氏名
佐藤 仁(Sato Jin)
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所属
東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻国際環境協力コース
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参考文献
特になし
(まだ出版されていませんが、『「環境学の技法」 東京大学出版会』を挙げておきます。 10月頃出版なので乞うご期待 )
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講義内容要旨
開発や環境をめぐる議論は、大きな不確実性に包まれている。問題の定義から因果関係に至るまで、専門家の間でも意見がわかれている場合が多い。かりに見解が統一されていることでも政治的な理由で「解決」への行動が起こらないこともある。こうした状況下で、「事実」を明らかにしようとしても、複雑な全体の断片しか見えてこない。むしろ、事実認識は一つでないことを前提として、その複数性を支えている構造や、「事実」をめぐる様様な利害集団の争いを研究の対象に含める必要がある。
何が「問題」であるのかが曖昧であることは、武器にもなる。反証しにくいことを利用して、自らの利益につながるような問題の立て方が可能になるからである。この講義では、熱帯林破壊を主な事例にして「問題の立てられ方」と、その背景にある政治的力学について議論する。「解決(答え)」は一体誰の「問題(問い)」に対する答えなのかを柔軟に再検討することが、繰り返されてきた失敗を予防する第一歩であると考える。
森林保全といえば、どんな木を植えればいいかなどが論点になりがちであるが、最も大切、重要なのは誰が土地の用途をコントロールするかである。しかし、それには政治的要因がどろどろと絡むので国際協力が成り立たないのが現状である。
今までの国際協力はそういった点を避けて、技術的な問題にフォーカスをあてて政治的軋轢を回避するという戦略で進められてきた。そのような従来のやり方の限界や弊害に着目し、現在広く言われている環境問題の捉えられ方そのものへ警鐘を鳴らしている。
また、森林破壊は貧困が原因という仮説が一般的だが、「そのために貧困層をどうするか」だけではなく、役人や事業者などにも着目しないと問題の本質を捉えそこなっている危険がある。
一般的に環境問題といわれると、どうしても開放や解決に向けての取り組みに人々の目が向きがちだが、問題だといわれる事柄そのものにも疑問の目を向け、柔軟な姿勢で考えねばならない。(フレーミング)
そもそも問題とされている事柄への疑問が抜け落ちてはならないことを強調したい。
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今後どうするか
役所(タイの森林局)で、「どのような現状把握のための情報収集が行われていて、どの
ような重み付けがなされ、意思決定がなされていくのか」を調べる。
局の裁量で判断することと、もっと上(例えば国の議会レベル)で判断することの区別の
基準はどこにあるのかなどを実際に調べに行く。
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学生へのアドバイス
色々な立場、層にいる人が関わり、様々な力(圧力)がかかっている事象についての検証をすると面白いのではないか。(世界遺産に登録されそうな場所など)授業を聞いて学生自身が考えることが大切である。
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先生の研究の今後
従来の問題の捉え方そのものや、解決策のみに着目しがちな点への疑問を基本的に活字や講義といった方法で発信していっている。実際の研究をタイの事例をベースに進める一方、それと平行して、東大とは、教育面でのかかわっていきたい。具体的には新領域の学際性をより魅力的にアピールする、質の高いプログラムを用意するなどの方法でこの分野の研究者を増やしていきたい。
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講義までに考えてきて欲しいこと
何が見えますか? なぜ私はこの絵を見せたと思いますか?
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