環境の世紀VII  [HOME] > [講義録] > 6/16 [事例研究─駒場キャンパスにおける廃棄物問題について] > 第5・6章

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現状の問題点と改善策の提示
浦久保

5−1 現状の問題点

 さて、第5章では、今まで第2章や第3章、第4章で見てきた事実をもとに、駒場における現状の問題点を示し、そして、それらの問題点に対する私達なりの解決策を提示したいと思います。ここで言う問題点とは、私達が第一章で示した、「廃棄物の絶対量が多い」、「倉庫があふれている」、「分別が徹底されていない」、「ビラが散乱している」などの、目に見える問題点、現象として現れているレベルでの問題点ではありません。これらの現象レベルの問題の背後にある、廃棄物処理に関する意志決定のなされ方や学部の廃棄物削減計画などの問題点、すなわち構造レベルの問題点を取り扱いたいと思います。そして、この構造レベルの問題点に対する私達なりのビジョンを示します。

 それではまず、問題点から説明したいと思います。私達としては、駒場における廃棄物処理の意志決定のなされ方などに関して、以下の4つの構造的な問題があると考えました。

  1. システム設計に関わるのが経理課用度掛と環境委員会のみである
  2. 主体間の意志疎通、情報流通が不足している
  3. 専門的知識を持つ人が意志決定プロセスに関与していない
  4. 再利用計画が形骸化している

 この4つは、お互いに絡み合っている部分もあるのですが、駒場の現状の問題点をこのような4つの側面からとらえることができるのではないかということです。それでは、順番に説明していきましょう。

1 システム設計に関わるのが経理課用度掛と環境委員会のみ

 まず、(1)についてです。第3章で見たように、駒場の廃棄物処理に関わるシステム、例えばごみの分別を何種類にするかとか、ごみ集積倉庫を増設するかどうかなどについては、経理課用度掛と環境委員会が決定しています。しかし、経理課用度掛にとっては、先にも述べたように、学内で使う物品や業者の手配が本体の業務であり、廃棄物処理システムについては他に扱っている部署がないからやっているとのことでした。また、環境委員会にしても、形式的には廃棄物問題に関する意志決定を行う組織なのですが、事務方である経理課用度掛に業務を任せていることも多いようです。従って、駒場の廃棄物処理に特化した業務を行っているわけではないこの2つの主体のみが、システムの設計に関わっているという意志決定制度には問題があるのではないかと思われます。

2 主体間の意志疎通、情報流通が不足

 次に(2)の問題点です。例えば第3章で述べたように、清掃業者としては、ごみ集積倉庫がすぐにあふれてしまうという状況を改善するために、倉庫の増設を長い間経理課用度掛に強く求めていましたが、なかなかその要望はかなわず、最近になってようやく倉庫の増設が決まりました。要望を受けていた経理課の側としても、予算の面など色々事情はあったのでしょうが、現場の強い要望がなかなかシステムの設計者に届かない、あるいは届いていたとしてもその声が活かされていないという現状には問題があるのではないでしょうか。

3 意志決定プロセスの関与に専門的知識を持つ人の不在

 そして、(3)についてです。これは、(1)や(2)の問題点を別の側面から見たものかもしれません。環境委員会所属の教官の方にしても、廃棄物処理について専門的、学問的な知識をお持ちの方はいないようですし、また、用度掛の方にしても、本体の業務は廃棄物処理システムの設計ではないというくらいですから、廃棄物に関しての専門的で豊富な知識は持ち合わせていないようです。また、(2)からも分かるように、清掃業者の方など、現場を知るある意味専門的な意見もあまりうまく活かされてはいないようです。

4 再利用計画が形骸化

 最後に(4)の問題点についてです。大規模事業者である駒場は、条例により、毎年区に対して「再利用計画書」を提出しなければなりません。その計画書では前年度実績と今年度計画を報告することになっています。しかし、この計画書において挙げられている再利用率の計画値の30%に対して、現状は3〜4%という水準にとどまっています。新・分別ルールの導入によりペットボトルの分別が行われることになり、再利用率の向上は見込めますが、30%という計画値の達成はまだまだ難しいようです。現在の計画は、実行と評価の伴わない建前だけのものになってしまっているのではないでしょうか。

 これら4つの構造レベルの問題点が絡み合って、廃棄物処理システムの改善、廃棄物削減に向けた取り組みを阻害しているというのが駒場キャンパスにおける問題なのではないでしょうか。




5−2 本郷キャンパスの事例

 次に、これら駒場キャンパスの現状を相対化するために、東京大学のもう一つの拠点である本郷キャンパスにしばらく目を向けてみましょう。まず、本郷での廃棄物処理システムについて簡単に説明し、続いて、「そのシステムの立案、設計の中心になった主体」、「様々なデータに基づいた計画的取り組み」の2点について述べたいと思います。駒場での4つの問題点、特に3つ目の「専門的知識の欠如」と、4つめの「再利用計画の形骸化」と比較すると興味深いのではないかと思います。

本郷のごみ分別カート


紙を分別する3段ボックス

本郷キャンパスの廃棄物処理システム

 本郷キャンパスでは、昨年からごみの分別の徹底とリサイクル推進によるごみの減量化を目指すために、抜本的な新分別システムを導入しました。このシステムの特徴は、ごみを発生源、すなわち排出者が捨てる段階で徹底的に分別を行うということです。このシステムでは、ごみは「紙」と「それ以外」の2つに大きく分けられます。さらに、「紙」の中でも、分別が必要で、ダンボール、コピー用紙、新聞紙など5種類に分別されて、すべてリサイクルに回されます。そして、紙以外のごみについては、飲料缶、ガラス、ペットボトル、プラスチック類、可燃ごみ、不燃ごみ、の六種類に分別されて、缶、ガラス、ペットボトル、プラスチック類はリサイクルされています。

本郷のシステム設計者

 本郷キャンパス内には環境安全研究センターという、廃棄物処理や、大気汚染、水質汚濁などについて主に工学系の教官が研究を行っている場所があり、本郷の新システムは、この環境安全研究センター所属の研究者、大学院生の方が中心になって導入を進めてきました。従って、このシステムは、次に述べるように導入に先だってごみの実態に関する定量的調査を行っているといった点で、専門的、学問的な知識に裏付けられたものであるということができるでしょう。駒場での意志決定プロセスには、このような専門的、学問的知識が活かされているケースが少ないことを考えると、非常に興味深いのではないかと思います。また、環境対策というものが新しい取り組みである以上、どうしても中心になって積極的に動いていく主体が存在しなければ、対策は進みづらいと考えられます。そういう意味で、本郷では環境安全研究センターというけん引役がいたことがシステム作りに大きな役割を果たしたといえるでしょう。

様々なデータに基づいた計画的取り組み

 さて、この本郷での廃棄物削減の取り組みの大きな特徴は、廃棄物の量や質に関する様々なデータが集められ、その結果が処理システムのあり方にフィードバックされているということです。例えば、新システム導入に先立ち、大学から排出されるごみの実態を把握するために、生活系ごみの実態調査が行われていました。この調査から、紙の分別を徹底的に行えば、可燃ごみの量を大幅に削減できることなどがわかり、紙の分別システムや、その他のごみの分別の種類などが考案されたということです。また、現在もごみの種類ごとに排出量が正確に計られており、今後のシステムの改善にこのデータが役立てられています。




5−3 改善策の提示

 それでは、先に挙げた駒場キャンパスにおける4つの構造レベルの問題点に対して、本郷での取り組みの事例を参考にしつつ、私達なりの改善策を提示したいと思います。ここでは、

  1. 廃棄物処理に関して、データに基づいた計画的取り組みを行う。
  2. システム設計に関与する主体を増やす。

の2つを私達が考える改善策として示したいと思います。

PDCAサイクル

データに基づいた計画的取り組み

 さて、それでは(a)から順に見ていきましょう。ここで、まず、PDCAサイクルという概念を提示したいと思います。PDCAサイクルとは、業務の遂行をマネージメントしていく時の一つの重要な手法で、Plan,Do,Check,Actionの頭文字を取ったものです。これは、どういう意味かというと、まず始めに、Planの段階で、その業務なりプロジェクトなりの目的・目標を定めます。そして、Doの段階でそれを実行します。実行に移した後、時期を見て、その行動が目的・目標にあっているか、達成できそうかを Checkします。そして、それで終わりではなく、最後のActionの段階で、Checkによって判明したことを踏まえて、このまま続けるか、是正するかの意志決定を行うのです。これがPDCAサイクルというものです。

 本郷での取り組みを見てみると、このPDCAサイクルに沿って取り組みが進められているということが分かります。まず、はじめにリサイクルの徹底と廃棄物量の削減という目的・目標を定め、また廃棄物の実態に関する調査を行います。これがPlanの段階です。そして、システムを導入した後も廃棄物の種類ごとに量を計測して、Checkを行い、それをふまえて今後の対策をより良いものとしていくのです。

 駒場においても、このように長期的な視野の中で、実行可能な目的・目標を設定し、正確なデータに基づいて、個々の対策を行い、そしてその対策を事後評価することで、またその後に活かしていくという視点が今後は必要なのではないでしょうか。30%が3〜4%になってしまうというような形骸化した計画ではなく、実現可能な計画を立てていくことが重要でしょう。また、このような手法を用いていくときには、本郷におけるように専門の研究者の意見なども踏まえつつ計画を立てていくことも必要でしょう。

システム設計に関与する主体を増やす

 次に、(b)に関してですが、現在は経理課用度掛が再利用計画書の作成をほぼ単独で行っています。これに複数の主体が関わっていくことはできないでしょうか。第3章で述べたように、駒場で廃棄物に関わっている主体はいくつもあります。これらの主体が集まって、現状の問題点を話し合い、改善策を練っていくことができるというのが一つの理想だと考えます。現在でも、それぞれの主体の関係者が日程を調整して集まって情報交換を行う場を設けることは可能です。この場で、主体間の関係が深まれば、共同で本格的な調査や研究をして、実際の計画に携われるようになることも可能です。私達は、この場に学生の姿も想定しています。これまで、学生はごみの排出者として深く廃棄物問題に関わっていながら、廃棄物処理システムの構築には関与してきませんでした。今後は、学生や(a)でも触れたように、専門家をメンバーに加えて、PDCAサイクルを実現させることが必要ではないでしょうか。






おわりに


 今回現象としての問題ではなく、廃棄物への各主体の関わり方など、制度や人に焦点を当てて調査を進めてきました。そして、各主体の役割を整理し、そこから浮かび上がる問題点の分析を試みました。必ずしも十分な考察はできませんでしたが、皆さんへ何らかの問題提起はできたでしょうか。この調査が、皆さんの中に何らかの関心や疑問を残し、廃棄物問題をこれからも継続して考えてもらえるきっかけになることを願っています。私達環境三四郎としても、この調査をまた新たなステップとして、これからの活動に活かしていきたいと思っています。最後に、もう一度このような発表の機会を与えて下さった丸山先生をはじめ、ご協力下さったすべての方々にお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。

2000/6/16 環境三四郎



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