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携帯電話と環境

始めに

みなさんこんにちは。
丸山先生ありがとうございます。先生の貴重なご講義の時間を学生のために割いて下さったことに感謝します。

それでは、私達環境三四郎による事例研究としまして発表をさせていただきます。まず、私達がどのような意識で今回の発表に望むのか、というところからスタートしていきたいと思います。
環境の世紀]はコンセプトを「常識を、見つめ直す」とし、オムニバス形式を基本としながら毎週様々な先生方にそれぞれの立場からこのコンセプトにつながるような講義をしていただています。 この環境の世紀の掲示板に第一回の感想として書き込みあったのですが、それはこのコンセプトに対してのもので、

「まず、常識を知らなければいけないのだということも強く感じました。常識を知らないものには、常識が正しいかどうかなどは到底分からないのですから。」 とありました。それは私達も同じように痛感しています。「常識を、見つめ直す」というコンセプトを掲げているわけですが、現実から自分達なりの常識を作っていく、常識というと大げさかもしれませんが、そういった作業はとても大事だと思いますし、その作業は「常識を、見つめ直す」という作業とは矛盾するものではなくて、むしろお互い必要かつ両方あってそれぞれ成り立つものだと思います。
初回に「古い常識を破った後で、新しい色々なタイプの環境対策を構築していくことが大切だ」ということを廣野先生はおっしゃっていました。今回のこの事例研究は、常識を破った後に何ができるかということを私達が考え、廣野先生の言葉に答えようとしたものと言えるかもしれません。みなさんもこの講義から何か得るものがあればいいなと思っています。

さて、事例研究の中身ですが、私達は、ある「モノ」に注目し、そこから環境問題について考えようということにしました。

〇〇と環境というと、ここにあるように自動車などの定番があると思います。これらは環境問題と深い関係を持っていてそのインパクトも大きいのですが、今回の事例研究ではあえてまだ定番とは言えないけれどこれから大きな影響を持ち得るものを取り上げてみました。今回私達が注目したものは、「携帯電話」です。
(この事例研究では「携帯電話」というときにPHSも含めて指しています。)

この「携帯電話と環境問題」という連想なんですけれども、「携帯電話⇒環境」という構図を思い浮かべる人はあまりいないのではないでしょうか。こういう小さくて軽いものですし、先ほど出てきた自動車に比べれば深刻な問題につながらないのではないのかな、と思われる人もいるかと思いますが、逆に小さい分だけそこから見えるものの多さに驚くことにもなりました。


これからの発表の流れは以下の通りです。

1.どのように携帯電話が動いているか
2.携帯電話の構成物
3.携帯電話を作る製造段階での環境負荷
4.使用済み携帯電話がどのように扱われるか
5.発表のまとめ
〜循環型社会を問う〜
〜機能による環境負荷低減〜
6.丸山先生よりコメント



1.どのように携帯電話が動いているか

事業者

まず、携帯電話は3つの関わりの深い事業者がありまして、そこから説明したいと思います。右上のキャリアーというのは、通信サービスを提供するところで、DoCoMoやau、J-PHONE(現在はvodafone)、TuKaなどがあります。 左上の製造メーカーというのは、キャリアーの委託を受けて携帯電話の端末を製造しているところで、NECやPanasonicなどがあります。最後に、販売代理店というのは、キャリアーの委託を受けてユーザーに携帯電話の端末を販売するところです。街にある携帯電話屋さんのように色々なキャリアーの端末を売っているところもそうなのですが、ドコモショップなども、全てがキャリアーの直営店という訳ではなく、一部は販売代理店です。

携帯電話がここまで普及した背景には3点の要因があると考えられます。その3つとは、

1.軽量化
2.高機能化
3.低価格化

です。

1.軽量化


初めの軽量化ですけれども、携帯電話は初め自動車電話であって車の外には持ち出すことはできませんでした。初めて携帯電話が持ち出せるようになったのは80年代で、3kgほどあるものを持ち出していました。その後、軽量化が進み、1991年にムーバが発売された時には220gということで今の携帯電話に近づいています。現在では100g前後ということで、気軽にどこにでも持ち歩ける大きさになったことが普及の要因だと思います。

2.高機能化

2点目の高機能化ということですが、通話の音質が良くなったというのもありますが、iモードを始めとしたインターネット機能や、J-PHONEが始めた写メールが広まったということも大きな要因だと思われます。

3.低価格化

3つ目の低価格化というところですが、「インセンティブ」というものを説明したいと思います。これは売り上げ報奨金のことで、キャリアーが自分のユーザーを増やすために、販売代理店が新たなユーザーを獲得する都度に払うお金のことです。この結果として0円の携帯電話が街で売られることになります。

このような背景から携帯電話は急速に普及していまして、グラフにあるように右肩上がりに契約者数は増えています。2003年5月末の時点で8000万を超える契約が結ばれています。*1

ここで、だいたいの契約者数の伸びを見る際に、その年の契約者数から前年の契約者数を引く計算をすると、このようになりまして、新契約者数はかなり減ってきていることが分かります。

しかし携帯電話の生産台数はそこまで減っていません。なぜかというと、1〜2年に一度買い替えをする人がいるためです。グラフを見れば分かると思いますが、新契約者のために製造されている携帯電話はほとんどなく、大部分は買い替えのために作られていることが分かります。買い替えということは以前に使われていた携帯電話は必要なくなるということで、この表では輸出入は考慮されていないのですが、それも考慮すると、平成13年度に約3750万台が廃棄されています。*2 このように携帯電話の生産、廃棄に関して、共に数量的にはかなり多いことが分かります。


2.携帯電話の構成物としての燃料電池

ここでは、携帯電話の構成物として燃料電池を取り上げたいと思います。
燃料電池は水素と酸素を結合させ、水が生成する際に生じるエネルギーを電気エネルギーとして取り出すものです。2003年6月に開かれたエビアンサミットでも、規格統一などを進めることによって石油を中心とした現在のエネルギー利用システムを大きく転換させるきっかけとして期待されています。
燃料電池というと、燃料電池自動車の方が一般的で認知されやすいと思うんですが、携帯電話やノートパソコンの必要とする電力・電圧のほうが低いので、そのようなものへの搭載を考えたほうが実用化は早いのではないかとも言われています。
実際に、DoCoMoの社長が6月の記者会見では来年か再来年には燃料電池搭載型の携帯電話の第一号機が誕生する予定だという様な発言もしていて、燃料電池自動車よりもずっと早く、それも数年で近い存在になることがあるかも知れません。もしこれが実現したとすると、コンビニなどでカートリッジに入ったメタノールを買い、端末に装着して使用するという新しいスタイルが考えられています。これはNEC、日立、東芝、カシオ、SONYといった企業が開発・実用化に向けてしのぎを削っている段階なんですけれども、理論的には、現在のリチウムイオン電池と同じ大きさで10倍の電気容量が可能と言われています。*3

ただ、現在はこの絵を見てもわかるように携帯電話の中にすっぽり入るような大きさの燃料電池というものはまだまだできてないようです。理論的にはリチウムイオン電池の10倍と言いましたが、技術的にもまだ3倍程度が限界、そしてコストも2倍近くかかっているということで燃料電池自動車よりも期待されているとはいえ、写真を見る限りこれを持ち歩くということはなさそうなので、なかなか時間がかかるんじゃないかなと感じます。 ここでは、これからこの燃料電池っていうものが私たちの生活の身近なところにやってくる可能性があるということを、まあこれは脱線なんですけども、紹介しました。


3.携帯電話を作る製造段階での環境負荷

それでは、製造する過程の方に話を進めたいと思います。と言っても、携帯電話には無数の部品がありますのでここでは3点に絞って紹介したいと思います。

1.使用される物質の安全性
2.水の利用
3.洗浄に使用される有機溶剤



1.使用される物質の安全性

まず一番目としては使用される物質からです。携帯電話はシリコンに半導体が多く使われていますが、それに代わる半導体の基板材料としてガリウム砒素化合物も多く使用されています。ガリウム砒素半導体はコストは高いのですが、演算速度が速かったり、低電圧で作動するというようなメリットを持っています。ガリウムも砒素も分解すると非常に有毒ですので製造・廃棄段階共に管理が必要だと言われています。
ここで、一つの東大の柳沢幸雄先生の研究結果を引用したいんですけども、2010年までに日本で生産される携帯電話に含まれる量は最大でガリウムが142kg,砒素が93kgということがわかります。非常に有毒な物質が使われているって事が見て取れるかなと思います。

(読売2001.02.17,14面の記事がスクリーンに写される)

ここで普通の読者がこの記事を読んだら、ガリウムや砒素の廃棄が深刻な問題になり得るんじゃないかと考えると思います。ただ、ここで注意しておきたいんですけども、この研究では、2010年までに作られる携帯電話全てを累計して今年作られているものも来年も全てを累計して6億1000万台が製造されると試算しており、これを一年一年例えば、実際に廃棄されるものだったりとか、あとは用があるものは少ないですし、6億台で試算しているというのは世界の年間に作られる台数よりも多いので、むしろ、逆にそんなに深刻な問題になるものではないかと見ることもできると思います。もちろん実際どれほど危険なのかということについて断定することはなかなか難しいと思いますが。
ただ、もともとこの研究それ自身は砒素の有害性を特に深刻にとらえたものではないんですね。それがこうして新聞の中に記事として現れると、「砒素なんkg」というところだけ意外に大きく出てしまっています。こうした例を見ると、これまでの講義の中で報道とか情報、メディアリテラシーなどをキーワードとして扱った部分とも大分関連してくるところがあるかと思います。

2.水の利用

次に2点目として水の利用ということですが、半導体製造過程では、空調だったり、炉の冷却だったり、基板の洗浄に大量の水を使用しています。これは、実際どれ位の量が使われていてそこでどういった影響が出てっていうのは、把握しきれませんでしたが、先週の沖先生の講義では貿易収支と同様の観点で水の出入りも国際間の水の行き来も把握していく必要をおっしゃっていたところと関連してくると思います。

3.洗浄に使用される有機溶剤

3点目として希少金属があります。
当然ながら、洗浄に使用するのは水だけではありません。有機溶剤なども特に半導体製造工程では使われていました。
有機溶剤として有名なものとして、トリクロロエチレンがあります。1980年代に多く使われて土壌や地下水、大気を汚染した結果、その害が問題になり代替品としてフロンを使うようになったわけです。ご存知だと思いますが、フロンは無害で洗浄剤や冷媒としてよく使われました。しかし今度はこのフロンがオゾン層を破壊する原因となることが明らかになっています。

半導体という点について簡単に見ただけなんですけれども、製造業、とくに精密な物をつくる場合には、さまざまな物質だったりエネルギーが投入されていて、そこに環境との関係を見て取れると思いますので、一歩遡って製造の前、原材料のほうもちょっと見てみます。
携帯電話やパソコンなどの情報機器には様々な金属の中には採れる地域が非常に偏っていて、その総量も少ない金属もあります。そういったものを希少金属、またはレアメタルと呼んでいます。先ほどのガリウムもそうですし、チタン、バリウム、コバルトというような希少な金属がたくさん使われています。

[タンタル]

ここではそういった希少金属と環境との関わりの具体例としてタンタルという物質を取り上げたいと思います。タンタルはコンデンサーとして携帯電話に多く使われます。タンタルの酸化物が安定で非常に誘電率が高いので、従来のものに比べて1/60のサイズのコンデンサーを作ることができるのです。タンタルはオーストラリア、ナイジェリア、カナダ、コンゴといった限られた地域で産出されます。世界的な携帯電話の急激な普及にともなってタンタルの需要が膨れ上がり、価格が高騰したりしたのですが、こういった話がどのように世界とつながっているかということについて、2001年に放送されたNHKスペシャル「戦場のITビジネス」というドキュメンタリーを紹介しておきたいと思います。

世界の四分の一のタンタル鉱石を産出するコンゴ民主共和国(旧ザイール)の情勢を追った番組です。私たちが普段手にしている携帯電話に含まれる希少金属がどういったところでどう採られているか、その一例を見るのにちょうどよいと思います。今はこの番組をお見せする時間がありませんが、もし何か機会のある方は是非ご覧になってください。コンゴでは内戦が続いている状況で、周辺国がそれに介入する地域もあるのですが、こういったタンタルの利権の争奪が紛争を長引かせている原因の一つであるとこの番組では結論づけています。重要なエネルギー資源である石油といったものを巡っての軋轢が世界でよく見られるように、金属資源、特に希少金属でも同じような状況が発生していることを理解できる番組だと思います。

さて、タンタル以外にも多くの金属が携帯電話には使われています。携帯電話の場合は銅が一番多く、また金や銀も入っています。そういったものの含有率が鉱石の含有率よりも高いので、不要な携帯電話を鉱石と同様、もしくはより優れている重要な資源として見ることができます。ですから資源の有効利用としての回収やリサイクルの必要性がある、ということができるのです。
それでは、不要になった携帯電話がどういったところへ流れていくのかの実情についてお話ししたいと思います。


4.使用済み携帯電話がどのように扱われるか

次に携帯電話が使われた後に廃棄、あるいはリサイクルされるという段階を見ていこうと思います。

4.1携帯リサイクルの現状
4.2課題として何があるか
4.3より良いシステムの構築
4.4使用済み携帯電話のまとめ


という視点から調べました。

4.1携帯リサイクルの現状

まず、現状からなんですけれども、いきなり携帯電話をリサイクルするというと、イメージが湧かないかもしれませんが、基本的には自治体などで携帯電話を回収してリサイクルするということはほとんどなくて、いわゆる機種交換する際に先ほど言った販売代理店で不要になった端末を交換したときにそこからリサイクルが始まります。つまり、リサイクルショップに持って行くというかたちではないです。いま現在キャリアーの種類はDoCoMoやau、J-PHONEなど、多くありますが、どこのキャリアーに持っていっても同じよう回収されるシステムとして「モバイルリサイクルネットワーク」があり、それだと自分がもともとはDoCoMoでJ-PHONEに乗り換えたとしても、新しい販売代理店で回収がされるわけです。

これはDoCoMoのHPにあるものなんですけれども、顧客が実際の窓口に行ってリサイクル会社を経由して資源として回収されるということが見て取れると思います。基本的にはDoCoMoの窓口からリサイクル会社まで、窓口つまり販売代理店である程度の量がためられた後に宅配便などで送られているようです。私達も渋谷のDoCoMoやJ-PHONEで聞き取り調査をしたのですが、一ヶ月に宅急便を約1箱程度に倉庫にまず送り、そこからリサイクル会社に送っています。

さて、先ほども言いましたが、現在の携帯電話・PHSの加入者数は合わせて約8200万台あり、固定電話が約6100万台なので大幅に上回っています。そのうち廃棄される量は約3750万台あります。回収された携帯電話本体の台数(平成13年度)は約1300万台、電池が約1200万台、充電器は約420万台回収されています。データを調べたときも、実はこのようにおおまかな値ではなくて、1の位まできっちり調べられていることに驚きました。例えば、平成13年度に携帯電本体は13,107,173台回収されています。*1
それぞれの回収率がどれくらいになるかというと、

本体 :35.2%
電池 :31.7%
充電器:11.4%

となっています。

次に先ほどの図で言うと、販売店から非鉄金属メーカーを見ていきたいと思います。廃棄された携帯電話はここでリサイクル原料として扱われ、1トンあたり15万円程度のお金で売買されています。*2など
ちなみに、携帯電話1トンには端末が約1万台含まれています。
その売買が行われる際にどちらがお金を払っているかというと、販売店ではなくて、非鉄金属メーカーが買い取っています。つまり、廃棄された携帯電話は有価物として買い取られており、キャリアーには1トンあたり約15万円が入ってくるわけです。

非鉄金属メーカーに到着した携帯電話がまず受ける工程は選別です。これは携帯電話を構成部品ごとに分ける工程です。ただし、ドコモの場合だと、倉庫に集めで分別した後にリサイクル工場に送るそうです。
さて、ここからは携帯電話のリサイクルをしている企業として主に小坂製錬を例にとって話していきたいと思います。
選別が行われた後には破砕という工程があります。これは携帯電話を約2cm以下の破片に粉々にするものです。
この図(図は省略)は、リサイクルのプロセスではなくて、小坂製錬で行われている銅の精錬の工程なのですが、破砕した携帯電話の端末をこの銅の炉に入れて、そこからは完全に銅の精錬の工程にのっとってリサイクルが進められます。最終的には電解製錬により、純度を高めて希少金属を回収します。

最終的にどの程度の希少金属が回収されるかというと、おおまかな値ですが廃棄携帯電話1トンから

金:0.15kg
銀:3kg、
銅:100kg

でそれぞれ1トンあたり0.03%、0.3%、10%回収されるということです。あと、パラジュームという貴金属が100g回収されます。*2など

これらの回収された希少金属は合計約40万円に相当します。 つまり、非鉄金属メーカーが得ている利潤は、 「メタル価値(40万円)−購入額(15万円)−製錬・販売・管理コストetc」 であり、非鉄金属メーカーにとっては廃棄携帯電話は価値のあるものとして扱われていることが分かります。 もちろん利潤が出るのはこの式の結果が正である時に限られ、実際、端末本体はかろうじて有価物としての価値が残せる程度だそうです。*4

非鉄金属メーカーは、このメタル価値を求めるために「分析」という作業を行っています。実際の携帯電話は銅の炉に入れてしまうので、1トンの携帯電話からどの程度の希少金属が得られるのか細かい値が得られないからです。 実際にこの分析という工程を行う際には、携帯電話をパウダー状にし、さらさらにしてしまってから実験室のようなところで確認しています。

このように、携帯電話のリサイクル方法としては銅の製錬のフローに入れてしまうのが一般的です。ですから一度破砕して銅の炉に入れた後は特に何かをする訳ではなく、通常の銅の製錬と同じように処理されています。 これは小坂製錬の場合ですが、ここでは、例えば3万トンの銅鉱石を処理する際にはリサイクル原料が1500トン含まれ、そのうち携帯電話が占める割合はリサイクル原料1500トンのうち1%にも満たない状況です。また、携帯電話の他にリサイクル原料としては電線に含まれている銅などがあります。ですから携帯電話をリサイクルしているというよりは銅の精錬に破砕した携帯電話を加え、そこから希少金属を得ていると言ったほうが理解しやすいフローかと思います。

ここまで説明してきた銅の精錬に加える方法がほとんどなのですが、横浜金属というところでは他の方法も取っています。非鉄金属メーカー、つまり携帯電話のリサイクルをしているところは全国に10数社あるのですが、その中で一番大きなところが横浜金属です。ここは工場自体は小さいのですが、携帯電話のリサイクルに関してはシェアが一番大きいところです。 そして横浜金属では製錬工程に加える方法のほかに次のような化学的な方法でも希少金属を取り出しています。化学的な方法は、私達は実際には見ていないのですが、先ほど言った分析の工程を大規模にしたようなものだと考えられます。

この方法に使われる王水というのは一応高校の化学で習うもので濃硝酸と濃塩酸を使った強力な酸化剤です。化学的な処理の特徴としては、炉に加える方法では燃えてしまうプラスチックを回収できるということです。ただし、プラスチックを回収できると言っても、コストはかかりますから、実際に回収を行うかどうかはキャリアーの指示で決めるとのことです。具体的には分別の工程でプラスチックを分けるのに余計にかかるコストが問題となります。

さて、ここまで言ってきたのが代表的な2つの例の方法、銅の精錬に加えるものと化学的なものです。

4.2課題として何があるか

現在のこの処理方法に関して何が課題としてあげられるか、ということを次に考えたいと思います。
課題としてここでは次の4点を考えてみます。

1. 回収率低下
これは不要な携帯電話をどの程度回収できているのか、先ほど言ったように携帯本体でも30数%しか回収されていないものをどうするのかというのがまずあげられます。

2. 法的課題
これは、携帯電話を有価物として扱うか、あるいは廃棄物として扱うかによって現行の法律が障害になりうるというものです。

3. コストの増加
もちろん回収率を上げれば、キャリアーが廃棄された携帯電話の回収にかけるコストも増します。この点についても考える必要があります。

4. バーゼル条約
これは課題ではないのですが、紹介のためです。


1. 回収率低下

まず、1点目の回収率の低下に関してです。現在の回収率は以前に比べて下がってきています。例としてドコモを取り上げると、2003年度上期の携帯電話・PHSの回収数は422万台であり、この数値は前年同期の約80%となっています。回収率が下がってきている理由としては、2つ大きなポイントがあると思うのですが、まず、先ほど説明したように写メールやiモードなどでダウンロードしたデータをそのまま手元に残しておきたいという人がいるということがあります。また、iアプリなどでアプリケーションをダウンロードして使用済みの携帯電話をゲームボーイのようにゲーム専用のものにする人がいます。

2点目のポイントは「一人複数端末」です。これは、例えば現在ドコモから出ているFOMAがそうです。携帯電話そのものに取り外し可能なチップが入っておりそこに住所録といった個人情報が入っており、新たな端末を買った際にもチップさえ入れかえれば使えます。

私達が考慮した要因は主にこれらの2つだけですが、使わなくなった端末をわざわざ戻す必要がないという状況は今後も続き、回収されずに社会に出回る携帯電話の数はこれからも増えつづけると考えられます。

2. 法的課題

次に廃棄物を取り巻く法律についてですが、現在ですと、キャリアーから非鉄金属メーカーへ売買される際には、携帯電話はごみではなく1トンあたり約15万円という値段で売られる有価物ですが、携帯電話の構成物が変わったり希少金属の市場価値が変わると15万円という価値が下がる可能性があります。その場合、コストとの兼ね合いから携帯電話は廃棄物として扱われ、現行の法律だと携帯電話は産業廃棄物の処理の許可をとることが求められます。その際に何がまずいのかというと、「産業廃棄物」とみなされた携帯電話は手で扱うことが認められず、破砕や炉に加えるという方法をとるにしても異なった許可をとることが求められという点です。このように、「手による解体」が許されないと、廃棄物発生を抑制するために有効なリサイクルは対応できません。
携帯電話は今資源ですが、廃棄物との境目をさまよう恐れもあります。再資源化処理と廃棄物処理という2つの法律の適用のすみわけにおいてはこんな課題もあることが分かります。*4

3. コストの増加

課題3つめのコストの増加ですが、例えば去年のドコモの資料によれば携帯電話の回収などに17億円かかっているそうです。これは非鉄金属メーカーに廃棄携帯電話を売った後でも赤字になる数字です。37%の回収率でこれだけコストがかかっていますから、これから回収率を上げたとしたら、上げれば上げるほどキャリアーにとっての負担は増します。確かにキャリアーが「私達は環境問題に無関心ではありませんよ」という姿勢を消費者にアピールすることができるかもしれませんが、ここまでのコストをかけてキャリアーが回収率を上げるかどうかは各キャリアーが判断することになります。すると、今の状態では大きなコストを払ってでも回収率を上げようというインセンティブが働きに、現状のまま特に回収率が上がらなくても構わないという結論をキャリアーが持つ可能性があると思います。

4. バーゼル条約

4つ目のこれは課題ではないのですが、参考とするために見てみます。バーゼル条約自体はOECD及び国連環境計画(UNEP)で検討が行われた後、1989年に結ばれたもので、「有害廃棄物の国境を越える移動についての環境上適正な管理に関しての取り決め」に関してのものです。これは平たく言えばごみを他の国に輸出してはいけない、といった内容ですが、2002年12月に議題以外の事項(サイド・イベント)として、「携帯電話に関するパートナーシップ」が結ばれました。これは、松下、ソニー、NEC、セイコーエプソンなどの携帯製造メーカー10社と条約事務局及びUNEPの主導で、使用済み携帯電話の回収と再利用を検討していくプログラムです。
さて、この条約を踏まえて、日本が携帯電話のリサイクルにもっと力を入れるべきだ、という理由としては他にも、日本が携帯電話のリサイクルシステムをひとつ提示できるということがあります。
この条約も、携帯電話が深刻な問題になるから今のうちに取り決めを決めておこうというよりは「世界中の携帯電話は、3億8千万台使用されているが、重金属など有害廃棄物は40トンに過ぎず、危険な状態にあることから取り組むというより、便益普及とリスク管理を先駆的に進めるためのもの。」とあります。

つまり、私はここまで携帯電話のリサイクルについてしゃべってきましたが、重要な点は、日本における環境負荷の低減のみではなくて、もちろんそれもありますが、使用済み携帯電話のリサイクルを進めることによって日本が循環型社会へ移行する意思を十分に持ち合わせているということを国の内にも、外にも示すことができるという点です。実際、世界の中に携帯電話のリサイクルを法的に整備した国はまだないということもあります。もちろん、循環型社会そのものが果たして日本の目指すべきものなのかという点についての議論は重要ですし、循環型社会への移行にもコストがかかります。ただ、中途半端に終わらすのではなくて循環型社会に移行する意思があるのであれば、環境負荷を低減するということと合わせて日本が携帯電話の回収に取り組む理由には十分なると考えます。


4.3より良いシステムの構築

課題を4点ほど考えてきましたが、次にどのような改善すればいいのか、どのように改善すればいいのという点に移りたいと思います。その際に私達が考えたのが、

1. いかにして回収率を上げるか
2. その際のコスト増加を誰がどのようにまかなうのか


ということです。

1. いかにして回収率を上げるか

一点目に関して、いかに回収率を上げるか、ということですが、これにはデポジットという方法があります。デポジット制度とは、皆さんも知っているかと思いますが正確にはDeposit Refund Systemといい、製品本来の価格にデポジット(預託金)を上乗せして販売し、所定の場所に戻された際に預り金を返却することにより、回収率を上げようというものです。 実際に社会で成立しているデポジット制度としては、例えばビール瓶があります。ビール瓶はデポジット制度を利用していて、その回収率は非常に高く、実際に循環しています。ビール瓶のデポジット制度は法律では義務化されていないのですが、メーカーにとっては回収した瓶を利用したことによって新たな瓶を作らなくてすみ、その結果として、コストを大幅に抑えられるというインセンティブがメーカーには働くために企業も制度が成り立たせようという意識が働いています。しかし、使用済みの携帯電話から新たな携帯電話を作るわけではないし、導入に関して大きなインセンティブが生まれるわけではないためにキャリアーには直接のメリットがなく、キャリアーの自主努力に委ねられているのが現状です。

2. その際のコスト増加を誰がどのようにまかなうのか

2点目の処理費用をどのようにまかなうのかという点ですが、私達は消費者による前払いと後払いの二通りに絞って考えました。結論から言いますと、前払いのほうがいいのではないか、ということになりました。なぜ携帯電話に前払いを適用したほうが好ましいのかというと、不要な携帯電話が不燃ごみに出された場合も各消費者が負担を負うことができるからです。後払いですと家電リサイクル法などが例としてあるのですが、正式なルートを通らずに廃棄されると処理費用を回収することができません。
また、現在既に出回っている携帯電話の処理費用に関しては各端末の所有者を特定することが可能ですから、処理費用の回収をすることができます。

4.4使用済み携帯電話についてまとめ

携帯電話のリサイクルは、主に次の3点の意義があります。
まず、携帯電話から貴金属を回収することが可能だということです。これには地球上の資源を有効活用するという意味もありますが、他に、金属が量的には恵まれていない日本でも金属の循環量を増やすことによって先ほどあったコンゴなどの政情の不安定な国への依存度を減らし、安定した日本の経済、社会を作り出すために意味があると考えられます。
また、日本が循環型社会に移行するつもりであるならば、その意思を示すのに良い機会ではないでしょうか。その際に、キャリアーのみに負担を求めるのは難しく、私達消費者も負担するべきではないか、そしてその際には行政の支援が必要であると考えています。

携帯電話の再資源化のように民間が積極的に関わりにくい問題にこそ、行政は関与する必要があるのではないかと思います。新たなテクノロジーとしての携帯電話がきちんと環境問題との関係性をもったものとして捉えられ、循環型社会の構築に向けた支援が必要だということです。


5.発表のまとめ

それでは、もう時間ぎりぎりになってしまったんですけれども最後にもう10分弱くらいでここまでの今回の発表の位置づけについて僕たちなりの考えというのをもう一度にまとめておきたいと思います。

始めは「モノと環境」という視点から携帯電話というモノに注目して出発をして、リサイクルについていろいろ考えてどういう風にしたらいいかということについて視点が行きました。結果として、この発表ではモノと環境ということからスタートして今までのリサイクルにどういった課題があって、どういった対策がある、ということをずっと話していたと思うんですが、発表直前になってメンバーの意識としてモヤモヤしたものがありました。言葉にしてみると、「リサイクルとかそういったところに視野が限られてずっとそっちのほうを見てここまで来てしまったんですけれども、それだけじゃあ不十分だよな」ということを強く意識した、ということでしょうか。
そこで、循環型社会についてと、携帯電話の機能による環境負荷についての二点、リサイクルに限らず私たちが感じたことをここで説明して終わりたいと思います。

 〜循環型社会を問う〜

まず端末を安く買えるという点でインセンティブモデルの説明があったと思うんですけれども、もう一度簡単に説明します。今、1円とか何千円といった値段で携帯電話がたくさん売られていると思うんですけれども、原価は3〜5万円もするものです。そういったものを私たちが安く買えるのはどうしてかというと、携帯電話が普及していない状況ではキャリアが加入者数を増やすために携帯電話を買うという初期投資にかかるコストを下げ、通話料や通信料に上乗せであとから回収するからです。加入者が増えればそれだけキャリアの収入は増えるわけですから、私たちは最初のきっかけ、端末を買うということに対するお金を割り引いてもらっている分、あとあとずっとキャリアにお金を支払うことによって販売店だったりメーカーだったりにお金を渡しているんだ、ということがあります。

新規加入者は減ってきているという話は最初にあったと思いますが、それでもまだインセンティブモデルが存在して消費が行われている構造は私たちが端末を安く買い換えられる現実からも分かりますし、消費の流れを後押ししていると言えると思います。

発表ではリサイクルということに目がいったんですが、そのまえにリデュース、リユースが重要であることを考えれば、廃棄されるモノの回収率をどうやって上げてどんなリサイクルが一番いいのか、というところばかりではなくて、携帯電話端末が故障して要らなくなったら修理するのではなくて買い替えてどんどん消費している現実に目をやる必要があるわけです。買い替えが進むと結果として大量のモノがでると思うのですが、そういう中で仮に回収率が100%になったとしても、それは循環型社会とは言えるかもしれませんが、大量生産大量消費ということに変わりはないわけで、そういう意味で問題は依然残るんじゃないか、とそういう風に考えました。

インセンティブがないと、製造する原価としての値段がかかります。韓国などではインセンティブモデルをやめているのですけれども、その場合、直接お金を消費者から取らなければいけないので、7万円の携帯電話といったものが実際に売られています。そうすると消費者に対しては長く使おうという動機付けになるので、モノのリサイクルという点ばかりではなくて、こういったところも見なければいけない。だから循環すればいい、出たものを戻せばいい、ということだけに注目するのではいけない、という問題意識をこれまで発表の準備をしてくる中で感じるようになりました。

そして、こういった点については来週講義していただく梶山先生のお話にもつながっていくことだろうと思います。


〜機能による環境負荷低減〜

いま、リデュースをすべきという話をしたんですけれども例えば自動車を考えますと、環境という要素と利便性といったものが綱引きをするわけですけれども、携帯電話の場合は機能の面を考えるとそう単純でもないのではないか、ということも見て発表を終わりたいと思います。

例えば、物流を考えます。現在、自動車による排出が日本の排出するCO2の20%くらいを占めています。その自動車を効率よく回すための技術としてITSというものがあります。携帯電話とカーナビゲーションをつなげて、最新の交通状況といった情報を得られるようになれば、渋滞の緩和につながります。それはCO2の排出削減に役立ちます。
例えば東京から大坂に物を運ぶ場合、帰りに何も載せずに帰ってきてしまえば効率は悪いですが、帰りにセンターへドライバーから運行状況を伝えて指示を仰ぐことで荷物を載せられれば、単純に考えると効率を2倍に上げられます。
そして自動販売機の遠隔管理というのは、自動販売機に携帯電話の端末を設置することができまして、それでどれがどれだけ売れているかわざわざトラックで見に行かなくても知ることができる。効率的な配送計画をたてることができます。

また、人の流れについてですが、FOMAなどですと、テレビ電話ができましてそれを多人数ですることでテレビ会議が可能になります。今の会議はどこかに集まって開かなければなりませんが、テレビ会議が可能になれば会議の場所へ移動せずに済みます。
テレワークというのはわざわざオフィスまで行かずにインターネットなどを用いて仕事を行うという形態のことですけれども、こういうものも考えられます。またモバイルコマース・モバイルショッピングなどもあります。

最後に脱物質化です。たとえば音楽を聴くときはCDを買ってきてCDプレーヤーを使って聞くわけですが、インターネットを通じて携帯電話に配信されるようになればCDやプレーヤー自体が必要なくなります。
また携帯電話単独の機能としてカメラがあります。カメラの役割を携帯電話ができればカメラが必要なくなる。その分モノが必要なくなります。携帯電話の製造段階の環境負荷を上げるということはあると思いますけれども、携帯電話がカメラの役割を果たすようになればカメラ独自の物流はなくなります。

機能を付け加えればそれだけ製造段階の環境負荷は増えることになりますが、うまく使うことで環境負荷を減らすことができる、というのが携帯電話の特殊性といえると思います。

自分達も調べているときはリサイクルだったりよく言われるモノ自体が関わる所に目がいったんですけれども、リデュースだったり機能だったりという一見目を向けにくいような所にむしろ重要性があるのではないかと感じました。

以上、拙い発表でしたがご静聴有り難うございました。


6.丸山先生よりコメント

三四郎の皆さん、短い間にたくさん調べて立派な発表をしていただいて有り難うございました。そして皆さんも最後までお付き合いいただいて有り難うございました。

もう結論は学生の諸君が喋っちゃいましたので付け加えることはほとんど何もないです。

聞いていて面白かったのは、リサイクルだけにこだわると他が見えない、むしろリサイクルにこだわって調べた結果、その他のところに大きな問題がある、と発見できたということがこの調査の一番の眼目だったんじゃないかと思います。

携帯電話を廃棄物というよりも資源の塊とみなして貴金属を取り出す、というところなどとても面白かったですね。でも、もうちょっと貴金属市場の今後の動きと連動させてみると良かったかと思います。本当に携帯電話はごみになっちゃうのか、貴金属の価格は下がっちゃうのだろうか、というところが今日の発表ではよくわからなかった。発表の前半と後半でちょっとギャップがあって、後半部分は貴金属価格が落ちるということを前提として、携帯電話を1トン15万円で買ってくれなくなったらどうなるか、という前提で話をしていたけれども、もしかしたら40万45万と上がっていくかもしれないので、そういった市場の動きなども含めればなお良かったんじゃないかと思います。

それから、最後にリースという「L」という考え方も含めるとよいと思いました。


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*1:電気通信事業者協会
*2:「携帯電話のリサイクル促進に対する行政の役割について」住尾健太郎(PDF:79KB)
*3:アサヒ・コム 
*4:「使用済み携帯電話のリサイクル」“経済Trend” 2003年4月
参考資料他多数

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環境の世紀の掲示板の「Re:第十回・感想表抜粋」もご覧下さい。

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