今回、初の試みとなる「先輩訪問企画」として、研究職をされている井原智彦さん(2期)の勤務先に突撃して、お話を伺った。
【文責:広瀬雄一郎(11期)】
訪問の経緯
環境三四郎の大先輩である井原さんは、独立行政法人である「産業技術総合研究所」のライフサイクルアセスメント研究センターという所で働いている。場所はつくば。2005年9月14日、開通したばかりのつくばエクスプレスに揺られて向かった。
ライフサイクルアセスメント研究センターという名前の通り、井原さんはLCA(※)の研究をされている。ぼく自身研究者志望で、さらにLCAを専門にしている研究室に行こうと思っているため、ぜひ井原さんの職場にお伺いしてお話を聞きたいと思い、訪問することとなった。
(※Life Cycle Assessmentの略で、ある製品やシステムが環境へ与える影響をLife Cycle全体に渡って総合的に評価する手法)
研究所の概要
研究所全体としては、LCA以外にも様々な研究が行われている。ライフサイクルアセスメント研究センターでは、評価手法やソフトウェアの研究開発などが行われており、井原さんはそのセンター内の「地域環境研究チーム」というチームで研究(お仕事)をしている。
井原さんの研究(お仕事)内容
プロジェクト毎に研究を進めているため、いくつかのテーマを並行して研究しているとのことであった。以下、章段を分けて記す。
1.地域LCA
地域LCAとは、地方自治体が行う施策の指針を示すため、その環境影響をLCAを用いて評価することである。
井原さんは(2005年9月)現在、研究所として依頼を受けた岩手県についてのケーススタディを通して評価手法の研究開発を行っている。詳細は以下のようなものである。
(1)岩手県の「第2クリーンセンター」
岩手県北部の廃棄物処理計画に関する事例。ごみの排出量分布、道路網、処理施設の配置、再生品の需要分布などを(将来予測も含めて)考慮して、新たな処理工場「第2クリーンセンター」を建設して集約処理した場合と現状とを比較。
また、井原さんのチームでは、他に以下の2県についても依頼を受けてケーススタディを行っている。
(2)三重県の「クリスタルタウン」
工場誘致やショッピングセンター、宅地開発などのまちづくりの環境影響を評価する事例。どんな環境対策を重点的に行うべきか、という指針を示す。
(3)千葉県の「バイオマス立県ちば」
家畜(牛)の糞尿処理に関する事例。岩手と同様に、処理施設の配置や輸送を考慮して評価。
上記のように、実際の地方行政でLCAが想像以上に活かされていることを知り、正直驚いた。現地にデータを収集しに行くこともあるらしく、シミュレーション系の研究ではあれ、フィールドの匂いもする職場であると感じた。
2.ヒートアイランド
井原さんは、上記の地域LCAと並行して、都市部のヒートアイランド現象による影響の評価の研究も行っている。ヒートアイランド現象が進むと冷房需要が増加して夏場の環境負荷は増えるが、冬場は暖房需要が減少して逆にCO2排出量が減る、といった多面的な影響も考慮して評価を行っている。
また、人工廃熱や各種対策の効果が広範な気象にどのような影響を与えるかについては、エネルギーシステム分析で知ることはできないので、気象分野の研究者と協力して研究を行っている、とのことである。
3.高反射塗料
上記のヒートアイランド対策に関連して、屋根に塗るための、太陽光をよく反射する塗料の研究もされている、とのことであった。一般的には高反射塗料はヒートアイランド対策として有名だが、井原さんたちは、省エネルギー対策効果に重点を置いて研究を行っている。
研究所へは経済産業省から交付金が出るが、研究費として使える分は限られているので、塗料メーカーと交渉して研究費を獲得して研究をしているという。
職場の雰囲気
せっかく訪問したので、少し職場を案内していただいた。様子としては大学の研究室と同じような雰囲気であった(研究室もあまり行ったことはないが…)。センター内で他の研究をされている方の話も軽く聞くことができた。修士の学生やインターン(のようなもの)している学生もおり、井原さんも学生の指導をしているという。
ソフトボール大会が行われたりもするらしく、研究所といって想像したよりも随分明るい雰囲気であった。井原さん曰く「まあみんな自分の好きなことやってるからね」。
ただ、短期的に研究しに来ている人もいるらしく、井原さん自身も現在は3年契約で働いている。それでいて和気あいあいとした雰囲気なのは、本当にいい職場だなぁというのが率直な感想である。
感想
自分がこれから勉強しようと思っていることと社会との関係や大学以外の研究機関を垣間見ることができ、有意義であった(これらは大学生をしていると触れる機会が少ないので)。また、三四郎の先輩が活躍している姿を実際に見ることができたというのは素直に嬉しかった。
自分も井原さんのように興味深い研究を仕事にできたらと思い、やる気をいただくこともできた。井原さんのこれからの益々の活躍に期待したい。