開発や環境をめぐる議論は、大きな不確実性に包まれている。問題の定義から因果関係に至るまで、専門家の間でも意見がわかれている場合が多い。かりに見解が統一されていることでも政治的な理由で「解決」への行動が起こらないこともある。こうした状況下で、「事実」を明らかにしようとしても、複雑な全体の断片しか見えてこない。むしろ、事実認識は一つでないことを前提として、その複数性を支えている構造や、「事実」をめぐる様様な利害集団の争いを研究の対象に含める必要がある。
何が「問題」であるのかが曖昧であることは、武器にもなる。反証しにくいことを利用して、自らの利益につながるような問題の立て方が可能になるからである。この講義では、熱帯林破壊を主な事例にして「問題の立てられ方」と、その背景にある政治的力学について議論する。「解決(答え)」は一体誰の「問題(問い)」に対する答えなのかを柔軟に再検討することが、繰り返されてきた失敗を予防する第一歩であると考える。