事例研究「駒場のごみとリサイクル」〜紙について〜(1998)

第1章 本調査の目的と理念

1-1 調査活動の目的
1-2 ごみとリサイクルもつの意味
1-3 調査対象としての駒場
1-4 発表対象として「紙」に絞った理由

第2章 紙の一般的知識

2-1 紙の消費
2-1-1 世界・日本の紙類生産量
2-1-2 一人当たりの消費量
2-1-3 紙の消費内訳
2-1-4 消費の影響
2-1-5 紙の3Rの現状
2-2 紙のリサイクル
2-2-1 技術
2-2-2 紙と古紙の分類
2-2-3 業者の流れ
2-2-4 世界の古紙循環

第3章 駒場キャンパスにおける現状把握・問題分析

3-1 駒場で使用される紙の流れ
3-1-1 購入
3-1-2 消費
3-1-3 排出
3-2 構造分析
3-3 問題点
3-3-1Reduce
3-3-2Reuse
3-3-3Recycle

第4章 改善

4-1長期的改善〜vision
4-1-1総論
(1)長期的visionの必要性/重要性
(2)指針(方向性)
4-1-2各論
(1)紙自体について
(2)システムについて
(3)主体について
4-2短期的改善〜今できること
4-2-1Reduce
4-2-2Reuse
4-2-3Recycle

資料 「ビラに関するアンケート」

参考文献

謝辞

第1章 本調査の目的と理念

1.「調査活動」の目的

(1). 動機
自分たち自身で調べることで「知ろうとする」こと
(2)目的
最終的には、現状を改善すること
そのために、以下の一連の作業を行う
→ 現状把握/問題分析/解決へ向けての提言

2.ごみとリサイクルのもつ意味

 ここでは、なぜ本調査で扱うものとして「ごみとリサイクル」を選んだのかについて、換言すれば、「ごみとリサイクル」のもつ意味について述べる。
 「ごみとリサイクル」にまつわる問題は何か。それは決して先進国のアメニティーの問題ではなく、ましてや廃棄物処分場の問題でもない。もちろん問題の側面としてそれらの問題を挙げることはできる。しかしながら、それだけでは甚だ不十分であり根源的な問題は他のところにあるといえる。したがってたとえアメニティーの問題や処分場の問題を個別的に解決しようとしても、それは「ごみとリサイクル」に関する根源的な問題点に取り組んでいかない限り、実りあるものにはならないはずである。
 「ごみとリサイクル」のもつ意味は、一言では以下のようになる。
→『大量生産・大量消費社会の反省』
 以下では、どのようにして「大量生産・大量消費」社会が発生してきたのかを簡単に説明し(1、大量生産/大量消費)、その上でその社会が内包している問題点としての資源の限界/環境の限界について述べる(2、問題点としての資源の限界/環境の限界)。そして3で改めて「ごみとリサイクル」の重要性を確認し、最後に「ごみとリサイクル」と私たちとのつながり、ならびに「ごみとリサイクル」と地球環境問題とのつながりを考える。

(1) 大量生産/大量消費

 「大量生・大量消費」社会がどのように発生してきたのかについて、時間軸に沿って概観すると、以下の流れのように把握することができる。

産業革命

フォーディズム  機能化し、規格化し、画一化する大量生産方式

消費者の感情と動機と欲望に敏感なシステム e.g.衣服に関する「モード」
→大量生産の裏返しとして、消費者に対する大量消費および「モノの大量廃棄」の促進傾向

 この社会の端緒となったのは、産業革命に他ならない。
 その後、フォーディズムが社会に爆発的に広がっていく。フォーディズムとは、自動車企業のフォードが導入した大量生産方式のことをいう。具体的には、生産方式を機能化し、規格化し、そして画一化していくことで、低価格を実現させた。そうして大量生産の傾向が押し進められた。このような大量生産方式の極限の形というべき、フォードシステムの結晶として、「T型フォード車」を挙げられる。
 その後、よりソフトな、より包括的な消費者を意識した戦略として、「消費者の感情と動機と欲望に敏感な」システムがフォーディズムにとって変わる。だが、この消費者のニーズに細かく対応しようとするシステムも、その目的はより多くの消費者を得ることだったのに変わりはない。
 現代の、情報による消費の創出もこれの延長線上にあるといえる。
 このように、大量生産の裏返しとして、消費者に対する大量消費を促すことになったのだが、同時に、「モノの大量廃棄」をも促すことになったことは、非常に大きな意味をもっていた。

(2)問題点としての資源の限界/環境の限界

 「大量生産・大量消費」社会は、それ自体、非常に大きな問題を内包していた。
 その問題とは「資源の限界」、それから「環境の限界」であった。

大量採取→大量生産→大量消費→大量廃棄
資源の限界          環境の限界

 この問題は、大量生産・大量消費という流れの前後の部分も考えた時、すなわち、大量採取→大量生産→大量消費→大量廃棄という一連の流れを考えた時に明確に捉えることができる。この一連の流れの始めの部分および末端の部分において、有限性が見えてきたのである。大量採取の場面では、資源の限界が出てきた。大量廃棄の場面では、環境の限界が出てきた。後者は、日本などの先進国では、ごみ問題として深刻に捉えられているとおりである。

(3)ごみとリサイクルの重要性

 以上で、ごみとリサイクルの重要性・ごみとリサイクルのもつ意味を明確にした。すなわち、先ほどの『大量生産・大量消費社会の反省』を一歩押し進めて、
「『大量採取→大量生産→大量消費→大量廃棄』社会への警鐘」ということである。
 ちなみに、ここでの「リサイクル」とは、3R+1L、すなわちreduce / reuse / recycle / long lifeをさしている。(広義のリサイクル)
reduceとは、無駄な使用を減らすことによって、消費量を(遡って、生産量および採取量も)減らすことをいう。これは「大量採取→大量生産→大量消費→大量廃棄」社会の問題改善に向けて最も根源的かつ効果的なものである。
reuseとは使えるものに関して、何度も使うことをいう。そのことを通じて全体の消費量を減らそうとするものであるが、消耗品に関しては何度も使うことは
難しい。
recycleには、2種類ある。再び「原料」として回されるのがマテリアル・リサイクルであり、これは広くリサイクルとしてイメージされているものである。
もう一つが、燃焼させることでエネルギー(熱)を回収しようとするサーマルリサイクルである。
long lifeとは、その名のとおり、ものを長く使う(すぐに捨てない)ことである。物を長く使うことで最終的にはreduceにもつながる。

 以上が3R+1Lの説明である。広義のリサイクルに取り組む際の優先順位は、reduce→long life→reuse→recycleといえる。まず消費量自体を可能な限り減ら
し、使うからには長く使うようにし、その上でreuseする。そうして最終的にはrecycleするというのが理想である。

(4)私たちとのつながり

 (cf.鬼頭秀一先生の講義)/地球環境問題とのつながり

 私たちは、先進国である日本に生活している。したがって、私たちは「大量採取→大量生産→大量消費→大量廃棄」の社会の真っただ中で生活しているといえよう。それゆえ、この「ごみとリサイクル」の問題は、密接に私たちと関わりをもっている。裏を返せば、私たちは当事者であり、この問題を密接に関わりをもつものとして扱わねばならない。この私たちとの「つながり」を考えることは、非常に重要なことだといえる。さる5月8日に環境倫理の話をされた鬼頭秀一先生が「自然とのかかわり」に関する話の中で、自分たちとの「つながり」を確認することの重要性を説かれたが、それと同じことである。

 私たちとのつながりだけでなく、地球環境問題とも、この「ごみとリサイクル」は深いつながりをもっている。すなわち、「大量の採取・生産・消費・廃棄」に支えられた社会、そしてそのような社会における一連の経済活動が、地球環境問題の元凶になっているのである。

 このような社会に対して、見直しを強く促しているものの一つが、「ごみとリサイクル」なのである。

3. 調査対象としての駒場について

 駒場キャンパスはそれ自体、環境に対して非常に大きな負荷をかけており(詳細は第3章で述べる)、改善する必要性が大いにあることは確実である。

 ここでは、調査対象として駒場キャンパス(以下、駒場)を扱う意義について説明する。

 構成は「1、一つの社会を扱う意義」、「2、一つの社会として特に駒場を扱う意義」という2部構成になっている。 1の部分を設けたかの理由を予め述べておく。それは、「小さな社会を扱っていては、地球規模のような大きな問題への貢献は全くできないのではないか。単なる自己満足に過ぎなくなってしまうのではないか。」との疑問に対して、ある一定の答えを用意する必要があると考えたからである。

(1) 一つの社会を扱う意義

 「社会」を「共同生活を営む人間の集団。また、それが生活している場。」と定義したとき、社会は全て特殊であるといえる。つまり、各々の社会について、規模や構成員その他の要素が異なるので、同一ということはありえない。

 その意味で、全ての社会は特殊であるといえる一方、各々の社会の問題構造を分析すると、類似点も多く見られる。大きな社会でも小さな社会でも同じような問題構造を表わしているのである(環境問題におけるfractalな問題構造)。このため、一つの(小さな)社会を扱うことは、より大きな社会を扱う際の参考になる。この点で一つの社会を扱うことは、その社会の大小に関わらず意義深い。

(2)一つの社会として特に駒場を扱う意義

▽駒場生にとって最大公約数的な環境

 一人一人、様々な環境のもとで生活しているが、この「駒場生」に共通する環境は他でもないこの駒場キャンパスである。故に駒場は駒場生にとっての「足元」だと言える。『Think globally , Act locally 』としばしば言われるように、環境問題に実際に取り組む上で最初に手を付けるべきは、自分たちの足元なのである。逆の言い方をすれば、自分たちの足元も変えられないようでは、より大きな社会を変えていくことなど不可能なのではないか。

▽結果を出せる場(規模/問題点・改善方法が明確)

 駒場の社会は1万人余りの人達によって構成されている。一方で、例えば東京都を例に挙げると、東京都の人口は約1000万にものぼる。つまり、規模が小さいために一人一人の取り組みの結果がより早く表れるのである。 また、構成主体もその活動内容も限られているため、問題点も改善のために何をすべきかも、非常にはっきりしている。以上、一人一人の取り組みの大きさ、それから明確にわかっている問題点とそれへの改善という二点から、駒場は結果を出せる場であるといえよう。

4.発表対象として「紙」に絞った理由

前提)90分という発表時間の制約。
   駒場の環境に関する概論ではなく、踏み込んだ質の高い内容を提供したいとの考え。
(1) 紙は「資源ごみ」であるため、reduce / reuse / recycleについて論じることができ、現代の構造的問題に取り組む上での応用性が高く、その意味で一般的・普遍的である。
(2) ビン・缶などに比べ、リサイクル率が低いことや、無駄な使用が目立つなど、改善の余地が大きい。
(3) 大学では紙の使用が多いことや、ビラ・シケプリといった特有の使用形態があり、かつその使用量もかなりの量にのぼることから、他と比べ、駒場に限定して調査する意義が特に強い。
(4) 生協のPSP弁当容器が特殊なルートを廻っているのに比べ、古紙市場は比較的全国的で一般的であり、市場原理と関係性が強い。

第2章 紙の一般的知識

1.紙の消費

1-1 世界・日本の紙の生産量

世界の紙・板紙の生産量は、年々増加傾向にある。1980年には17067万トンであった生産量は、15年で62%も増加しており、特に経済発展のめざましいアジアでの需要拡大に伴う国内生産の増加が顕著である。また日本の生産量は、頭打ちになっているものの依然として高い生産量を維持しており、世界の生産の約1割のシェアを持っている。

世界の紙・板紙の生産量27779万トン(1995)
日本の紙・板紙の生産量2966万トン(1995)
世界のパルプ生産量17427万トン(1995)
日本のパルプ生産量1112万トン(1995)

1-2 一人当たりの消費量

 アメリカ・フィンランドが300kgを越え、頭一つ抜けている感がある。先進国は概ね200kg前後の消費量であるから日本人が特に紙を消費しているという訳ではないが、人口の多い国の中では消費量は上位に位置し、やはり全体消費量での影響は少なくない。また世界平均が48.7kgであることから、先進国が紙資源の大半を消費していることが分かる。推移で見ると、発展途上国は疎か、先進国までも消費量が増加している。原因としては、生活様式の変化、とくに情報化による印刷量の増加が挙げられる。

1-3 紙の消費内訳

全国の紙・板紙の用途は以下の通りである。日本は高度経済成長期を境に、家庭でのライフスタイルの変化、オフィスでのOA機器の普及などがすすみ、紙の使用量は急増した。新聞・雑誌では増刷・増ページが進み、発行頻度が高まった。流通の拡大により容器・包装用としても利用が進んだ。また近年では、一時、紙消費を減らすのではと期待された情報機器の普及が逆に、印刷用紙の消費の拡大を招いたり、コピー機の普及で気軽に複写ができるようになったことなどで、さらに消費量は増加している。

1-4 消費の影響

紙の大量消費がもたらす影響には、どのようなものがあるのだろうか。一つには、森林資源の枯渇・熱帯林の破壊というものが想定される。しかし製紙業界はそれらに根拠は無いものとして反論している。

その論拠は、以下の四点である。

  • 日本の製紙原料の約半分は古紙であり、世界でトップクラスのリサイクル率である。・ 製紙用パルプの輸入先は約7割が先進国であり、熱帯林の破壊とは無縁である。
  • 製紙パルプの原料は製材の時にでる余剰木材などを主原料とする。
  • 日本の製紙業界は、植林事業を通じて、持続可能な林業を支えている。

 いわゆる「紙の大量消費=熱帯林の破壊」*というイメージは必ずしも正確な認識ではないことが分かるのだが、一方で重要な視点が欠如している。今後、世界各国で日本の様に、紙が消費されたら、どうなるのであろう。一人当たり200kg/年が60億人になれば、総消費は現在の約4倍の12億トンである。現在ですら、植林事業などの努力で維持しようとしている持続可能な林業が成立することは考えにくい。また古紙リサイクルには限界があり**、必ず一定量の一次繊維を投入しなくてはならないことからも、大量消費を温存したままの状況で世界的な持続可能性を確保するのは、不可能であろう。そうした意味で、現在の日本の紙の消費を減らし、有効利用し、リサイクルしていくことが重要である。

 また、製紙に伴う環境負荷の面では、エネルギー・水資源利用・塩素漂白・ダイオキシン・SOx・NOx排出・排水のCOD(化学的酸素要求量)などの基準がある。製紙の特色としてエネルギーについては黒液回収(2-1技術を参照)により約1/3のエネルギーを自給できることがあり、省エネ対策も進んでいる。水資源ではだいぶ改善はされてきたものの、依然として上質紙1トンあたり90立方メートルの水を必要とし、問題である。その他の有害物質は対策がなされ、概ね基準値内である。

 * 植林事業は、森林を増加させて環境を保全するものとして捉えられるが、ユーカリなどを単独で植林することで、逆に現地の生態系などを破壊しているケースもある。こうした植林の視点は、日本の森林資源の安定供給を目指すもので、必ずしも環境保全を目的とするものではない。

 ** 繊維回収は原理的に完全再生が無理なこと、また、現状として古紙回収率が頭打ちになっていることなどがあがる。

1-5 紙の3Rの現状

 紙の使用状況について現状を3R+1Lの視点で考えたいのだが、紙において、長く大事に使うLongLifeというのは考えにくいので、残りの3Rの視点から現状を考える。

reduce

先進国での紙使用量の増加傾向から、一人当たりの消費形態はますます悪い方向に向かっていると言える。本来、そもそもの紙の消費量を減らすことが、もっとも効果的であるが、両面印刷などの手法で消費を減らす試みもある。出版物などでは、両面印刷は半ば当然ともいえるが、個人的コピーの場合は逆に片面コピーする方が多い。

reuse

残念ながら裏紙利用というreuseがどの程度行われているか正確に把握できない。少なくとも現状でそうした利用を促進する仕組みは無い。

recycle

可燃混入量/紙・板紙のリサイクル率

製紙原料に含まれる古紙の比率をみると、全体では約半分が古紙が利用されている。しかし板紙は古紙の割合が年々増加し94年に87.0%となっているのに対し、紙における古紙利用の割合は25%程度と低く、推移もほぼ横ばいと言う状況である。

古紙回収は世界では11598万トンで総消費量の42.7%で、日本は比較的上位に位置しているが、回収率は横ばいでドイツをはじめ各国に追い抜かれている。アメリカなど改善の余地の見られる国の回収率向上で世界的に古紙回収率は増加している。

非リサイクル量

紙類でリサイクルに回らないものは、廃棄されている。その割合は東京23区だと、可燃ごみ中に47%、不燃ごみ中9%となっており、かなり大きな割合である。ただし紙類にはトイレットペーパーなどの衛生用紙や防水・防湿加工品、ラミネート品、電気絶縁紙などリサイクルできないものが紙類の35%(推定値)あり、これらの廃棄はやむを得ない。逆に言うならば、リサイクル可能である紙が消費量の約65%ある訳で、古紙回収率51.6%を引いた14%(約400万トン)がごみとして処理されたことになる。また排出元であるが、家庭系ごみが紙類の割合が25%であるのに対し、事業系ごみは42%が紙類である(1996、東京23区)ことから、事業者が主な原因であると考えられる。

2.紙のリサイクル

2-1 技術

まず製紙技術であるが、製紙にはパルプが用いられる。木材は、セルロース(繊維分)とリグニン(接着剤)からなり、両者を化学的に分離したものを化学パルプ、物理的に破砕して両者の混ざっているものを機械パルプという。前者は漂白の有無で、さらしパルプと未さらしパルプに分かれる。また化学パルプをつくる際に、出るリグニンの煮汁は、回収黒液と呼ばれ、エネルギー源として用いられる。次に古紙のリサイクルであるが、古紙は金属などと違い原子を単位として利用するのではなく、繊維として利用する。そのためリサイクルをする度に、繊維は短くなり質は低下する。板紙など特に繊維の質を要求されないものは、比較的何回もリサイクル可能であり、用途によって異なるが、大体3〜5回くらいが繊維の限界である。従って紙がまた同質の紙になるというのではなく、より質の低いものへと向かっていくのである。(こうしたリサイクルをカスケード・リサイクルという。)一つの循環が閉じているのではなく、螺旋を描き落ちていくのであれば、必ず廃棄は生じる。すなわち必ず一定量の一次繊維を投入しなくてはいけない。また強度の問題から、新聞紙は半分ほどを、一次繊維を投入しなければならないなど個別の制約もあり、紙のリサイクルには限界がある。

energy    資源投入→ 一次原料
               energy↑製品1
                   energy↑製品2
                      energy↑・・・
                         energy↑製品 →廃棄

2-2 紙と古紙の分類

製品としての紙類は、紙と板紙に大別できる。紙の中には、印刷・情報用紙、新聞紙、包装用紙、そしてトイレットペーパーなどの衛生用紙などがある。板紙には、段ボール原紙、紙器用板紙などがある。一方、原料としての古紙の分類は、表8のようになる。基本的には、より質の低いものにしかリサイクルできない。情報・印刷用紙のうち、さらし化学パルプ100%のものを上質紙という。雑紙古紙が、中・下級紙(雑誌などに用いられるもの)や板紙など供給過多に陥っている製品の原料となるのとは違い、上質紙は余剰需要がある。現在では、比較的質のそろった中質の再生紙は、トイレット・ペーパーなどの衛生用紙へ利用することも可能である。

表8(古紙の分類、トン)

種類区分消費量
上白・カード 上質・未印刷 116,608t
特白・中白・白マニラ 中質/更質・未印刷 76,986t
模造・色上 上質・印刷済 1,384,659t
切付・中更反古 中質/更質・印刷済 308,164t
茶模造紙 320,282t
新聞 3,500,580t
雑誌 2,044,844t
段ボールなど 7,043,866t

*ここでは、述べられていないが、再生印刷紙の原料になるものは、上質古紙と新聞紙である。

2-3 業者の流れ

 製紙会社でつくられた紙は小売店を通して、我々消費者のもとへ届く。そして何らかの利用をした後、リサイクルもしくは廃棄される。リサイクルとして排出された紙は、清掃業者によって集積所へ運ばれる。それを次に、回収業者が引き取りに来て、直納問屋へ輸送する。直納問屋では、製紙原料として使用できるよう、分別保管や一定量をストックすることで、製紙会社のニーズにあう条件を整え、最終的に製紙会社へと回している。上質紙・新聞紙・雑紙・段ボールというように分別が必要な場合、消費者がある程度の分別排出をした後で、清掃業者あるいは回収業者が分別し問屋において最終的なチェックが為されるのが一般的なようである。

 また業者の規模であるが、動脈産業側である製紙会社・パルプ製造会社・紙製品会社が概ね大規模な企業で占められるのに対し、静脈産業側の回収業者と直納問屋は、家族経営のような零細企業が大半である。

 図3

     【動 脈 産 業】           【静 脈 産 業】
    製紙会社→小売店→製品→消費者→古紙→清掃業者→回収業者→直納問屋
     ↑                            ↓
      ←←←←←←←←←←←←古紙原料←←←←←←←←←←←←

2-4 世界の古紙循環

 処分場・焼却・森林資源などの観点からリサイクルが推進されてきた訳であるが、近年需要の低迷から、価格が暴落し、リサイクル産業は危機に瀕している。需要の低迷しているのは板紙原料となるような雑紙や板紙で、引き取る際に引取料を払うという逆有償が現状となっている。

 容器包装廃棄物の回収を義務づけるデュアル・システムや古紙回収システム整備を進めたドイツなど古紙回収の進んだ先進国では、古紙が大量に余る結果となっている。数年前までは、これらを東南アジアなどに輸出して需給バランスを調整していたが、一連の経済危機で需要が低迷し、世界的な供給過多が慢性化し、古紙価格は低迷している。。零細企業主体であり、人件費・地価の高い日本では、価格競争力がなく、余った古紙の在庫を赤字輸出しているケースもある。当面はこの構造は続くであろうが、系内で需給バランスを取るためには、再生紙需要の拡大や新用途の開発そして消費量の削減をしていかなければならない。

第3章 駒場キャンパスにおける紙の現状把握・問題分析

1.駒場で使用される紙の流れ

 駒場における紙は、生産、処理施設が存在しないため、外部から購入、使用後は外部に排出される。従って、駒場内のみの調査では不十分である。

以下では、駒場で使用される紙について、購入、消費、排出の3つに分けて述べる。

1-1 購入

 東京大学駒場キャンパスにおいて、紙を使用する主体は、主な活動場所により以下の3つに分類できる。

<主体><人数><活動場所>
A.学生(前期課程)約7700人教育棟
B.学生(後期・研究課程)・事務職員・教員約2700人研究棟、事務棟
C.生協職員約50人生協食堂、購買部、パンショップ、事務室

 それぞれ独自のルートで外部から紙を購入する。ただし、この場合の紙とは、消費者が選択できる紙、すなわち印刷用紙、コピー用紙、コンピューター用紙、トイレットペーパーに限定して考えることにする。

A.学生(前期課程)ルート

 総勢8000人弱という駒場キャンパス内最大の消費主体である前期過程の学生は、紙の使用量も多い。そこで、安く良い印刷用紙を自分たちで入手するために、2つの学生団体が独自に外部から紙を購入、学生に向けて販売している。

(1)学友会

 学友会とは、サークル活動やクラス活動を中心とした学生の自主的活動を支援している学生団体である。純粋な販売のほか、クラス、サ−クルに対して毎月3000円分(一部例外あり)の紙を支給している。

 扱っている紙の種類は、更紙、上質紙、孔版上質紙、色上質紙、A4上質紙、色画用紙、模造紙(模造紙、A4上質紙以外B4)で、古紙の含まれているものは更紙のみである。以前再生紙を導入していた時期もあったが、上質紙と同じ価格に設定したところ、利用者がほとんどいなかったため、元値が再生紙の方が高かったこともあり、すぐに中止した。

  量は、
        更紙(古紙50%)17.4万枚/年= 1.044t/年
        上質紙           163万枚/年= 8.965t/年
        孔版上質紙       9.3万枚/年=0.651 t/年
        色上質紙        48.6万枚/年=3.402 t/年
        A4上質紙         7.6万枚/年=0.252 t/年
        色画用紙           0
        模造紙          0.15万枚/年=0.144 t/年

すべての紙を紙販売店(有)三幸洋紙店より購入している。

(2)学生会館

 学生会館とは、駒場キャンパスにある建物で、学生自身の手で管理、運営されている。学生にとっての憩いの場であるとともに、自治活動やサークル活動等、学生の自主的行動の場としての機能を持つ。学生の活動の利便性を高め、自由な活動を保障するために、印刷機(ゲスプリンター)6台、コピー機が4台設置されており、印刷用紙を販売している。 扱っている紙は、印刷機(ゲスプリンター)用の印刷用紙と、コピー機用コピー用紙である。

 印刷用紙の種類は、更紙、再生紙、55kg上質紙、70kg上質紙、色中厚、色特厚(すべてB4)である。再生紙については、55kg上質紙を同程度の品質(白色度、密度)のものを昨年秋から導入を始めた。価格を上質紙より安く設定し(1000枚当たり100円)、500枚単位と買いやすい状況にしているが、まだまだ利用者少なく、上質紙の代用品という地位に甘んじている。

  量は
        更紙(古紙50%) 38.4万枚/年=2.304 t/年
        再生紙(古紙70%)7.6万枚/年(5ヶ月)=0.456 t/年  
        55kg上質紙      130.3万枚/年=7.167 t/年
        70kg上質紙         32万枚/年= 2.24 t/年        
        色上質紙(中厚) 70.4万枚/年=4.928 t/年
        色上質紙(特厚)  6.1万枚/年=0.824 t/年

 再生紙以外を紙販売店(有)三幸洋紙店より購入。再生紙のみ紙販売店(株)ミヤコより購入している。コピ−用紙の種類は、A3、A4、B4、B5である。昨年8月より再生紙(白色度80%、古紙配合率70%)に切り替えた。

  量は
           (再生紙-9ヶ月-)     (上質紙-4ヶ月-)
        A3       5万枚/年              2.4万枚/年=0.087 t/年
        A4       3万枚/年              2.5万枚/年=0.181  t/年 
        B4  10.4万枚/年              7.5万枚/年=0.45 t /年    (表2参照)
        B5       1万枚/年              0.5万枚/年=0.015 t/年

 コピ−機付属用品製造会社(株)ミノルタメディアワ−クスより購入。

 また、大規模かつ紙の使用量が多い組織では、独自に紙を購入する所もある。以下に3つの組織を挙げる。

(3)駒場祭委員会

 駒場祭委員会とは、毎年11月下旬に開催される駒場祭の企画、運営を行う学生組織である。プログラム、企画への連絡等に紙を大量に消費する。 量は、年間約8.8万枚=0.528 t。(97年度会計より算出)(ただし、プログラムは外部発注のため、除く)

(4)オリエンテーション委員会

 オリエンテーション委員会とは、毎年4月に行われる新入生に向けたサークルオリエンテーションの企画、運営を行う学生組織である。新入生に配布する冊子、企画への連絡用に紙を大量に消費する。

(5)学生自治会

 学生自自治会では、年に約30万枚の紙を消費している。用途のほとんどはビラで、毎日約2500枚の色上質紙を配る。

B.学生(後期・研究課程)・事務職員・教員ル−ト

学生(後期・研究課程)・事務職員・教員ル−トの紙の購入は、教養学部事務部経理課の管轄である。トイレットペーパーについては施設掛が直接注文し、その他の紙については各研究室、事務室が個々に紙販売店に注文する。事務室には、教養学部管轄のものと、いくつかの研究室が共同で管理しているいわば私的なものの2種類あり、教養学部管轄の事務室および研究室については、経理課が紙の代金を支払う。事務室で購入している紙は、主に印刷用紙、コピー用紙である。

(1)教養学部管轄の事務室

 教養学部事務部は、以下ような組織となっている。事務室としては、総務課、経理課、教務課、学生課、図書課、そして総務課教室事務掛管轄の教室事務が挙げられる。これらで使用する紙の購入量については、経理課用度掛が把握している。

(2)それ以外の事務室

教養学部管轄の正式な事務室の他に、いくつかの研究室が共同で経費を負担し、管理している事務室がある。経費といっても研究費で賄われるわけだが、紙代と明記されていない場合も多いため、経理課は把握できていない。

 より正確なデータを得るために、それぞれの事務室に対して自室で使用している紙に関するヒアリング調査を行なった。

一回目の調査では十分なデータが集まらなかったため、二回目の調査を企画している。

(3)経理課

 前述の通り、経理課は駒場内の紙の管理を行なっている。しかし、前述のように経理課管轄ではない事務室も存在し、その分の紙は把握していない。近年事務室の統合が進み、経理課管轄の事務室は効率化し、数が大幅に減少した。しかし、研究室独自の事務室については変化ないため、経理課の把握している紙の総量と実際の量の間に大きな食い違いが生じるようになってきた。昨年度の経理課が把握している紙の総量は約25t(再生紙5t、上質紙20t)で、ヒアリング調査の結果より大幅に少ない値となっている。トイレットペーパーについては、東京紙店を通じて泉製紙より古紙配合率100%のものを購入している。

(4)情報教育棟

 情報教育棟は、駒場の学生の学習、研究のために設立された。南棟と北棟の2つあり、現在端末室席数631、プリンター8台(6月現在使用可能な台数)設置されている。学生が無料で使用できるため、大量に紙が消費されている。

 量は 87.95万枚/年=5.277 t/年(1997.3-1998.2の購入量より)

C.生協職員ル−ト

 駒場生協には、購買部、パンショップ、書籍部、食堂、事務室の5つがある。生協職員の人数は約50人と少数だが、学生、教員その他駒場にいる全ての人に対して食事、文具等の提供を行なっているため、紙の購入量は多い。また、いくつかの研究棟のコピー機の管理も行なっている。

(1)購買部

 主に学生(前期課程)にむけて印刷用紙を販売している。種類としては、更紙、上質紙を用意している。

(2)生協管轄のコピー機

 コピー機はすべて富士ゼロックスのもので、関連会社である富士ゼロックスオフィスサプライから白色度70%、古紙配合率70%の再生紙を購入。 購買部に8台、教養学部図書館に2台、数理研図書館に1台設置。

 量は約286万枚/年=17.16 t/年。(1997.4〜1998.3のコピ−回数より推定)

1-2 消費

 消費主体として、前述の3つがあげられる。

A.学生(前期課程)

 学生(前期課程)の紙の使用用途は主にノートコピー、クラスでの試験対策プリント、クラスニュース、サークルでの会誌、ビラである。部数が6部以上になると、ゲスプリンター印刷のほうがコピーよりも安くなるため、大量印刷の場合にはゲスプリンターを使用するのが一般的である。

 ゲスプリンター印刷の場合は印刷用紙を用意する必要がある。この印刷用紙は、消費者が紙を紙として購入する、という点で大変興味深い。印刷用紙の入手方法は、まず学友会支給の紙をもらい、不足部分を学生会館で購入し、学生会館で売り切れていた場合は生協で購入する、というのが一般的である。

 紙消費選択の主要な決定因子して、
1、価格
2、外観などのイメージ
3、手間
4、地球環境への影響
の4つが考えられる。
 印刷用紙の選択、ゲスプリンター印刷の際の両面/片面印刷の選択、コピーの際の両面/片面印刷の選択の3つの選択について、1から4の決定因子のどれが効いているかを調べる。

 印刷用紙については、現在、上質紙、再生紙(学生会館のみ)、更紙の順に消費量が多いが、これは1、価格 4、地球環境への影響 と負の相関、2、外観などのイメージ と正の相関が見られるため、印刷用紙購入の際には、外観などのイメージ で選択し、価格差(1000枚あたり100〜500円)はそれほど重視しない、もしくは知らないと考えられる。両面印刷はかなり進んでいる。これは、手間、外観などのイメージよりも2倍の価格差の方を重視した結果と言える。

 逆にコピーの場合は、価格という紙を制限する方向に動かす決定要素が存在しないため、両面コピーが進んでいない。

すなわち、学生は価格とイメージにより紙を選択する、と考えられる。

 また、前期課程の学生の消費する紙として、情報棟におけるプリンター用紙が挙げられる。一般社会と同様、パソコンの普及に伴い、プリンター用紙の使用量も毎年増加の一途を辿っている。プリンターよる印刷は、ゲスプリ印刷、コピー印刷と比較して環境的コスト、あるいは金銭的コストが高いが、それらのコスト負担を使用する学生が担わないため(要するに無料で使用できるため)、無駄な印刷も数多く見られ、また中には同じものを何部も印刷し、コピー機の代替としている人もいる。昨年度の途中から古紙配合率100%の再生紙に替えたが、消費量に減少がみられないことから、プリンター印刷の際に紙質はさほど考慮しない、といえる。

 管理者である情報棟事務室では消費量を減らすために、コマンドの整理等の対策を行なっているが、効果はあまり上がっていない。

 前期過程の学生が消費する紙の量
=学生(前期過程)ルートの紙の購入量+情報棟で消費される紙の量+生協管轄のコピー機で消費される紙の量
=57.875 t
(内訳 上質紙:19.947t 色上質紙:10.954t 更紙:3.348t 再生紙(古紙70%):18.349t 再生紙(古紙100%):5.277t)

 前期課程の学生の使用する紙の古紙配合率
=(3.348*0.5+18.349*0.7+5.277)/57.875
=0.3420

 B.学生(後期・研究課程)・事務職員・教員

 学生(後期・研究課程)・事務職員・教員が消費する紙は、主にコピー用紙である。事務職員は基本的に無料でコピー機を使用できる。また、学生(後期・研究課程)ならびに教員は研究のために一定量のコピーカードが支給される。

 学生(後期・研究課程)・事務職員・教員が消費する紙の量
=学生(後期・研究課程)・事務職員・教員ルートの紙の購入量ー情報棟で消費される紙の量
=29.254 t/年
(内訳 上質紙:15.263 t/年 再生紙(古紙70%):13.991 t/年)

 学生(後期・研究課程)・事務職員・教員の使用する紙の古紙配合率
=0.3348

C.生協職員

生協職員自体が消費する紙の量は少量のため、ここでは考慮しない。

 以上より、
駒場で一年間に消費される紙(印刷用紙、コピー用紙)の量 = 87.129 t
駒場で消費される紙(印刷用紙、コピー用紙)の古紙配合率 = 0.3396

 参考までに、他の組織の数値を載せておく。

○東京都庁
紙使用人数:43000人(本庁舎職員数+都庁議員数)
年間紙使用総量:(コピー用紙)408.478t (印刷物)1118.478t
古紙配合率:(コピー用紙)70% (印刷物)44%

1-3 排出

 使用された紙は、ゴミ箱に入れられるが、ゴミ箱は管理者により、

  • A.生協管轄のゴミ箱(以下、生協ゴミ箱)
  • B.教養学部管轄のゴミ箱(以下、学部ゴミ箱)

の2種類に分類できる。A、Bに入れられた紙は、それぞれ別のルートを辿る。以下では、A、B2つのルートを分けて記述する。

A.生協ルート

生協管轄のゴミ箱

<場所>        <内訳>        
購買部前        可燃3不燃3缶3ビン3
パンショップ前  可燃1不燃1缶1ビン1
コピ−機横      紙              
食堂            可燃2不燃2缶2
調理場          
事務室          可燃1不燃1缶ビン1紙1
事務室裏        ダンボ−ル

 不燃、缶、ビンのゴミ箱に入れられた紙は、生協職員により再分別され、可燃ゴミと一緒に処理される。コピ−機横、事務室内の紙用ゴミ箱に入れられた紙のみリサイクルに回される。リサイクルに回される紙は、生協職員によりコピ−紙、新聞紙、雑誌類、ダンボ−ルに分けて、それぞれの置場に運ばれ、週に3ー6回運搬会社水藤商店に引きとってもらう。今までは無料で引きとってもらっていたが、今年6月からは有料になった。その後、直納問屋平松商店に運ばれる。平松商店では、さらに細かく分類、圧縮し、価格の高いときにそれぞれの製紙会社(セッツ、信栄製紙、大王製紙、東海製紙)に売り渡す。

B.学部ルート

学部管轄のゴミ箱

<場所>           <種類> 
教育棟廊下        可燃、不燃、缶ビン
教育棟教室内      クリーンボックス
研究棟廊下        可燃、不燃、缶ビン、回収ボックス
研究棟研究室
研究棟事務室
事務棟            可燃、不燃、缶ビン、回収ボックス、事務室

 駒場キャンパス内のゴミの管理者は教養学部経理課用度掛(以下、用度)である。用度は学部ゴミ箱の管理、業者との契約等を行なう。業者との契約は基本的に入札制で、清掃業者、一般廃棄物・産業廃棄物回収運搬業者と1年契約を結ぶ。古紙の場合は、ほぼ毎日回収する一般廃棄物・産業廃棄物と違って、量が集まりしだい、すなわち大体3カ月に1度くらいの割合で回収し、かつ1回の代金が100万円以下と少額のため、入札制度に基づく年間契約は結んでおらず、随意契約となっている。学内の状況を把握している業者、すなわち現在あるいは過去の一般廃棄物・産業廃棄物回収運搬業者に頼むのが慣例である。

 業者の選定に関しては、「リサイクルすること」を条件としている。これは、東京都を初めとする各方面からの要望による措置である。古紙は本来有価物であるため、量、種類に応じて値段が定まり、学部はそこから回収運搬業者への手数料を引いた金額を受け取る。しかし、現在では古紙の供給過剰による価格の暴落により、手数料が古紙の値段を上回り、学部が業者に金を払っている状況である。1998年度の清掃業者はオーチュー株式会社(以下、オーチュー)、
一般廃棄物・産業廃棄物回収運搬業者は藤ビルメンテナンス株式会社(以下、藤ビル)である。また、1998年度最初の古紙回収が5月初旬にハッピー運輸倉庫株式会社(以下、ハッピー)により行なわれた。

可燃、不燃、缶、ビンのゴミ箱に入れられた紙は、清掃業者オ−チュ−により回収され、それぞれ処理される。リサイクルされるのは、教育棟の場合はクリ−ンボックス、研究棟・事務棟の場合は3段の紙回収ボックスに入ったもの、そして事務室、研究棟などから引っ越しの際などに不定期に出るもの。オーチューは清掃業務の一環として机の上のビラも回収するが、ティッシュペーパー、紙コップなどが混入してしまうため、ほとんどリサイクルに回すことができない。

 クリーンボックス、回収ボックスの紙は、オーチューにより毎日昼休みくらいから回収され、1号館中庭のリサイクル専用倉庫に運ばれる。ただ、今年度から業者の関係上、再生紙もリサイクルできない紙となり、これが混入した袋は全て可燃に回されている。倉庫の中は新聞、雑誌(書籍、ビラ、パンフ等含む)、ダンボールの3種類に分けていれることになっているが、仕切りがないため、完全に分けるのは困難である。倉庫が一杯になったら(大体3カ月くらい)オーチューが用度に連絡後、運搬・回収業者ハッピーに電話し、引き取りに来てもらう。ハッピーは直納問屋豊商産業有限会社に運搬、その後板紙専門製造会社セッツに引き取られ、ダンボール等の板紙の原料として使用される。

2 駒場の構造分析

 1.駒場で使用される紙の流れのフローチャートにより駒場における紙の流れが明らかになったわけだが、これを環境負荷という観点から評価するとき、いったいどのような基準を持って評価すればよいのだろうか。

 駒場の環境負荷を低減するにはまず消費量を減らすこと(Reduce)が第一であるが、使わざるを得ない必要最小限の紙に関しては、Reuse(裏紙利用など)・Recycleをできるだけ積極的に行うような消費構造が最も望ましいといえる。(ただし実際には漂白工程での塩素の使用の有無などの環境負荷項目やコストの観点からの評価も不可欠である。)こういった視点から駒場の現状を考えてみると、以下のような問題点が挙げられる。
(1)全体に紙の無駄な使用が多い。(Reduce)
(2)裏紙の利用がほとんど為されていない。(Reuse)
(3)ごみとして排出される割合が高い。(Recycle)
(4)INPUTにおける再生紙の割合が少ない。(Recycle)
(5)リサイクルに回される部分についても、分別が適正に行われていないために本来ならば 再生紙になれるはずの上質紙が雑誌扱いとなり、板紙になってしまう。(Recycle)

つぎの3問題点に於いて、具体的にその問題点を見ていく。

3 問題点

3-1 Reduce

 Reduceとは、前述の通り紙の無駄な使用を減らすことによって紙の消費量そのものを減らそうという考えである。大学という場が紙を多く消費せざるを得ない体質であることはある程度仕方のないことであるが、現在の消費量のうち無駄な部分も多く存在する。その大きな要因として紙に代わる情報伝達の媒体がないというのがあるが、その消費を抑制するようなシステムや学生、教職員の意識が欠如していることが現状をさらに悪化させている。以下紙の主な用途であるビラ、シケプリ・資料、情報棟に分けて述べる。

(1) ビラ

 まず恒常的に1,2年生の目に触れているビラについて現状はどうなっているかというと、授業前にはすべての教室のすべての机の上に自治団体などのビラが置かれ(以下これを置きビラと呼ぶ)、廊下にはサークルなどのビラが何枚も連なって貼られている(以下貼りビラ)。新歓期におけるサークル勧誘のビラもサークル数が多いこともあって莫大な数にのぼっている(以下サークル勧誘ビラ)。

 では受け手としての学生はこれらのビラに対してどのような意識を持っているのだろうか。今年4月21日〜27日にかけて行われた1年生の体力テストの際に、一部の時間が足りなかったクラスを除くすべてのクラスに対してビラに関するアンケートを実施したので、その結果を見て欲しい(参考資料)。新歓期のサークル勧誘ビラについては4分の3近い人々が紙資源の無駄遣いであると感じ、65.0%の人が何らかの対策を講じることが適当だと答えている。貼りビラについては貼った後はがす等の処理が為されていないと感じている人が多く、71.2%の人が対策をすべきとしている。置きビラについても何か対策をすべきと考えている人が71.3%にのぼり、その問題点としては床に散らばるなど邪魔であるという回答が多かった。

 このように資源・景観の両面から見て受け手側の意識は高いと言えるが、それにも関わらずこのような現状があるのはどうしてなのだろうか。まず最も根本的な問題として挙げられるのはビラに代わるメディアとして有効な代替手段がないことである。せめてもっと効果的・合理的にビラを配布、貼付すべきだが、そのために必要なシステム、例えば十分な大きさを持ちかつ目に付きやすい掲示板などが絶対的に不足している。また、ビラが習慣化していることも大きな問題である。サークル勧誘時にはそのサークルの積極性をアピールしようと際限のないビラ配り競争が行われ、先輩などから何枚配らなくてはならないという義務を課される場合も多い。そしてその習慣が代々受け継がれていくことになるのである。また、印刷が簡単で値段も安いため、ビラの排出を抑制するようなシステムは皆無であるといえるだろう。

(2) シケプリ・資料等

 次にテスト前に出回るシケプリや3年生以上、教職員が使う研究資料、講義資料についてであるが、ホームページなどを利用して各自見たい人が見るとすることもすることも可能ではあるが現実問題として紙による資料を減らすことは難しいと思われる。よって両面印刷をすることが最も望ましい対策となるが、そのやり方が普及していないというのが最大の問題点であろう。生協のコピー機に関しては、今年の春休みに環境三四郎が働きかけ、コピー機に両面コピーのやり方を貼ってもらうことになった。成果は定量的な調査を行っていないため不明である。だが研究棟に関しては何の対策も行っていないため、やり方を知らない人がまだ多く存在すると思われる。また、やり方が分かった後に実際にやるかどうかは本人のやる気の問題である。そのやる気を引き出すために経済的なインセンティブを与えられれば効果的であるが、コピー代のうち紙代は1〜2円に過ぎずほとんどが電気代なので、単純に両面コピーならば半額とはいかず、難しい。かさばらないなど他のメリットをアピールすることも必要であろう。尚、ゲスプリンターについては両面印刷がある程度普及している。

(3) 情報棟

情報棟におけるプリントアウトにも無駄な部分が多い。まず第一に、やり方がわかりにくく、そのうえ間違えたときの取り消しコマンドが普及していないため、ミスプリントを多くの人が行ってしまう。また、一度やり方をマスターしてしまえば、ただで枚数制限も無いため、何枚でも好きなだけプリントアウトできてしまう。しかもプリンターの関係上片面印刷しかできない。ここでもビラと同じように抑制システムがほとんどないことが無駄な使用を助長していると言えよう。

3-2 Reuse

 Reuseとは、使えるものは何度も使うことによって全体の消費量を減らそうとするものであるが、紙は基本的に消耗品であるため、何度も繰り返して使うことは難しい。しかしそれでも、片面しか印刷されていない紙の裏面を使用することによって、紙を2度使うことは十分に可能であり、望ましいことである。しかし駒場に於いて、裏紙使用が適正に行われているとは言い難い。その問題点はどこにあるのか。以下、裏紙供給の場所として、情報棟、ゲスプリンター、コピー機という3つと、ビラ、シケプリなど場所が不特定なものとにわけて述べたいと思う。

(1)情報棟

情報棟のプリンターについては、前述の通りすべて片面印刷であるうえ、ミスプリントが多い。よってこれらは裏紙として利用できる高い潜在性を秘めているのだが、その紙をプリンターに再び用いることはできず、情報棟では計算用紙などとしてのニーズも無いので、裏紙を利用するルートがない。これらの紙をニーズのある図書館やゲスプリンターの側に移動させれば有効に裏紙使用ができると思われるが、そこをつなぐシステムが確立されていないのである。また、プライバシーの問題も絡んでくることも考慮しなくてはならない。

(2)ゲスプリンター

 学生会館のゲスプリンターについても、印刷ミスが多く出るため裏紙の供給がかなりあるといえるが、情報棟と大きく異なるのはここは供給の場であるとともに需要の場でもあるということだ。ゲスプリンターの使用に際しては、製版用、試し刷り用に裏紙を使う。現在ゲスプリンターの側には片面印刷済みのもの、両面印刷済みのものを分けて入れられるボックスが設置されており、これが需要と供給をつなぐ役目を果たしている。各自このボックスから自由に裏紙を取って使用しており、多くの学生がこれを活用しているようであるが、問題点としては、片面印刷済みと両面印刷済みがきちんと分別されていず、サイズもまちまちなので多少使いにくいというのがある。また、需給バランスがうまく取れていないときもあるので、供給が多いときは、裏紙を製版、試し刷りのみに使うのではなく、レジュメなどとしても活用すべきである。

(3)コピー機

 コピー機についてはゲスプリンターほど量は多くないものの、同じような裏紙の供給があるが、ここにはしっかりとしたボックスが設けられていない。ゲスプリンターと同様なボックスを設け供給の受け皿を作ると同時に、需要の創出という面から手差しのやり方も普及させなくてはならない。

(4)場所が不特定のものについて

 ビラ、シケプリのように排出する場所が固定していない場合はそれを集めるのは困難ではあるが、1,2年生の紙消費の大部分を占めるそれらが裏紙として利用されるルートが全くないというのは問題であろう。しかし将来的に自律したシステムにするためには、需要に結びつけるための移動が困難であってはならないと言う点も考慮しなくてはならない。

3-3 Recycle

(1)オフィス古紙の問題点

製紙原料の条件は、質的に一定であること、量がまとまっていること、供給が安定していることである。産業古紙は、製本・印刷工場や断裁所などから発生する裁落や損紙であり、質的に一定、量が大量、安定供給である。それに対し、オフィス古紙には様々な問題点がある。駒場から出る古紙も同様の状況下にあり、広義のオフィス古紙であると考える。

(A)分別が困難
分別でもっとも良いのは、排出者が分けて出すことであるが、紙の場合それが難しい。新聞紙・段ボールはよいとして、混入を嫌う上質紙に関しては、見た目だけで再生紙との区別は困難である。また禁忌品が多いことや判断基準が分かりにくいこともあり、排出者による完全分別は不可能である。一方、清掃業者・回収業者による分別であるが、一旦混ざった紙を選別するのは、労働集約的作業で人件費を要する。

(B)量がまとまらない
一つの事業体では、まとまった量を集めるのが困難となり輸送コストなどが割高となってしまう。駒場の場合、一事業体と言うには規模が大きいが、産業古紙のような一回に数十・数百トンという規模ではないため、やはり効率が悪い。こうした問題を解決するため、ネットワークで回収してスケールメリットを確保しようという取り組みが始まっている。しかし駒場で出る潜在的な古紙の量は、かなり多く、中小企業体を対象としたネットワークをそのまま利用することは難しい。

(C)逆有償
分別が徹底できないことから、比較的需要のある上質紙も、中下級紙と一緒に雑紙扱いとなる。雑紙は、原料としてランクが低く、需要低迷の板紙原料にしかならない。そこで、雑紙として扱う場合、現状では引取量を払って持って行ってもらう逆有償が一般的である。
可燃処理するより安くあがるというものの、事業者にしてみればストックヤードや分別の手間を考えると、それほどリサイクルするメリットを感じないというのが現状である。

(2)駒場内部の問題点
(2)-1 クリーンボックス制

(A)学生への普及
クリーンボックスの存在自体について、知らない学生はさほどいないであろうが、そのシステムを理解している人は少ない。またどういう紙を入れるべきかといった利用法についても、何ら説明が為されていない。こうした状況については、学生の意識というよりも、学部側の説明不足が原因である。またクリーンボックスの主旨・システムについて、説明をしていくことで、学生の間にあるクリーンボックスに紙を入れてもリサイクルされないのではという不信感も緩和できるはずである。

(B)清掃業者のキャパシティ
現在、駒場キャンパスは、清掃業者(=オーチュー)約30人(最大稼働時)で清掃されている。一人当たりの仕事量は限られており、時間の制約も受ける。清掃業務は一人で行われることが多く、置きビラや貼りビラを回収しながら同時に、散乱したごみを拾っている。一人で袋をいくつも持って、紙だけを分別収集することは非常に困難で、現状ではその他の可燃ごみと一緒に処理されていることが多い。また、今年より回収業者の基準が厳しくなり、再生紙の混入した古紙を引き取らなくなってしまった。そのため、ビラだけを回収したものであっても、リサイクルに回らず可燃処理されるものが多くなっている。学生がきちんと色上質紙のみをクリーンボックスにいれることで、業者の負担は軽減され、問題は解決する。しかし学生の協力の得られない現状で、リサイクルをしようとすると清掃業者に過度の負担を強いることになる。 

(2)-2 学生の意識

学部側が説明責任を果たしたとしても、依然として残る問題が学生側の意識の問題である。リサイクルに関して前提となる知識が殆ど無い場合、リサイクルが必要なことに納得がいかず、どうせやっても意味がないという理論を作り上げることになる。次に、知識はあって、頭ではリサイクルの必要性を理解していても、自分の問題とは捉えていないことから、
実際には行動しない、恥ずかしいという態度になる場合もある。しかし情報が不足している点では同程度であるはずの一般家庭での古紙リサイクルは比較的定着している。従ってこうした意味での意識あるいは認識不足という問題よりも、駒場が自分の生活する環境であるという帰属意識やコミュニティー意識が欠如していることがより問題であろう。過度に学生側に期待を持たず、システムの習慣化による解決も重要であるが、最終的な解決は各人の意識の持ち方にかかる部分が大きい。

(2)-3 学部

学部側が改善に向けての取り組みをする上で、現状の制度における問題点を考えてみる。
 ・継続的管理の困難
 ・学内管理の限界
学内環境を中長期的に改善するためには、明確な方針を持ちねばり強い政策実施が必要になるのだが、現状では非常に困難である。ごみ管理を担当する経理課用度掛は、学部の環境部門という訳ではなく、学内管理を具体的に実施する場である。またそうした継続的改善を担うであろう環境委員会においても、委員の年度交代という制度から中長期的計画を立てることは困難である。古紙問題に限定すれば、集まる古紙の量・頻度から回収業者とは不定期の随意契約とならざるを得ず、管理が散漫になる可能性もある。また、第3章の1の購入量のところで述べた様に、管理者(例えば用度掛)が完全な学内の実態把握をすることは、少なくとも現状では不可能である。

 以上より現状のシステムでは、適正な環境管理を阻む要素が多く存在し、継続的・包括的学内管理は難しいと言えよう。

(3)学内での購入

 リサイクルは分別排出とともに再生品購入があってはじめて成立する。そうした意味で、再生紙購入という行為もリサイクルの一環である。学内の紙全体における古紙配合率は、約35%であるが、コピー用紙、情報棟プリンター用紙をのぞく印刷用紙、すなわち学生などが、自ら種類を選択し、購入する紙については、古紙配合率は6%に過ぎない。再生紙購入を進める官庁などと比較して、駒場キャンパスでの再生紙使用率は、概して低いといえる。リサイクルの循環の輪をつなぎ、支えていく意味で、駒場でも全面的な再生紙の購入が必要となり、駒場でも導入が望まれる。また、本郷では学内古紙を再生したトイレットペーパーを購入しており、キャンパス内で再生先も確保するといった試みもあり得るが、現在駒場ではそうした取り組みは為されていない。

第4章 改善

 この章では、駒場における現状把握・問題分析を踏まえて、長期的改善および短期的改善について論じる。

1 長期的改善〜vision

 ここでは、改善に関して長期的な視点から論ずる。「1、総論」で、なぜ改善に関して長期的なvisionが必要なのかを確認し、その改善の方向性(指針)を論ずる。総論を受けて「2、各論」では、改善の方向性を効果的に押し進める際に、長期的な視点からみて特に取り上げるべきもの(紙自体/システム/主体)について個別に考察する。

1-1 総論

(1)長期的visionの必要性/重要性

 現代の「大量採取→大量生産→大量消費→大量廃棄」社会の内包している問題、すなわち資源の枯渇(資源の限界)、環境への過負荷(環境の限界)がますます深刻化していることは第1章で既に述べた。このことを背景として、世界的(主に「北」の世界)な潮流として、環境問題へのより一層の取り組みが求められている。

 人々の環境問題に対する意識が向上しており、今後も向上していくことは、確実だと思われる。例えば、以下のような場面に問題意識の向上が見られる。

  • ・各地でのリサイクル運動の活発化
  • ・グリーン・コンシューマーの拡大(「環境にやさしい」商品を選ぶ消費者が増えてきているということ)
  • ・グリーン調達の拡大(駒場で言えば、生協や学部(経理課)が取り組みだしている。e.g.再生紙化)

 この傾向は、法整備などにともなって、制度面からも推進されている。(e.g.容器包装リサイクル法/家電リサイクル法)

 このように、今後環境問題に対する取り組みが活発化して行くことが予想されるなかで、駒場においても長期的visionは必要になるはずである。「何かやろう!」となったときに場当たり的な対策ではなく、しっかりとした指針を踏まえて、対策が講じられなければならない。

(2)指針(方向性)

 長期的な改善についても、短期的な改善についてもいえる指針として、3R(reduce/reuse/recycle)が挙げられる。

 短期的な改善では、3Rについて実行可能かつ成果の上がりそうな対策に取り組んでいくことになる。一方、長期的な改善では、3Rを効果的に進めていく上で、長期的には取り組んでいかなくてはならなくなる対策を講じる。詳細は「2、各論」にて論じることにし、ここでは3Rの重要性を確認するにとどめる。

reduce
 「大量採取→大量生産→大量消費→大量廃棄」社会を改善していく上で、最も根本的・直接的である。それゆえ、ここでの改善は非常に効果的なものになる。
・reuse/recycle
 reduceしたうえで、すなわち、物質消費を必要最小限に押さえた上で、それでも消費されたものに関してreuse/recycleするというのが理想である。まずreuseした上で、recycleに移るべきである。recycleといっても、再び原料として回されるマテリアル・リサイクルと、燃焼させることでエネルギー(熱)を回収するサーマル・リサイクルがある。どちらを選択すべきかは一様には決まらず、それぞれに良点がある。

2-2各論

 ここでは、「指針」として示した3Rを今後効果的に進めていく上で、長期的には取り組んでいくべき事柄および改善のオプションについて、個別に論じる。

(1)紙自体について

 3Rを論じる上で「対象」となっている「紙」自体については、改善の余地も、改善にともなう効果も大きい。

 現状を見るに、古紙の需要が供給に対して少ないことが大きな問題となっている。長期的な改善についても古紙の需要の拡大は重要な課題である。以下の箇条書きの一つ目と二つ目は需要拡大に貢献していくものと考えられる。(一つ目の技術の向上については、逆に需要が拡大することで、より一層技術が向上するとも考えられる。)

○製造技術・リサイクル技術の向上
 紙に関して製造(リサイクルも含む)の技術が向上すれば、それにともなって同一コストあたりの紙の品質は向上するはずである。ちなみにここで言う「コスト」とは経済的なコストおよび環境コストのことである。
 このことで、上質紙と再生紙の相違が小さくなり、それにともなって需要も用途も伸びるのではないか。

○用途の拡大
 現在、古紙の新たなる用途開発に向けての取り組みが進んでいる。
 用途が拡大することによって、新たなる需要を得ることができよう。さらに需要も相対的には安定したものになっていくであろう。

○外部費用の内部化/コストの適正化
 しばしば指摘されることであるが、製品には価格に反映されているような経済的なコストの他にも費用をともなっている、外部費用のことである。
 紙についていえば、特殊な加工がされていてリサイクルできなく、可燃処理されるしかないもの、もしくは、ビラのようにばらまかれてしまって回収にかなりのコスト(労力)をかけるものについては、処理費用分もしくは回収労力分を上乗せした価格にすべきであろう(コストの適正化)。

○代替原料の開発・普及(パルプにかえて)
 現在ケナフ製の紙や、砂糖きびのしぼりかすから作った紙が市場に出てきている。実際のところ環境負荷は一次繊維を用いて紙を作ったときと比べてどの程度のものなのかは明確にはわからない。しかし、これが環境負荷の低減に結び付いていくもの(もしくは結び付いていく可能性のあるもの)ならば、積極的にとりくんでいくべきである。

○紙の代替物の開発・普及
 環境負荷の低い代替物もしくは代替手段として様々なものがあがる。情報媒体としての紙の機能を代替するものとして、インターネットの利用などがしばしば挙げられる。しかし、必ずしもそのことが紙のreduceにつながるとは限らず、その点は慎重に検討する必要がある。(プリント・アウトされることでかえって環境負荷は大きくなってしまいかねない。)

(2)システムについて

 ここでは、駒場のシステムをどう改善すればいいかについて論じる。

○自律化

 システムを構築することは容易ではないものの、業者を見つけたり、事務的な諸手続きをすれば実現させることは可能である。しかし、長期に渡って機能させるには、そのシステムを自律化させる必要がある。

 現在の駒場のシステムについて。現在、駒場でごみ回収や清掃にあたっているオーチューは、紙に関しては、単に紙として個別に回収して紙倉庫に入れることになっている。それゆえ、3分別されている紙回収ボックスからの回収をする際、紙が3つに分別された状態で回収しても、様々な種類のごみをしっかりと分けずに回収してもオーチューの得失には直接には関わってこない。したがって、オーチューにとっては、細かく分別された紙をそのままの状態で回収することに対する、またはしっかりとは分別されていない状態のものを分別して回収することに対するインセンティブ(動機付け)もそれ程働かない。

 では、リサイクルシステムが自律的に機能するにはどうしたらいいのか。

 一つの改善案として、回収業者が回収した紙を市場に出せるようにすることが挙げられる。こうすることで、しっかりと分別されていれば適切に回収するだろう。また混合物が多少あったとしても、上質紙だけであれば有償で引きとられることから、回収業者自身で再分別するようになる可能性はある。少なくとも現状の改善にはつながるだろう。

○「つながり」

 本郷のトイレット・ペーパーが、本郷の機密書類から作られていることを知っている人も少なくないだろう。このようにシステムとして学内の紙が「循環」しているということを実感するのは、環境問題に対する意識を啓発する上でとても大切なことである。

 ここまでできなくとも、使用している紙がどの国(複数かもしれないが)のパルプでできているのか、また消費した紙がどうリサイクルされていくのかについて「つながり」が明示されるようになることが望ましい。

(3)主体について

 ここでは、システムの管理者である学部と、駒場の主要な構成員である学生が今後どうあるべきかについて論じる。
全ての主体については、グリーン調達/グリーン購入に取り組んでいくべきである。

▽学部

 環境問題を考える上では、対処療法的な管理に加え、長期的な視野に立った管理が必要になる。学部の活動を通じての環境負荷や環境リスクを低減し、発生を予防するための行動を継続的に改善していく必要がある。この点で、学内に環境マネジメントシステムを導入し、学内環境を改善するための取り組みが為されているかどうかという組織の方向性自体を評価していくことが長期的な目標となる。 また、学内に積極的情報発信を行い、学生などにもこうした問題に関われる場があれば、より包括的な解決策の推進が可能になるのではないだろうか。

▽学生

(1)知識の獲得 …これは、ある程度、学生への普及の不徹底も原因となっているので、学生の主体性のみならず、学部など他者からの呼びかけが必要である。

(2)意識の向上

(3)実際に行動に反映   
ただ単に「知っている」だけでは改善には結び付かない。重要なのは実際に行動に反映されることなのである。アンケートの回答と実際の行動の間にはかなりのギャップが見られるが、それは「問題意識」が「実際の行動」に結び付いていないからである。きっちりとした分別も、ビラなどのreduceも最終的には主体一人一人の行動にかかっているということを忘れてはならない。

2.短期的改善〜今できること〜

 第3章 3.問題点 において、現在の駒場における紙の問題点をreduce、reuse、recycleに分けて整理し、第4章 1.長期的改善 において今後紙問題を解決するにあたってのビジョンを提示した。

 ここでは、以上の結果を踏まえて、今駒場を改善するための有効かつ実行可能なプランを提案する。

2-1 Reduce

最終的には紙以外のもので代替可能なものは代替し、特にビラのようにリサイクルしにくいものは大幅に削減する必要があるが、新しい代替物への移行には時間がかかる。そこで、現在の機能を使用して効果的に紙減量に結びつける方法を挙げる。

(1) 両面印刷の普及〜「紙半減キャンペーン」〜

 第3章 3.問題点 で挙げたように、現在両面印刷は、ゲスプリ印刷では普及が進んでいるが、コピー印刷ではあまり普及していない。両面印刷を行なえば、片面印刷と比較して紙の使用量が半分で済む上、印刷機の機能としてすでに導入されていることから、有効かつ実現が比較的容易な改善案と言える。そこで、「紙半減キャンペーン」と題し、両面印刷の普及に力を入れることを提案する。

 両面印刷を行なわない人の中には、


  1.やり方を知らない。
  2.やり方は知っているが、やろうと思わない。
という2タイプがある。

 1.については、やり方を目立つ場所に広報することで対処できる。前期課程の学生については、前述の通り、今年5月に環境三四郎と生協が協力して、生協管轄のコピー機について外ぶたに両面コピーのやり方を書いたシールを貼ったので、ここでは特に言及しない。研究棟についてはまだ何も対策を行なっていない。また、印刷機の管理は各事務室で行なっており、機械もさまざまである。そこで、

  • (A)各事務室にそれぞれが管理する印刷機について両面コピーのやり方を書いた紙を貼って もらう。

ことを提案する。
2.については、第3章 1−2 消費 のところで分析した通り、コピーの際の片面/両面の選択には「イメージ」「手間」が重視され、また価格面でのメリットがないのも問題となっている。

  • (B)「紙使用量が半分になり、地球環境に優しい。」といった環境面でのアピールとともに、「かさばらない」といった他のメリットを強調するポスターを作成することで、使用者の「イメージ」を変える。
  • (C)講義資料などを印刷する事務職員に対し、経理課から両面コピーを推進するよう言ってもらい、講義資料を両面印刷にすることで、受講者の「イメージ」を両面印刷が普通であるようなものに変える。
  • (D)初期設定を両面コピーにし、「手間」を省く。
  • (E)価格面でのメリットを与えるために、両面コピー10枚につきスタンプ1個を押し、100個たまったら再生紙ノートなどと交換できるようなシステムを作る。

ことを提案する。実際にこの「紙半減キャンペーン」が実現可能かどうかを評価するために、経理課、各事務室、生協に要望書を提出し、反応をうかがった。

2-2 Reuse

(1) 裏紙利用〜裏紙利用ルートの確立〜

すべての印刷を両面印刷にし、裏紙など存在しないのが理想だが、実際には情報棟などで裏紙が多量に排出され、利用されることなく処分されている。一方で、計算用紙、メモ用紙として上質紙が使用されている。そこで、この需要と供給を結ぶルートを確立する。具体的には、

  • (1)裏紙発生源である情報棟、コピー機周辺に回収ボックスを設置する。
  • (2)裏紙需要の多い図書館、印刷機周辺に裏紙ボックスを設置する。
  • (3)裏紙発生源から裏紙消費地へ移動する学生が裏紙を運ぶ。

この案の実現可能性について、実際に情報棟にうかがった。

2-3 Recycle

現在のリサイクルルートにいくつもの問題があることは、すでに述べた。以下では現在可能な改善方法をいくつか挙げる。

(1) 上質紙のリサイクル〜「シケプリプロジェクト」〜

 現在、後期課程以上の学生・事務職員の使用する紙の約半分、前期課程の学生の使用する紙のほとんどが上質紙である。その中には、試験対策プリント(以下、シケプリ)のように、すぐにいらなくなってしまうものも多く含まれる。現在それらは可燃ゴミとして処理されるか、あるいは再生されるとしても、他の紙と混ざっているためダンボールにしかなっていない。上質紙は本来上質の古紙原料となり、白色度の高いコピー用紙等の印刷用紙の原料となりうる。需要も多く、雑誌古紙と違って有料あるいは無料で引き取ってもらうことが可能である。

 そこで、「シケプリプロジェクト」と題して、一年でもっとも上質紙が排出される前期課程の学生のテスト期間に、試験的に上質紙のみを分別回収し、業者にひきとってもらうことを提案する。

 実際にいくつかの業者にあたり、インク印刷の上質紙のみ分別回収し、かつ量がまとまっていれば(2t程度)、有償で引き取ってくれるところをみつけた。

このプロジェクトを実行する際の問題点は、
  1.インク印刷の上質紙のみきちんと分別回収すること。
  2.量をあつめること。
の2点である。

 まず、問題点1について考察する。
 「インク印刷の上質紙」に混入する恐れがあるものとしては、
・学生会館で販売する再生紙  
・学生会館で使用するコピー機の再生コピー用紙
の2つである。ともに品質(白色度、密度)が上質紙と同程度のため、そのままでは極めて見分けが付きにくい。そこで、

  • (A)学生会館で販売する再生紙、コピー用紙の側面にインクでしるしを付ける。

ことを提案する。

 次に、問題点2について考察する。

 前期課程の学生によって7月中に消費される上質紙の量は、約50万枚=約3tで、リサイクルに回すには、最低1tは必要。ゆえに、17万枚=34%集める必要がある。そのために、

  • (B)各棟にクリーンボックスを利用した大きくて目立つ「シケプリ回収ボックス」を設置する。
  • (C)各クラスのシケ長と交渉し、上質紙のシケプリの最後に「このシケプリは使用後各棟に設置される回収ボックスに入れてください」という1文を添えてもらう。
  • (D)立て看板等を利用して大々的に広報を行なう。
  • (E)東大新聞に記事を掲載してもらう。

などの方法をとる。

(2)白上質紙以外のリサイクル〜「うれしいトレペ」大作戦〜

シケプリproject.のところで上質紙については、分別回収すればリサイクルされる。

しかし実際には上質紙の他にも、再生紙、更紙、色上質紙(ビラ等)が排出される現在のルートでは再生紙はリサイクルできず、混入した場合、すべて可燃になってしまう。

一方再生紙を除いても、行き先は現在供給過多に陥っている板紙原料で、今後利用がのびるであろう再生紙を可燃として処理するのは問題であるので、そこですべてトイレットペーパーにしてしまおうというのが「うれしいトレペ大作戦」である。

現在のトイレットペーパーは白さを求める余りパルプや牛乳パックというの上質古紙から作られている上、漂白されている。しかし一度使えば終わりのトイレットペーパーの白さにそこまでこだわる必要があるだろうか、そんな疑問を持った製紙会社と市民団体が協力し、ミックスペーパーと呼ばれる様々な紙の混じった古紙を100%利用してつくった無漂白のトイレットペーパーが「うれしいトレペ」である。ミックスペーパーの排出源である企業・大学等は同時にトイレットペーパーの大消費主体でもあることから、作られたトイレットペーパーを、元の主体で利用することが可能である。これは本郷でも一部導入されており、駒場で導入することも十分可能である。

(3)再生紙の導入〜駒場リサイクル70計画〜

 現在日本社会において古紙の供給過剰により、紙リサイクルが危機に瀕している。これは、対策が排出後の紙に偏り、リサイクル後の対策が遅れているのが一因である。前に述べた通り、リサイクル社会を構築するには、リサイクル後の紙の利用まで考慮に入れなければならない。すでに官庁、大手企業では再生紙の利用に積極的に取り組みはじめている。しかし、現状のところで見た通り、東京都庁など官庁と比較して、駒場では再生紙の導入が進んでいない。また導入されている再生紙も「白い再生紙」と呼ばれる環境負荷の高いものである。そこで、「駒場リサイクル70計画」と題して、駒場の紙の再生紙化を進めることを提案する。この「70」は、「白い再生紙」(白色度80)よりも環境負荷の低い白色度70の再生紙からきているのであるが、同時に駒場の印刷用紙全体に占める古紙の配合率を「70」にすることを目標にするという意味を込めた。

 生協管轄のコピー機はずいぶん前からすべて白色度70の再生紙を使用しているため、学生会舘、各事務室のコピー機について対策を進める。

 学生会舘については、昨年度の代議員大会において、環境三四郎提案の再生紙導入決議が可決されているが、その再生紙は白色度80のものである。従って、より環境負荷の低いものに替えることは可能である。

 各事務室については、要望書を提出し、意見をうかがう予定である。

 駒場キャンパスにおける「ごみとリサイクル」について、紙を取り上げた。駒場において、紙は大量に消費されている上、その多くがリサイクルされることなく、廃棄されるにいたっている。また、官庁などに比して、再生紙の利用は普及していない。そのことに関する問題点は、主としてreduce,reuse,recycleに分類して指摘した通りである。それを踏まえて、どう改善すれば良いかは長期的・短期的視点から提示した。

 「改善」につなげることを目的に調査を進めてきたのだが、実際に駒場を変えていけるか否か、また変えていけるとしたらどのようなものにするのかは今後の私達の行動にかかっている。私たち一人一人が駒場の環境における当事者であり、それゆえ改善するのは私たち一人一人に他ならないのである。

 今回の調査発表が「改善」のために行動していく際の一助となることを願っている。

謝辞

本調査を進めるにあたり、非常に多くの方々にお世話になった。

本講義枠で発表をする機会を与えて下さり、示唆に富むアドバイスをしていただいた岸野洋久先生、テーマ講義責任教官としてご指導下さった後藤則行先生、環境三四郎顧問として温かく見守って下さった石弘之先生に深く感謝する。また、山下英俊さん、木村宰さんをはじめ環境三四郎OB・OGの方々には、調査発表へ向け長時間に渡る相談に応じていただき、大変感謝している。以下の取材に快く応じていただいた方々に再度お礼を言い、謝辞にかえさせて頂く。

  • 東京大学教養学部経理課用度掛様
  • 東京大学生協様
  • オーチュー様
  • 教養学部各事務室様
  • 高山紙業様
  • 菊池商店様
  • 静岡製紙様
  • 関東製紙原料直納商工組合様
  • 古紙再生促進センター様
  • 日本製紙連合会様
  • 目黒区リサイクルめぐろ様
  • 王子製紙様
  • 紀州製紙様
  • 日本加工製紙様
  • 北越製紙様
  • 泉製紙様
  • 富士ゼロックスエンタープライズ様
  • ミノルタ様
  • ミヤコ様
  • 三幸洋紙店様
  • ジムキ文明堂
  • 東京紙店様
  • リコー様
  • 学生会館様
  • 学友会様
  • 自治会様
  • 駒場祭委員会様
  • 情報棟様
  • 水藤商店様
  • 平松商店様
  • ハッピー運輸倉庫様
  • 豊商産業様
  • セッツ様
  • 新栄製紙様
  • 大王製紙様
  • 東海製紙様

参考文献(順不同)

  • 日本製紙連合会「各種資料」
  • 古紙再生促進センター「古紙のはなし」 「古紙利用製品調査報告書」
  • 紙業タイムス「紙のリサイクルと再生紙」
  • 新栄製紙資料
  • 静岡製紙資料
  • グリーン購入ネットワークホームページ
  • 本州製紙再生紙開発チーム「紙のリサイクル100の知識」
  • 廃棄物学会「ごみ読本」中央法規出版
  • 寄本勝美「ごみとリサイクル」岩波新書
  • 日本化学会「リサイクルのための化学」大日本図書
  • 山下英俊修士論文「紙リサイクルのシステム分析」
  • 見田宗介「現代社会の理論」岩波新書
  • 鈴木慎也卒業論文「東京大学の構成員の意識に基づく廃棄物収集システムの構築」
  • 紙パルプ商事「図表:紙パルプ統計1997」
  • 東京都「東京都リサイクルハンドブック'96」
  • 「統計要覧1994、1996」二宮書店




テーマ講義V



報告書「駒場のごみとリサイクル」〜紙について〜「駒場キャンパスにおける紙の循環」
1998年6月19日  初版発行

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