環境の世紀VII  [HOME] > [講義録] > 6/16 [事例研究─駒場キャンパスにおける廃棄物問題について] > 第3章

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駒場キャンパスの廃棄物処理制度の現状
向江

3−1 駒場の基礎知識

 ここから、駒場キャンパスの廃棄物処理制度の現状についてお話します。駒場キャンパスの具体的な事例を話していきたいと思いますが、その前に、駒場についての基礎的な知識についてお話したいと思います。

 駒場には前期課程・後期課程あわせて約8000名の学生に加え、大学院生・研究生、助手を加えた教官など、すべて併せると約11000名ほどが過ごしている大所帯です。しかも、その半数以上を占める前期課程学生の大半は2年で去って行くなど、人口の流動が激しいということも大きな特徴といえるでしょう。

 外部から見た廃棄物排出主体としての駒場「一事業者」として扱われます。しかし、内部ではほとんどの廃棄物は学生が排出し、教養学部東大生協が分担して収集・運搬を行っています。このように、学部生協が行政の役割を果たしていといえるでしょう。また、研究機関として社会の中で特殊な位置を占めているとともに、危険物を含む多量の研究系廃棄物も排出するという特徴も挙げられるでしょう。

 また、駒場キャンパスには学部、生協、学生、業者など様々な主体が混在して、社会活動を行っています。この章では、こういう特徴をもった駒場キャンパスの廃棄物処理の現状について説明していきたいと思います。




3−2 駒場キャンパスの廃棄物の流れ

ルート 管理主体
学部 経理課用度掛
生協 生協
誰がどのようにシステムを作っているのか?

 駒場は、2章での話にも会ったとおり1つの事業者としてみなされます。駒場から出るごみについては、経理課の用度掛というところが、全体を把握し、計画を書いたり、報告書を作ったりしています。しかし、駒場内を見てみると、実質的に2つのごみ処理ルートがあることがわかります。経理課用度掛が直接把握しているものと、生協が管理しているものです。ここでは、前者を「学部ルート」、後者を「生協ルート」と呼ぶことにします。これから、「学部ルート」「生協ルート」それぞれについて、ごみ処理の流れを説明し、その後で、このようなシステムを誰がどのように作っているのかということをまとめておきたいと思います。

3−2−1 学部ルート

 まず、「学部ルート」で処理される廃棄物の流れです。

学部ルート

 皆さんが、1号館や5号館、学生会館などのごみ箱に捨てたごみは、清掃業者によって回収され、構内の集積所にいったん集められます。

 可燃ゴミ、不燃ゴミは、1号館の裏9号館の脇2号館のそばなどにある倉庫に集められ、収集運搬業者によってゴミ処理工場まで運ばれていきます。上の図は経理課用度掛からいただいた去年の資料を参考にして作ったものですが、これによると、可燃ゴミは東京都内の清掃工場に運ばれて焼却処分され、東京都新海面埋め立て処分場で埋め立て処分されています。不燃ゴミは東京都環境整備公社の城南島廃棄物処理施設で、粉砕、圧縮処理をして、可燃ゴミ同様新海面の埋め立て処分場で埋め立て処分されています。

 ビン・カンは、倉庫に集められた後、生協が委託するリサイクル業者が生協ルートで出たビン・カンと一緒に収集運搬します。そして、この業者が中間処理したものが、原料として製造業者の手に渡り、リサイクルされています。

 今回の調査にあたって、清掃業者の方々に詳しくお話を聞くことができたので、そのことを絡めて、この流れについてもう少し詳しく説明します。

 まず、構内各地に設置されているゴミ箱についてお話します。現在は、基本的に各建物内の各階に可燃ゴミ、不燃ゴミ、ビン・カン用の三種類のゴミ箱がセットでおいてあるはずです。屋外のゴミ箱としては、1号館パンショップ前、生協購買部前、バーガーショップ前にゴミ箱がありますが、これらは、生協ルートとなるため、説明は後で詳しくします。学部ルートの屋外ゴミ箱としては、掲示板北側の公園のところにあるものを除いては、すぐにあふれてしまい、分別状況も悪く、また、からすに散らかされるということがあり、ほとんど撤去されてしまったという経緯があります。

ゴミ箱セット(5号館)
ゴミ箱セット

 各号館内のゴミ箱は、前期課程生が目にするものとしては、可燃用・不燃用がポリバケツ、ビン・カン用がふたつきで丸い穴があいた金網か金属製のものが一般的です。

 ゴミ袋は、可燃用が炭酸カルシウム入りの半透明のもの、不燃用、ビン・カン用が透明の物ということになっています。

 どこのゴミ箱にも分別項目ごとに表示がなされているはずですが、場所によってははがれてしまっていて必ずしもそろっていないのが現状です。また、学部名で書かれた「ゴミの分別の徹底について」という掲示も一緒にはられていますが、これもあるところとないところがあります。

 次に、構内を回ってゴミを集めている清掃業者について少し説明します。

 構内の清掃を委託されている清掃業者では、現在、駒場キャンパス全域を約30名ほどで清掃しています。これだと、1つの建物を一人から三人くらいで受け持つ計算になるそうです。どの建物、どの教室もほぼ毎日、一度は清掃をするという契約になっています。このメンバーのシフトやさまざまな問題に対処する主任が一人駒場に常駐しています。

ビラの撒かれた教室
ビラの撒かれた教室

 皆さんが教室に置き忘れたゴミはすべて清掃業者の方が処分しています。

 また、大量にまかれたビラを最後に処分しているのも清掃業者です。これに関して、自治会は清掃業者と話し合いを持って、自分たちでまいた一部のビラを回収することにしたそうですが、人手不足のために、十分回収されないこともあるようです。

 各教室にクリーンボックスというのがあります。この教室にもありますね。これはもともと古紙の回収とリサイクルのために置かれたようですが、ここで回収される紙は今は古紙回収基準に合わないために、結局可燃ごみとして処理されているそうです。それでも、散らかっているビラはクリーンボックスに入れることで、清掃の負担は軽くなるそうです。

 清掃業者はごみを倉庫に運び、それを収集運搬業者が持っていきます。倉庫について少し説明します。

9号館脇ゴミ倉庫
9号館脇ゴミ倉庫

 現状では、出るごみの量が多くて、倉庫からごみがあふれてしまうということが時々あるようです。特に、9号館脇の倉庫はすぐにいっぱいになってしまいます。これには、学生会館前にある倉庫が、学外者のごみの不法投棄が絶えないなどの理由によって、封鎖してしまったために、学生会館やキャンパスプラザから出るごみが9号館脇の倉庫に持ち込まれているという事情があります。

 倉庫があふれていると、そこに分別されていないごみを捨てる人がいたり、カラスに荒らされたりと、いろいろと問題が起きてきます。また、清掃業者が回収するごみが、分別が不充分だと、中間処理を行う処理工場が困る、ということで、収集運搬業者が収集を拒否することがあるそうです。そういうことがないように、分別状況の悪いものは、清掃業者が回収するときに再分別をしているそうです。

 以上、学部ルートのごみの流れについて説明してきました。続いて「生協ルート」についてお話します。

3−2−2 生協ルート

 この節では、大学内のもう1つの事業者として廃棄物処理に関わっている生協について触れたいと思います。生協の特色として次の2点があります。

  • 生協が処理している廃棄物の流れ
  • 環境対策に関しての生協の意思決定方法

生協ルート流れ図
生協ルート

購買無前ゴミ箱
生協購買部前

パンショップ前ゴミ箱
パンショップ前

 駒場キャンパスに設置されている生協のゴミ箱は、購買部前・バーガーショップ前・パンショップ前です。これらのゴミ箱に投棄された廃棄物のうち、燃やすゴミは事業系一般廃棄物になり、それ以外は産業廃棄物となります。このうち、購買部前とバーガーショップ前・食堂のゴミ箱に捨てられた、「燃やすゴミ」・「燃やさないゴミ」は、大学とは別のルートで処理されていることが図から読み取れると思います。

 次に、リサイクルの対象となっているものについては、缶・ビン・ペットボトル・弁当容器は法令上「特定容器」に該当するので、再商品化が義務付けられています。

 ビンや缶は、大学の管理する集積倉庫に運ばれ、生協が契約した業者が収集・運搬しています。このうち、缶は自動車製品や鉄骨など別製品の原材料となり、ビンは再びガラスビンに生まれ変わります。1999年の缶・ビンの回収率は75%になりました。

ペットボトル回収ゴミ箱
ペットボトル回収ゴミ箱

 飲料缶に代わって、現在急速に販売量が増えているのがペットボトルです。不燃ゴミの容積を大きく増やしてしまうので、6月から大学全体でペットボトルの分別回収が始まるということは既に触れたとおりです。リサイクル費用については、商品の価格に含まれる形で、仕入れ時に生協がメーカーに支払っています。

 昼休みに食堂前で販売されている生協のお弁当容器も、回収されリサイクルされていることを皆さんはご存知でしょうか。ポリスチレンペーパーという発泡スチロールでできたこの容器は、捨てられた後、容器製造会社によって引き取られ再び弁当容器になります。リサイクルされた弁当容器を再び生協が購入することで、資源循環が成り立っているということができるかもしれません。

ダンボールの回収
ダンボールの回収

 その他、生協で使用された段ボールや古紙は100%回収され、再生紙の原料となっていることも特筆に値するでしょう。

 このように、学内廃棄物のリサイクルの多くを生協が担っていることが分かると思います。以上、生協ルートで処理されている廃棄物の流れを追ってみました。

 続けて、生協内部での環境対策の意思決定について述べます。

ここでは2つ言及しておきます。

  • 生活環境プロジェクトの存在
  • 組合員の環境対策への意思の反映

順を追って解説しましょう。生協では現在、大学と協力して、廃棄物の総量抑制に取り組んでいます。

 その方針の中で、生協の環境対策の中心になっているのが生活環境プロジェクトです。これは生協理事会のもとに設置されており、理事会の諮問に答申するという形で環境対策を考案しています。提案されたプロジェクトは理事会の承認の下、生協全体で実施されます。その意味で、このプロジェクトは一種のシンクタンクと言えます。構成員を見ても、教職員・学生・大学院生・生協従業員など、大学を構成する全主体が10数名メンバーになっています。環境対策を一括して取り扱い、かつ具体化する機関が設けられているのは高く評価できるでしょう。ただし、後でお話しする環境委員会など、学部の意思決定機構とのつながりはなく、あくまで生協として取り組める対策を考案していることには注意が必要でしょう。

 さらに今後は、会計監査のように、生活環境プロジェクトが実施したプロジェクトを第3者が事後評価する「環境監査委員会」を設ける構想があるそうです。生協側では、環境を専門にしている教員と学生の組合員を委員として想定しています。具体的には、現在生活環境プロジェクトが発行している環境事業報告書を基に、必要な助言や提案を環境監査委員会が行い、次年度以降の活動に活かしていくという内容のものです。

 最後に、生協という組織の性格について触れておきます。生協(消費生活協同組合)は決して、義務としてリサイクルを行っているわけではありません。むしろ、大学をリードする形で、積極的にリサイクルなどの環境対策を進めてきたといえると思います。

 その背景にあるのは、生協は「組合員の生活をより良くする」ために存在しているという職員の方の一貫した意識からです。だからこそ、全組合員の意思は最大限尊重されます。一言カードに見られるように生協全体の意思決定に組合員が個人として参加できるのです。環境対策もこの延長で行われていると考えると分かりやすいでしょう。つまり、私達が生活を改善していく延長に、環境問題があるという意識が組合員の中から生まれた結果、今のリサイクルが行われているのです。

 以上、生協ルートとして、生協の処理している廃棄物の流れ生協内の意思決定についてお話しました。




3−3 廃棄物収集に関わる主体

 さて、これで駒場キャンパス内における生活系廃棄物の流れ、すなわち学部ルート生協ルートについて理解していただけたでしょうか。モノの流れがつかめたところで、次は駒場キャンパスにおけるこの廃棄物回収システムはどんな人や組織によって担われているのかを考えてみましょう。これまでに登場したのは経理課用度掛と清掃業者と収集運搬業者、そして生協でした。このほかにはどのような主体が駒場における廃棄物回収システムに関わっているのでしょうか?主に学部ルートについて見ていきたいと思います。

3−3−1 環境委員会と用度掛

 廃棄物処理の関係主体をまとめた以下の図中で、まだ触れていないのは環境委員会です。環境委員会というのは、教養学部の10人弱の教官から構成される委員会で、駒場キャンパスの環境全般、廃棄物や廃水の問題からキャンパスの景観や美化の問題まで、幅広く扱っています。いうなれば、駒場の環境に関する意思決定機関と言うことになるでしょうか。

 この環境委員会と第2章でも出てきた経理課用度掛とが駒場キャンパスにおける廃棄物処理に関する意思決定、システムの設計に非常に大きな権限を持っているのです。それでは、次にこの経理課用度掛について少し詳しく見てみましょう。

 経理課用度掛はその名前から分かるように大学の事務を担当している部署の一つであり、用度掛には7〜8人の事務職員の方がいらっしゃいます。用度掛の仕事内容は、学部内で使われる様々な物品を購入したり、業者と契約したりすることであり、廃棄物関係では構内のゴミ箱・ゴミ集積倉庫の設置や清掃業者・収集運搬業者との契約を行っています。従って、用度掛の人に伺ったところでは、本来の業務の性格は、分別項目の数などの廃棄物処理システムを決めたりすることではなくシステムの運用に必要な資財や業者の手配であるということです。しかし、ゴミ箱・ゴミ集積倉庫や清掃業者・収集運搬業者の手配という廃棄物処理と直結する仕事を扱っていること、また廃棄物に関して扱っている大学事務の部署が他にないため、廃棄物処理システムの設計という作業も用度掛が行っているということです。

廃棄物処理の関係図駒場の意思決定図

3−3−2 各主体間の関係

 上の図にのっている主体間の関係について見ていきましょう。

 まずは環境委員会経理課用度掛の関係についてです。環境委員会と用度掛は、今述べたように駒場のシステムの設計に大きな権限を持っているので、この2者の関係のあり方はなかなか重要であると言えるでしょう。

 環境委員会は意思決定を行って、用度掛に指示を出すことができるという点で、非常に権限は大きいのですが、委員である教官の方も当然のことながら、自分の研究や授業などで忙しい場合が多いため、実際には用度掛が意思決定を行っている場合も相当あるようです。用度掛は環境委員会から指示があれば、実務的作業を行うことになります。多くの作業を事務方がこなしているという点では、たとえば政府と省庁の関係に近いかも知れません。

 次に、用度掛清掃業者・収集運搬業者との関係です。業者との契約は用度掛が行っているのですが、ここは国立大学と言うことで、契約の際には入札が行われ、最低価格で入札した業者が1年契約で業務を引き受けることになります。従って、用度掛が雇用者、清掃業者・収集運搬業者は被雇用者ということになります。入札が行われると言うことは、毎年業者が代わると言うことも考えられるのですが、入札に参加するには毎日回収に来られるなどの最低限の条件を満たす必要があるため、基本的には清掃業者は1社、回収業者も2社程度に絞られているようです。

 また、特に清掃業者の方は、現場から見た問題点を抱えており、その問題点について用度掛、あるいは環境委員会に改善を求めたりもしているそうです。たとえば、先ほども出てきたように、ゴミ集積倉庫がすぐにいっぱいになってあふれてしまうというのが、清掃業者の方にとっては大きな問題なのですが、用度掛に倉庫を新たに設置するよう、長い間相当強く要望してきたそうです。最近になって、ようやく倉庫の増設が決まったようなのです、なかなか現場の声が生かされていないというのが実状のようです。

 続いて、用度掛・環境委員会生協との関係です。前節で廃棄物の流れには学部ルートと生協ルートがあると言うことを述べました。収集運搬業者との契約などはそれぞれが独自にやっており、そういう意味では別々に動いていると言えます。しかし、ビン・缶やペットボトルのリサイクルについては、学部管理のゴミ箱に投入されたものも生協ルートでリサイクルに回すことになっていたように、お互いに協力できることについては協力して対策を行っているようです。

 さて、それではこの章の最後に私たち環境三四郎とこれらの主体との関係・つながりを少し見てみましょう。環境三四郎では、環境委員会の教官の方や生協に対して提案をするというかたちで、いくつかの対策を行ってきました。例えば、講義棟内のゴミ箱に貼ってある分別表示を作成したり、生協のコピー機に両面コピーを呼びかける表示を貼ったりしてきました。また、清掃業者の方にお世話になって、試験期間中に大量に出るシケプリを回収・リサイクルすると言うことも行ってきました。

 以上、駒場キャンパスにおける廃棄物処理システムを関与している様々な主体について、その間のつながりを中心に見てきました。次の第4章では、駒場の廃棄物処理制度について各主体の「立場」「役割」の側面からまとめ直したいと思います。



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