世界の食糧需給の見通しには世界銀行などによる楽観論とレスター・ブラウンに代表される悲観論があるが、両者の依拠する前提条件の隔たりは意外に小さい。楽観論と悲観論の双方ともにポイントだとみるのは農業の技術進歩であり、環境制約の強まりである。一方、楽観論・悲観論がいずれも明示的に考慮していない要素として、極端に偏った所得分配の改善による食糧需要の増加がある。環境保全といい、貧困の克服といい、人類にとって望ましい状態に近づく努力が実を結ぶとき、それは食糧需要の逼迫の度合いをいっそう強める作用を持つ。私達は大きなディレンマのなかに生きている。