井原智彦さんのお薦め書 『成長の限界』D.H.Meadows, D.L.Meadows, J.Randers, and W.W.Behrens III. ダイヤモンド社, 1993, 50版, 大来佐武郎監訳. 資源が無尽蔵にあれば、環境問題は発生しないだろうか? 汚染防止技術が発展すれば、環境問題は解決するだろうか? 環境問題を考えるとき、ある側面だけに焦点を当て、それさえ取り組めば、解決するのではないか、と思いがちである。技術万能主義は代表例である。しかし、このような単純な考えが、明確に間違いであることを指摘するのは難しい。 D.H.Meadowsらは、システムダイナミクスの手法を用いて、地球環境と人間社会を取り巻く関係、地球環境問題の構図そのものをモデル化した。そして、シミュレーション結果より、定性的であるが、問題が単純ではないことを示している。 今日では、定量的な数値モデルが数多く作成され、システムダイナミクスはやや色褪せているが、本書が出版されたのが1972年であることを考えると、本書の手法は特筆に値する。 システム的思考を身につける上で、文系・理系問わず、お薦めの一冊である。 ちなみに、D.H.Meadowsらは、1992年、本書で用いたWorld3を改良したWorld3-91でもシミュレーションをおこない、成果を「限界を超えて」にまとめているが、環境問題の顕在化後であるため、文章はやや暗い。 佐藤直子さんのお薦め書 『いごこちのいい場所』神岡学 大和書房 あなたの、いごこちのいい場所は、何処ですか? 家族や友人といる空間だったり、ひとりで過ごす自分の部屋だったり、恋人の隣だったり、そして、もしかしたら、たくさんの生命を肌で感じられるところかもしれません。 この本をめくると、綺麗な風景写真とそこでささやく言葉に出会います。真っ赤なチューリップや青い空、そして萌えわたるみどりは、ページから溢れ出てきそうなほどの生命力を放ち、本を手に取るものに鮮烈な印象を与えます。と同時に、自転車の後輪や都市の夜景いつかどこかで見ていたような、気付けばいつも身近にあったような、そんな懐かしさをもはらんでいます。 疲れているときには澄み渡る空が直接心に響くでしょう。穏やかな午後は子どもの後姿に思わず口元が緩むでしょう。自転車に絡まる蔦から、都市の夕暮れと田舎の夕暮れの違いから、様々な環境問題を連想してもかまいません。読む人間の心情に合わせて、ひとつひとつのページは表情を変えます。そこでは、「環境問題」という難しい言葉に出会う前の、純粋に周りの世界と戯れていた頃の、驚きに溢れた毎日を思い出せる気がします。 言葉を綴った神岡学と日常の風景を切り取ってきた神岡衣絵の、夫婦の生み出す暖かさを、感じ取っていただければ幸いです。 |