割り箸の現状
それでは、第2部、割り箸の現状についてです。 ここでは、以下の六点について説明します。
- 割り箸論争とはなにか
- 割り箸の製造方法や種類
- 流通経路
- 国産割り箸生産状況
- 輸入はしの推移
- 中国の割り箸生産の現状
という順序です。
1 割り箸論争とはなにか
実は、割り箸が環境破壊的ではないかと考えたのは 私たちが初めてではなく、既に何度か議論がされていました。それが、先ほども言いました割り箸論争です。 1978年や1990年などに何度か議論が盛り上がり、1990年には実際に割り箸の使用量が減少するほどでした。 内容は総括すると、資源保護団体や一般消費者の 「割り箸は森林破壊を促進して環境を破壊している」という主張と製造業者や林野庁の「割り箸は低利用材や間伐材を利用していて 林業の促進に重要である」という主張の対立です。新聞や雑誌などで討論されるなど、活発に議論が行われ、 持ち箸運動などもこのころから始まったのです。
2 割り箸の製造方法や種類
ところで、割り箸を語るからには、 やはり割り箸がどういうモノなのか、 どうやって作られているのかを知らなければなりません。一般的に木製割り箸の製造に使用されるのは、 カバ、エゾマツ、アスペン、シラカバなどの北方木材です。よく割り箸は熱帯林を破壊していると非難されるのですが、 実はほとんど使われていないんです。これは、熱帯林は組織が弱くて、すぐ折れてしまうからです。
次に、割り箸を製造する方法を紹介しましょう。
まず、丸太を適当な長さで切ってから、 ロータリーレースでかつら剥きにします。大根なんかでよくやりますよね。 それから、この板を割り箸サイズに裁断して形を整えます。工場からはこの形で出荷され、都市近郊のおろし業者のところで、 袋詰めなどの作業が行われます。中級箸で1膳3、4円くらいです。 また、これ以外にも竹からつくる割り箸もあります。工場の規模は、中国には従業員100人以上の大規模なところもありますが、 国内に今もある工場は従業員5人以下の小規模なものが多いです。
流通経路
こうやって作られた割り箸、 どのように皆さんの手元に届くのかを 示したのが右のフローチャートです。小学校の社会科の授業でお米の流通について勉強したと思いますが、 割り箸にもこんな流れがあるんですね。割り箸工場から出荷された割箸は、日本では図のように問屋を経て、 中国からの場合は多くが商社を経て箸問屋もしくは食材問屋によって供給されています。 正確な統計はないのですが、概ね20%が家庭用、15%が弁当用、65%が飲食店での利用だと 推定されています。ちなみに、弁当用にはコンビニでの利用も含まれています。
3 割り箸消費の現状
ところで、いったい国内では どれだけの割り箸が使用されているのでしょう。下図は、国内割り箸消費量の変化です。 割り箸の大量生産の歴史は長く、大正時代に既に始まっています。太平洋戦争後半に一時期生産中止になって以後、 1960年ころから日本人の外食化傾向により一貫して生産量は増加しています。 1990年には、実に1960年の6倍近い生産量に達しいます。このころ、前にお話しました割り箸論争などが起こり、 また外食産業の伸びが鈍っため、以降は生産量が一定水準にとどまっています。 とはいえ、年間230億膳、国民1人当たり平均200膳近くを1年で消費している計算になります。 どうです、みなさんはどれくらい使っていますか?
4 国産割り箸生産状況
次にどこでそれだけの箸が作られているのかを見てみましょう。 国内割り箸製造の中心地は北海道と奈良県で、1998年には、この両県だけで国内生産の70%を製造しています。 ところで、かつては国内生産の半分以上を生産を誇っていた北海道は、1990年以降急激に衰退しています。 国内生産の量も同様に激減しています。 箸の利用量が減少したのでしょうか。いいえ、そうではありません。 実は、これは1990年以降、海外からの安い割り箸が大量に流入してきたことによって、特に安い機会割り箸を製造していた北海道の製造業者が 壊滅的ダメージを受けたからなのです。スギ、ヒノキなどの比較的高級はしを製造している奈良県でも 生産量が30%くらい減少しました。こうして、現在では国産割り箸は、 1膳十数円の高級箸しか採算が取れない状況になり、割り箸総需要の6%を占めるのみとなってしまいました。 割り箸生産にかかわる人口も、1990年には4000人だったのが、1998年には1200人にまで落ち込んいます。
5 輸入はしの推移
それでは、国内箸生産に大打撃を与えた輸入箸とは いったいどんな存在なんでしょうか?まず、右のグラフを見てください。 これは、近年の割り箸の国産量と輸入量の割合を示したグラフです。全体の消費量はほぼ一定なのに対して、 輸入量の割合は明らかに増加しています。これは、これはいったいどういう事でしょう? これは、1980年代に台頭してきたファーストフード系の飲食店・弁当屋がその販売網を拡大したことにあります。 大量にしかも安価な割り箸が必要になり、それに合わせて大手商社が海外での割り箸製造に力を入れたのが、輸入箸の急激な伸びを促したのです。これに対して危機を抱いた国内製造業者が、関税の引き上げを求めたのですが、1999年1月からむしろ5.2%から現行の4.7%に引き下げられてしました。
そして中でも、ダントツの生産量および低価格を実現したのが中国の割り箸製造でした。下のグラフは、相手国先の輸入量の変化を示したグラフです。まず、韓国からの輸入が多かったのですが、韓国でも割り箸利用が普及し、逆に輸入国に転じたため、インドネシア、南アフリカ、カナダ、などから輸入しました。その後、木材資源の枯渇、価格競争の激化によって多くが撤退し、 結果として中国が一人勝ちすることになったのです。
中国がこの競争に勝った理由は、だいたい 次の五つにまとめることができます。
- 大手の商社が輸出拡大を図った
- 中国の行政も工場に出資するなど積極的に援助した
- 日本よりも格段に人件費がやすく(約15倍の差)、技術力もあった
- 原料となる木材資源が安価であり、植林等の負担もすくない
- 機械の自力生産を実現した
6 中国の割り箸生産の現状
それでは、実際中国ではどのように 割りはし生産が行われているのか見てみましょう。下図は、中国での割り箸生産の分布状況とその要点をまとめたものです。
中国では、北部で木製箸、南部で竹製箸を生産しています。 まず、北部から見てみますと、黒龍江省、吉林省、遼寧省,内蒙古自治区などの森林から伐採された アスペン、シラカバ、エゾマツなどを利用して割り箸を製造します。この木材の供給方法は、皆伐方式と呼ばれるすべての木を いっせいに伐採する方法が多く採用され、森林が減少しています。また、政府による植林の義務化も実際に機能せず、 伐採後の用地は多くが農業用に利用されてしまっているのが現状です。工場は従業員100人から200人くらいの大規模なものが多く、 地方自治体や営林局の出資によるもの、日本企業との合弁会社が多いようです。 生産された割り箸は等級別に仕分けされ、上等なものを概ね大連港から輸出し、 残りは国内での消費にまわされています。
一方、南部の揚子江流域各省では、 民営の従業員10人以下の小規模な工場で竹製の割り箸を生産しています。商社がそれらをまとめあげ、こちらは上海港などから出荷されています。
割り箸を製造や流通を追っていた私たちは、 ついには中国での割り箸生産の現状にたどり着きました。そして、日本の割り箸消費を支えていると言っても過言ではない中国では、環境に配慮した生産を続けているとは言い難い状況です。
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