シケプリプロジェクト1998

1.イントロダクション

 紙問題は、大学という、紙を大量に消費する宿命にある場において緊急に解決すべき重大な問題である。しかも、それだけでなく、最近さまざまな場で耳にする「循環型社会」なるものがいったいどのようなものなのか、そして正しいリサイクルとは何なのか、という問いを突きつけてくるたいへん大きな問題である。

 始めての「シケプリ(試験対策プリント)プロジェクト」にはいろいろと失敗があった。しかし、今でもその重要性にはまったく変わりがないと考えている。

2.シケプリプロジェクト発足〜1998夏学期

 環境三四郎では、97年の夏学期、自分達の存在する場である駒場キャンパスの環境改善をおこなうべきだという考えのもと、昨年に引き続き「きゃんぱすえころじー活動」を行うことにした。これは当時の2年生(4期生)が春調査「東京と23区におけるペットボトルのリサイクル」およびテーマ講義I〜未来への布石V〜への協力で忙しかったこともあり、当時の1年生が主体で行った。具体的には、ごみ分別、弁当箱回収、そして紙という当時キャンパスで一番環境的に問題だと思われた3点に関して班に分かれて活動することにした。

 シケプリプロジェクトは、この紙班の活動の一つである。

 紙班は、学内で使用されている紙として、問題があるのは、シケプリ、ビラの2つだと考えた。問題改善・解決のためには、Reduce、Reuse 、Recycle(以下、3R)という順に大切だ、といわれている。しかし、東大では最後のRecycleさえきちんと行われているとはいえず、また学生数が多く、それに伴い使用される紙の枚数も多いため、Reduce、Reuse 、Recycleという順に実現していくと時間がかかりすぎてしまう。そこで、3Rを同時にかつ簡単にできるものからやっていくことにした。

 引き続き、97年冬学期もシケプリリサイクルおよび教科書回収を行うことにした。

 98年3月から「駒場と環境」というテーマで調査活動(98春調査)を行った。その中でも特に学生に関係の深い「ごみとリサイクル」に重点を置いて調べたが、その際にごみを可燃ごみ、不燃ごみ、缶・ビン、紙、生ごみ、発泡スチロール弁当容器、粗大ごみという7つの区分に分け、それぞれについて担当が排出・回収・処理のルート、量を調査し、現状を把握した上で、どのような問題点があるのか、またそれを改善するためにはどうしたらよいのかを、一般社会の状況と比較しつつ考察した。

 ところで、環境三四郎が企画、運営に協力したテーマ講義「環境の世紀〜未来への布石V」において、東京大学総合文化研究科相関社会科学専攻の岸野洋久先生が昨年度に引き続き自らの講義の枠を私たち環境三四郎の調査の発表にあててはどうかと提案して下さり(岸野先生は97年度もテーマ講義の枠を環境三四郎の春調査「東京都23区内におけるペットボトルのリサイクル」の発表にあてて下さった)、そこで春調査「駒場の環境」の発表を行うことができることとなった。

 だが、講義は90分という限られた時間であるため、調査のすべてを発表することは非常に困難であり、表面的な発表で終わってしまうおそれがある。そこで対象を紙に絞ることにした。缶・ビン等に比べリサイクル率が低く無駄な使用も目立つこと、ビラ・シケプリ等大学に特有の使用形態があることなどから、テーマ講義において発表するのに最もふさわしいと考えたからである。

 発表を紙に絞ると決定した後、紙について全員で詳しく調査を進め、紙の一般的知識と駒場の現状、問題点を踏まえてどのように改善したらよいかを考えた。その改善方法の1つとして、改めてシケプリプロジェクトを企画することにしたのである。

3.シケプリプロジェクトの概要

 前期課程の学生の消費する紙のうちかなりの部分を占めるのがビラとシケプリ(試験対策プリント)である。これらの紙のリサイクルを考えたとき、シケプリは短期間に集中して排出されるので対策が取りやすく、シケ対制度というクラスの枠組みを利用すれば協力も得やすい。そこで、これまでも行ってきたシケプリプロジェクトを、システムを大幅に変更して企画・実行することにした。

 具体的にこれまでのシケプリ対策と大きく異なる点は、上質紙、再生紙(色ビラ、コピー用紙含む)、その他(更紙)の3つに分別して回収を行った点と、上質紙に関しては環境三四郎が直接上質紙を再生紙にリサイクルする業者を探し、そこに引き取ってもらうことにした点である。

 なぜこのように上質紙を別扱いすることにしたのか。缶のリサイクルでは再び同じ缶にリサイクルすることが可能であるが、紙のリサイクルの場合、古紙を原子としてではなく繊維としてリサイクルするため、リサイクルする度に繊維が短くなり質が低下してしまう。よって、紙がまた同質の紙になるというのではなく、より質の低いものへと向かっていくのである。これをカスケード・リサイクルという。

 このような紙リサイクルの性質を考えると、上質紙はまだ紙の繊維が長く、質の良い再生紙の原料となることができるので、なるべくリサイクルの上部に投入することが望ましい。また、古紙需要が低迷しており古紙価格が回収費用を下回っているといわれているが、上質紙の需要は多く、有償もしくは無料で引き取ってくれる。よって上質紙を分別回収することは紙リサイクルを行う上で非常に重要だと考えた。しかし現在学部は上質紙も再生紙もすべて、繊維の質を要求しない板紙にリサイクルしているため、上質紙を再生紙の原料として引き取ってくれる業者を我々が独自に探す必要があった。またもしこのプロジェクトが成功すれば、学部も普段のリサイクルにおいて上質紙から再生紙というルートを検討してくれるかもしれない。そうした実験的意味も込めてこのプロジェクトは発足したのである。

4.紙質について

 プロジェクトの重要な問題として全体で議論となったのが、どの紙質を推進しようかということであった。一般的に、望ましい製紙原料となるための条件は、質的に一定であること、量がまとまっていること、供給が安定していることである。今回は実験的意味を持つこと、シケプリという短期間に集中して出される紙を対象としていることから、安定した供給という条件は満たせず、量がまとまるかどうかもやってみなければわからなかったので広報に力を入れることしかできなかったため、質を一定にするためにどうすればいいかというのが議論の焦点となった。

 紙質を一定にするには、何か決まった紙を推進して使ってもらうことが効果的と思われた。考えられるものには上質紙、再生紙、更紙がある。これらのうちどれを推進したらよいのか。

 まず上質紙については、一定量、均質であれば有償でのリサイクルが可能である。また、現状のシケプリの多くは上質紙であるため、質を統一するのが比較的容易である。だが単にルートに回すのが目的となってしまい、本当に環境負荷という点で良いのかどうか不明である。

 次に再生紙ではどうか。まず最大のメリットとしては古紙需要を拡大させることができるという点が挙げられる。だが、上質紙よりも繊維の質が劣るため、良くてもトイレットペーパーにリサイクルされる程度でそれ以上繊維として回ることはないし、逆有償(排出者がお金を払って引き取ってもらうこと)になる可能性が高い。

 更紙については調査が不十分であるが、更紙は古紙配合率がそれほど高いわけではなく(50%程度)、漂白されていないだけであり、その後の古紙回収ルートにも乗りにくいようだ。また、印刷においても紙づまりなどの問題が起こりやすい。

 結局どれがよいか三四郎内部でもまとまらず、また仮に上質紙に統一しても確実に不純物が混入するため(コピー用紙は上質紙であってもトナーを使っているため上質紙としてはリサイクルできない。そもそも学内のコピー用紙のほとんどは再生紙である)、特に決まった紙を推進することはせず、さまざまな紙が混合している現在の状態を受け入れ、それを分別回収することにした。

5.業者選定と学部交渉

 シケプリプロジェクトは
 1 業者選定班
 2 手続き班
 3 規格統一班
 4 回収方法班
に分かれて進められた。これらのうち1、2が行ったのが業者選定と学部交渉である。

 業者の選定に際しては、「上質紙を無料で引き取り、なおかつ再生紙にリサイクルしてくれるところ」であることを条件とした。

 まず、現在駒場の紙をリサイクルしている業者(ハッピー運輸倉庫)に問い合わせたが、そこはすべてダンボールに再生している、とのことだったので、除外した。また、以前回収していた業者である、(株)藤ビルメンテナンス、長岡商店に連絡したが、これも条件に合わなかった。

 次に、全国製紙原料商工組合連合会(専務理事小林隆)に連絡し、業者を紹介してもらえないかうかがったところ、条件にあった紙問屋である(株)中田を紹介していただいた。ここに電話し、集まり次第連絡して引き取ってもらえるようお願いしたところ、二つ返事で引き受けてくださった。

 学部交渉として、経理課用度係、環境委員会に許可をもらいにいった。

 双方ともに清掃業者(株)オーチューの許可を得れば問題ない、とのことであった。(株)オーチューも快諾してくださった。

6.広報

 広報は規格統一班と回収方法班が行った。規格統一班は主に上質紙、再生紙の区別をどう付けるかということ、回収方法班は実際に回収する際にどのような形態で行うのか、またその他広報についてを検討した。

 以下、広報の種類ごとに詳しく見ていく。

(1)上質紙、再生紙を識別するための紙片作戦

 上記述べたように上質紙、再生紙を分別回収することになったが、その際にそれらをどう見分けるかということが非常に重要になる。最も見分けにくいものは学生会館の再生紙で、白色度が高いため後から判断することは不可能である。そこでシケプリの印刷をする際にそれが上質紙か再生紙かを明記した紙片を一緒に印刷してもらうこととした。その紙片は学生会館および生協にお願いして、ゲスプリンターおよびコピー機の前に、分別を呼びかけるポスターと共に置かせていただいた。

 だが結果として、回収した際に見たところによると、実際にこの紙片を貼付して印刷してあるシケプリはほとんどなかった。しかも更に重要な問題として、仮にゲスプリで印刷する際には上質紙であったとしても、そのシケプリを借りてコピー機で印刷すればその紙は再生紙なのであり、再生紙であるにもかかわらず上質紙という表示がなされてしまうことになる。このようなことを避けるため、上質紙、再生紙区別のためのマーキングは色ペンで行うなどの工夫が必要となろう。

(2)試験対策委員長作戦

 また、ポスターだけでは広報力に欠けるため、直接各クラスのシケ長(試験対策委員長)一人一人に会いに行って、シケプリプロジェクトについて説明することにした。シケプリの多くは一年生のクラスで作られていることと時間的な都合から、対象は一年生だけにした。

 一年生全87クラスの語学あるいは情報処理の時間を、教務課が配布した時間割表で調べ、環境三四郎の主に一年生が空き時間を利用して回った。途中既習クラスはシケプリが作られていないことがわかり、各類4組以降のクラスを回ることにした。つまり回る必要があったのは75クラスで、1998年6月29日(月)から1998年7月7日(火)までに72クラス回った。これは、だいたいシケプリを作る時期に重なった。

 そこでシケ長に伝えたことは、シケプリ回収の意義とリサイクルへの協力、また印刷の際に前述の紙片を貼付してほしいというお願いである。また、シケ長連合なるものがあったので、そこから20ばかりのメールアドレスを聞きだしてメールを送った。

 シケ長は概してまじめに聞いてくれ、中には環境問題について意見を述べてくれる人もいたが、シケ長から他の人にはほとんど伝わっていないようだった。シケ長の他に印刷係なるものがいるクラスもあり、そういったところでは効果も薄かっただろう。連絡先については敏感になっている人も多いので、聞くのは難しかったようだ。また、シケ長のうち一人から、メールに対する苦情が来た。

(3)立て看

 7月1日に一枚看板を作成し、1号館前に設置した。

 労力削減のため模造紙に絵を描き、文字はパソコンで作成したものを拡大コピーして貼り付けた。そしてそれを立て看にはり、透明ゴミ袋を切り開いたもので覆って雨対策とした。作成当初はそれでもきちんとしていたが、9月の試験期間もそれを用いるため数ヶ月風雨にさらすこととなり、特に台風の際に倒れて雨に濡れて、再使用不能となってしまった。これまで何度もシケプリ回収をしながら、立て看を毎回作り直しているということは問題だと思う。時間の余裕のあるときにしっかりしたものを作り、それをきちんと保管することが望ましいが、保管をきちんとできる場所を確保する必要がある。

(4)東大新聞

 学内向けの新聞である東京大学新聞に記事を載せてもらうよう交渉したところ、取材をしてもらえることになった。6月11日に取材をしていただき、7月28日発行の第2014号一面に掲載された。

 新聞社側も記事となるような話を常に求めているらしく、きちんと伝えれば掲載してもらえる。

 東大新聞は、相当数の東大生が購入しており、有効な広報手段といえる。今後も働きかけていくべきであろう。

7.シケプリ回収ボックスの設置

 シケプリ回収には、97年度の対策と同じく、クリーンボックスを倒して利用することにした。しかし今回は上質紙、再生紙、その他を分別する必要があったので、真ん中に段ボールを入れることによってボックスを三つに仕切った(2リットルペットボトル6本入りの段ボールだとちょうど良い)。そしてクリーンボックスのふたに、ちょうど3区分それぞれの上になるよう位置を考えてポスターを貼り、どのように分別するかを簡単に書いた。更にその上の壁には、シケプリプロジェクトの意義や分別回収の必要性を書いたポスターも貼った。

 設置は7月7日昼休みに行い、一人2〜3個、11人で設置した。設置場所はほぼ昨年度の冬学期と同じである。また、夏休み期間中などしばらくテストがないときは、回収ボックスのふたを閉めることで他のごみの混入を防いだ。

8.回収

 回収は二人一組で行い、上質紙用、再生紙用にそれぞれ一袋ずつゴミ袋を持って、上質紙、再生紙を再分別しながら回収した。基本的に昼休みに回収を行い、一年、二年の英語1の時は文系、理系共にテストが終了した4限に、試験期間の最終日は片付けも同時に行うために4限の時間中に回収を行った。回収した紙は1号館中庭の紙倉庫に持っていき、上質紙については別個集め、再生紙については学部の集めたものと一緒にした。また、回収する際に、おおよその枚数も記録することとした。なお、その他の区分に入った更紙については、学部のリサイクルルートに乗せることができないため、その場で可燃ごみとして処理した。また、7月の試験期間中は毎日回収を行ったが、9月中はメンバーがあまり集まらず、回収量も多くなかったため、回収は2日に一回行った。

9.回収結果

 回収した上質紙の全体量は5000枚強で、予定の枚数を大幅に下回った。

 事前の調査で、シケプリに使用される紙は約100万枚(6、7月に購入された更紙+上質紙の枚数より)であると推定された。

 量以外のこととしては、紙の分別が全くできていなかったということが挙げられる。しかし、環境三四郎のメンバーが見てもどちらか判断できないようなものも多く、それを分別しろというのは無理なのかもしれない。

 回収した紙は、こちらの不手際により業者に持っていくのが10月15日と大変遅くなってしまった。その間(株)オーチューに連絡を怠っていたため、紙倉庫の改装に伴い、通常のルート(ダンボールにリサイクル)でリサイクルにまわされてしまった。したがって、上質紙を再生紙に、というシケプリプロジェクトは残念ながら今回は実行することができなかった。

10.反省

 環境三四郎メンバーに対するアンケートなどを通して、今回のシケプリプロジェクトについて多くの問題点が明らかとなった。まず、システムなどについて全体での話し合いが絶対的に不足していた。また、4つの班に分けて進めたものの、それぞれの担当部分がどこからどこまでなのかわからず、全体をまとめてみる人もいなかったため、新たに出てきた問題やどこの班にも属さないような仕事についてきちんと対処できなかった。このように責任の所在が不明確であったことが、(株)オーチューとの連絡を途絶えさせ、せっかく分別回収した上質紙を通常のルートで板紙にリサイクルされてしまうという結果をもたらしたのだと思う。今後どのようなプロジェクトを行うに当たっても、責任者はきちんと付けるべきである。

 回収したにも関わらず上質紙を再生紙にリサイクルできなかったことは、大変残念である。

 最後に、広報、回収に協力してくれた三四郎のみんなに心から感謝の意を表したい。

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