自己紹介
ご紹介いただきました井手と申します。ご紹介ありましたように私独立行政法人農業環境技術研究所というところで生物環境安全部というところに所属して、研究しております。独立行政法人て最近良く耳にされる言葉かもしれません。大学も独立行政法人化が叫ばれてるところです。私どもはもともとは農林水産省に所属し、農林水産省の試験研究機関として2年ほど前まで研究していたんですけど、組織変わりまして、2年前から独立行政法人ということで研究を進めております。一方で私先ほど紹介ありましたように、農学研究科の生圏システム学専攻というところで連携併任、併任というのはもともと主たる業務が独立行政法人にあるんですけど、ということでそちらの方でもときどきゼミにでたり、あるいは講義をやったりということをやっております。本日はこういった形でみなさん学生さんたちと話ができるということで大変光栄に思ってますし、また、私がやってること、あるいは私がやってることの周辺で、中身を紹介しますけどそれに興味持っていただければ、と思っております。
講義の3つのポイント
私今日お話ししますのは人為が育む自然、ということで、スクリーンを見ていた
だきながら話を聞いていただければと思います。今日3つほどお話を用意しており
ます。常識を見つめなおすということが一応私に与えられた一つのテーマでござ
いますので、それぞれについて普通はこう考えているんだろうけどそうじゃない
んだよというところを紹介できればと思います。
一つ目は農村の二次的な自然。これ二次的な自然というのはいわゆる原生的な自
然ではない人の手が加わった自然というんですね。それは私達の身の回りに今で
もたくさん樹林がある、あるいは緑があるように見えるんですけど、実はそれは
昔からずっと同じように樹林だったわけじゃない、ということを一つご紹介した
い。草地だったという地帯もあるし、畑だった地帯もある。それが、今は手が加
わっていないので林というような形をしている。
それから二番目に植生の出来上がり方ということで、植生って言う言葉が専門的
な言葉で、植物が集団として集まっている状況ですね。その状態がどうやって出
来上がるかという中で、植生が遷移する、サクセッションという概念がありまし
て、一応定式的に植生が移り変わっていく様子がモデルとして示されていますが
、必ずしもですね、そういうふうに植生って移り変わらないことがある、という
のは、今日のテーマであります農村の景観、要するに周辺のですね、その植生の
置かれた周りの状況に左右されて植生も変わっていくというような話、をしたい
と思います。
それから三つ目、以外かもしれませんが、最近自分のとこの研究室でやってる話
なんで、是非御紹介したいと思いまして話をしますが、セイヨウタンポポ、以前
から都市化が進んだ場所によく生えていて、もともと日本にあった、ここらへん
でいうとカントウタンポポがどんどん生育地を追われて、減ってきているのじゃ
ないか。だから、セイヨウタンポポがたくさん生えてるか、日本に昔からある日
本産のタンポポがたくさん生えてるが調べることでどれくらい都市化が進んでい
るか、という都市化の指標あるいは環境指標として使えるんじゃないかと言われ
てきたんですが、実は、セイヨウタンポポだと思って私達が見てたものが、形で
見分けますので、実はその日本産のタンポポとセイヨウタンポポがかけ合わさっ
てできた雑種だということが最近わかってきたんですね。私達がセイヨウタンポ
ポと思ってみていたものの多くがが純粋なセイヨウタンポポじゃなくて、雑種で
した、そういうデータが集まりましたので、そういう話もしていきたいというふ
うに思います。
1.二次的な自然
二次的な自然という時にですね、皆さんも耳にすることが多い言葉だと思います
が、身近にある、あるいは郊外の緑を大切にしようという話の中で、里地里山あ
るいは里山という言葉がよく出てくる。里地里山って言葉が始めてきちんと定義
されたというか使い始めたのが去年の3月に閣議決定しました新生物多様性国家戦
略、その中で使われてる言葉です。その中で里地里山というのをどういうふうに
定義しているかというと里地里山というのは「都市域と原生的な自然、いわゆる
深山幽谷と奥山、という感じのところですね、人の手の加わってない自然との中
間に位置して様々な人間の働きかけを通じて環境が形成されてきた地域、集落を
取り巻く二次林とそれらと混在する農家、ため池、草地、等で構成される地域」
を言います。でそれを構成している二次林が約日本の国土の中に800万ヘクタール
、農地等含めると約700万ヘクタールで国土の約4割程度を占めています。です
から、この部分を生物多様性保全のためにこれから何とかしていきましょう、と
。これまでは手がついていない全く人手の加わってない原生的な自然というのを
重点にして生物多様性の保全というものを考えてきたけれども、里地里山のほう
にも目を向けていきましょうという話になってきております。で、最初のスライ
ドでお話したように農村の二次的な自然というのはまさに里地里山にあるもの。
里地里山、これ農村という言葉に置き換えても、そんなに違いないわけですよね
。そういったところで農村の二次的な自然=里地里山ということで考えていきた
い。で下に注釈がありますが、「一般的に主に二次林を里山、それに農地を含め
た地域を里地というが、言葉の定義は必ずしも確定しておらず、」定説がないと
いうことでここではこれを里地里山という、というふうにわざわざ注釈がつくほ
ど新しい言葉ということになります。実際、里地里山の中心となっている二次林
がどういう状況になっているかというと、これが、紺で書いてあるところが今の
二次林の状態ですね。赤が今の状態でほったらかしにして人が手を加えなかった
らどういうふうな林になってくかというのが書いてある、遷移が進んでどうなる
かということが書いてある。で、ミズナラ林、これが寒いところですね。水平方
向で言うと福島県よりも北側で、垂直方向、高いところ、標高1000m以上という
環境を想像していったわけですが、そういうところに生えてる二次林です、これ
が180万ヘクタールあるけれども、手を加えなくなるとブナの自然あるいはミズナ
ラの自然に帰る。でここら辺で一番多いのは2番3番だと思うのですが、コナラ林
、手を加えないと常緑広葉樹林に変わってしまいますよ。あるいは、手を加えな
くなったときの状況によりますけど、竹とか笹がはえていて森林構造の単純化じ
ゃないですが、とてもじゃないけど森林と呼べないような形になってしまう、人
の入れないような藪になってしまうというようなことが考えられている。こうい
うコナラの林が全国に約230万ヘクタール。それから、アカマツ、これも同じよう
に手を加えないと常緑広葉樹林。これが230万ヘクタール。シイ・カシの萌芽林、
これが西南台地ですね。和歌山の方とか九州の南の方。こういったところは人が
手を加えてもコナラとかミズナラ林といった落葉広葉樹林になりませんで、常緑
広葉樹林の萌芽林という形で、これも残念ながら自然林に移行する、もしくは特
に最近鹿児島あたりではひどいみたいですが、竹が侵入してぜんぜん違う林にな
ってしまう。こういった状況になってます。こういう状況になってますけども、
この二次林がどういう位置にあるのかを考えてみたいと思いますが、まず里山と
いうは、二次林とほぼ同義である里山というのは、本来の意味で言いますと、雑
木林など樹種的概念ではなく、雑木林といったり二次林といったりいろんな言い
方するんですけど、奥山に対する、これも空間的な概念ですが、過去の利用の方
法が焼畑であったり、採草地であったり、非林地ですね、林でない場合を言いま
す。従って里山とは「地形的な特性や植生の違いに関わらず、歴史的に農村の人
間が薪炭、肥料、飼料や、その他の生活資材の供給源として利用し、管理してき
た人里の近くにある二次林や二次草地など二次的な自然」というふうに理解する
ことができる。ですから現在林の形をしているんだけど、手を加えなくなったこ
とで、だけども実はつい40年前あるいは30年前、40年前、50年前まではいろんな
形として利用されていたものです。だから必ずしも樹林の状態とは限らない、そ
れが里山です。それを簡単に図にかきますと、農村の集落というのはだいたいこ
うなる。
里山と書いてあるこれが、ある時間断面で見たときに樹林であろうが草
地であろうが関係なく里山と呼びます。で、こういったものは二次林と呼んでい
るのも同じような意味、雑木林、これもちろん二次林。人の手が加わったものも
二次林という。で、これからここまではいわゆる農村になるわけですがその部分
を里地里山という。で、ここの部分が最近生き物との関係でここの部分に生きて
きた生物が非常に減少している。なぜ減少するかというと簡単に説明しますと、
農業が変わってきたりして農村の生活が変わってきたりするのでこうした地方の
環境も変わりますので、こういったことで生き物も減少したり、あるいは変質し
たりする中で生物多様性も考えなくてはならない、というのが一番最初に言って
きた生物多様性国家戦略、新しいバージョンの、変更、以前のバージョンから変
わったところ。例えば放牧地では放牧圧を加えてやる、あるいは稲を植える、植
生をいったん交代させる、言うようなことの中に、そういう環境に密着して生き
てきた、ちょうちょの類ですね、ちょうちょの類が非常に最近減ってきていると
いうのが報告されている状況です。
簡単に二次林てどうなっているんだってのを説明します。コナラ林が樹冠を覆っ
ていて、あるいはコナラよりすこし湿ったところにいくとクヌギというのが生え
てて上を覆っています。だからコナラとかクヌギというの関東での植生。そのひ
とつすこし下にクリが生えていたり、あるいは常緑広葉樹も生えてくる。でガマ
クリとかこういったうのは林のの入り口、林のへりに脇から光が入ってくる明る
いところに生えてくる。こういったものが並んでいます。こういったものは定期
的に下草を刈ったり、あるいは木を伐採したりかってはやってましたのでこうい
った状況が続いてますが現在何もやってないので、そのとき残っていたアズマネ
ザサですね、これが繁殖が根だけで増えられるものですからどんどん下を覆って
しまって他のものが生えてこれない。で、クヌギ・コナラ林ってどんな管理をし
てきたか。まずクヌギやコナラというのは炭として使ったりしてましたので10年
から25年の周期で伐って、でこれ萌芽林更新といいますけど切り株から生えてく
るのを育てていく、で大きくなったものを残してまたここで回収するわけです。
だからこういう周期が続いていればクヌギやコナラの大木だってなかったわけで
す。その間に下草を刈って、この刈った下草を田んぼや畑に入れて肥料を、とい
うことを続けてきた。こういうのは1960年以降燃料革命、化学肥料革命ありまし
て使わなくなったということもあって、で、ほったらかしにする、要するに農業
とこういう林の関係がですね、なくなってしまった状態ですね。そういうことで
放置されて、先ほど言ったようにアズマネザサが下を優先したりあるいはコナラ
の大木になってですね、あるいはアズマネザサしか生えていない、または常緑広
葉樹になってしまう、そういう状況になっている。
で、じゃあ今そういう状況になっているけども、もともと二次的な自然と呼ばれ
ている部分先ほどの雑木林も含め、草地もそうです、生態学的特徴は何かってい
うことを考えてみると、まず一つはパッチ状に分布する空間的なモザイクを形成
する。何がパッチ状かというと生物の生息空間ですね、生息地がパッチ状に分布
しているという特徴。それから人為的な攪乱によって時間的なモザイクを形成す
る、こういった特徴です。時間的なモザイクって何かといいますと人が手を加え
ますから、遷移が前の状況に戻ってしまう。ですからいくつかの遷移が進んだ植
生、遷移が進んでない植生、といったものがモザイク上に張り付いてるという状
態。この2つの特徴に支えられて生息しているのが里地里山の生き物だ、というふ
うに考えることができる。
空間的なモザイクの例
- 小規模で散在している樹林。山の中に、何ヘクタールの敷地で樹林があると
いうことはまれでだいたい飛び石状に樹林がぽつぽつとある。
- 谷津の谷頭に作られたため池。分散して、小さな水面である。
時間的なモザイクの例
- 雑木林の管理、周期的な伐採更新で植生が、遷移が前の段階に戻る。あるい
は下草だけすると下草、林床の部分の植生が変わる。そういう成長段階の違 う植生が隣り合わせに並んでいるという特徴。
- 水田のあぜのところは毎年草刈をしたり、あぜ抜きをしたり先ほど言ったよ
うに採草放牧地も手入れをしたりあるいは放牧圧が加わったり。そういうこ
とで攪乱の強度が強いところと弱いところ、あるいは攪乱しないところ、そ
ういった違いがあって時間的なモザイクが出てくる。
- 水田も、耕地したり田植えしたり稲刈りしたりしてるということで一年間ぜ
んぜん違う。一年間の中でも時間的なモザイクはできる。
そのなかにこういう特徴で生きられる生き物が持続してきた、それが変わってき ている。
事例
日浦地区の森林の航空写真の紹介。1905,1960,1988年の順にじょじょに樹林が
ブロック状に散在していたのそれぞれが小さくなって点在するようになってしま
った。こうなると生息地としている生き物が相互に行き来できなくなる。また規
模の縮小により生き物が住めなくなる空間も広がっていくので点在化することで
生き物にとって大きな問題となる。
1947年の東京をアメリカ軍が撮影した航空写真の判読。農業の土地利用のロー
テーションで時間的なモザイクができていたものが、ローテーションがなくなっ
たことで小規模化した、しかも林齢がそろった樹林が残ることになり、同じ場所
の1988年の空中写真では若齢のパッチの数が減り、壮齢林ばかりになっている。
これはほうっておくと遷移が進んで常緑広葉樹林になる。非常に単純な植生にな
ってしまって明るい林床、林縁に生息するような生き物が保全できなくなってし
まうような状況になる。
人為的な攪乱によって農村の自然がはぐくまれているというときに、自然にも攪
乱がおきるじゃないか、といえる。まさにその通りで人間が手を加えなくても河
川の氾濫や山火事など自然による攪乱が起きます。何が違うかというと攪乱の周
期や規模、攪乱後の周辺からの種の供給が違うというところが特徴です。周期で
言いますと雑木林、10年から25年で伐採します。一定の周期があります。攪乱の
規模も同じです。大型の機械を使うわけじゃなかったので、家族、あるいは一人
、あるいは集落でできる範囲、規模でしか攪乱を与えられません。とうわけで人
為的な攪乱と自然の攪乱の違いは周囲と規模ということになります。それから攪
乱後の周辺からの種の供給ということになりますと、自然による攪乱ならまわり
に同じような自然がたくさん連続してあるのでとくに問題ないと思います。です
が農村の場合は生息地、あるいは樹林同士、草地同士が空間的に分散してありま
す。だから攪乱されていったんへこんだ後の生息地、そこにどれくらい種を供給
できるかが生き物を保全する上で問題になってくる。そのときいろいろな違う遷
移状態のモザイク状の植生が隣り合ってあっているということであれば攪乱で破
壊されたところと同じような植生のところにいったん逃げ込んで、回復する段階
で戻ってくることができるので、時間的なモザイクは非常に重要だということに
なります。自然の状態でも攪乱は起こりますというはなしをしましたが、これは
端的な例ですけど、ヨーロッパブナ、極相林がどうやって極相を維持しているか
という研究をした例なんですけど、一面に連続していると思われたブナの林が中
をよく見てみると内部で細かい攪乱が起きていて、一見自然度が高い極相林に見
えてる物の中でも小さいパッチがいっぱいあって全体で見ると極相状態が維持さ
れているように見える。全体が大規模に攪乱されると一様になることもあります
が。これは私の研究所の周りで孤立している樹林がどうやって種をやり取りして
いるかという研究。鳥が種を運ぶので樹林は相互に関係を持っていて、もともと
なかった種も入ってくる。何がいいたいかというと種がやり取りができる範囲で
な遷移状態がちりばめられてさえいればある樹林である植物がなくなっても範囲
全体で見ると持続できる。全部同じような土地になってしまうとそういうことは
期待できない。さきほどの写真の樹林も一見まとまって見える樹林ですが昔畑で
使っていた。これも放置すると畑として使っていた特徴を色濃く残していた植生
だったのが全体が同じ様な植生になってしまう。ですから適切に管理していかな
いと樹林なり草地なりという状態は保てないし、そういうところにすんでいる生
き物も保全できない。この話で最後に言いますと先ほど言いましたように1960年
くらいから農村、農業も大きく変わったわけですよ。それで生き物も変わります
。変わったのは生息空間が減った、その延長で分断化、それと均質化。分断化に
よって移動困難な生き物がでてくる。また分布拡大する範囲が狭いものがだめに
なる。均質化で何がだめなのかというと特定の遷移段階にしか生きられないもの
がだめになる。こういったことがどうやって起きてるかというと、農業で作業が
簡単になる→兼業化、管理から遠ざかる→管理粗放化→生息空間が小さくなる。
農業の規模の拡大→土地の改良→土地の条件が一様に。そういうふうに農業が変
わると景観も変わて生き物も変わる。生物多様性国家戦略というのもまさにここ
を何とかしたいという問題で、生き物を何とかするには農業をなんとしないとう
まくいかないでしょうね、という話。
こういったやりかたがあるのではという絶滅危惧種の植物タコノアシ保全の例
。 タコノアシは水がひたひたした明るい場所、休耕田に生える植物。ほっとくと
そのような場所にはヨシやセイタカアワダチソウが入ってくるので一定のエリア
での休耕田と水田のローテーションによって保全する。
2.植生の出来上がり方
植生の遷移というのを高速道路沿いでモニタリングしたという例。ススキの草原
→アカマツ→アラカシとなっています。ものの本には裸地から草原、明るいとこ
ろを好む陽樹、暗いところでも育つ陰樹という順に遷移すると言います。しかし
ススキの種はよく飛ぶんですね。アカマツも風で飛ぶ。アラカシはどんぐり、運
ぶのはねずみか鳥です。裸地には実際は入ってきやすいものが順に入ってくる。
子ならとかクヌギとかいう状態をすっ飛ばしているわけですね。だから遷移が進
むということの他に周りからどのよう種が供給されるかというのが大きなウェイ
トを占めてくる。特に農村の場合はです。そういうこと良くまとめた論文があり
まして、孤立したときの植生がどういう条件で植生がかわるかまとめたものです
けど、「Landscape Islands:農業景観や半自然的な地域・景観における島状の森
林。種数は、孤立化の程度や時間とともに立地の多様性や遷移系列上の位置など
に関係する。」。で、先ほど自分の研究所で鳥がどういうもの運んでくるか調べ
ているといいましたけど、ヒヨドリという鳥が年間ずっといて圧倒的に多い。小
さな林になると鳥自体があまり来なくなるので植物の方もあまり生えてこない。
こういった状況の中で樹林にエンジュという日本の自然林にないものがすごい勢
いで運ばれてくる。何を気をつけなきゃいけないかというと、雑木林とか二次林
をなんとかしようという保全活動をしようとするうえでまわりにどんな木が生え
ているかということを頭に入れとかなきゃいけないということですね。うまく手
を加えて二次的な状態を続けていてもですね、周りに変な木が生えてたら変な木
が生えてくるんです。目黒自然教育園でもアオキとかシュロとか大発生したとい
う報告もありまして、植生の出来上がり方というのはもちろん遷移がすすむとい
うこともありますけど、それと同じように周辺にそのような植生があるか、ある
いはもっと厳しく言うと周辺にどのような木があるかによっても変わってきてし
まうというのを考えていただければよいです。
ここで参考文献の紹介
- 武内和彦・鷲谷いづみ・恒川篤史編(2001):里山の環境学.東京大学出版会、
257p
- 守山 弘(1988)自然を守るとはどういうことか.農山漁村文化協会、204p
- 守山 弘(1997)水田を守るとはどういうことか.農山漁村文化協会、205p
他
3.タンポポ
ごく最近の話です。こういうことなんで調べるかというと、外国から持ってきた
動植物で日本に近いものがいれば交配してしまって遺伝的な混乱が起こってしま
うことがいわれている。
日本の例:阿蘇のハナシノブ、伊豆大島のオオシマツツジ
で、タンポポはどうなっているか調べてみたという話です。
今では小中学校でもとりあげてますが在来タンポポは総苞片がそりかえらない、
セイヨウタンポポは反り返る。在来タンポポは土地改変の影響が少ない環境、外
来タンポポは都市化が進んだ環境、ということで環境指標になる。繁殖様式の違
い、在来タンポポは2倍体で有性生殖、外来タンポポは3倍体で無融合生殖、単為
生殖ですね。クローン、要するに受粉しなくても繁殖できる。関東では在来種は
カントウタンポポ、関西ではシロハナタンポポですね。総苞片が反り返っていれ
ばセイヨウタンポポだと今までは信用していたわけです。それが2倍体の在来タ
ンポポを母親として、3倍体のセイヨウタンポポを父親とする人工交配実験では
わずかながら雑種個体が形成される、実際にそれ以前両者の雑種ではないかとい
う個体が見つかっている。この写真、これもこれもセイヨウタンポポに見えます
が全部雑種です。これぐらい形では見分けがつかない。ってことで完全な方法と
して葉緑体DNAで調べます。要するに葉緑体DNAというのは母方から遺伝すること
がわかっておりますので日本産が母親のものだったら雑種、セイヨウタンポポに
見えるものでも葉緑体調べて母方が日本産だとわかれば雑種だということがわか
ります。最終的には微妙なものもでてくるのでDNAの含量でおおまかなあたりを
つけて、葉緑体DNA確認して、最後は染色体の数、核DNAまで調べて雑種なのか純
粋なセイヨウタンポポというのを判別できる。調べてみると東京ではセイヨウタ
ンポポだと思っていたものの94パーセントが雑種、大阪では93、神奈川で98.じ
ゃあ日本全体ではどうなっているのか、日本全国からタンポポ集めるのは容易で
はありませんので、環境省がやってる身近な生き物調査のタンポポ調べ、3回目
で花と種を紙につけて送ってくれ、というのがあったのでその種をつかってタン
ポポを栽培してそのDNAを調べればいいんじゃないかということで環境省、生物
多様性センターに掛け合ってサンプルを使わせてもらった。位置情報もあるので
地図にも落とせる。栽培して955中844が生育、さすがは雑草少々手荒に栽培して
もこれだけ生き残るわけです。で、先ほど言った方法で、ミヤコグサと比較して
ゲノム含量も求めたりして、調べますと雑種の中にもいくつかあるということも
わかりました。で純粋なタンポポは15パーセントしかなくて、4倍体とか3倍体と
かの雑種が85パーセント。日本産はJJが減数分裂してJが来る、セイヨウタンポ
ポEEEは3倍体なんでうまく減数分裂できなくて、2倍体で来るときと3倍体で全体
が来るときがある。セイヨウタンポポの3倍体の精細胞EEEがくると4倍体の雑種
EEEJができ、2倍体が来ると3倍体の雑種EEJができる。都市の中でいち早く入っ
てきているのはこの4倍体の雑種であろうと考えられている。県別に集計してみ
ると雑種タンポポが多いのは神奈川、東京、埼玉、茨城。純粋なセイヨウタンポ
ポの割合が高いのは北海道、青森、岩手、鳥取、島根。これにはわけがあっても
ともとセイヨウタンポポと交雑する日本産タンポポというのは分布域が限られて
いるんです。ですからこういった場所で雑種が少ないというのはある意味当然な
んです。だけども雑種をつくる母親の日本産タンポポが分布しないとされている
地域にも雑種体はいます。これは雑種が侵入した可能性がある。で、純粋なセイ
ヨウタンポポは全国に分布している。雄核単為生殖、セイヨウタンポポのゲノム
だけでできてるものも九州南部には分布しないけどもあとは同様。4倍体雑種は
北海道や北東北に分布しないで首都圏、京阪神に集中している。3倍体雑種はさ
らに分布域が狭くて関東甲信越以南から九州北部に限定、在来種2倍体タンポポ
とほぼ重複している。それがこの図です。
緑で囲ってあるのが母親となる日本産タンポポの分布域です。推測ですが、3倍
体の分布域が日本産のタンポポの分布域と似ているのは日本産のゲノムの割合が
多いので性質を受け継いでる可能性が高いからだと考えられます。損しているの
はセイヨウタンポポ、むしろ日本産と交雑してしまって分布域が狭まって北の方
にいけなくなってる。雑種化することで日本産自体は変わってない、セイヨウタ
ンポポは多様化しています。ですから生息地として雑種と日本産タンポポが競合
しない限りこの場合は日本産を圧迫していることにはならない。ただセイヨウタ
ンポポの花粉が日本産タンポポにかかるわけだから受粉の機会が少なくなってい
るという可能性がある。またもしセイヨウの2倍体タンポポが入ってくればお互
いに受粉する可能性ありますから日本産タンポポも影響を受ける可能性がある。
今それぞれの雑種がどういう挙動を示すのかというのが今対象になっている。ま
たタンポポは環境指標になっているが、今のところ雑種を形態で見分けることが
できないので、形態で見分ける方法、また雑種が環境指標として使えるかどうか
も研究している最中です。この研究はずっと身近な生き物調査から始まってタン
ポポの研究を続けておられる平塚市の博物館の学芸員をやってる浜口さん、環境
省の生物多様性センター、身内でこの研究をしている方々、集計と地図情報まで
落としてくださっている財団法人の方々といっしょにやってきました。たんぽぽ
でいいましたけど、2番目の話でもやりましたが、外から植物を導入すると同じ
ような環境があれば当然そこに入っていく、さらに近縁の種類と交雑してしまう
と本来の日本の固有種まで汚染されてしまうので今後はそういうところもきち
んとつめていかなければならないのかな。で、特にこれから農村でもいろんな植
栽したりすることになるので農村の二次的な環境という中で取りあげていかなけ
ればと思っています。こういったところで終わりにしたいと思います。
学生からの質問
Q:西洋の種と日本の種で新しい雑種ができたということで汚染という言い方がしっくりこなかったんですけど。
A:新しい種ができたというのは確かです。ただそれがもともとの在来の遺伝子の組成を変えてしまう、それはそのまま並存できないから問題なのです。
Q:在来種を守る必要があるのかと疑問に感じたのですが。
A:必要があるからやってるんだと思います。不可逆の過程ですね。生物多様性の
種のレベルと遺伝子のレベルの問題でなくしてしまうともう作れない。使えるか
使えないという問題ではないし減っているから守るという問題でもない。その存
在を不可逆的になくしてしまうのはやっちゃいけないと思うから保全しているの
です。
A:外国に日本の植物が入ってきて雑種が生まれたということがあるのですか。
Q:遺伝的な汚染まではわかりませんが問題になっているのはイギリスに持ってい
ったオオイタドリ、アメリカに持っていったクズ。イギリスに植生の専門家とし
て行くと現地の人からお前の国からもってきた変な植物がとんでもないことにな
っているぞというふうに言われる。それが向こうにあったイタドリと交雑したか
は知りませんが多分問題になってるんではないかと思います。イギリスからオオ
イタドリの遺伝的な調査に来てたくらいなんで。クズは問題はないかと思います
。
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