COP座談会〜学生が国際会議に参加する

COPという単語を知らない方でも、京都議定書という名前や、2005年2月16日に京都議定書が発効したことはご存じの方も多いと思う。その京都議定書が採択されたのが1997年のCOP3(第三回気候変動枠組条約締約国会議)、通称京都会議である。今回、そのCOP3に参加された方々と、7年後のCOP10に参加した2名を交えて、座談会をおこなう機会を得た。【文責:神戸康聡(11期)】

COP3に参加した経緯

神戸:COP3に参加した経緯やその当時の状況などを話していただけますか。

木村:COP3は1997年、僕が大学2年のときの12月に開催されたんですよ。 その1年くらい前からCOP会議が京都であるって騒がれていて、僕が興味を持ったのも、そのころに京都の学生が主催したイベントに参加したのがきっかけだった。このころから京都で環境をやっている大学生は盛んにいろんな活動をしていて、僕たちもちょうど三四郎の活動を模索している時期だったので、来年のCOP3で何か出来たらいいなあとは考えていたんだけど。 その後実際に具体的な準備を始めたのは9月の秋休みで、時間があるから何か調査しよう、テーマはCOP3があるから温暖化でしょって感じで。それで、秋休みは温暖化問題について政策動向や家庭レベルでできることなどを調査して、COP3でパンフレットなどを作成して配布するのがひとつの計画だった。 それで、COP期間中には京都の大学生が平安神宮の境内を借り切って、「地球ラブラブフェスティバル」と題して、環境問題とか温暖化問題についてのイベントをしていた。まあ学園祭チックな感じのイベントでしたが、そこにも環境三四郎として参加して、家庭での取り組みについてブースを出しました。

神戸:地元の学生が盛んで、学生がすごく参加しやすい環境にあったんですね。

河原:エコリーグ1の枠を取り払ったギャザリング2みたいな感じだったね。立命館大学などが受け入れをやって宿とかを貸してくれた関係で、日本中の環境をやっている学生団体、個人、NGOがみんな京都に集まっていた。

会場の様子

写真1藤崎:会場の外でのサイドイベントもたくさんやっていたよね。

木村:行った人はわかると思うけど、周りでいろんな団体(NGOや消費者団体や学術団体)が、研究発表していたり、出し物をしていたりしていた。

木村:僕がインパクトに残っているのは、すごくたくさんのNGOが集まっていたことがひとつ。それから、京都の大学生がちゃんとセッティングとか運営とかをしていて、三四郎の活動に対してかなり刺激になった。これが二つ目。三つ目に、会場の中で有名なNGO(WWF3、GP4、気候ネットワーク5など)の人がいて、彼らが自分たちの立場をちゃんと伝えていて、少し垣間見ただけなんだけど、世界レベルのNGOの活動をこの目で見られたのが印象に残っているね。

大切なのは「実現する」こと

河原:概要は木村さんが言った通りです。実はこれはすごいことなんですよ。三四郎の魂が凝縮されているんです!大切なことは「実現する」こと。キャンパスレベルでも地域レベルでも世界レベルでも、物事は実現するってことから全部逆算する。そのためには、行動すること。しかしそれだけではダメで、タイミングも大事。木村さんは、温暖化が大切だって思っていて、そこでCOP3というタイミングを見つけて、さらに実際に行動した。 「実現する」ということのひとつは、アウトプットするっていうことだったのね。秋休みに調査をして、「こういう生活をするとこれだけCO2が減ります」というアピールをやった。 もうひとつ「実現する」方法がロビイング(lobbying)ね。海外のNGOなどが偉い人(ゴアとか)にビラを配っていた。我々も「京都メカニズム6だめ、抜け穴7だめ。僕たちならこうする」という内容のビラを渡そうとしたんだけど、日本人に渡してもダメだし、外国人に渡そうとしても、英語が弱いからだめだということになった。そこで、みんなの注目を集めることだけを一生懸命考えた。 ECOっていう有名なビラがあるんだけど、一本棒を足してEGOってして、500枚くらい刷ってECOの上に置いちゃった。それから、KIKOのビラに似せて、KIKEってのも作った。そしたら、偉い人がめっちゃ読んでた。各国の代表団とかが。そうやって、彼らの頭の中に我々の意見を入れた。 でも、これにはちゃんとオチがあって、日本のNGOを取りまとめている団体の代表の方から呼ばれて超怒られた。(笑) 逆に言えばそのくらいインパクトのあることをやった。それがCOP3だった。

学生という立場

写真2藤崎:じゃあCOP3のマイナス面を言いますね。私たちもアウトプットをしました。だけど、それで何が変わったかというと何も変わっていません。私たち学生がどうやって温暖化に関わればいいかをずっと考えていた。私たちは交渉には関われないし、プロフェッショナルなNGOはたくさんいるし、学生って中途半端な立場。だからこそリスク無しでいろんなことができたんだけど…。でもやっぱり、じゃあどうしよっか、っていうのが残った。

木村:本当に影響を与えるには、プロフェッショナルじゃないとだめだな、と感じた。僕たちは知識も不十分だし、国際交渉の経緯なんてほとんど誰も知らなかったと思う。でも、わからないなりにもメッセージを伝えたいという熱い思いはあった。その熱気とか熱意が溢れて、お祭りみないな雰囲気として現れたんだと思う。 できることはかなり頑張ったし、そういうことができる環境があった。それでも、あんまり影響を与えられなかったなぁとも感じているけど。

COP10に参加した目的

藤崎:じゃあCOP10の話してよ。

浅野:運動もデモもなく、政府間交渉など淡々と進む感じがありました。僕ら自身は「実現する」っていう意識ではなくて、個人としては、工学系の人間がそういう交渉の場でどうやって影響を与えるかを見たかった。だから、アウトプットを目的として行ったのではなかったですね。 COP10は、政府間交渉は発言の一言一句がいろんな意味を含んだもので、理解しがたかったので、サイドイベント8を中心にCOPを見て回りました。一級の専門家が集まっていて、ちゃんと準備さえすれば英語のハンデはあるにせよ彼らとディスカッションでき、そのような人とのつながりを作ることができる機会があることが、魅力のひとつだと感じました。 ディスカッションしたところ、やっぱり専門性が大切で、勝負できる場所を持っていることがすごく大事だと気付いた。自分のスタンスを再確認するいい機会になりましたね。

神戸:専門性の話などは、浅野さんのおっしゃったとおりで、僕も感じました。でも、やっぱりツールとしての英語をちゃんとする必要を強く実感した。

藤崎:NGOとかは?

浅野:海外のNGOはしっかり活動していましたね。一緒にお食事したりしましたが、自分たちがNGOのメンバーではなくて、一学生として行ったので、情報交換をするというよりも、こっちが質問する感じでした。

藤崎:学生団体は?

浅野:学生はあんまりいなかったですね。神戸君が最年少だったんじゃないかと思うくらい…。とくに日本からは本当に少なかった。

COPへの参加が自身に与えた影響

木村:これからの自分の進路とか研究とかそういうものには影響を与えた?

神戸:僕としては、将来の自分の研究にすごく影響を与えるものでした。その点では、個人としていった価値が大いにあったと思います。

木村:僕は仕事の関係上、COP8と9にも行ったんだよね。就職するまでは温暖化についてやるなんて知らなくて、びっくりした。

浅野:COP3に行ったことは今の職業にどんな影響を与えていますか?

木村:まあ知識に関しては影響ないね。

浅野:じゃあ内面ですかね?

木村:まあ内面に影響を与えたのはCOPのみならず、三四郎の活動全体。自分でやりたいことを見つけてそれに向けて活動するって言うこと。 今回積極的にCOP10に参加した二人は、AGS9で行ったってことだけど、それでもかなり踏ん切りが必要だったよね。できるかもなって思ったときにやってみるって言うのは、三四郎で得たものだと思うんだけど。

伝えることの大切さ

写真3河原:「成果が出ているかどうか」というのは何で量るかというと、結論なんですね。でも、気候変動なんていう難しい問題を議論しているところで、1人で結論を出せるわけがないよね。そう考えると成果っていうのは結論だけってわけでもないんだよね。 議論について考えると、一番いいのは、偉い人に自分の考えを説得してその人の意見を変えさせること。その前段階として大事なのは自分の考えをインプットさせること。それを受け入れてくれるかどうかは別だけどね。 COP3の時は木村さんの意見は新聞にも取り上げられて、僕たちの意見をアウトプットできた。これは大きな成果だったね。 で、浅野くんが言っていた専門性の話だけど、COP3の時でもマニアックな話が多くて、その場で新たな言葉が生み出されていくような最先端にいたわけです。sink10とかね。でも実は、学生にも専門性に関してできることがあると思う。専門家たちの話は難しくてわかんないから、学生がわかりやすく伝える、っていうのも一つの成果だよ。

藤崎:学生の人が実際やっていたよね。COP3のレポートをみんなにメールしたり。

河原:たしかにそうだったね。議場がclosedの時はペーパーなどから、自分たちが入れたときは主観も交えて、ともかくいろんなことを伝えていた。

藤崎:伝えることの大切さはかなり感じたね。

浅野:僕たちもメールで毎日COP10レポートを書いていたんですが、会場にいる人といない人では前提が違うので、わかりやすく伝えることが大変でした。

「プロ」と「学生」

岡田:学生はリスクがないとか言いましたけど、専門家は責任を取る必要がある分、意見に説得性が出ますよね。でも、自分の所属している団体にいるという立場があるじゃないですか。組織の一員として話す場合に、自分の意見を後ろにある組織によって変えるというジレンマはないんですかね? 特に、各国の代表などは、その国の経済など大変なものを背負っていると思うんですが、学生は何も背負わずに理想だけを語れるってところは大きく違っていますよね。

木村:おっしゃるとおりだと思います。僕の場合だと、電力会社の関係の研究だから、そういう立場を取っているよね。まあプロはみんな多かれ少なかれそれぞれの立場を背負っているよね。 「未来世代のために」とかいう言葉は所属の利害とかを超えていて、今の自分の立場を考えると、そういう主張はNGOがちゃんとやらなきゃいけないことだと思う。学生もそれをできる立場にはあるんだけど、学生にはまだ知らないことがありすぎて、大きなインパクトを与えることは難しいのかなぁ。学生にとっては、実質的に変えていくインパクトを与えることはできなくても、いろいろ模索してやってそこから学んだこと、それから行動したという事実なんかが重要だと思う。

藤崎:話しながら再認識したことなんだけど、理想を語るにはNGOに負けるし、知識の深さなどは専門家や政府に負けるけど、何でもできて、可能性がたくさんあることが学生の魅力だと思う。研究者っぽく振舞うこともできるしね。走りながら考えてもいいと思うよ。

木村:そこで、いいアイディアがあると、スマッシュヒットになる。EGOとかKIKEとかね。(笑)

木村:それに、やっぱり人のつながりが大事だよ。三四郎とか自分たちだけで何かをしようって考えなくてもよくて、COP3でいろんなことができたのも多くの人たちのお陰だしね。学生からの意見に対して好意的に受け取ってくれる団体の方も多くいる。 今の三四郎って他の団体とどのくらい情報交換しているのかな?やっぱりそういうのは大事だよ。

浅野:温暖化に限らず、自分で考えて自分で行動できる場所がたくさんあるので、そういうところにぜひ積極的に参加してほしいと思う。

木村:社会人になってから思うんだけど、社会人って学生をとても好意的に見る人が多い。だから、キャンパスに閉じないで、社会とか地域とかに食い込んでいくといいと思うよ。

藤崎:三四郎にも社会人が増えてきたから、学生に社会人がお手伝いできることがあるかもしれないから、何かあったら言ってね。

木村:社会人は学生のその熱意を買うところは大きいね。

野田:やっぱり、キャンパスとか三四郎とかに閉じないということが大事ですね。COP3の話は始めて聞きましたけど、そういう所にあるフロンティア精神が伝わるといいなぁ、と。温暖化やCOPというものを超えて、ね。

追記

この座談会をおこなったのが2005年5月14日。そして、つい先日の2005年12月10日、カナダ・モントリオールで開催されていた、京都議定書発効後初めてのCOPが閉幕した。京都議定書が採択されてから8年。COP3に参加された先輩方の話を聞くと、COP10では自分も含め学生の熱意が弱かったのではないかと感じた。 COP11、学生の活動はどうだったのだろうか。遠く日本から思いを馳せてみた。

【参加者:木村宰さん(4期)、河原圭さん(5期)、藤崎理恵さん(5期)、浅野琢さん(7期)、神戸康聡(11期) オブザーバー:岡田健さん(10期)、野田悠さん(10期)、広瀬雄一郎さん(11期)、小川拓哉さん(12期)、佐野史明さん(12期)】

(脚注)
1 エコリーグ:全国青年環境連盟(エコ・リーグ)。環境問題に関わる青年のネットワークを広げ、支えていくサポート機関であり、環境三四郎も長い間参加している。URL: http://el.eco-2000.net/
2 ギャザリング:エコリーグが主催する学生を中心とした50〜200人規模の合宿。自由な問題提起、議論、発表、広報ができ、コミュニケーションの場として活用されている。
3 WWF:100 を超える国々で活動する世界最大の自然保護NGO。URL:http://www.wwf.or.jp/
4 GP:グリーンピース。国際的な地球環境保護NGO。URL:http://www.greenpeace.or.jp/
5 気候ネットワーク:当時は気候フォーラム。温暖化防止のために市民の立場から提言し、行動を起こしていく環境NGO。URL:http://www.kikonet.org/
6 京都メカニズム:温室効果ガス削減数値目標を達成する仕組みとして、市場の原理を活用するために京都議定書に盛り込まれたメカニズム。共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)、排出量取引(ET)のこと。
7 抜け穴:おもに京都メカニズムのことをさす。柔軟措置として設けられた京都メカニズムを利用することで、本来の目的である温室効果ガス削減努力をおこなわなくても、数値目標に達することができるためにこのように揶揄される。
8 サイドイベント:COP開催中に本会議(政府間交渉)と並行しておこなわれるイベント。シンポジウム形式が多い。各イベントの主催者は、政府、研究機関、金融機関、NGOなどさまざま。最先端の発表がおこなわれており、サイドイベントに力点を置きCOPを見てまわる人も多い。COP10では100以上のサイドイベントがあった。
9 AGS:ここではAGS−UTSC(University of Tokyo Student Community)のこと。国際的な共同研究機構であるAGS(The Alliance for Global Sustainability)の下部組織で、学生同士の学術的な交流を盛んにしていくことを目的に勉強会などを行っている。 URL:http://ags.esc.u-tokyo.ac.jp/utsc/ja/index.html
10 sink:吸収源。海洋や森林など、温室効果ガスを吸収するもの。京都議定書では、温暖化対策のひとつとして見なされている。

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