第四回 鬼頭 秀一(きとう しゅういち)教官


所属: 東京農工大学農学部地域生態システム学科

講義タイトル 普遍的な環境倫理は立てられるのか?

講義内容要旨

現在、環境危機が深刻化する中で、特に、環境持続性を確保するために、「環境倫理」が大きく求められている。しかし求められるような普遍的な「環境倫理」を立てることは、価値観の多様化を是認する立場から、また、文化の多元性を認める立場から、また、環境問題における社会的公正を確保する立場から大きな問題を抱え込むことになる。環境倫理における課題を、環境持続性を確保するとともに、社会的公正を保持し(環境的正義)、さらに存在の豊かさも希求するものとして捉えることと考えたときに、多元主義的な立場と、普遍的な環境倫理を立てることは、いかに調整でき、整合的な形で環境を守る論理を樹立できるのだろうか。そのあたりの問題を考えてみたい。

一つの提案としては、私が主張してきた「社会的リンク論」(参考文献拙著参照)を、実体論的でなく、システム論的にとらえ、自然環境を守ることも含めて自然環境と関わるあり方や、さらには文化そのものを、静的でなく動的な形で捉えることによって何らかの方向性を見出そうと考えている。

なるべく具体的な事例を例に取りながら、現在の環境倫理学の抱えているさまざまな問題点を考えていきたいと思っている。多元主義と普遍性に関わる問題は、環境問題だけでなく現在問題となっているさまざまな場面でも見られる問題であり、それらの問題への射程も含めて考えることができるだろう。

参考文献

鬼頭秀一「自然保護を問いなおす〜環境倫理とネットワーク」(ちくま新書1996)

加藤尚武「環境倫理学のすすめ」(丸善ライブラリ1991)

森岡正博「生命間を問いなおす」(ちくま新書1994)

キャロリン・マーチャント「ラディカル・エコロジー」(産業図書1994)

シュレーダー・フレチェット(編)「環境の倫理」(晃洋書房1993)

桑子敏雄「気相の哲学」(新曜社1996)

環境問題について関心を持ったきっかけ

中学から大学の時代に経験した公害問題、特に水俣病の問題。そこにおける科学者がしてきた役割について考えてきた。

環境問題に対する現在の取り組み

求められている「環境倫理」や、既存の欧米の「環境倫理学」を批判しつつ、学際的で、人間と自然の関わりや生業などの人間の営みを基礎にした、新たな枠組みの環境哲学を構築すること。その中での、技術(生業の技術)哲学の構築。学際的な環境学の枠組みをどのように作り上げていくか。

学生へのメッセージ

既存の枠にとらわれない自由な発想で考えてほしい。