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研究者インタビュー
安井至




― 環境問題をどう定義しますか?

 まず、人間には自分をとりまくものを守りたいという気持ちがある。自分が大切におもっているものを保全し健全な状態に保ちたいと思う気持ち。これが乱されるのが環境問題だな。大切なものは人によって様々、つまり人間の数だけ環境問題がある。大切なもののレベルは、地球、生態系、地域、種、人間社会、個々の生命体…ってね。だから「環境学」というものはあまりに広すぎる。スコープを縮めない限り、統一した学問系にはならないだろうね。その中で私のやっているのは、「持続性の環境学」。サステナビリティーをいかに環境学の立場から考えられるか。とりわけ、産業構造のあり方などを考えている。


― 環境問題を引き起こす原因は何ですか?

 人間活動。


― 解決には何が必要ですか?

 人間活動を押さえること、だね。


― 人間活動とは経済活動と考えてよいのでしょうか?

 一概には言えない。経済成長すると、たしかに一方では消費型の環境問題(エネルギーや廃棄物)が悪化するが、もう一方では環境対策に資金がさけるので、公害は減少するし。


― 解決の要素は何だと思いますか?

 人々が確実な現状認識を持つこと。環境問題は、地球レベルでは悪くなっているが、日本レベルではよくなっている。日本で騒がれているダイオキシン汚染も、今やほとんど問題ではないレベルにある。日本の国内における環境問題は、ゴミ問題以外にはない。一方、世界的な環境問題はたくさん。しかし、今日本で騒がれている問題とは全く違う性質のもの。今、一体何が問題なのだろう、とわからないことが最大の問題。まずそこをしっかりしなきゃ。


― 現在の対策についてどうお考えですか?

 公害型の対策に関しては日本はいい線いってる。しかし消費型汚染の対策は全然できていないね。往々にして人々はマスコミから得た情報を頼りに行動しているが、そのマスコミは偏った報道をする。だから人々の行動はどうしても間違っちゃう。私は、インターネットで「市民のための環境学ガイド」というのを作っているが、それは「正しい情報とそれを判断するスキル」を人々に与えるためのものなんだ。以前行った研究を通して社会を変えなければいけないという結論に行きついたのでね。今度、情報伝達技術の研究を始めるんだ。人々に「情報とスキル」を如何に与えうるか、という研究。具体的には、環境問題はトレードオフだ(トレードオフ:あることをするとダイオキシンxμgとCO2yトンがでるが、どっちをとるか、というようなこと)ってことを知ってもらったり、廃棄のシナリオを選んでもらって、自分の行為(ゴミの捨て方)がどういう結果を導くのか考えてもらったり、マスコミの報道を採点したり、専門化の対談をビデオでとって流したり、ということを考えてる。善意で動いている人の善意が間違った方向に進まないように、正しい情報とスキルを市民に与えなければならないんだよね。


― 先生の環境問題に関する原体験は何ですか?

 原体験というのは実はあんまりないな。前任の先生が亡くなって私が引き受けたことが、環境問題を始めたきっかけなんだよ。それまでは関心もあまりなかったし。やり始めた後は、「物の環境負荷はどうやってはかれるか?」という、自分の専門を生かせるようなテーマが見つかってからおもしろくなった。いろいろな専門の人がいた人間地球系を、「持続型の人間社会を作るためにはどういう要素が一番必重要か」というウェイティングをするつもりで眺めていた。それが自分の興味にもあっていたので、今の自分の雑学の基礎になっている。環境問題とは難しい。人間の能力を超しているから一人では解決できない。それをどうやってウェイティングをつけるのか、が最大の難点。(=ウェイティングとは例えば、トレード・オフが常にあるからそれをどうやってバランスをとるか、など。それにはすぐに専門的な知識が必要になってしまうが、現在の我々はその知識を持っていない。ダイオキシンは一体どうなっているのか?なんで魚に移行するの?などわからないことはたくさんある。ということ。)


― 現在の研究テーマは何ですか?

 さっきの(情報伝達技術の研究)だな。私のターゲットは、「世の中を変えたい。」ということ。“リスクゼロ”ではなく、“トータルにみて足し算をしたときにリスクをミニマムにする(=トータルリスクミニマム)ようなものが環境問題の正しい解決法である”ということを社会に知らしめることが当面の研究課題だな。根本には、人間の命と価値が有限なのではないか、という考えがある。


― 科学技術から環境問題を眺めるとどう思いますか?

 今の社会では科学技術が理解されなくなり、科学技術が無力のような状況ができている。超長期的にみると、科学技術や価値観を変えた上で、最終的にはエネルギー問題などは科学技術が解決するのではないか。例えば、遺伝子組み替えを考えてみると、人間の今の価値観で方向を選択することが将来に禍根を残さないか、が最大の問題。


― 東大での環境問題への取り組みについてはどうお考えですか?

 あるようなないような、ですね。環境学専攻がない割には、ちゃんとしている。だけど、それはよそがひどすぎるのかもしれない。


― 学生時代はどんなことをしていましたか?

 普通に勉強していましたよ。専門課程になったら、わりとおもしろかったからね。


― 地球の未来は明るいと思いますか?

 地球は人間に関わらず平然と生きていますよ。人類の未来は、というと別だけど。地球にとっては人類なんて何でもないし、ネガティブでもない。地球のためにできることをやろう、というのも人間の思い上がった考え方で、結局は自分たちのために何かをやろうということだし。


― 今の学生へのメッセージをお願いします。

 日本のマクロ構造、すなわち、食糧の自給率が40数%、エネルギー・資源の自給率も10%以下であって、このような国がどのように食べていくのか、これをちゃんと知って、その中で「何が重要な環境問題か」を考えて欲しい。