質疑応答
Q:太陽電池について、エネルギーペイバックが2年くらいと書いていたと思いますが、計算方法によっていろいろ違うみたいですが、どういうことなんでしょうか。
A:前提が違うんだよね。結論はでているんだよ。僕たちは太陽電池をつくるプロセスをちゃんと設計して、モデルプロセスをちゃんと公開したんだよ、こういう前提で計算しましたよ、と。
同じ時に内山さん、東工大の教授になっているけど、という人もある仮定に基づいて「10年以上ペイバックにかかる」と。それも非常によく計算している。じゃあなにが違うのかというと、ひっぱてくるデータ。効率の悪い古いデータを使っていたり、ということなんだね。今もペイバックが長いから、っていう人はいるけどね、勉強してないだけだよ。もう全部なにがどういう風に計算されている、というのが公開されているんだよ。
僕らの数字が違っているなら、それらは公開されているのだから、どこが違っているのか言って下さい、と。そうすればそこに関しての議論になる。2年というのは屋根に置く場合だよ。架台つくる場合は5年くらいになるね。屋根置きならいまもう1.何年というくらいだよ。
Q:紙のリサイクルについて
A:どういう比較をするかによるんだよね。木の半分くらいがセルロースではない部分なんだよね。残りの半分くらいはリグニン。で、この分は燃料として使っているんだよ。どうせ木を切るのと比較するなら、切った木をエネルギーとして使うことを考える。そうするとリサイクルしてちょっと切った木をエネルギーとして使うのが一番いい。循環型をしているときは全く木を切っていないと仮定してしまうと、化石資源たくさん使わないといけなくなってしまう。一番良いのは半分くらい切ってリサイクルに必要なエネルギーとして回してやる。100%木を切って紙をつくるのと100%切らずにリサイクルするのを比べたら、リサイクルの方が化石資源を使うよ、というのは嘘ではないが。比較の基準をそろえないと、ちゃんとした議論にならない。
Q:小宮山先生は大学時代何を考えていましたか。
A:ウォリアーズの前身をやっていて、70試合くらいでた。真面目に勉強したって学生ではなかったけど、そんなにさぼってもなかったよ。今みたいに強くなって一年留年が当たり前みたいな状況ではなかった。ちゃんと試験前になると必死で勉強して。将来に対する不安、自分がどうやって生きていけるのか、とか考えたりさ。そんなことじゃあ今も昔も対して変わってないってそういうことだろうよ。だって環境だけが全てでさ、自分はどうでもいいなんて思わないじゃない。同じだと思う。
だけど、最近の風潮として、人間は動物だし昔から108つの煩悩をもっていてっていう汚いところばかり強調しすぎていると僕は思うんだな。それでも真・善・美とね、そういうところも人間にあるんじゃないか。汚い欲望とかあるけれど、でも地球の持続といったようなものへの使命感みたいなものもある。だから、僕の青春がそんなに汚いものばかりだったと思われるのも困るけれども。
Q:三年生になったら見違えるように勉強した、と聞きましたけれど、、、
A:いや、卒論の時だね。僕はね、運動部やってたところがあったから、卒論にすごく不安があったんだ。夏休みに固めてやろうって考えたんだね、実験とか。そんとき先生が助教授で、夏休み僕と一緒に実験してくれたんだよね。一緒にやったんだよ、そしてこれが本当に面白かったんだよ、実験が。その頃からだね。面白いとね、やるんだよ。いやいややってるのとは全然違う。
結局それしかないと思うよ。いくらいいところ入ったって、大したことないんだって。ほめてくれるのなんて大していやしないでしょ。どこがどの点でどうだこうだって知ってるのは君たちの友達くらいでしょ。僕は昔こう考えたよ。世間ってなんだろうなぁ〜って。世間って言ったってせいぜい数十人、百人くらいだろうって。ああ君いいところいったねぇなんて言ってくれる人なんて百人いないんだって。だから面白いことやるしかないんだって。
でも生半可なところでやめないことだよ。例えばさっき紙のリサイクルといって僕は絶対リサイクルだっていって、武田さんは絶対ダメだという。それぞれ一理あるんだよ。どこが一理なのかって徹底的にやってごらん、分かるまで。途中までじゃあただの知識だから。小宮山さんがああいった、そんなこと大したことないじゃない。小宮山さんがああいった武田さんがああいったって、それだけのことなんだから。
でも本当に考えた人には分かるんだよ。分かった、と思えたら誰がなんと言おうが分かったんだから、そういう実感っていうのがあるんだよ。そういうことってあるだろう、勉強していて。
熱力学の第一法則が分かったってことはエネルギーが保存されるっていうことだけなんだよ。エネルギーは一定。だったら電気掃除機使うよね、そのときにどうしてずっと東京電力にお金払わないといけないの?このこととエネルギー保存則ってどう関係しているのか、という問題を熱力学の試験に出したんだ。10人くらいだよ、正解。完全な正解は一人。200くらいの答案の中で。
もう一つ。家には暖房器具がない。寒い。1KWの暖房器具を買いに行こうかと思った。待てよ、掃除機とか家電を全部つけると1KWだった。だったらこれらを全部つけたら暖房器具と同じじゃないかとその人は思った。この人が熱力学的に正しいかどうかを論ぜよ、って問題を出した。テレビ、オーディオ、掃除機、なんだっていいんだけど。完全な正解は2人。2割が大体正解。8割くらいが完全な間違い。
学生:暖房の方の問題はだいたい同じ、が正解だったと思います。
先生:そう。じゃあ少し違う分はなにか。外からもテレビって見えるじゃない?あれだけ光のエネルギーが漏れてきてるんだよ。オーディオをかける。外にも少し音漏れるだろう。1KWからしたらごくわずかだけどね。最後は空気中の分子を動かす。毎秒400mで移動している分子を401mにしたらその分だけ温度を上げたことになる。空気中、全部の分子がそれくらいで移動してるんだよ、でも全ての分子がランダムな向きに動くから全体としては止まって感じる。それが向きによって401対400になると1mの風になるんだよ。
本当に分かった、さっきの問題なら外に漏れていく分のわずかなエネルギーだけ違うんだって、そういう細かいところまで自分できちんと書けるほど分かった、そこまで行ったときに君たちはスピッツが狼になれるんだよ。素質はあるんだよ、素質は、間違いなく。
あとは分かったことの構造化なんだ。経済学もたかが3つだ。不遜ではあるけれども、3つの構造でやっているんだ。ニュートリノのこともどんなに高度な数学を使っていても湯川さんの話の流れにあるんだ、と。そうやって構造化していく。分からない部分は分かる人に聞く。徹底的に聞く。そのうちにだんだん構造化されていく、それが成長するってことだと思うよ。誰がなんと言おうと分かる、そこまで考えろ、考えろってことだよ。
Q:技術で社会が良くなる面を聞かせてもらったんですが、ビジョン2050が実現されていっても、人間暇を持て余したらまたなんかやり始めるだろうから、と思ったりします。人間が効率というものを追求していった先にどういったところに到達するのだろう、という点、先生のイメージを聞かせて下さい。
A:つまりね、ライフスタイルの問題も絶対あるけれども、自分は専門家として技術のことを言おう、って決めたわけ。技術がどこまで行けるかってのを言いたかったんだよ、みんな言わないから。君がそういってくれるのは大変嬉しい。で、どういう風になるかっていうのは僕も考えているけど、やはり君たちが考えるんじゃないのかな。本当にそう思うよ。一つ言えるのは外国人とか違う年代の人と話をする、それが重要だと思う。僕は28か29の時かな、一年間カリフォルニアで過ごしましたけど、あの一年間って大きかった。全く違う考えで動いている人間がいるんだ、っていうのをね、体験するっていうのは大きいよ。ヨーロッパとアメリカとアジア。これだけは見た方がいいと思うね。全然違うもん。発想の仕方とか。ヨーロッパとアメリカで全然違うことも、共通で日本と違うこともあるしね。マクドナルド、ディズニーランドが入ったスピード、すごくアメリカと日本似ているよね。フランスなんか最後まで抵抗してね、つくったけど。環境に対する考え方も違うよ。でね、ヨーロッパはアメリカには絶対ならないという意志がある。基本的に自分達は自分達の論理で動くんだっていうのがある。自分で決めるんだよ、自分で。日本も決めなきゃいけない。世界第二位の経済大国、人口は7位。フランスとドイツとイギリスと合わせただけのマーケットを持っているということになるんだよ。それがなんで周りがどう動くかばかり気にしなくちゃいけないの?決して国粋主義ということではなくて、それではじめて向こうも日本を尊敬するし、それで本当に面白くなるんだよ。だから自分達と全く違う論理で動く人間がいることを知らなきゃいけないんだよ。そして日本が世界第二位の経済大国だと忘れちゃいけないんだ。中国がすごいけどね、そこまでは行かないよ、CO2の排出では既に抜きましたよ。だけど経済はまだ日本の1/5位だよ。まだずっと小さい。
まず、同期の人と仲良くなるのは当たり前。それが一つ。そしてマスメディア。テレビなんてごく一部だからな、新聞ですら一部でしかないんだから。あれが全てだと思うなよ。違う年代の人と話す、お父さんお母さんでもしないよりはましだけど、それ以外の人。まだ君たちは上との違いの方が大きいだろうから、年代が上の人と。それから違うものを見る。進振りなんて気にしているのはせいぜい友達百人くらいだと。
高いのどこなの?そうそう、安藤忠雄さんも言ってたよ、建築こんなに点数いいのが来なくていいって。宇宙か、高いのは。宇宙が好きなら行きなさい。でもいっとくけど宇宙工学の産業はないからね。日産もロケットやめたからね。だいたい自動車業界に行ってるみたいだね。宇宙工学か、そこに進んですごいねぇって言ってもらいたいんだろうけど、そんなこと言ってくれるのは何人もいないよ世の中に。渋谷で会った1000人に聞いてごらんなさい。
でも好きなことが同じになっちゃうんだよな、そこが問題なんだよ。それは同じ奴とだけ話しているからなんだよ。だから外を見なさい、違う人と話しなさい。そうしないでいくら君たちの仲間で話していてもね、やっぱり生物だな、宇宙だなって思っちゃうんだな。
Q:「動け!日本」というプロジェクトのリーダーをなさっていますが、良く知らないのですこし説明してもらえますか?
A:大学にはものすごい知識が溜まっている。僕は友達80人、医者から農学、理学、工学、理系ばかりだけど、集めた。アポロ計画とか、情報ハイウェイとか、そういうものに匹敵する大きなビジョンを出したんだよ、それが「動け!日本」だよ。健康・環境・安全・教育という4つの分野。池田勇人、所得倍増計画、あそこまでなんだよ国の計画として日本がうまくいったのは。何故あそこまでうまくいったかというと目的が決まってたんだよ。欧米の生活ですよ、欧米の産業ですよ。それを実現するためにケインズをやったんだよ。その時は科学技術者というのは国の政策を作るのに関係しなくて良かったんだよ。あそこにある製鉄会社、石油化学会社、高速道路に似たものを作ればいいんだから。それじゃなくて僕らが今回作ったのは、科学技術の動向を反映した社会の大きなビジョンなんだよ。6つつくった。一つは循環型社会。健康では在宅medicineというもの。医者行くと待たされるでしょ。前立腺がんってあるよね、あれいま血液調べれば分かるんだけど、血を採らなきゃいけないでしょ、痛いよねぇ。で待ってなさいと言われてその日は帰って。ところがそんなことしなくても済む。それこそナノテク。無痛針を作れるんだよ。60ミクロンの針つくれる。その針で血を採れる、マイクロポンプもつくれる。蚊に刺されたようなものだよ。3000円くらいかな、この器具を買ってくる、50マイクロリットルくらいしかとられない。で、モバイルにカシャっとはめるて、データを送る。そして、電子化されたカルテ。データを受け取る人がいて、照合して返してくれる。で、危ないよ、って言ってきたらそのデータを持ってお医者さんに行くんだよ。これの方がいいだろう?このシステム作れるんだよ、今の技術で。これが我々の提案だよ、やろうって言えばいいじゃないか。なんで厚生労働省が反対する、医師会が反対する。大丈夫だから、潰れないんだから。これから高齢化社会になって、トータルの医療費は増えざるを得ない。医者も食べていけるような仕組みを作ればいいだけなんだから。そういうことも分からずにもしかすると損するかも知れないといって反対する。
こういうことは放っておいたら必ずどこかがやる。アメリカは相談しないでやっちゃうから。ヨーロッパはそれほど急激にはできないよ、彼らも相談するからね。とにかくね、やられちゃったらまた後追いですよ。後追いをやったらどこに負けるか。ITどこに負けたか知っているか?当然始めにやったアメリカ、それにシンガポールに負け、韓国に負けるわけだよ。中国にも。何やるかが見えたら途上国の方が早いんだよ。君たちのもらう1/20のお金で中国の人たちは働くんだから。20倍の生産性の差は全くないからね。それが途上国ってことだよ。先が見えたら追いかけるスピードで負けちゃうんだよ、日本は。あとはトップがやるかどうかだけ。トップが勇気だせばいいんだよ。こういうことが書いてあるんだよ、「動け!日本」。読んで下さい。
それでね、最後に頼るのは自分の感性だけ。そんなに全部は論理的に判断できないんだよ。
Q:先生は技術の面からお話しされましたが、精神的な面の影響はどれくらいと思いますか?
A:大きいよ。石弘之先生と対談したんだ。お互い良く知ってるんだけど、石さんライフスタイル派、小宮山さん技術派ということで。はっきり分けて。たとえば石さんが、山手線のなかに自家用車を入れない、とか省エネをいくつか言ってね。石先生の言うものを全部入れたら何割減るか。7割まで減るんじゃないか、と言っていた。それで、同じサービスを今の1/3のエネルギーでいけると言ったのが私。つまり、70%の1/3だから23%になるということなんだ。これがライフスタイルと技術の話だよ。完全に独立ではないけれど、まあ大体独立と考えれば、そうなるだろう。
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