東京大学の学部・学科紹介2007

環境三四郎の学部後期課程生が、自分の所属する学科のカリキュラムや学生生活、環境問題との関わりなどを紹介します。進路決定の参考などにしていただければ幸いです。

法学部公法コース(2類)

■法学部には学科がない!

法学部には、私法コース(1類)・公法コース(2類)・政治コース(3類)の3つのコースがあります。1類は司法試験・ロースクール志望、2類は公務員志望、3類は(ちょっとひどい言い方ですが)その他、というふうに概ね分けられます。ただ、それらは他学部の「学科」と異なり、とても緩い分類です。というのも、そのコースしかとれない授業というものはないし、そのコースだけに所属する教員というのもないし、さらにはコースの定員もないからです(傾向として、人数は1類>2類>>3類です)。

違いと言えば、必修・選択必修科目の組み合わせくらいで、「この必修科目はとれそうにない!」と思えば、3年から4年に進学するとき転類することもほぼ100%可能です。そういうわけで、「学科紹介」というより「学部紹介」になってしまいますが、ご了承ください。

■「法学部砂漠」

法学部は一般に「砂漠」といわれます。授業は基本的に100〜400人の一斉授業(口述筆記)、ゼミも所詮半年でその多く(特に法律系のゼミ)は教授による「少人数授業」ということで、新しい友人を作りにくいからです。また、理系のように研究室なるものもないため、教員との個人的なつながりも作りにくいです。(唯一のつながりは学期末試験の点数でしょうか)。また、単位の認定(ほとんどの講義はテスト一発勝負)がとても厳しいこと、司法試験・ロースクールや公務員試験の勉強で忙しい人が多いこと、朝8時半から100分もさらには25番教室に代表される威圧感をもった建物の雰囲気も、それを助長しているかもしれません。極端なことを言えば、朝大学に来てから帰るまで誰とも話さない、というのも不可能ではありません。実際にはあまりないですが。

ただ、すべてが無味乾燥な生活ではなく、いいゼミをとれば非常に充実した生活になります。6学期にとったゼミは退屈でしたが、7学期のゼミは放任主義ゆえにゼミ生同士でも非常に仲良くなったほか、他大学との交流や海外(研修)旅行など、粋な企画をしてくれる教授であったため、とても盛り上がりました。

■教授陣の高い質

このようにドライな法学部ですが、いいこともあります。まずはなんと言っても、教員の質でしょう。日本を代表する法学者・政治学者が揃い、政府の審議会や有識者会議などで活躍されている教授も多数います。法学においては、「通説・判例」のほかに「有力説」というものが重要視されますが、その有力説の多くを展開するのが「○○法の権威」として評されるココの教授たちです(だからと言って授業が面白いわけでは全くありませんが…)。また、「法学部」とは言っても、法律系だけでなく政治系の科目(理論や政治史も含む)の種類はきわめて豊富ですし、その他にも経済系の講義も数多く用意されています。実際、7学期に私は政治系ばかりをとり、実定法の授業は一つもとりませんでした(ある意味もったいないですが…)。

■特殊な進路

進路は、「ロー(スクール)6割、国T(国家公務員試験一種)3割、就職1割」と言われます。民間企業に内定した私は、マイノリティーということになります。

また、留年者が多いのも特徴です。単位がとれなくて本当の意味で留年するのは1割(40人)程度らしいですが、ロースクールや公務員試験に落ちて来年またチャレンジするという自主留年もあわせれば、学年の3割くらいに達すると思われます。特にロースクール志望のかなりの人は留年します。ゼミに行くと、2〜3人は「5年生」がいますが、3学年にわたってゼミを盛り上げていけるというのも、他学部ではあまり体験できない貴重なことかもしれません。

卒論がない代わりに、8学期になっても十数単位の取得に追われる人も多く、法学部は決してラクではありません。でも苦労の分だけ得るものも少なくなく、法律と政治という社会の根幹を形成している二つの分野を掘り下げ、社会に対する理解を深めることができる(気がする)という意味では、2年間身を置くだけの価値があるでしょう。

【文責 12期・市川雄介】

工学部社会基盤学科(旧土木工学科)

社会基盤学科(Department of Civil Engineering)は道路や堤防、発電所などといった、公共性が高く、市民の日常生活を支えたり災害から生活を守ったりする「社会基盤」を対象としている学科である。「社会基盤」は普段あまり意識されない地味な存在であるが、社会基盤学科で取り扱っているアプローチの仕方は多様で、土・コンクリート・建造物に関する地道な技術開発についてはもちろん、デザイン、IT・経済分析・途上国支援・シミュレーション・マネジメント・合意形成・などの研究・教育も大きな割合を占める。

社会基盤学科には毎年50〜60名くらいの学生が進学する。コースが分かれているが、研究グループ決めのときに自分のコースと関係ないところに行こうとすると少し不利になること以外、ほとんど違いはない。社会基盤学科の講義・演習はグループワークが多いので入るとすぐに学科の人と仲良くなれる。カリキュラムは数年前に大幅に変更して、(あまり面白くない)土木工学の基礎科目を重要な部分だけ教えるにとどめ、周辺分野や先端的な内容をより多く教えることとなった。国土交通省に就職したり、企業で管理職に就いたりする割合が高い東大の卒業生が将来実務・研究で遭遇するであろう、より総合的な能力を必要とする複雑な問題に対処するための考え方を習得できるようにカリキュラムを組んだと聞く。演習は選択制で最大でも週5コマと他学科に比べて少ないため、現地に行きたい、実験やりたい、という人には物足りないカリキュラムではあると思う(でも、4年生になって研究室に入れば本人と研究室次第だができる)。

社会基盤学科は様々な分野を融合していくことが得意な学科なので、研究は学生の興味・希望を優先してもらえる場合が多い。実際私自身は、理学的な興味も強かったため、気象学・気候学の分野でテレコネクションと呼ばれる、遠く離れた地域間の気象・気候に関係性が存在するという現象(例えばエルニーニョが有名)、に関する研究を行っている。現在はまだ論文を読むなどの基礎的な勉強を行っているが、近々コンピュータを利用してデータの解析を始めるつもりだ。最終的には1〜3ヶ月先の降水量や河川流量などの予測に挑戦し、水資源管理や水災害リスク評価に役立てる予定だ。

最後に、社会基盤学科で扱っている内容と近い内容を扱う学科は都市工学科をはじめ多数あるかと思うが、その中で社会基盤学科の特徴は、社会基盤の全体像を得られること、マクロにものを見ること、数値の扱いに強いこと(そうでない学生もたくさんいるのでご心配なく)、だと思う。もし社会基盤学科に興味が湧いたら、伝えきれていない部分も多いので一度詳しく調べてみることをお奨めする。

【文責 12期・鈴木聡】

農学部1類緑地生物学専修(旧緑地環境学専修)

我が緑地生物学の使命は『人と緑の良好な関係を築く』―生活空間(都市でも農村でもどこでも)に、人間の生活を心身両面から豊かにするような形で植物が生育できるようにする―こと。そのために必要な、調査・計画・設計に関わる各分野(生態学・統計学・計画学など)の基本を3年生の間に「かじらせて」もらったという印象である。

例えば3年の夏学期の午後。
月曜:緑ある空間をデザイン・設計・プレゼン。

火曜:コンピュータ上で地図と統合されたデジタルな統計データ・観測データを解析。

水曜・木曜:植物(主に作物)・昆虫・微生物を題材に実験。

金曜:弥生キャンパスの外に出て植物名・植物調査の手法・調査データの解析手法を学ぶor遠足する(ex.高尾山)。

基本的に、月曜・火曜の課題に追われて日常が進んでいく(提出直前には学生用製図室に泊まることも)。水曜・木曜の実験は駒場の実験よりもラクという驚異的な事実に驚かされる!そして、金曜日には自然がそこそこ好きな人には癒しの時間が訪れる(データ解析は辛かったが...)。

7人しかいない専修だが、広い分野を対象にしているためか、各自の興味も多様である。都市計画に興味がある人、里山の維持管理について考えてみたい人、砂漠化などグローバルな環境問題に取り組みたい人(←私)、あまり決まっていない人...。そもそも生態学がからんでくるような分野は企業の研究所に勤められる可能性はあまりなく、大学や公的機関の研究職のポストも限られている、という現実を見てなのか「研究一筋」を目指す人はあまり多くない。今私がいる研究室に所属する大学院の学生の約半分は外部からの学生である。専門分野を持っていて、そこから研究の幅を広げるために来た人が多い。

私の研究室は緑地創成学研究室である。取り組んでいることは緑地生物学専修とほぼ同じだと思ってもらえればよい。現在は卒業研究の最中だ。中国内蒙古自治区の砂漠化が進んでいる地域を対象にしている。現地で行われているいくつかの砂漠化対策の中で最も効果が大きいものはどれか、それとも「最も効果が大きいもの」は地形等の条件の違いによって異なってくるのか、ということをフィールド調査から明らかにすることを目指している。夏には2週間現地に滞在して、大学院の入試の勉強を合間にしながら、植物や土壌の調査をおこなってきた。駒場でフランス語選択にしたことを後悔しつつ、新たに中国語の勉強を始めた今日この頃だ...。

【文責 12期・宮森映理子】

農学部2類生命化学工学専修

〜環境破壊に加担している(?)理系学生生活〜

僕は農学部2類生命化学工学専修に所属している。学科定員は一学年80名近く、研究室も30ほどあり、農学部の中で最大の学科。この科類のキーワードは専修名のとおり「バイオテクノロジー biotechnology」。生物系・化学系の研究を行う。

■学部生活

教養学部2年生時の進学振り分けでは、薬学部や理学部と迷ったのだが、固い雰囲気が僕にはあまりしっくり来なかった。だが、この学科のガイダンスを受け、気さくで明るい雰囲気が気に入り、進学を決めた。

生命化学工学専修は農学部の中では「キツイ」学科かもしれない。僕は3年生の夏学期、空きコマが2コマしかなかった。午後は毎日すべて学生実験実習なため、午前中(2コマ×平日5日)に授業を取らないでおくと卒業に必要な単位に足らない。4年生になると研究室で自分の研究を進めなくてはならず、多くの学生は3年生で全ての単位を取得する。でも他の学部に比べたら評価は優しいほうだろうし、試験やレポートがとりわけ厳しいわけではないので、苦ではないだろう。

■味覚研究

僕は今「生物機能開発化学研究室」に所属し、味覚の研究をしている。人間の五感「視覚・触覚・聴覚・味覚・嗅覚」のうち、「味覚・嗅覚」の分野、特に味覚の分野というのは研究が非常に遅れていて(例えば映像センサー・タッチセンサー・音センサーはあるが、甘い・旨いなどの味のセンサーは無い)早急な機構解明が求められている。「おいしさ」という人間の食生活に関わる身近な事で僕は興味をひきつけられた。

実は僕はいま理化学研究所の研修生として、大学外のプロジェクトに参加させていただいている。周りは30歳以上の研究員の方々ばかりで、毎日たくさんの実験や進路についてのアドバイスを頂いていて、とても刺激的な毎日を送っている。今度プロジェクトの拠点が京都大学に移るので、僕も金魚の糞のようについていくことになった。東大生でありながら京大で学ぶことができるという経験をしたことのある人は稀だと思う。このチャンスを自分の人生の糧にしたいと思っている。

■環境負荷の高い研究生活

研究を初めて半年ほどであるが、研究生活は環境負荷が高いと最近感じている。例えば、微生物を培養するために、24時間365日つけっぱなしの恒温装置。感染の危険のある実験器具や、厳密なデータを取りたいときの消耗品は全て使い捨て。大量に廃棄する試薬や処理に莫大なコストがかかる廃液。実際に経験しないとよくわからないだろうが、通常の生活とは比べものにならないほどのエネルギーをしている。ECOでありたいと思う自分と、だけど大量消費している自分が日々葛藤を繰り返している。

■卒業後の進路、そして葛藤

この学科の学生の9割は大学院に進学する。さらに大学院生のうち約7割は修士課程修了後に企業に就職する。これは農学部における一般的傾向である。

ただ僕は現在まだ迷っているところだ。博士課程に進学すると27歳まで「学生」であり、世間的にはいわゆる「働き盛り」の時期にまだ授業料を支払って学生であるということ、さらに「博士」を採用する企業は稀であることを考えるとmajorityの方がいいのかもしれない。だが、自分のおこなっている研究で成果を残すためにもっと研究に携わりたいという想いもある。まだ決断を迫られる時期ではないので、先を見据えつつゆっくり考えていきたいと思う。

【文責 12期・菅原大嗣】

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