ロシア化学アカデミー電子遺伝子研究所副所長
『奇形児の誕生するリスクは99%ある』(産経新聞より)
内閣府の林孝浩・参事官補佐(ライフサイエンス担当)
『クローンは牛や羊などの動物でも成功率が低く、生まれても奇形などの異常が多い。安全性が確立されていない段階の技術を人へ応用するのは危険だ』(毎日新聞より)
『動物での試みで、クローンはその妊娠・出産率の低さや、誕生した個体の先天異常や短命が指摘される。妊娠が成功しても、その後の道のりはかなり厳しいといえる』
→そのほか、各新聞とも様々に言及


(3)(誕生させることができるとしても、)やってもいいのか?→倫理的問題

職業倫理:ローマ医師会のベニト・メレダンドリ会長(東京新聞ほか)
「医師の職業倫理を定めた法規に反し、処分のための調査が行われる可能性がある」
宗教倫理:ローマ法王庁ラテラノ大学コツォリ教授(東京新聞ほか)
「意思は全能であるという妄想に陥っている。自然に反し医学を悪用した無責任なやり方」
生命倫理:右派政党の国民同盟(東京新聞ほか)
「子供の命をもてあそぶ技術主義には反対だ」
NHK解説委員迫田朋子(毎日新聞より)
「クローン人間は予め決められた遺伝子を持って生まれてしまい、子供の尊厳を侵害する」
タラントル・ロシア化学アカデミー電子遺伝子研究所副所長(産経新聞より)
「奇形で生まれた子供の人生に対する責任は誰が取るのか」
→そのほか、各新聞とも様々に言及


(4)(やってしまったとしたら、)今後どのように対応すべきなのか?

生命科学者、サイエンスライター柳沢桂子
「動物実験でうまく言ってない段階なのに、とんでもないこと。子供の生命の尊厳をどうするつもりなのか。ただし将来的に正常に育つことになれば、絶対にいけないこととはいえない。不妊治療のひとつとしてどう見るかだ」(産経新聞より)

ノンフィクション作家最相葉月
「報道が事実なら、妊娠した女性に「中絶しろ」とはいえない。生まれてくる子供には罪がなく、子供が異質なものとして排除されることを避けないければならないからだ。これまで自分もこの件に関しては批判してきたが、今後は沈黙せざるを得ない。批判の中で子供が生まれてくること自体が問題となるからだ」(産経新聞より)

三木妙子早稲田大学法学部教授
クローン技術で生まれた子供の法的地位について
「人のクローンを作ること自体、日本で禁止されているので、どう論じていいのかわからない。クローンの子供の人権について論じたケースも聞いたことがない」(毎日新聞より)
→毎日新聞、産経新聞がしっかりと言及


【検証結果】

結果は以下の表のようになる。


(1) (2) (3) (4)
朝日新聞 × ×
読売新聞 ×* ×
日経新聞 ×
東京新聞 ×
産経新聞
毎日新聞
*読売新聞は4月10日(初報の4日後)の解説面で、妊娠という事実への疑いを明示。

【感想】

・どの新聞を購読するかによってまったく得られる情報が変わってしまう
・この『クローン人間妊娠』に関しては産経新聞、毎日新聞がもっとも科学的ジャーナリズムの役割を果たしていると思う。
・誰の権利を尊重するのかで大きく変わる。不妊夫婦や遺伝病患者の権利を尊重すれば、クローン技術は正当化される。一方、その場合疾患等をもって生まれてきたはずの子供の権利は侵されることになる。クローン人間が誕生するまでは倫理的に反対であっても、誕生してしまうとその存在を否定することは許されないという複雑な問題。少なくとも、より冷静な深い議論が必要だ。

グループディスカッション

・報道しないのも科学リテラシー。しかし情報の信憑性を疑い、あえて取り上げなかったか、ただ単にその情報をつかみ損ねたのかがわからない。他のメディアを見て、朝日で載ってなかったら後者かと思われる。1番の部分で話し合いたいと思います。
・1番は非常に重要な問題。
・この報道に信憑性があるか、この医師の過去の業績で判断するのは科学的検証ではない。
・ほかの報道主体が取り上げている以上、積極的に報道事実を疑わしいと判断したことを伝えないと、科学リテラシーの役割を果たせないのでは。
・価値がなくて取り上げなかったのか。
・1面に載せるほどではなかった。オーバーオールな視点。昔からその部分の議論は続いていた。
・この事件に信憑性がないとはっきりと言うべき。
・はっきり言えたら問題にならない。
・それは科学的分析があってから言える。まだ不確定である。
・この医者は疑わしいと判断した。この報道姿勢に問題は感じない。特に不足はない。科学的信憑性には問題はあるが、報道の姿勢はよい。朝日を読んで、疑わしいというのは受け取れた。
・1から4はピラミッド状。2、3だけあるのは不自然。朝日は1番がない。
・すでにジェネラルの問題として、やっていたからいいのではというのが僕の意見。
・この医師に関しては新しい事実。その部分を取り上げて報道したというスタンス。今までの既存の議論で吟味しなくていいのか?正式な医師なら、今までとどう違うのか、確率などで吟味すべき。
・ニュース価値があるのか。今回も個別の問題として取り上げるべきか?
・積極的に取り上げるいい機会。
・2、3は議論されている。この問題があったときにすぐにそこに行った。大切な1番が抜けている。報道の割合の問題。2、3に安易に流れている。現在のメディアの弱い部分。
・メディアの役割から入っていった方がいいのでは。
・報道事実の懐疑も科学リテラシー。成功率もクローン人間誕生の成功率も。
・懐疑は新聞が報道するものか?
・林先生によると、早く、正確に報道。
・1番からやるのが、新聞の役割か?
・その部分を疑わずに2、3に行ってしまった。そういった部分で1番を伝えるのが科学ジャーナリズムでは。2、3は伝わりやすい。
・どう伝わるかの問題。
・ピラミッド型なので、1番を疑うのがないのはおかしいのでは。
・妊娠→誕生に行ってしまったのが問題ということ。
・2、3のながれは強い。
・載せなかったのは積極的姿勢か、消極的姿勢か。
・毎日、産経は1番を重視している。最初にそこをやって、大きく取り上げる。メディアが進歩していると思う。

全体発表
ディスカッション後の全体発表
「環境問題、リスクコミュニケーション、そして科学ジャーナリズムの役割と実態は」
go top