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 矢坂先生「農業と自然・社会環境の関係」
 ゼミ生の発表「山形県長井市レインボープランの理念と課題
 授業の補足 2002年12月12日 「地域循環型農業」研究会より
   竹田義一「循環型農業で地域を変える─台所と農業をつなぐながい計画(レインボープラン)─」
   矢坂雅充「地域循環型農業の基本的論点」
  現在地総合討論





総合討論

目次

総括研究討議
1.参加農家の経営規模とレインボープラン対象農地面積
2.生ゴミからのコンポストの作物への影響評価
3.コンポストセンターの管理運営費は長井市が予算化
4.レインボープランの見学者たちの自らの取り組みを実現する可能性
5.高齢者や女性の生産力は循環型(地域密着型)農業では制約要因か
6.安全・安心と高品質を求めるには労働力不足が決定的制約要因
7.地域性に合った高品質で栽培が容易な戦略品目作物を選定
8.コンポストセンターの生産量の3分の2は農家以外にわたる理由
9.認証制度に乗っていない一般農家のこの運動への参加は
10.認証農家以外の直売的な農産物の流通状況と地域活性化効果
11.最近のタイの農業事情について
12.長井市の名声を高めたレインボープラン
13.レインボープラン農産物の学校給食は長井市の将来の人材育成に貢献
14.小口英吉氏は山形県の民間応募の高等学校長に就任
15.社会システム変革の推進力になるという期待
16.コメンテーターの感想
閉会

総括研究討議

柳澤

 それでは、非常に盛り沢山な内容でもありますけれども、ご自由にご質問なりご意見をいただきたいと思います。
 きょうは、メンバー以外の方で特別にご出席されている方もいらっしゃいますので、ご発言の際にはお名前と所属もつけ加えていただければありがたいと思います。どうぞご自由にご質問ください。

1.参加農家の経営規模とレインボープラン対象農地面積


土屋(九州大学名誉教授)

 48ページの「レインボープラン農産物栽培状況」ですが、2001年度を見てみますと、50戸の参加農家がありますが、参加農家は、先ほど兼業農家だとおっしゃいましたけれども、平均経営規模はどのぐらいですか。

竹田

 48ページの資料にある50戸の経営規模ですが、例えば農家1戸の経営面積が2haあるとしますと、その全てをレインボープランに取り組むのではなく、そのうちの一部というのが大半です。これはつくる作物によって大分取り組む面積が違ってまいります。野菜の場合ですと、平均で15a程度でしょうか。多い農家では野菜だけで70aぐらい取り組んでいます。これは延べ面積です。コメ、そば、大豆、こういった土地利用型の作物になりますと、2〜1haの間で取り組んでいるというのが実態です。ですから、導入する作物によって取り組む面積にかなり差が出るというのが実態です。

土屋

 そうすると、専業農家は入ってないのですか。

竹田

 入っています。特にコメに関してはほとんどが専業農家です。野菜農家でも専業農家の方が結構入っていて、さきほど長井市の専業農家比率が5.4%というふうに申し上げましたが、このレインボープランに取り組んでいる専業農家の比率としては10%ぐらいになっているかと思います。特にコメの栽培農家、そば、大豆という転作作物を導入する農家に関しては、ほとんどが専業農家ですそれから専業農家の中の果樹や野菜の生産農家には3世代同居というのが多いわけで、そのうちの高齢者の方が一部の農地でレインボープランに取り組んでいます。大部分の農地は長男夫婦に任せているという形で参加している農家もありますので、専業農家比率としては高くなりますが、取り組む面積が経営面積に比較して少なくなるというマジック的なことも起きております。

2.生ゴミからのコンポストの作物への影響評価


有松(日本国民高等学校協会理事長)

 私、出席名簿にありますように、今、日本国民高等学校協会というところに関係しておりますが、ここは茨城県の内原に日本農業実践学園という学校があって、農場を持って、そこで農業の実践教育をやっている学校を経営している団体です。
 きょうのお話は非常にすばらしいアイディアで、私、感銘を受けたのですが、この日本農業実践学園におきまして、やや類似のアイディアといいますか、東京のある大企業の社員食堂の──社員数百人のかなり大きな社員食堂の生ゴミを集めて、それを豚の餌にするということを実験的にやっているのです。それを餌にする過程で醗酵させたりしているのですが、そこでやっている実験では、豚の餌としては今のところわりとうまくいきそうですが、醗酵の仕方によって、作物には醗酵の温度等の関係で必ずしもうまくいくとは考えられてないのですが、きょうのお話では作物にうまく使っており、醗酵も3回に分けて、3か月間醗酵させるということです。こういうふうな作物に生ゴミからつくったコンポストをうまく利用するというところの技術の実験というか、確立に当たっては、かなり技術的な試験という過程があったのではなかろうかと思うのですが、これが第1点です。

竹田

 ご指摘の点は、長井のレインボープランにとっても厳しい面があるわけですが、まず第1点の堆肥の使用基準を算定するに当たって、農業改良普及センターと協力して行っています。また、堆肥の安全性、作物への影響評価ということに関しては、県の農業試験場において、2年にわたってデータをとってもらいました。それで作物に対する悪い影響はないというお墨付きをもらっています。
 醗酵に関しては、CN比が醗酵の熟度をあらわす単位としてよく使われますから、CN比で申し上げますと、若干季節によって変動がありますが、25前後で、ほぼ堆肥としての基準はクリアしているかと思います。

3.コンポストセンターの管理運営費は長井市が予算化

有松

 もう1つ伺いたいのは、コスト面です。竹田さんが出された資料の43ページに、コンポストセンターの管理運営費の13年度の数字が載っておりますが、これを見ますと歳入が400万円足らずで、歳出のほうは、「その他」のほうも歳出ではないかと思うのですが、あわせると約4,800万円、5,000万円近くですが、そうしますと4,500万円ぐらいの赤字になります。その経費というのは一体どこが負担するのか、負担する仕組みがあるのかどうか。もし市の一般財政から負担するとすれば、市民全体のコンセンサスが必要でしょうし、あるいは受益者という意味でゴミを出す家庭から有料ゴミという形で負担させれば、1戸当たり年間1万円ぐらいで賄えるかもしれませんけれども、それはそれなりに出すほうの家庭のコンセンサスというのが要ると思います。そういう何らかの経費を補填する仕組みがないと、この事業がうまく続いていかないのではないか。  この点についてもお伺いします。

竹田

 問題は経費の面ですが、そもそもレインボープランというのは、長井市の政策の大きな柱になっております。したがって、全額を市の予算でまかなう形になります。
 特にこれだけの財政負担というのは、長井市は財政規模が小さい上に、借金も多く、大きな支出であることは間違いありません。それを超えるためのコンセンサスとして議会の理解も得、またプランを立ち上げるプロセスの中にも市民の理解を得られていることから、議会での指摘はたびたび出ますけれども、理解を得られた上での支出ということになっております。先ほどお話の中で申し上げたとおり、この資料の収支計算を議論してしまいますと、とんでもない厄介者というふうに解釈されかねませんが、それを相殺するように、生ゴミを資源化することによって、処理費用の負担をせずに済む金額が約4,200万円あります。それでも若干は赤字分は出ますが、それを計算しますと、1世帯当たり年間1,000円にも満たない金額です。年間1,000円の市民の負担ということは、今の時代、それほど大きなものではないだろうと思っておりますし、市民の皆さんにもこのプランの持っている意味、金銭的なプラス・マイナスではない多くのプラスがあるのだというメリットも含めた上でのプランです。「貧乏プラン」というふうに揶揄する人もいますけれども、多少マイナスの要素も含んでいることは間違いありませんけれども、多くの方がこのプランの大切さというものを理解してくださっていると解釈しております。

4.レインボープランの見学者たちの自らの取り組みを実現する可能性


岸(日本農業研究所研究員)

 2点お伺いします。
 まず竹田さんにお伺いしたいのですが、やたらと見学者が多いということで、多分そのとおりだと思いますし、タイからも来て、タイでもやるとおっしゃいましたが、多分タイではうまくいくのではないかと思うのですけれども、日本の場合に、よそがどれぐらいうまくいきそうな可能性を持っているかということについて、竹田さんのご判断はいかがでしょうか。
 なぜそういうことを伺うかといいますと、このレインボープランは、市役所がやる気になって推進係をつくった段階ではもう勝負がついていたのではないかという気がするのです。というのは、一番初めに3人でやったのが婦人会ですよね。女性たちをまず引き入れた。それから商工会議所へ行った。あるいはお医者さんとか、いろいろな方たちのところで話を全部つけてますね。そういう長い期間の準備段階があって、それから市役所に乗り込んでいるわけですね。周辺の外堀を全部埋めてしまってから市役所に行っている。よそから見学に来て、うちでもやろうと言っているところで、そういう過程がとられているのかどうか。
 それから、紫波町の例が出ましたが、あそこはしっかりやるのかもしれませんけれども、これは矢坂さんにお伺いしたいのですが、そういうふうなことが見学者たちの中でちゃんと理解されているのかどうかという点は、見ていらっしゃっていかがですか。

竹田

 これから立ち上げようというところに関しては、これは多種多様だと思うのです。確かに私たちは、行政側から見れば「ずるいやり方をされたな」という立場だろうと思うのです。逆に見れば、私たちがとった手法というのは、長井市にとって動きやすいという条件を整えたということなんです。つまり行政主導でやる場合は、一から市民に対する情報提供、またそのフィードバックを受けて合意形成という、そういうやっかいな仕事を積み重ねなければならないわけですが、私たちは市民の合意を取り付けているので、市としてもそれだけ市民の合意があるならやりましょうかとなります。つまり行政にとっては非常にやり易い楽な手法ということを我々提案者がやったということです。もっとも行政もその仲間として引き入れられているので他人事ではありません。これと同じ手法をほかの地域でも導入する場合は、いつも申し上げますけれども、行政、市民という区別をするのではなく、共に地域の一員として一緒にやろうということが大切だと思うのです。今これだけ環境問題あるいは循環という言葉、考え方が津々浦々に行き渡ってますから、それだけ情報というものを皆さん共有してますし、またその問題意識も高まっていると思います。地域の特性に合わせて変化していいと思いますけれども、基本的には「共に」という精神は生かされるべきだろうと思います。どこででも変化を持たせたやり方で構わないと思います。そして具体的に今、起こそう、あるいは立ち上げたところは、何か所かあります。栃木県の高根沢町ではもう立ち上がってますし、兵庫県養父郡大屋町というところでもぜひ同じような考え方で地域住民が事を起こそうとしているので話を聞かせてくれないかということで、明日お邪魔するのですが、このような例が何か所か出てます。具体的に動いているところもありますので、その地域の持っている資源──これは人も含めてですが、それぞれの資源を活用したやり方さえすれば、レインボープランと同じような、あるいは変化を持たせた循環システムは各地で立ち上がるのではないかと思っております。
 また情報として聞いているのですが、国家的なプロジェクトとして「バイオマスニッポン」というのが動き始めようとしております。これは堆肥化だけではなく、燃料化も含めて、いろいろな都市にも適用できるようなバイオマスの活用の仕方を今検討中です。ですから、そういう物の循環という切り口だけから見れば、都市でもできるということの可能性をその「バイオマスニッポン」は打ち出そうとしておりますから、レインボープランそっくりのものではないけれども、循環というコンセプトでいろいろな形が、ものすごくバラエティに富んだものが出てくるのではないかという期待をしています。

 レインボープラン以外でも優れた活動をしているところでよく聞くことですが、見学者がいっぱい来まして、ウチでも帰ってやりますよというのですけれども、大体やっているところはないというのが普通ですよね。この場合はどうなのかということを感じているわけです。例えば紫波町はどうでしょうか。大家町はできそうですね。あれだけ一生懸命やっているところはできると思うのですが、紫波町もそういう点はいいかもしれませんけれども、どうですか。

矢坂

 冒頭申し上げましたように、それほどたくさんの地域を回って各地の活動を把握しているわけではありません。紫波町の取り組みも文書で読んだ程度なものですから、詳細についてはわかりません。やはり行政が無視することのできないような環境をつくることがポイントなのでしょう。住民運動が成功しているところは皆そのような工夫をしているのかもしれないと思って感心しているという程度です。

5.高齢者や女性の生産力は循環型(地域密着型)農業では制約要因か


 もう1点。これは矢坂さんにお伺いしたいのですが、先ほど女性や高齢者では生産力がちょっと弱いのではないかとおっしゃったのですけれども、確かにこれまで、一般論として高齢者や女性は生産力として弱いというふうに見てきているわけですが、例えば循環型農業のような地域密着型といいますか、あるいは最近の言葉で言えば地産地消型と言ってもいいのでしょうけれども、そういうむしろ少量生産で、単一作目の大量生産でない方の農業の場合には、結構高齢者とか女性はしぶといのではないかというのを、あちこちの直売所を見て回りまして非常に感じているのです。その点はどういうふうに見ていらっしゃいますか。

矢坂

 それは私も同感です。こういう報告をすると、ホビーファーミングのような強靭さとか安定性を主張したところで、日本農業を全然語っていないではないかというご批判をよく受けるのです。私も確かにそう思いますが、実はそれはおっしゃられるように農業生産の担い手のなかのすみ分けを考慮すべきでしょう。多品種少量生産であったり、または消費者といろいろ交流してコミュニケーションを図っていく主体としては大きな役割を果しうる主体なのではないかと思っております。

6.安全・安心と高品質を求めるには労働力不足が決定的制約要因


暉峻(農業・農協問題研究所理事長)

 今、岸さんのおっしゃったことと全く同じことを質問しようと思っておりましたので、もうあえて質問しないほうがいいと思うのですけれども、女性・高齢者が多いということが地域循環型農業を安定させるという点で1つの制約要因になっているというふうに矢坂さんはおっしゃったと思うのですが、その高齢者・女性をもうちょっと陶冶するというか、鍛えていって、そして高品質の市場性を持った農産物をつくっていくということはできないのかどうか。この点について竹田さんが世襲型農業からの脱却という点で2つのポイントを出されたわけですが、矢坂さんが言われた問題について、竹田さんはどういうふうにその問題を考えていらっしゃるのか。高品質のものができて、それによって一定の市場性を持ってくるということによって循環型農業の安定性と、ある場合にはもっと市場としての拡大ということも可能かもしれない。そこいらの問題をどういうふうに考えていらっしゃいますか。

竹田

 おっしゃることは、私もひしひしと感じております。「安全・安心を売り物にしたレインボー野菜はいかがですか」というキャッチフレーズで、直売とか、その他いろいろな販売戦略を立てているわけです。確かに認証を受けた野菜ですから安全であることは間違いない。しかし、先ほど申し上げたように消費者の購買行動が小さいのは一体なぜか。それは見てくれがちょっとよくないとか、品揃えがよくないということもあるのかも知れません。言い換えれば、今のご質問にあったような高い品質、そしておいしいという評価さえあれば、慣行栽培の農産物でも買うことになるのだと思います。安全・安心を付加価値として売りものにするだけではなく、栽培技術を越えて高い品質が求められています。このことは販売・流通の現場で間近に見ておりますので、レインボープランの野菜、地域循環システムでつくられた野菜といえども不可欠の要素だと思います。
 そこで私が考えているのは、なぜレインボープランの野菜の一部が、品質、見てくれも含めて低いのかという要因は決定的に労働力不足です、間違いなく。高齢者であろうが、女性であろうが、知識は持ってます。技術も持ってます。それを労働という作業に転化できない。ですから、手間がかけられないという大きな制約がある。そこに先ほど申し上げた消費者の皆さんの援農という形で、あるいは若年のまだ就労できない学卒者の応援を得て、高齢者のノウハウを伝えて手足にかわってもらうという手法での品質向上は可能なはずです。それを労働対価としてしっかり支払えるような市場性を持たないと、理想はいいけれども、生産という基本的な現場から崩壊してしまう可能性があります。それを防ぐためにはおっしゃるとおり高付加価値のものを、ある一定レベル以上のロットをそろえるということが不可欠の要素になっていますので、先ほど私のアイディアの中に直営農場というのが出てきたのも、そのためなんです。品質向上と量をそろえるということが、域内の市場といえども必要だと感じておりますので、大きなご指摘をいただいたと思っております。

7.地域性に合った高品質で栽培が容易な戦略品目作物を選定


 その場合、高齢者・女性の労働力が足りないということをカバーするためには、例えば品種とか栽培体系まで変えていかなければならないということはないでしょうか。つまり今の作物というのは、大体大量生産・大量流通型にできてますよね。そうではなくて、わりと手抜きをしても、あるいは化学肥料を使わなくてもつくりやすいという品種も昔はあったわけです。そういうものをもっと掘り起こし直すというか、栽培体系としてもそういうものをもう一遍考えていくべきではないかということを感じておりますが、その辺はどうですか。

竹田

 確かに最近の野菜の品種は特に糖度を追求するという品種改良が常識になっています。結果として病気に弱いという傾向がまま見られます。ですが、それにかわる品種として栽培が容易な品種、また過去につくられていた品種というのは、くせがあるものの耐病性に優れた野菜が多かったわけです。しかし、これだけ糖度の高い野菜をたべ続けてきた今の消費者が、栽培に容易であるけれども、糖度の低い青臭いトマトをいっぱい買ってくれるだろうかという不安があります。栽培が容易で取り組みやすいということがあったにせよ、買ってもらわなければどうにもならないという現実があります。そこのところをしっかりリサーチせずに過去の品種に返るということはできないだろうと思っております。しかし、今年の取り組みとして、戦略品目というのを数品目選びました。それは栽培しやすい作物──品種ではなくて作物ですが、そういう作物を選定しました。そして、価格と需要が安定しているという作物です。そういう作物は比較的栽培も容易であるということにつながってきます。と同時に、長井のレインボープランの栽培方法、それから地域性に合ったような品種の選択、これは種苗店といろいろ相談して決めさせてもらいました。このような取り組みで、ある一定のレベルを保とうという努力はしております。

8.コンポストセンターの生産量の3分の2は農家以外にわたる理由


橋本(山口県日置農林事務所農業普及部調整課主任技師)

 竹田さんにご質問したいのですが、コンポストセンターの生産量は年間500トンということですが、48ページを見ますと、その中で農産物のレインボープランの認証制度に乗っておられる農家の方々は150トンということで、差し引き3分の2は地域のほかの生産者の方々に使われていくのではないかと思うのですけれども、それについてはいかがですか。

竹田

 市民の参加によってつくられた堆肥は域外に出さないということを原則にしております。ですから、レインボープランの堆肥は長井市の農地に全て還元されているというふうにとらえていただいて結構です。
 このレインボープランという認証の仕組みに参加する農家と、その認証の仕組みには参加しないけれども、堆肥が欲しいという農家の2つに分かれます。それと、無視できない動きとして、家庭菜園という分野で結構売れるのです。栽培農家の場合は、できるだけコストを下げるという観点からバラで買って行きますけれども、家庭菜園用に結構な量が袋詰めで出て行くのです。家庭菜園といえども15s詰めの袋が10袋とか20袋というレベルで売れます。今申し上げた家庭菜園もしくはガーデニングに使用するというのが多くて、比率としては結構大きい。
 そこに私たちは忸怩たる思いがありまして、一方では消費者のレインボープランの農産物を求めている姿が見えるわけです。ですから、生産拡大をしなければいけない。ということは、堆肥を生産現場に返さなければいけないわけですけれども、それが家庭菜園やガーデニングの資材として使われるのを制限してしまっていいのかという問題があります。ゴミの分別に参加し、土づくりに台所から参加している皆さんに堆肥を供給しないということができるかどうかという問題があります。このような課題があって、レインボープランの農産物の生産拡大が広がらない要因の1つかもしれませんが、レインボープランというのは地域の環境保全型農業の代名詞のようなものだと考えています。そのほかの有機資源はまだいっぱいあります。当然法的に義務化された家畜ふんの堆肥化も、畜産農家が自己資本を投じて堆肥化システムを導入しています。これらを地域内の農地に還元するということも今行われつつあります。特にコメの生産農家に関しては、今、急速に広まってます。
 それから、もう1つの動きとして日本初の取り組みですが、国土交通省が動き始めました。現在、長井市では長井ダムを建設中ですが、そこの建設現場から発生する伐採木の活用です。かつてどこの建設現場でも焼却処分をしてました。しかし、循環ということを町づくりの柱にしている長井市で焼却処分はないだろうと。だったら、それをチップにし醗酵させて堆肥にして市内の農地に還元しようということが現実に動き始めました。このような新しいメニューも含めて、トータルとしての地域循環システムを複合的にあわせて環境保全型農業というものを大くくりにしていくというふうに今動き始めていますので、レインボープランの生ゴミを主原料にした堆肥だけにこだわるものではないというふうに考えております。

9.認証制度に乗っていない一般農家のこの運動への参加は


橋本

 そこで思いましたのは、地域の認証制度に乗ってない、しかし同じ堆肥を使われている農家も一緒にこの運動に参画させることができないかということです。そうすれば、先ほど兼業農家の農業に対する意識が低下してきた等の問題が地域にあるということでしたが、運動参加者に加えることで、社会貢献という意味合いを持たせ、そういった人たちの意識向上がはかれないか、また、参加グループの底辺を広げていくことで、既存認証農家の活動ももっと裾野の広がった動きになるのではないかというふうに思ったのですが、その辺についてご意見を伺いたいと思います。

竹田

 同じような議論が長井の場合もあります。認証制度というやっかいさから一般の栽培農家の参加を妨げているという部分も否定できないと思います。ですから、現在の認証基準よりもさらに緩やかな「参加農家」という一くくりにできないかという議論がありますが、現在レインボープランの参加農家として認定されている農家とどう区別がつくのかというところが技術的にまだ確立されていません。確かにそれだけの潜在能力があるならば、味方に引き入れたいという思いはあるわけでが、仕組みとしての認証を今のまま続けていくとすると、なかなか困難な部分がありますので、正直申し上げてまだ答えが出ません。その点ついては、むしろ皆さんから、こういうアイディアでどうだということがあったら、ご提示できればありがたいと思います。

10.認証農家以外の直売的な農産物の流通状況と地域活性化効果


堀越(農林水産政策研究所企画連絡室長)

 この地域循環農業の1つのポイントとして、生産農家が直売しているというところがあって、それで完全な循環になるわけですが、その認証を受けて直売する農家が少ないという問題を抱えておられるということであるわけです。お伺いしたいのは、この認証農家以外に直売的な農産物の流通、つまり地産地消的な農産物の流通というのはどの程度あるのか。また販売する農産物の価格についてはどういう値段づけをやるのか。直売施設を見てまいりますと、過当な競争を排除するために、最近価格を設けている施設もありますし、また一部には全く農家の自主的な判断に任せているというところもあるわけです。そこのところは1つのポイントではないかというふうに思いますのでお伺いしたいわけです。
 もう一つは、先ほどの担い手の論議とも関係するのですが、認証の農産物であるとか、直売的な販売の担い手は高齢者、女性が中心となっており、そのおかげで地域がかなり活性化しているという話をよくお伺いするわけですが、そういう効果は出ていないのかどうか、お伺いしたいと思います。

竹田

 長井市の直売所は現在9か所あります。その直売所の形態はいろいろです。地域の農家のグループで立ち上げた直売所と、我々のように特定の目的を持って立ち上げた直売所、あとは仲良しクラブの直売所というのが形態としてはあります。それぞれ市内に分散していますが、やはり中心は高齢者と女性です。特に高齢者のグループに関しては、今売れ筋の野菜プラス昔の伝統的な野菜も加えた直売体制をとっているようです。ですから、お客様の層も、結構高齢者から普通の家庭の主婦の皆さんまでの層の厚さがあるというふうに聞いております。そういう品揃えを豊かにすることによって売上も年々伸びているというところもあるそうです。まだ小さい直売所がほとんどですけれども、多いところですと年間2,000〜3,000万円の売上があるということです。このように直売所活性化の鍵は確かに高齢者と女性に支えられていることは間違いありません。
 その高齢者や女性の皆さんがどういう豊かさを享受しているかということですが、確かに売上が伸びれば、それだけ自分で処分できるお金が入ってくるわけですから、経済的な豊かさはもちろんあります。先ほど申し上げなかったかもしれませんが、このレインボープランに参加して、今まで感じたことのないおもしろさがあると言う高齢者の参加農家もあります。それはなぜかと聞きますと、やはり仲間づくりができたというのです。今までは物をつくるということだけで土にはいつくばってきたけれども、直売をしたり、皆と勉強会をしたり、あるいは酒を呑み合う。今まで知らなかった人たちと話し合いの場が持てた、そのことが一番嬉しいのだということを言っております。ですから、ご指摘の経済的な豊かさプラス心理的な部分の豊かさも享受し始めていることも間違いありません。加えてレインボープランの知名度が高まったおかげで、マスコミの取材が大変多くなりました。今までテレビカメラの前で話をするなどということを想定しなかった高齢者の皆さんが、テレビカメラを向けられて、レポーターからマイクを向けられ、わくわくして話をする。長井の老人は物怖じしません。今まで体験し得なかったことを現実のものとして感じる。自分なりの解釈ですが、こうしたことが心理的な豊かさにつながっているのではないかと思っています。

11.最近のタイの農業事情について


土屋

 先ほど岸さんからもお話がありましたが、タイでは成功するだろうというお話でしたけれども、私は約30年前タイの大学に半年ほど勤めておりまして、農村に行く機会があったのですが、タイの東北部というのは最も貧しい地域で、肥料も余りやらないで農業をやっていたのですけれども、最近はタイの農業も大分変わってきて、肥料等にもかなり関心を持つようになってきたのか、どなたかおわかりでしたら、教えていただきたいと思います。

紙谷

 今のご質問に正確にお答えできませんけれども、少なくともタイの中で商品化が進んでいるところでは、肥料などについてかなり関心を持って、研究も進めております。東北の後れたところではどうかということについては、私もよくわかりませんけれども、一般的に商品として生産をしているところでは、肥料とか農薬とかにかなり関心を持っていることは事実です。

12.長井市の名声を高めたレインボープラン


小口(農村金融研究会調査研究部長)

 私、長井市の隣町の生まれで、山形県の長井高等学校出身なものですから、一言竹田さんの応援演説をさせていただきます(笑)。
 私、今、農村金融研究会で調査関係の仕事をしております。農林中央金庫のOBです。レインボープランの収支のことについて、竹田さんからお話があり、またお尋ねもありました。いろいろご説明いただいたほかに、私が長井市関係者の1人として思いますのは、レインボープランをつくっていただいて、長井市が本当に有名になったということです。これは大変なことだと思います。私はそれまで、山形県の長井高等学校の出身だなんて自己紹介をすると、その後にしばらく説明の時間が必要だったわけです、長井市というのはどこにあるのだと。米沢というのがあって何とかかんとかと。ところが、私が生まれたのは隣の白鷹町という町ですが、長井高等学校の出身だということになると、最近はほとんど説明不要で大体わかっていただけます。冒頭に竹田さんに映していただいた山形県の地図を示さなくてもわかっていただける。これは長井市の広告宣伝費に換算すれば大変な金額だと思います。例えば長井市のPRだということで、日本経済新聞にPR記事──長井市の観光記事を載せるなんていうことになると、その分を収入だとカウントすれば、何千万という単位ではないと思います。もっと大きいと思います。そういうことも、ぜひ長井市の市長さん以下議会の方々にご理解いただければ大変わかりやすいのではないかと思います。

13.レインボープラン農産物の学校給食は長井市の将来の人材育成に貢献


 もう1つ収入だというふうに考えてもいいのではないかと思いますのは、竹田さんからもお話のございましたように、学校給食を通じて子供さん方がこのレインボープランのことに愛着を持ち、そこで生産された農産物を食べているということです。将来、大人になって、母親になったときに、レインボープランの考え方が間違いなく体にしみついていることになると思います。その先、生まれてきた子供さん方にも、レインボープランの考え方なり、竹田さんがおっしゃった堂々たる田舎町づくりということの考え方が伝わります。今までは、私もそうだったのですが、田舎に生まれて育ったということは、都会に来るとやっぱりコンプレックスになりました。そういうコンプレックスというのは全く不要のものだという自信を持って、子供たちが大人になっていける。そして長井市が大変な人材に恵まれて、あるいは長井市を離れた子供たちにも長井市の応援団になってもらえる。それは教育費用あるいは教材費をかけてやろうと思ったら、相当のお金がかかる話だと思います。そういうことは1億円とか2億円とか計算することは難しいかもしれませんが、間違いなくそれは収入として計上できる話です。今、長井市は財政再建下にあるわけですけれども、決してむだな金を毎年毎年投じているわけではない、レインボープランは大変意義ある事業だということで大いに自信を持っていただければと思います。私事でありますが、私は来年(2003)の春から37年ぶりに山形県に戻ります。ぜひ一緒に頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

14.小口英吉氏は山形県の民間応募の高等学校長に就任


林(前農政研究センター)

 今、山形県の応援の話がありましたが、私も小口さんの応援をしたいと思います。  彼は山形県で初めて民間から出た高等学校の校長先生に応募しまして、非常にたくさんの応募者の中から特に選ばれまして、今回、民間人として──高等学校の校長先生というのは文部省人事で順々に上がっていくらしいのですが、それとは別に民間人出身として初めて山形県の高等学校の校長先生になられる方です。これからは教育が非常に大事な時代になりますが、民間出身としての創意工夫を発揮していいだきたく、ちょっと紹介をさせていただきました(笑)。

15.社会システム変革の推進力になるという期待

柳澤

 先ほど矢坂先生から、最後に、社会システム変革の推進力になるのではないかという期待が寄せられました。先ほど竹田さんから、仲間づくりができたことで非常に喜んでいるというお話もありましたが、いかがですか。

竹田

 その部分については大変大きなテーマですし、レインボープランを立ち上げるときに、そこまでの思想というのは生まれませんでした。でも、1988年からかかわることのプロセスの中で、自分自身が、みずから言うのも口幅ったいのですが、大きくなってきたのかなというふうな気がしてます。ですから人というのは窮地に陥れば陥るほど強くなれるものだなと思っておりまして、私はこれだけ数字上の赤字を長井市には負担してもらっているわけで、そのことだけでも相当な責任があるわけです。ですから、針の筵に毎日座らされているのと同じなんです。でも、これは1人でやったならば、お前さんの全財産没収と言われても不思議でないぐらいの財政負担です。それがないのは、やはり市民の合意というものがあったからだと思います。私も冗談で言うのですが、今こそ維新の時代だというふうに思っておりまして、維新を起こすにはどれだけの人材が必要か、つまり志士が必要かということだろうと思うのです。そういう人間の一かたまりが長井にいたという偶然性を手に納めたということが非常にミラクルの世界ではないかと思っております。そのミラクルが起きるためには、自分の思っていることを吐露するということから始めるということではないかと思うのです。それも多くの人の前で、生の声で伝える。そのことから始められる。始まるのだろうと思います。無知な私でも皆さんの前で生の声でお伝えする機会を設けていただいた、このことがどれだけ次のステップにつながるかわかりませんが、いつか、どこかで、何かの機会にそれが私に返ってくる可能性が大いにあります。もうすでに小口さんからは応援をいただきました。そういう入れ知恵をしてくださる方が、こういう機会に1人でも2人でもいれば、長井のレインボープランあるいは長井市は発展できるのだと思います。
 本当にきょうはこういう機会を設けていただいたことにまず感謝申し上げます。その機会をつくっていただいた矢坂先生にも本当に感謝申し上げます。そして、事務局として柳澤さんには大変懇切丁寧なご連絡をちょうだいいたしました。本当に感謝申し上げます。
 時間が過ぎておりますが、ちょっとだけ宣伝させてください。きょうはぜひご紹介したいと思いまして、2冊の本を持ってまいりました。
 これはレインボープランの本です。ストレートにレインボープランの本です。こちらのほうは去年の5月に発刊した本で、私も書いてますが、『台所と農業をつなぐ』という本です。これにはかかわった人たちの思い、そしてどんな苦労をしてきたか。そして技術的にどういうことを積み重ねてきたか。そして、何よりも大きな地域循環の基本的な理念、考え方、そして未来への展望が盛り込まれております。ぜひ関心をお持ちの方はお読みいただきたいと思います。
 こちらの本は先月出たばっかりで、『生ごみはよみがえる』というのは、大人だけのものではない。次の世代を担う子供たちのためにという思いがあって仲間の菅野芳秀が書いた本です。小学生の中学年以上でしたら、十分理解できます。これも子供の愛読書になってほしいなと思いますので、ご紹介申し上げました。
 宣伝になって申しわけありませんけれども、もし関心をお持ちの方はよろしくお願いします。

16.コメンテーターの感想

柳澤

 ありがとうございました。 矢坂先生、最後にご感想を一言お願いしたいと思います。

矢坂

 きょうは私自身がレインボープランをどう解釈したかという点についてお話ししただけで余り大したコメントにはなりませんでした。レインボープランの活動についてお話を聞くと大変勉強になります。学問的な部分だけではなくて、自分が生きていく上ですごく元気になるという気がしております。私自身もこういう機会を与えていただきまして大変感謝しております。ありがとうございました。

柳澤

 どうもありがとうございました。

〔閉  会〕

柳澤

 それでは、時間もまいりましたので、この辺で最後に私どもの代表幹事からごあいさつをお願いします。

紙谷

 竹田さん、非常に丁寧なご説明、ありがとうございました。矢坂先生からも問題の開示、これも非常に我々にとって有益なものであったと思います。本当にありがとうございました。  1つだけちょっと竹田さんに質問させていただきたいのですが、先ほどのレインボープランのお話の中に「参加農家」という言い方をされたのですが、参加するのと参加しないという区別はあるのですか。例えばゴミを出すほうの町の人は2,500戸だけで、半分かもしれません。それ以外の人たちは参加していないということになるのだろうかと思うのですけれども、農家の方は参加するとか、しないというのは、それは何かあるのですか。

竹田

 言葉の意味づけというのは余り強く持っておりませんけれども、ただレインボープランにかかわる人々を呼ぶのに、かつて「協力」という言葉を使っておりました。協力ということではなくて、共に事を起こすのだから、参加だろうということで「参加」という言葉に切り換えたわけです。先ほどの数字上の説明で農家戸数1,900戸存在すると言いました。堆肥のキャパシティから見れば、1,900戸の農家が全員「ヨーイドン」でスタートできる量ではないものですから、その堆肥のキャパシティと農家の意志による参加──共に事を起こすという意味での参加という理解の仕方をして、その言葉を使いました。

紙谷

 ありがとうございました。  そうしますと、こういう運動というか、こういうシステムにはある意味の限界があるのだろうということだと思うのです。1つは設備の制約というのがあります。コンポストをつくるとか、収集の能力ということがあると思うのです。しかし、それを1つの核として地域社会が融合していくというプロセスとして非常に有効な働きをしてきたのではないかと思います。  きょうのお話は、レインボープランのシステムそのもののお話も非常によくわかりますし、それに伴って社会としてどういう対応をしたかということ、これが我々がこれから考える場合、1つの大きな参考になるのだと思うのです。そういう意味ではきょうは非常にいい勉強をさせていただいたと思います。それぞれご質問なさった方の問題の提起の仕方も、そういう意味では非常に有益な問題の提起をされたのではないかと思います。  本当に皆さんありがとうございました。(拍手)

(了)
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