「環境の世紀 未来への布石V」報告書

  

第5回 地球温暖化問題に答える

講師 東京大学大学院工学系研究科科学システム工学  小宮山 宏 

 
目次
      1 はじめに
      2 温暖化について
      3 対策
      4 2010年までの日本の二酸化炭素削減可能性
      5 講義後のディスカッションより
  

1 はじめに
 本講義では、地球温暖化問題解決のための具体的対策について扱う。対策といってもいろいろなレベルがあるが、今回は緊急の課題であるCOP3(注:気候変動枠組み条約第3回締約国会議)での日本の約束達成に主眼をおくことにする。

 昨年12月に京都で開催されたCOP3では、人類史上初めて化石燃料の使用量を減らす、という合意がなされた。2010年までに、日本は二酸化炭素を6%減らさなければならない。これはどういうことなのか。例えばアメリカは7%、EUは8%減らすことが決まっているが、これに比べて日本の6%というのはどういう意味を持っているのか。結論から言うと、これはかなり厳しいもので、日本のハンディキャップは少なすぎる。このことを、以下では論理的にかつできる限りわかりやすく述べる。

 本講義を通じて一番伝えたいことは、原理はそれほど多くない、ということである。例えば、熱力学ではたった3つである。現象というのは無数にある。環境問題も一見すると複雑で、さまざまに入り組んだ問題に思える。実際この認識はある意味正しい。しかし、丁寧に考えると、問題の構造はかなり単純化できることがわかる。環境問題を解決するためには、単純で少数の原理をいかに応用するかが鍵となる。このことを、温暖化問題を通じて感じてもらいたい。

  
2 温暖化について
2.1 惑星の温度 惑星の温度は何によって決まるのだろうか?

 次の式を見てほしい。ちなみに、本講義ではこの式を含め2つの式しか出てこない。前述の通り、原理は多くないのである。

      J・πR^2=σT^4・4πR^2

 この式は、惑星の温度を決定する式である。この簡単な関係式がすべての惑星の温度を決めている。

 太陽系の惑星は、太陽によって暖められているから宇宙の温度(約4K)より温度が高くなる。たとえば、地球の表面には断面積1平方メートルあたりJ=1360ワットの太陽エネルギーが届いている。ただし、これは一昼夜を平均した値である。また、極地に近づくにつれ入射エネルギーは小さくなるため、これらをすべて積分すると、毎秒あたり地球に入射してくるエネルギーは、πR^2Jとなる。

 暖められるだけではどんどん温度が上昇してしまうので、冷えるメカニズムが必要である。冷えるメカニズムは伝導、対流、放射の3つしかない。惑星は宇宙という真空中に浮かんだ球体と考えられるため、伝導、対流は起こらない。よって、惑星の冷えるメカニズムは、放射のみとなる。また、放射エネルギーは温度の4乗に比例することがわかっている(σT^4)。放射は夜も行われるため、毎秒あたり地球から放射されるエネルギーは4πR^2×σT^4となる。

 エネルギー保存則より、入ってくる熱=逃げていく熱となる。先にも述べたとおり、原理は単純で少ないのである。

 以上より、上記の式が導かれる。この式から地球の温度を求めると、T=278Kとなる。これは約5℃に値し、実際にはもう少し高くなっている。278Kから狂わせる要素は2つある。1つは、太陽からの入射光の反射で、1360Wのうち約30%が地表の大気によって反射されることで、冷却効果が起こる。もうひとつが温室効果である。これについて少し詳しく説明する。

2.3 温室効果

 大気の成分は主に窒素、酸素、二酸化炭素、水蒸気などである。これらはどれも太陽からの入射光である可視光を吸収しない。しかし、二酸化炭素や水蒸気などの異なる原子が結合してできている分子は、放射光である赤外光を吸収する。吸収する、といってもずっとエネルギーを持ちつづけているわけではなく、すぐに放出する。しかし、放出はすべての方向になされるため、確率的に約半分の放射光が再び地表に戻ることになる。

 以上のように放射光の一部が温室効果ガスと呼ばれる分子の働きにより再び地表に戻り、暖める。これが温室効果である。現在地球では温室効果により約33℃温度が高くなっている。

2.2 温暖化のメカニズム

 人間の活動により大気中の二酸化炭素などの温室効果ガスが増加し、温室効果をさらに増大させる、というのが温暖化のメカニズムである。よく温暖化は科学的に不確実な部分が多いといわれる。確かにいつどのくらい温度が上昇するか、また氷河がどれくらい溶けるか、などについてははっきりと答えを出すことはできない。しかし、どうやって温暖化が起きるのか、ということは科学的に証明されている自明の事実である。何もわかっていないわけではないし、温暖化が起こらないわけでもない。

2.4 二酸化炭素について 

炭素はほとんど変化しないため、地球上の総炭素量は変わらない。今まではその炭素が大気、陸、海にある一定に割合で存在していた。ところが、20世紀に入ってから、急激に大気分の炭素の割合が増え問題となっているのである。

 このようにY素」という視点で考えると、「熱帯雨林は二酸化炭素を固定する」といった主張が誤っていることがすぐにわかる。確かに木は二酸化炭素を吸収し酸素を放出するが、よく考えると、炭素は葉となり、冬に落葉し、例えば熱帯なら2―3年で土壌細菌により分解され、再び二酸化炭素として大気中に放出される。二酸化炭素を固定する、ということは、炭素をどこかに貯蓄することである。成熟した森は炭素を固定しない。

2.5 なぜ今か

 大気中への二酸化炭素の放出は今に始まったことではない。インダス文明でもメソポタミア文明でも付近の森林を伐採し、燃料として使用していた。それでも、この20世紀になって初めて温暖化問題が問題となっているのは、量の問題である(資料)。現在、1年間に化石燃料から約58億トン、森林破壊から10―20億トンの二酸化炭素を大気中に放出している。これは一人あたりに換算すると約1t、また、現在の大気中総二酸化炭素量の約1%に相当する。1%と聞くとたいしたことなさそうだが、これは100年間で現在量に匹敵する量となる、恐ろしい割合である。早急になんとかしなければならない。

  
3 対策
 以上の議論より、二酸化炭素対策としてどんなものがあげられるかが明確になる。それは、新しいエネルギーの開発あるいは省エネルギー技術の開発により発生量を抑制するか、陸あるいは海に固定して大気分の二酸化炭素量を減らすか、のどちらかである。ここでは例えば、二酸化炭素をメタノールにするといった化学的固定は対策とはなり得ない。なぜなら、それを燃料として使用する際、再び二酸化炭素を大気中に放出するからである。

3.1 新エネルギー

 エネルギー資源とは、一次エネルギーを指す。石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料は、植物が固定した太陽エネルギーの変化したものだから、エネルギー資源としては、太陽エネルギーに分類される。同様に、風も空気が太陽によって温められて生じるものだから、太陽エネルギーである。一般に自然エネルギーと呼ばれているもののほとんどは、実は太陽エネルギーなのである。このように考えると、エネルギー資源は核か太陽か地熱の3つしかないことがわかる。実際にどのような新エネルギーがあり、どれだけ実現可能性があるのかは省略する。詳しく知りたい人は、小宮山宏著のn球温暖化問題に答える」を参照されたい。

3.2 省エネルギー 

省エネルギーをバカにしてはいけない。省エネルギーが二酸化炭素排出抑制に対して有効であることは、歴史が証明している。(資料)これまでの日本のGNPの推移とエネルギー総使用量の推移を重ねてみると、実に見事に一致することがわかる。エネルギー総使用量はすなわち二酸化炭素排出量に他ならない。しかし、オイルショック後の10年間のみ、エネルギー総使用量が横ばいになっている。この0年間」に行われたことが、産業界の省エネルギー対策なのである。

3.3 固定

 前述のように固定は陸への固定か海への固定しかない。

  
4 2010年までの日本の二酸化炭素削減可能性
4.1 京都議定書の達成のために 

昨年の12月に京都で開催されたCOP3において、2010年までに、1990年レベルより例えば日本は6%、アメリカは7%、EU8%の二酸化炭素を削減しなければならないことが決まった。それでは、日本はこの6%削減のために何を行えばいいのだろうか。

 2010年までに、というのはかなり短期的な対策になる。すぐに実行でき、すぐに結果のでるものでなければならない。そう考えると、新エネルギーはかなり難しいだろう。太陽エネルギーなどは一番楽観的な人でさえ、化石燃料の代替となり得るのは早くて2050年、と考えているような長期的な対策である。

 もちろん長期的には新しいエネルギーシステムが不可欠である。私は将来的には太陽エネルギーが主流になると考えていて、現在私の研究室でも、太陽電池を大量に効率的に作るにはどうすればよいかを研究している。現在のように半導体を作る手間と精密さを要求するのではなく、クレラップを作るような感覚で作れるようにならなくては代替となるほど普及させることはできないと考えるからだ。また静止軌道に太陽電池を乗せ、大量かつ効率的に発電を行うことも考えている。始めはロケットで打ち上げると発電する以上のエネルギーが必要ではないか、と思っていたが、研究により、180日くらいで取り戻せることがわかっている。また、さらに効率的に行うために、月で太陽電池を作ることも考えている。原料となるシリコンもケイ素も月に多量に存在することがわかっている。これだと、77日でエネルギーを取り戻すことができる。名づけて「工場の月プロジェクト」。しかし、これらの対策はどう考えても2010年には間に合わない。

 2010年に間に合うような短期的対策としては、省エネルギーと植林による陸への固定が考えられる。ちなみに現在植林についても研究している。木を切ることによって雨が降らなくなる、といった気象の変化がおこることはわかっているので、逆に木を植えることで雨が降りやすくなるのではないか、と考えている。シミュレーションの結果、条件が合えば、蒸発した水の60%が再び雨として戻ってくる、ということがわかった。しかし、日本では特に省エネルギーが有効である。以下では省エネルギー対策について詳しく述べる。

4.2 今日本では二酸化炭素はどこからでているのか

 日本は現在年間約3億トンの二酸化炭素を排出している。これは、一人あたりに換算すると、約2.7トンとなる。このうち3分の1が発電所、3分の1が製造業、そして残りが自動車や一般家庭から排出される。しかし、発電所はエネルギーを使わないので、製造業と一般家庭で半分ずつ排出していると考えてよい。

4.3 二酸化炭素はどこまで減らせるのか 

 例として、セメントを作るときを考える。セメントは、炭酸カルシウムから加熱して二酸化炭素を追い出して作る。この二酸化炭素を減らすことはできない。また、この反応は吸熱反応であるため、熱を与えなければならないが、今の技術では化石燃料を燃やして熱を得るしかない。これも減らせない。セメント業界から出る二酸化炭素は約2100万トンで、全体の約7%にあたる。このうち1200万トンは追い出してでる二酸化炭素で、300万トンは熱を得るために必要な分である。したがって、残りの600万トンがロスで、減らせる部分となる。同様に、鉄鋼の場合は、約6000万トン、全体の約20%を占めるが3000万トンが必要不可欠な部分で、残り3000万トンがロスである。このようにして、産業部門の二酸化炭素の理論的削減可能量がわかる。

 次に、約1億トンを排出する発電所について考える。現在日本の発電所の平均発電効率は、38%である。トップランナーは横浜にあり、51%まで効率を上げている。理論的には、発電効率はほぼ100%まで可能である。したがって、約6000万トンは減らせる部分となる。

 また、一般家庭について考える。例えばエレベーター。この二酸化炭素排出量の理論値はほぼゼロである。なぜなら、反対側に内容量と同じ重さのおもりを付け、下降のときにおもりを上げ、上昇のときにその下降の時のエネルギーを使えば、使用するエネルギーは摩擦だけになるからだ。

 次に6000万トン排出している自動車について考える。理論的には、自動車のガソリン使用量はゼロにできる。加速のときには仕事が必要だが、水平移動のときは必要なく、とまるときに発電して逆にエネルギーを得ることができるのだから。あとは摩擦の際のエネルギーをできるだけ少なくすればよい。

 同じ時速60キロメートルで走るにしても、馬は0.5トンで約1馬力、自動車は1トンで百数馬力。自動車は少なくとも10分の1のエネルギー量にすることはできる。

 冷房についても考えてみよう。冷房の理想は熱力学で学習したはずの逆カルノーサイクルである。熱力学の法則より、エネルギーをすべて仕事に変えることはできない。その限界はどこにあるか、というと、逆カルノーサイクルである。

     逆カルノー効率=Q/W=T/凾s

 27℃から7℃冷やす場合、理想的には300/7=43となる。現在のトップランナーは4.3であるため、理論的には10分の1にできることがわかる。昨年の夏、冷房に使用する電力が昼間全体の40%を越えた。私たちが使っているのである。もうひとつ冷房に使用する電力を減らす方法がある。理論的に考えれば、エアコンをつけ、希望の温度に達した時点で切れば十分なはずである。それができないのは、断熱がしっかりしていないからである。要するに、エアコンに使用するエネルギーを減らし、二酸化炭素排出量を減らすためには、効率化と断熱の2つの方法がある。これを実現できれば、かなりの削減に結びつく。

 以上のことは理論に過ぎない。実際に可能かどうかはまた別の問題である。しかし、理論はポテンシャルを測るために大変有効である。例えば、セメントはどうがんばっても2100分の600しか減らせないが、自動車は6000万トン分の6000万トンである。だから自動車はもっともっとがんばれるはずだ、ということがわかる。

 理論的に考えると、COP3で決まった日本6%、アメリカ7%、EU8%という差は少なすぎる。なぜなら、日本の省エ ネルギー対策は諸外国に比べてかなり進んでいるから。セメントで考えると、アメリカは日本の1960年のレベルである。減らそうとすればいくらでも減らせるのである。EUも非効率だった東ドイツを統合したのでこれを効率化し、また石炭の使用量の多いイギリスで石炭から他の化石燃料に移行すれば、8%なんて簡単に減らせる。

 以上、産業部門の具体的な削減可能性について考えてきたが、次にリサイクルについて考えてみる。

 まず、アルミニウムについて考えてみよう。リサイクルには倫理も重要だが、まず論理で攻めなければならない。そして、アルミニウムは論理的にリサイクルすべきである。新しい原料からアルミニウムを作る場合に必要なエネルギーはボーキサイトを電気分解するのに必要なギブスの自由エネルギーに等しく、一方リサイクルする場合に必要なエネルギーはアルミニウムを溶かすのに必要な融解熱に等しい。その比は約100対1である。だからリサイクルを行えば、必要なエネルギーは約百分の1になる。実際、現在の技術でも100分の4になっている。鉄も同様である。このように、論理的に考えて、リサイクルしないよりするほうがエネルギーの節約になるため、金属はリサイクルすべきである。

 しかし、これは紙、プラスチックにはあてはまらない。紙やプラスチックを分別して回収することは正しい。ただし、これらは場合によっては物質としてリサイクルするとよりエネルギーがかかってしまう。今、日本では紙と木とプラスチックをあわせると2300万トンの紙ごみがでている。これらをすべてリサイクルすることは現実的に不可能な上、理論的にも正しくない。ではどうすればいいのか。その答えは、燃やす、ということである。現在焼却炉で燃やすことによってダイオキシンを始めとするさまざまな問題が起こっている。これは、燃やすこと自体が悪いのではなく、燃やし方が悪いのである。いろいろなものを混ぜて質の悪い焼却炉で燃やしているから問題なのである。紙だけ、あるいはプラスチックだけを分別回収してちゃんと燃やしてエネルギーとすればよい。紙を燃やすのに抵抗があるかもしれないが、よく考えると、きちんと植林すれば、これはバイオマスエネルギーである。例えば紙を溶鉱炉で使っているコークスの変わりに使う。これによってごみ問題も資源の問題も解決する。

 ごみ問題はアメリカのように埋める土地もなく、ヨーロッパと違って東京一極集中している日本において最大の問題のひとつである。また、日本は約3億トンの化石燃料を輸入している。これを逆手にとって、さらにシステムがきちんとしていればきちんと協力する日本人の特質を利用し、紙、プラスチックの分別回収、燃料として利用すればよい。そうすれば2300万トンの化石燃料が救われる。ただ「燃やすのはいけない」と感情的に考えるのではなく、全体のシステムを論理的に考えなければならない。

 環境問題は21世紀最大の問題になると思う。もちろんエネルギー問題、食料問題、南北問題など問題はいろいろあるが、やはり環境問題だろう。この問題はかなり複雑である。でも、何でも複雑だというのはやめよう。例えば、素粒子論。これは難しい理論である。しかし、結局は物質を構成しているものが何かをつきつめているものだ、というように考えよう。細かいところは専門家に任せればよい。複雑だといってあきらめずに、構造を丁寧に考えよう。原理は単純で多くないのだから。

 複雑な現象をできるだけシンプルに考えることが、ジェネラリストかつスペシャリストになるための手段だと思う。

  
5 講義後のディスカッションより
〜今後の世界のありかたについて〜

学生: 今後中国はどうなるだろうか。あの人口大国が先進国と同じ道筋をたどったら、恐ろしいことになる。

先生: どうなるかなど予測はできない。が、同じ道筋をたどらないようにしなくてはならない。どうなるか、というのは日本人の習性である。どうなるか、ではなくどうするか、を考えなければならない。日本の経済は、今はだめだがまだ平気だし、技術も平均すれば最高なのだから、もっと自信をもって良い。

 中国を放っておいたとしたら大変なことになる。日本人レベルに二酸化炭素を排出するようになったら、世界全体の排出量が50億トンから80億トンに増加する。そうしたら地球はつぶれてしまう。だからといって成長するなとはいえない。ここで、「知恵」をださなくては。

学生: もちろんその通りで、京都会議でも世界がいろいろ考えたが、結果を出すことができなかった。

先生: それを考えると先が暗いが、希望はGNPが一定の水準に達すれば人口が減るということだ。人口増を止めればよい。

学生: それが難しいから困っているのだと思う。中国では育児制限を設けたが(一人っ子政策)、このように人口制限をしたほうかいいのか。

先生: しかたないと思う。中国がやってくれなかったことを考えると恐ろしい。よく江戸時代に学べといわれるが、江戸時代は、汚い風呂、着物一枚で娘を売る、肉や魚を食べないといった生活を行っていた。現在そこに戻れといわれてもできない。今の生産力にあった社会を、すなわち大規模でできるリサイクル社会を構築しなければならないし、それは可能だと思う。

学生: 大規模なリサイクル社会など本当にできるのか。

先生: 何がリサイクルでき、できないのかをまず考えなければならない。金属に関しては、理想形は1億トン作って1億トン帰ってきてまた成形して出す、というもの。長いスパンでみたら可能である。しかし、そうでないものもある。エネルギーはリサイクルできない。エネルギー保存則より、総量は変わらないが、結局熱エネルギーにして逃がしてしまう。エネルギーを節約しよう、というのが今日の話。半分くらいは節約できたとしても、人口が2倍になったら同じこと。太陽エネルギーは1万倍来ている。100%の効率なら地球の断面積の一万分のTの電池を宇宙に作ればよい。

学生: 今の生活水準を維持することはできないのでは。

先生: できると思う。例えば、夏の電力の40%を占める冷房は断熱により3分の1くらいに、ヒートポンプの効率上昇により3分の1にできるとしたら、またヒートアイランドを解消したら、というように個別に省エネルギーを考えたら、一人あたりのエネルギー使用量が江戸時代くらいで、生活水準を維持することができるかもしれない。もちろん無駄は減らすべきである。例えば、買い物のときにもらうビニル袋はいらない。しかし、今の日本人が1年間着物1枚で過ごせるとは思わない。極論はやりたくない。現実的なことをやりたい。無駄を減らし、かつ欲望をあまり抑制しない社会にするべきだし、できると思う。

〜温暖化問題の解決にむけて〜

学生: 二酸化炭素をダイヤモンドや黒鉛に変えることは。

先生: 二酸化炭素が生成する際には炭素に酸素がくっついている。そのときにエネルギーを出している。これを使っている。ダイヤモンドや黒鉛に変えるためには、逆のことだから、同じエネルギーが必要だが、第2法則よりそのほうが大きくなる。実は似たようなことがいろいろ考えられてきた。一見よさそうだが、そんなに世の中甘くない。

学生: では、どうやって固定すればよいのか。

先生: 植林である。太陽エネルギーを使用して植物に固定してもらえばよい。

学生: 植林する際にエネルギーのことだけを考えるのではなく、植えるものについても考えなければ。

先生: その通り。植林を全体のシステムを考えなければならない。3つ重要な点があると思う。ひとつは土壌中の水と塩類。ひとつは気象。ひとつは樹種。

学生: 緑地であったときの樹種が一番なのでは。

先生: そうは思わない。最適種の一つに過ぎない。そもそも現在本当の自然というものはない。

学生: 確かにそうかもしれない。里山の例もあるし、人間も自然の一部であるから。

学生: では、何を持って最適とするのか。指標や評価基準は。

先生: 今作っているところである。評価の基準、関数はとても難しい。現在では暫定的に期間を区切った二酸化炭素固定量をとりあえずの指標としているが、それだけが正しいとは思っていない。温暖化対策だけが目的ではないのだから。例えば、防風林としての役目もある。農業生産や都市ができるかどうかなども加え、総合的指標を作るべきで、今研究段階である。

〜都市問題について〜

先生: 環境倫理はちょっとおかしいと思う。(加藤尚武氏の著書による分類で)世代間倫理はわかる。ただし、500年程度なら。地球規模で物事を考えなければならない、というのもわかる。しかし、すべての生物に生存権がある、というのは無理。人類が死んでも生物が生き残ればいい、という考えには賛成できない。

学生: 環境倫理は一つにくくらないほうがいい。いろいろな見方が出ている。でも確かに、人間の本質は自己中心的な考えかもしれない。

先生: 自己中心的というのは、自分もそうだし相手もそうだということをみとめること。その上でみんなが自己中心的なときにどうすればいいかをかんがえなければならない。日本の場合は難しい。なぜなら、東京圏4000万人のことを考えなければならないからだ。スウェーデンは600万人程度の国だから、何でもできる。

 例えば原子力をやめてバイオマスにするなど。しかし、日本のような大都市の持続可能性は別なものとして十分に考えなければならない。

学生: 大都市一極集中を緩和することも考えられる。

先生: 少しは緩和することができても、あまりかわらないだろう。

〜南北問題について〜

学生: 京都会議でも、途上国にも規制を課すかどうかが焦点のひとつになった。

先生: 途上国に押し付けるべきではない。先進国がやるべきに決まっている。

 こちらでがんばって、それを輸入してもらう、という形にするしかない。とくにアメリカがやりなさい。

学生: エネルギー問題で環境問題を解決しようとしているように聞こえるが、発展途上国がこれからどうしたらよいか、という問題に答えを出していない。

先生: 相当部分エネルギー問題である。たとえば自動車。途上国が自動車を持ちたいと思う。それは突き詰めて考えるとエネルギー問題で解決できる。物質に関するところはほとんどエネルギー問題である。

学生: では、生きるために熱帯雨林をしかたなく切っている途上国の人はどうすればいいのか。そういう問題にはエネルギーは答えを出せないのでは。

先生: 直接的には答えはだせない。しかし、ソフトランディングできるかどうかが問題であって、その鍵となるのがエネルギーである。極論すれば、サハラ砂漠の民に石炭をあげてもよいのである。

学生: 社会の制度として資本主義というのは人間の欲望を開発していくシステムだと思う。これを変えない限り、構造的には変わらないし、環境問題は解決できない。それに対しては省エネルギーではだめだと思う。今予想はつかないが、わからないということを認識し、それに対して対策を講じるようにしなければいけない。

〜科学者の役割について〜

学生: 環境問題は一般の人にわかってもらわなければならない。科学者としては一般の人にもわかるように説明しなければならない。

先生: まったくその通り。科学はそのときそのときの好奇心で進歩してきた。科学の発展のためには、一般人の好奇心を喚起しなければならない。また、一般の人だけでなく実は科学者同士でも大切である。専門が高度化している現在、専門家になるのも大変だが、他の専門を学ぶのがすごく難しい。しかし、それを怠ると、環境問題の解決にはならない。その鍵が構造化することだと思う。自分の専門を簡単に話すとバカにされる、と思ってはいけない。専門を妙にむずかしく話すとき人は仲間内を意識しているのである。思い切って構造化し、枝葉の部分を切り捨てなければならない。少しずつそうなってきている。りやA」がもっと出てくればよい。

学生: 温暖化は太陽の働きによるものだという意見がある。また、そのほかにもg化は起こり得ない」として石油業界の側についている科学者がいる。

先生: 確かに太陽の働きによって入射エネルギーである1360Wはかなり変わる。それは正しい。しかし、10万年程度のオーダーで予測できないため、無視してもかまわない。もうひとつ、水が温暖化問題の原因だというひともいる。これも間違い。水は確かに吸収するが、すでに限界まで吸収しているので、これ以上増えても変わらない。科学者といってもいろいろある。どう考えているのか知らないが、正しくないことは正しくない。

学生: しかし、一般人はどれが正しいのか判断できない。

先生: 確かに。それについては原理から丁寧に考える,としかいえない。ジャーナリストの影響は大きい。でも、実情は大変なものである。例えば、毎日の科学部は全部で10人しかいない。あまり鵜呑みにしてはいけない。

学生: 政府の審議会で科学者はそして先生はどんな役割を果たしているのか。

先生: 京都会議には行かなかったが、日本の態度を決める会議には行き、いろいろ発言した。しかし、実際に影響力を持つのはもっと上の人。53の私が一番若いというこの体制を変えなければどうしようもない。それには、若者がもっと自信をもって発言しなければならないだろう。

学生: 若者というより科学者自体の立場が弱いのでは。

先生: そのとおりである。ただ、審議会では科学者のほうが多い。その他は新聞の論説委員など。自分では精一杯努力している。エネルギー環境関係の審議会でも今日のような話をした。通産省は日本の官僚の中で一番勉強している。しかし、それでもだめなのである。その理由は、一つは産業別に分かれている体制である。もうひとつは時間が足りない。合意を得るのは難しい。本当の議論をして合意を得る文化を創らなければならないし、創りたいと思っている。

  
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