環境の世紀VII  [HOME] > [講義録] > 6/16 [事例研究─駒場キャンパスにおける廃棄物問題について] > 第1章

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はじめに


田中

1−1 発表にあたって

 これから「駒場キャンパスにおける廃棄物問題について」と題し、環境三四郎が行ったフィールドワークの成果を発表します。今回私たちがフィールドとして選んだのは、普段私たちが通っている駒場キャンパスです。

駒場キャンパスは東京都目黒区に位置し、東京大学教養学部・大学院総合文化研究科・大学院理学系研究科数理科学科が置かれています。後で述べますように、全ての1・2年生はこのキャンパスで2年間教養課程を経て、本郷キャンパスで専門課程を学ぶことになっています。

 はじめに発表に機会をお与えくださった丸山先生に感謝したいと思います。なお、この場にはおられませんが、今回この調査を行うにあたって、協力してくださった経理課用度掛の関係者並びに環境委員会の尾中先生、東大生協の組織宣伝部の中山様、清掃業者オーチューさまに対してもこの場を借りて御礼を申し上げます。




1-2 社会的な状況


 環境庁
「topics」の「循環法」に循環型社会形成推進基本法の解説

 まずはじめに、廃棄物問題をめぐる最近の話題に触れておきたいと思います。皆さんは「循環型社会形成推進基本法」という法律をご存知でしょうか。6月2日から公布されています。この法律は、これまでの環境政策(とりわけ廃棄物法制度)に大きな変換を迫る極めて意義の大きいものです。これまでの廃棄物法制度は、基本的に廃棄物の適正な処分を目的とし、リサイクルは廃棄物量低減のための補完的な手段とされてきました。「循環型社会基本法」は、この考えを180度転換して、どんな廃棄物も循環させることを基本としたといえるでしょう。つまり、基本原則として

  1. 廃棄物の発生を抑制すること
  2. 発生した廃棄物については再使用を行なうこと
  3. 再使用が難しい廃棄物は再生使用すること
  4. 再使用も再生使用もできない廃棄物は熱回収すること
  5. それらがすべて不可能な場合に適正に処分すること

 容器包装リサイクル法

 といった具合に、まず「リサイクル」を根本原則に置いたのです。この点で、本テーマ講義の副題でもある「持続的社会」と密接に結びついてくるでしょう。様々な不備はあるにせよ、「循環型社会」を作り上げる上での第1歩となる法律が出来上がったことは特筆に価するといえます。また、今月6日には香川県豊島で起きた産業廃棄物不法投棄事件において、香川県と住民の間で公害調停が成立しました。さらに、振り返ってみると、今年の4月からは容器包装リサイクル法が完全施行され、紙製・プラスチック製の全ての容器包装まで適用対象が拡大されました。このように、現在廃棄物やリサイクルに関する社会的状況はめまぐるしく変化しています。




1−3 駒場キャンパスでの状況

 このような社会の動きの中で、私たちが属し、最も身近な空間の一つであるこの駒場キャンパスでは、廃棄物に関してどのような状況が見られるでしょうか。

 現在駒場キャンパスで目に付くいくつかの現状を4点挙げてみましょう。

9号館脇ゴミ倉庫
9号館脇ゴミ倉庫
※ 現在は撤去され、新倉庫を設置中
排出される廃棄物に処理が追いついていない
学内にはいくつか集積場がありますが、日々排出されるゴミは集積場から溢れるほどで、その結果ゴミの混合が起こったり、カラスなどによる散乱が起こることもあります。
廃棄物の分別の悪さ
後で述べますように、駒場キャンパスのゴミは基本的に可燃ゴミ・不燃ゴミ・缶及びビンの3分別で回収されています。しかし、様々な要因が結びついて、正しく分別されているとは言いがたい状況にあります。とりわけ不燃ゴミの可燃ゴミへの混入など、私たちの些細な行為が、処理の段階で大きな影響を及ぼしてくることもあります。
不法投棄
ここでいう不法投棄とはいわゆるポイ捨てのことです。銀杏並木や生協前の広場・1号館の周りの植え込みなどに、食べ終わった後の弁当容器・空き缶・紙コップ・ペットボトルなどの容器がそのまま捨てられている光景は皆さんもよく見かけていることと思います。
紙の多量使用
クラス単位での試験前の対策プリントやサークルなどによって毎日のように各教室に撒かれたり貼られたりするビラなど、駒場キャンパスでの紙の使用量は私たち学生に限っても、膨大な量に及びます。また、後で述べますようにこうした紙の多くが可燃ゴミとして処理されることも分かっています。

 これら4つの問題の原因は、主な排出者である学生だという点に注意をしておく必要があります。




1−4 駒場キャンパスでの新ルールの導入

3分別
2000/6現在の3分別

5分別
学生課前に導入された5分別

 こうした現在の慢性的な問題に対処するため、駒場キャンパスでは今月より廃棄物の新しい分別ルールが導入されます。事務棟から段階的に実施されていくことになっているので、今ゴミ箱が急にすべて変更されるわけではありませんが、将来的にはすべて変更される見込みです。現行のルールでは「可燃、不燃、ビン・缶」の3分別ですが、この新分別ルールでは新たな分類として「ペットボトル」を加え、「ビン」と「缶」とを別々に回収するようになります。従って3分別から5分別へと分別が増えることになります。また、それに伴い、分別表示も新しくなり、本郷キャンパスで使用されているものとの統一が図られます。また、これまでは講義棟と生協とで異なっていたゴミ箱の分別表示の統一も行われます。

 新ルールの導入で、「「ペットボトルを分別することにより不燃物の排出容積を削減すること(従って、集積場から廃棄物が溢れるという第1の問題点を改善すること)」「分別表示を分かりやすくすることで分別率の向上してリサイクルを図ること」が達成されると見込まれています。

 新ルールの導入は駒場キャンパスにおける廃棄物の現状を改善する確実な一歩であることは間違いありません。しかし、現状への対策がそれだけにとどまるのならば、表面的な解決にとどまってしまいます。どんな現状にも、現状自体が自然に生じてくるのではなく、必ず背景にはそれを論理的に引き起こす構造が存在しているからです。果たしてこの新ルールは現状を解決するのか、構造をも解決するのでしょうか。ルールが改善されても、それを動かす人々や組織が、あるいはそれらの行動を規定する別のルールが変わらなければ、問題の根本的な解決にはつながらないと私たちは考えます。では、構造レベルで原因を取り除くような、より発展的な対策をするためには、どうすればよいのでしょうか。




1−5 今回の調査の目的

 まず第1に、今日の発表では、主な排出者であり問題原因の一端を担っている私たち学生の立場を捉えなおしたいと思います。従って、私たちの学生生活に深く関わる生活系廃棄物(これは可燃ゴミや不燃ゴミ・缶・ビンなど日常生活を送る上で、必然的に排出されるものを意味します)に対象を絞るものとします。それを通じて、現在の駒場キャンパスにおける廃棄物処理制度を「廃棄物の流れ」「それに関わる意思決定」の2側面から分析したいと思います。さらに、学生を含めた廃棄物に関わる様々な主体の役割責務を浮き彫りにします。

 次にどのように駒場の廃棄物処理システムを分析するかということについてお話したいと思います。今回この調査にあたって私たちは制度という側面に注目して分析を試みました。

 法制度を含む広い意味での「制度」面に注目した理由を説明すると、一般に発生した廃棄物に対しては、それが資源として価値があるとみなされる場合を除くと、そのままでは関心が向けられません。経済学上の一般論としては、廃棄物はGoodsに対するBadsであるということが挙げられます。Goodsが「正の価値をもつ財」であるのに対して、Badsとは「負の価値をもつ財」を意味します。従って廃棄物は常に不法投棄や無関心へのインセンティヴが働いています。どのような廃棄物も基本的には制度通りにしか処理されていないという仮説を立てることが可能だと思います。従ってそれを規制するための法制度が重要となるわけです。以上は一般的な理由ですが、狭く駒場キャンパスに限った場合にも「制度」は重要だと思います。「制度」は廃棄物の流れ、つまり廃棄物の運搬・処理・処分もしくはリサイクルの方法や、それに関する意思決定を規定するものです。また、駒場キャンパス内における各主体の立場や役割、そしてその逸脱行動を考える上でも有効な切り口となるでしょう。



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