社会人の仕事場 ― 第1回:長崎市交通企画課 前田耕作さん (1期)

社会人になった環境三四郎メンバーは、今何を考えどんな仕事に取り組んでいるのか?
――このコラムでは、社会人の仕事場を垣間見るとともに、環境問題への関わりや問題意識等を聞いていきます。今回は、第1回として長崎市役所の前田耕作さんの仕事場にお邪魔しました。【取材・編集:木村宰 2001年11月28日】

前田耕作

  • 前田耕作さん
  • 三四郎1期生の代表を務め、きゃんえこ活動等に活躍。修論ではカブトガニの産卵行動について調査。
  • 1993年 理科二類入学1995年
  • 教養学部基礎科学科第二(注1)進学2000年
  • 総合文化研究科広域科学専攻修了2000年4月
  • 長崎市役所入所。

バリアフリー基本構想の策定に取り組む

――まずはお仕事の概要をお教えください。

私のいる都市計画部交通企画課では、公共交通政策や駐車場・幹線道路政策などを扱っています。中でも私は公共交通と駐車場を扱う企画係にいて、交通のバリアフリー化を担当しています。

――交通のバリアフリー化といいますと?

昨年(2000年)の11月に「交通バリアフリー法」というのができたんですよ。それに基づいて地方自治体が駅等を中心としたバリアフリー構想をまとめることができるようになったので、長崎市としても基本構想をつくっていこうということになり、新人で他の仕事を持っていなかった私がその策定を担当することになりました。

――具体的にはどんな仕事をするんですか?

基本構想をつくるために国や県、高齢者団体などの各種市民団体の関係主体の代表者を委員とした協議会を設置してその運営をしています。いわゆる事務局ですね。また、市役所の中でも関係課長等を集めて幹事会を開いています。明日も第2回の幹事会があるんですよ。これまでの検討で対象地区が決まったので、これから対象地区の中でどの道路・どの電停バス停を整備していくか(特定経路)を提案しようとしています。

――前田さんの役目は?

私は事務局の一番下っ端なので、基本的には協議会に提出する資料の準備ですね。基本構想策定のためには高齢者や体の不自由な方、あるいは道路管理者や交通事業者に対してヒアリングしたり、現地を自ら歩いて周辺地区の問題点を探ったり、といった調査の必要が出てくるわけですが、それを調査会社と相談して進め、協議会に報告するんです。
 それから調査結果の報告の他に、構想の原案作成という重要な仕事もあります。構想に盛り込む対象地区や特定路線というのは、大元は私がつくって課長・係長に図ったもので、それが幹事会や協議会で揉まれてできるんです。原案を作れるというのが、行政の一番やりがいあるところじゃないかと思いますよ。

――なるほど、面白そうですね。ただ最近は、ワークショップ等によって住民が原案作成の主体になることも増えてきていると思いますが…

そう、今回も本当はそうしたかったんだけど、時間的にも難しくてできませんでした。もっと参加型にすべきなのはわかってるんだけど、それにはすごい手間がかかって、うちの課はこれに係りきりにはなれないから難しかった。それに私の経験不足というのもあります。まあ失敗しながらノウハウを身に付けていくしかないですね。それから、核になるNGOを見つけてネットワークをつくるとかして、もっとNGO側の協力を得るようにしていかないといけないと思っています。

地域の人と接する仕事がしたい

――前田さんが市役所で働こうと思ったのはどうしてですか?

3年生の時に、相関社会科学の丸山の地域調査ゼミに行ったのが大きかったですね。熊本県の小国町に1週間ほど調査に行って、町の人にインタビューしたり、アンケート配ったりして森林と地域社会の関わりをまとめて発表したんですが、そういうフィールドワークがすごく楽しかったんです。だから、地域の人と直接接することが多い仕事の方が楽しいだろうと思いました。
 それから大学は理系でよかったけど、仕事は文系のほうが視野が広くていろんな仕事ができていいだろうとも思いました。飽きが早い性質なので、一つのことだけやるんじゃなくて、なるべく幅広く仕事したかったんです。それだったら、省庁に分かれている国より自治体のほうがいいだろうと。さらに、県より市の方が住民の方と直接接する機会がたくさんある、ということで市役所を選びました。

――住民の方と接することの、どういうところに楽しさを感じるのですか?

人は理屈だけではないというところ。客観的なことだけではなくて、感情的で、合理的でないところもあるというところが面白いと思っています。普通、意思決定というのは合理的、つまりあっちよりこっちの方が損失が少ないとか、お金とか何かの指標で選ぶわけだけど、実際の地域の政策決定では、こっちのほうが満足したとか得したとか、そういう住民の感情的なところも判断しないといけないから、そこが面白いと思う。

――地元に帰りたいとかそういうのはありましたか?

もちろん、地元に帰った方が楽しいだろうというのはありました。どうせ住むんだったら自然の豊なところのほうがいいし。長崎で生まれ育ったんだから、ということは当然あります。だから自治体で働こうと決めた時点で、長崎市にすることは半分以上決まっていましたね。

――就職してから、期待とのギャップを感じたことは何かありますか?

それは残業です。長崎で市役所なのに、何でこんなに残業あるかなと。約束が違うじゃないか、と思ってます。でも内容的にはなかなか面白くて、とても楽しめますね。

マイペースでやっていきます

――ところで、大学で勉強や活動してきて、今も役に立っていると感じることはありますか?

別の分野・部署で働いている人のことがなんとなくわかることですね。基礎科学科第二で勉強したということと、三四郎でいろんな分野・関心のメンバーと活動したことで、やっぱりジェネラリストの素養・考え方が押さえられたのかなぁという気がします。異分野へのとっつきが比較的早いと思います。

――そういえば、前田さんは卒論と修論ではいわゆる理系のテーマを扱いながら、技術職でなく行政職で市役所に入るという珍しい進路を取られたと思いますが、どうしてですか?

行政職ならどんな部署にもいけるからです。技術職だと今のような福祉や環境の仕事をするのは難しいですからね。理系出身のおかげで、土木など工学的なことが多少わかるというのは一応強みだとは思いますよ。

――大学時代にもっと勉強しておけばよかったということはありますか?

個人的には、沿岸の保全生態学についてもう少し勉強しておけばよかったとすごく思っています。大学ではカブトガニばかりでしたけど、本当は沿岸生態系全体を把握できるようになりたかったんです。
 ただし、今からでもチャンスはあるだろうし、海に囲まれた長崎ではそのフィールドに事欠かないので、まあマイペースでやっていきますよ。「長崎の自然と文化を守る会」(注2)の末席も汚していますから。でもやっぱり何かに締め付けられるとつまらなくなるので、そうならない程度でやっていきたいですね。そういう生き方で良かろうと思っています。

――随分落ち着いていますね。

そう、落ち着くのが一番ですよ。

――今後の計画みたいなものはありますか?

「105%くらいの力を出して生きる」ていうことですかね。無理はしない、でも人の役に立つことはすると。転職は、、、そうですねえ、40か50くらいになったら考えるかも知れませんが、今はやっぱり行政で事務局的役割を担うのが面白いですね。公共の事柄について当事者になれますから。

――三四郎の後輩に向けて一言お願いします。

なるべく自分と違う人とたくさん会うと勉強になっていいんではないでしょうか。環境問題やるんだったら、自分と違う立場の考えも理解しないといけないから、重要なことだと思います。


長崎という地に根を下ろし、地域のため仕事に取組む前田さんの姿勢に感銘を受けると共に、無理せずマイペースで進もうとするその落ち着きにすごく親近感を覚えました。ご協力ありがとうございました。
      注1)基礎科学科第二:現教養学部広域科学科
      注2)長崎の自然と文化を守る会:長崎の自然環境や文化遺産・都市景観の保全等に取組むNGO。

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