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舩橋晴俊先生事後企画・質問会




Question

 受益圏と受苦圏の分離の問題でよく言われるのは、東京で電力を必要としているのならば東京に原子力発電所を作ってしまえばよいという考え方があると思いますが、それについてどう思われますか?


舩橋先生のホームページ

事後企画の様子
事後企画の様子
Question

 つまり自区内処理原則のような考え方ですね。受益圏と受苦圏を重ねるという方法は基本的に正しいと思います。受苦の側面を受け入れながら受益を追及するというのは筋が通っています。しかし受苦の側面は自分達は引き受けなくて、それを政治的・経済的に弱い地域に押し付けることは間違っていると思います。東京に原発を作るのが嫌ならば、どの地域でもそれは嫌でしょう。
 授業中に環境負荷の外部転嫁が環境負荷の際限ない増大と相互促進的だということを言いました。それを裏返せば、環境負荷を抑制しようとすれば、環境負荷の内面化とセットにしないといけないと言うことです。循環型社会などというものは、環境負荷の外部転嫁が行われている内は実現できないと思います。




Question

 授業中社会的ジレンマに対しては技術的解決はできないことがあるとおっしゃったが、社会規範によって環境問題に取り組むとはどういうことか。


Question

 3つの政策原則があると思う

1、(マクロな視点から)環境容量>環境負荷(Σ)《汚染、枯渇、混雑等》
2、(ミクロな視点から)個別主体の合理性の追及→その帰結の社会的集計が環境容量内に収まる
3、そのような社会的規範の作用を通して、消費者に対する通常の財やサービスが「環境負荷軽減的な構造化された選択肢」になること
例:炭素税、原生資源使用課税、使い捨て容器課税のように規範を設定する。

 具体的にはこのようなことです。規範の設定によって構造化された選択肢が変わるわけです。

 より性能の良い太陽電池をつくるというテクニカルなソリューションの追及は有効かもしれないが、それだけだとより電力を消費する新しい諸費財を作ることとのいたちごっこになってしまう。欲望が無限に拡大するのに、欲望に節度を設定しなければ、どんなに性能の良い太陽電池があっても欲望に追いつかない。
 社会的に適切な規範を作ると、環境に配慮してモノを買う人も、経済的に合理的に動く人も環境に良い選択肢を選ぶことになる。そのように選択肢の構造を変えないといけない。市場の原理を認めながら、環境を守っていくには、かなり大胆な政策を作って環境保全的な選択肢を選ばせるようにしないといけない。




Question

 高公害車に課税をすれば良いというのはそうだと思うが、それがされていないのはなぜか?


Question

 個々の政策決定過程の力関係で決まっている。

現実は、
 個別の利害集団が存在して、圧力集団政治を展開→その中で妥協点が設定され、政策が決定される。

それに対して社会計画論的な立場から見れば
 社会を組織化する・社会問題を解決する→普遍性のある政策原則が行われる。

 ハーバマスが『公共性の構造転換』という本を出し、「公共圏」について論じている。公共圏というのは批判的かつ対等な立場で、討論が持続的に組織化される場のことです。公共圏という質を備えた討論の場が設定されることが民主主義のためには非常に重要です。その公共圏こそが普遍性のある政策原則を作ることになる。

 政策論としては高公害車に税をかけるのは重要。それと同時に「公共圏」を設定して開かれた討論を行わないといけない。意思設定プロセスをどのように変えていかないといけないかという問題ともいえます。
 日本では、ようやく最近になって、情報公開法とNPO法が施行された。この2つは公共圏の設定に非常にプラスに作用する法律です。




Question

 「T字型」研究のモデルについて、実証的研究において対象を限定する、それをどのように限定していけばよいのですか?また先生はどのように選ばれたのですか?


Question

 対象の範囲について。
 地域単位で裁判で争っていればそれはひとつの範囲となる。新潟水俣病問題については、研究を始めて本を出すまでには9年かかった。訴訟がひとつのユニットになると思う。
 ごみ問題等については地方自治体がひとつの単位になると思う。(豊島の産業廃棄物など)

 理論的にあとから整理される理由付けと、実際のプロセスでどのような要因が利いたかは別
 理論的(教科書的)にどのように選ぶかは、

1.社会的重要性
2.学問的重要性(誰も研究していないなど)
3.情報収集の可能性(外国はその国の言葉、地方にはいけるのか等、相手があってくれるか)
4.蓄積性、展開性(ひとつの問題を見ただけでは分からないが『別の同じ問題(=蓄積性)』や『関係はしているが違う問題(=展開性)』を見れば分かることがある。)

 大切なのは自分の問題意識であり、実態としては、偶然の機縁が果たす役割も大きい。
 自分の問題意識にひたすら忠実に取り組んでいれば、そのあとに道はできていきます。私や私と同じ世代の人で、今、環境社会学を専門としている人は、学部生や大学院時代に環境社会学の授業を受けたことはありません。そういう科目などなかったのですから。
 もうひとつは偶然の機縁です。
 昭和電工が自分の町に立地するという話が昔でてきました。昭和電工というのは新潟水俣病の加害者だということが自分の頭の中で浮かんだんです。そこで昭和電工は本当に自分の起こしたことに責任を持っているのかということを自分で確かめてみてから、自分の町に昭和電工の研究所が立つことの是非を決めようと一町民として思ったわけです。このような偶然の機縁で研究を始めました。




Question

 地球温暖化の場合はどのようにフィールドを設定すればよいのでしょうか。


Question

 確かに難しい。が絞る方法はいくつかあると思う。

 ひとつはエネルギーにしぼって、例えば火力発電所に焦点を絞るという方法かあるだろう。

 または自動車問題、輸送問題にしぼるといった方法があると思う。「なぜモーダルシフトがおこらないのか」といった問いを立ててみても面白いかも知れない。ドイツのフライブルクでは自動車は使いにくい構造になっている反面、自転車は使いやすい町の構造になっている。精神論に訴えるのではなく、自動車は使いにくい町になっている。日本でも川崎などでも行われようとしているがなかなか難しい。

 また温暖化問題の政策決定の焦点はCOP3やCOP6なのだから、その政策決定プロセスを追うという方法もあると思う。とりあえずフライブルクもほっておいてそれだけに絞り込んでみるという方法もあるだろう。

 さらに温暖化問題に対してthink gloabally, act locallyというふうに考えて、モデル的な環境自治体があれば、その地域がどのような成果を出しているかを研究する手もあると思う。とりあえず思いつくのはこれくらいだが、もっとあると思う。

 ごみ問題やグリーン購入の多国間分析も面白いかもしれない。




Question

 環境社会学というのは実際起こっている問題の後を追っている、それについてあとから研究して解決策の提言にどれくらいの貢献をしているのか。


Question

 研究にはいろいろやらないといけないことがある。事後調査、予測、提言等。
 日本の事後調査がどれくらい行われているかというと、かなり少ない。重要な問題で論文や著作が出されているものは少ない。ちゃんと調べられないままあいまいになっていることがかなりあると思う。例えば大阪国際空港の公害問題についての本は一冊も出されていない。かなり重要な問題にも関わらず。そのような重要な問題についてはちゃんと研究してその教訓を残しておくべきだと思う。新潟水俣病についても僕の偶然の出会いがなければ、僕の書いた本は出されなかった。

 確かに提言は必要だが、事後調査についてもいまだちゃんとなされていないものがたくさんある。それを踏まえて提言をしたほうが良い。

 ちゃんとした政策ができないのは有効な政策論がないのか、それともそれを政策にする人がいないのかはちゃんと分けて考えるべきだと思う。環境社会学者に運動をしている人が多いのは、良い政策提言をしても、それを実行する人がいないから、と考える人が多いからである。




Question

 先生がフランスに留学されていたときに習ったクロジエ先生の社会学の潮流を教えてください。


Question

 クロジエ先生は組織社会学の創始者の一人である。
 『組織の戦略分析』(フリードベルグ著)新泉社
これを読めば大体の潮流は分かる。大きな潮流としてはマックス・ウェーバーを継承している。

また
Le Phenomene Bureaucratique 1963

 この本からT字型の研究モデルを学んだ。この本では2つの事例しか扱っていないが、その事例に200Pぐらいを費やしている。その2つの事例から戦略分析学派を確立したといえるほどの理論を形成している。
 T字型というのは遠回りであるが、それは決して迷路ではなく、その先にはちゃんとした理論体系を作れる道がある。環境社会学会はT字型研究を重んじているのが特徴。




Question

 規範設定ということをおっしゃっていたと思うのですが、教育もそのひとつだと思うがそれについては?。


Question

 小学校から大学、政治家の教育まであって非常に重要だと思う。

 日本人は遠くまで見た理路整然とした見方をすることができないのかもしれない。
 スウェーデンの人は論理的な議論をするということをスウェーデンに行った人は言っていた。

 環境教育にしては感受性の問題が非常に重要だと思う。レイチェルカーソンのセンスオブワンダーで感受性の重要性について触れていた。ゼミでごみ問題の調査をした時に、不法投棄のごみの掘り返しをした学生はかなりのショックを受けていた。



最後に

 これから環境問題に取り組む人にヒントを言いたいと思います。
 それは大学の枠にとらわれないで勉強したほうが良いということです。講座環境社会学の中に書いている人は、いろいろな大学に拡がっている。専門を究めようと思ったら、個別の大学の枠に囚われないで、いろいろな大学をまわってみたほうがよい。関東圏の社会学系大学院(23大学)では、単位互換制度があり、いろいろな大学の単位を履修できる(ただし、東大は加入していない)。また、留学をしてみるのも良いかも知れない。

舩橋先生講義
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