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地球温暖化の真実



6月21日 住 明正

はじめに

地球温暖化問題は今年の八月に南アメリカで開催されるリオ10年や、京都議定書でご存知だろう。地球温暖化について考えたい。この問題がそもそも議論されたのは70年代からだが、世界的に取り上げられたのは88年の冷戦構造崩壊後である。どういうことかというと、戦後のすべての社会的構造を規定していた冷戦構造がソ連崩壊ですべてチャラになり、国際社会がそれに代わるグローバルな制約条件を必要性としたのである。もちろん当時から、科学的には未解明なことが多い温暖化問題が国際政治のフレームのうえに取り込まれることに対する懸念、つまり非常に不十分な知識しかないのにはたして取り組んでいいのだろうかという議論はあった。しかし国際社会はその代わりとなるものを地球温暖化に求めたのである。

住 明正

環境問題の大きな枠組みを考えると、発端となったは西ドイツ工業地帯などからの酸性雨により北欧のきれいな森林を枯れてしまったという、汚染の長距離輸送の問題である。この問題に関してヨーロッパで枠組み条約の締結という形で対応するというある種のフレームワークができた。それをうまく使ったのがオゾン層・フロン問題。同じようなフレームワークで温暖化も取り組まれる。つまり枠組み条約がつくられて、具体的にどう実行に移すかはCOPで詰めていく。ただし他の環境問題と違って温暖化の問題がこじれているのは、根源的に問題に深く関わっているからである。そのため自分の頭で考えていく必要がある。しかし現状はなぜ温暖化がたいへんかわかってない人が多い。

地球温暖化の真実

よく聞かれる質問としては以下の3つがある。

1) 地球温暖化は本当か。

まっとうな理由としては「地球は広いからわかりっこない、誰が北極から南極までデータを調べ上げているのか、データがあるわけない。」という意見がある。また「データを測っているにしても広い地球を本当にきちんとデータで測ってるのか、データに偏り(陸上の北側の国に多い)があるに違いない」という意見もある。つまり都市気候(例えばヒートアイランド)の影響が強く、グローバルにはあがってないのではという反論である。一方リモートセンシングによる技術的反論もある。物質はその温度に対応するような放射を出しているという確立された理論があり、太陽はその6000℃に対応する放射エネルギーを出しており、人間からも体温相応の赤外線が出ている。つまり温度差は放射エネルギーの違いとして現れるのであり、マイクロ波センサーによる衛生観測では、温度は上がっていないと結論付けられるというのである。

2) 地球温暖化は本当だとしても、それは人間が起こしたものなのか?

温度が高いのは本当としても、地球の歴史を考えると、恐竜時代が今よりずっと暖かかったように気温・気候は驚くほど変動・変化している。そもそも自然のシステムの中に変動の要因があるのだから、「人間活動に拠ったといえるのか」というもっともらしい疑問が現れる。それを支持する事実として20世紀後半は明らかに太陽活動は活発になっている。黒点周期に伴う太陽活動の増加が効いているのではないかというわけである。

3) 人間活動が温暖化を招いたとしても、何が悪いか。

素朴な人は「冬が暖かくなっていいのでは?」と考える。何が悪いか真剣に考えないとなかなか行動に結びつかないのでしっかり考える必要がある。一方、「本当のことを科学者が言ってるのか」という不信もある。もっとまじめに考えると、結局環境派は規制派であり、国家による規制を強化しようというロジックになっている。そこで「国家は信用できるか」という問題になってくる。とどのつもりが環境税だろうと、増税の手段になると懸念する。また、「所詮規制の対策は昔の戦争中の隣組、相互監視、連座制のようなものとなるので、しんどいね」という意見が出てくる。さらには、「自由を守れ」、「人間死ぬだけでしょう。何の問題があるか。」。「統制されるならそれぞれが戦って死んだほうがまし」という意見もある。アメリカの環境反対の主張などがそうである。このように具体的に正しいとしても何が悪いのかというのは、疑問点が多い。 にもかかわらず日本はこの問題をまっとうに議論しない国である。

日本で温暖化を議論するのはせいぜい、
  • 大変だ。
  • 不景気になる。
  • 都合が悪い。
もうすこし真剣に考えて、本当に何が悪いかを自分自身のレベルで考えないといけない。

地球温暖化は本当か。

そもそも惑星の気候はどうして決まるのかを勉強しよう。現在の気候になっているのは、ある時間幅をとると入ってくるエネルギーと出て行くエネルギーがバランスされているからである。地球の特徴としては窒素8割、酸素2割という大気構成ゆえに、たまたま太陽6000℃の放射に対する周波数帯に対しちょうど強い吸収性が無いという点にある。大気が吸収しないため、空気の一番底である地表面にまでたまたま光がくる。それにより生命体がもっとも強いエネルギーの下で適応するように進化したのである。 もし大気の組成が違っていれば、実際は海になった可能性は一杯ある。すると海の太陽光を吸収するので真っ暗になる。地球にはその環境に適した進化が起こっていただろう。 大切なのは、大気組成がたまたま窒素8割、酸素2割であるため、エネルギーが大気の底(地面)にまで届くこと。なぜならそれが、雲ができたりするような運動が起こる原因ともなっているからである。

また地球の温度変化が小さいのは、空気があるからである。空気には地表から出るエネルギーをトラップする力がある。つまりエネルギーを地球内にとどめる力がある。月は空気が無いので太陽が照っていると100度で、太陽が届かないとマイナス150度にまで下がる。地球だと空気があるため、そんなことはない。地球の気温を決めるのは空気である。

一方、CO2が280ppmから560ppmに上昇するにしても、ppmは100万分の1のオーダーであり非常に微量である。そこでなんでそんなに温まるのかという疑問が生じる。地球は十分に広く、人間がダイレクトに出した熱(ヒートアイランド現象)で地球全体はあたたまるということはない。しかし、実際にわずかなCO2の上昇で温度上昇は起こる。太陽の放射エネルギーはたえず流れているもので、たくさん入っては、たくさん出ていくものだからである。このメカニズムは、交通量のある十車線の大幹線道路にたとえると分かりやすい。渋滞理論が示すように、このような道路では信号のわずかな時間変化、走行中の一台の車によるブレーキといったちょっとした変化で容易に渋滞が発生してしまうのである。つまりCO2(信号、ブレーキ)はエネルギーの流れ(車の流れ)を少し乱すだけだが、それが大きな気温上昇(渋滞)を引き起こすのである。CO2は普通わずか四ワット。一方、太陽から来るエネルギーは280ワットと言われている。このような2%くらいの変動幅は大きくない。だから実際は地球科学の分野で1%の精度の議論をするのは厳しい。つまり地球温暖化のような100年後に2度とか3度とかいうオーダーは原理的に精度は難しい。

以上、地球における大気の衣による作用について話したが、地球型惑星は他にも火星、金星がある。火星は空気が薄く、非常に寒い。一方、金星は90気圧か70気圧で厚いCO2主体の大気をもつため、暑い。この違いは太陽からの距離もあるが、二酸化炭素などの温室効果気体の大気組成も原因である。地球ができたときは金星とおなじくらい二酸化炭素があった。たまたま地球の場合は、CaCO3の形などで海に固定してCO2を大気中から抜いたから今日のようになった。余談となるが、かつて地球上、酸素は産業廃棄物だった。嫌気性のバクテリアのような還元型の生命が増えた結果、やたら酸素が溜まったときに初めて酸素を使う生物が出たのも覚えておこう。

結論としては、

  • 現在の気候の形成そのものには二酸化炭素などの温室効果気体が効いている。
  • 昔から比べると、1980年以降はたしかに暑い

ただしここで問題となっているのは、20年から40年にかけても温度上昇が起こっていることである。スタインベック『怒りの葡萄』でアメリカ中西部が乾いた描いた時代に当てはまる。人為的な影響は50年代以降にもかかわらず、それ以前であるこの時期も温暖化している。たしかにこの時期の温暖化上昇は人間活動と思えないので、何らかの意味で自然のサイクルが温暖化を巻き起こしてもおかしくはない。すると、「現在でも自然による温暖化が起きているのではないという保証はないので、人間活動が原因とはいえない」というのが、反対派の主張である。
また、全部データがなければグローバルな物を見れないかというとそうではない。人工衛星などのグローバルな観測機器の整備、グローバルに推計するモデルの作成、南極氷柱の気泡抜き出し調査などの技術進歩により、限られたデータであるとしても、データに基づいた温度の変化は間違ってないと言うのが今日の常識となっている。

マイクロ波観測で地球の温度が上昇していないという反論もあるが、 マイクロ波観測とは、温度を測っているのではなく、リモートセンシングといって、人工衛星で地球からくる、マイクロ波エネルギーを測る観測方法である。そのマイクロ波エネルギーを温度に焼きなおす際に、途中の色々な影響を考慮するため補正をやっている。その補正の仕方に問題がある。具体的には、
  • 各人工衛星の軌道の不一致
  • 搭載センサーの違い
  • 同一人工衛星の軌道のずれ
などである。

「温暖化の進展速度は、単純にCO2が倍になっただけではグローバルには1度ちょっと。なぜ3℃になるのか?」答えはフィードバックがあるからである。地球の仕組みは複雑で予想していないことが起こり、それらがどう働くかで大きく状況は変化するのである。

フィードバックの例@−アイスアルベドフィードバック

寒くなって雪が降ると、白っぽくなるから太陽光を反射。それがずっと繰り返され、どんどん寒冷化する。これはインプットがアウトプット、アウトプットがインプットとなり、どんどん影響が増大していく、ポジティブフィードバックである。

フィードバックの例A−暴走温室効果

二酸化炭素が温暖化物質の代名詞だが、もっとも強力な温暖化物質は水蒸気。つまり温暖化予測においては、実際に水蒸気がどう働くかの解明が大切となる。 温暖化が起こると、暑くなるから大気中にある水蒸気量は増える。水蒸気は温暖化物質だからさらに暑くなり、さらに蒸発量は増える。その結果、どんどん温度は高まっていく。これを暴走温室効果と呼ぶ。どんどん温度が高くなり最終的には海の水が全部蒸発し、水がまったく無くなる。金星はこのように水がなくなったといわれている。

以上のように一口に温暖化と言っても、地球温暖化に伴ってさまざまなプロセスを経たフィードバックが働き、それによって予測も変わる。他にもエアロゾルが注目されている。エアロゾルでなじみなものはスモッグ。飛行機から降りてくるときに見える黒い汚い空はエアロゾルである。エアロゾルは日傘効果、雲ができやすいなどの特徴を持つため、寒冷化に寄与するとも言われている。

温暖化の原因を推定する道は基本的にない。従来の科学のロジックでは証明できない。起きた後にしか分からないということが従来の科学。起きた過去を解明することが科学の役割として、地球温暖化に対し物理系の人は反対する人が多い。しかし悪く言うと、物理は解ける問題を解いているだけ。化学は解けない問題を解かない。それで済まされれば問題ないが、実際の社会においては解けない問題を解いてほしいとみんなが言ってくる。環境問題は水俣の例からも分かるようにやりなおせない、一旦進んだら終わってしまう問題である。そういうときどうするか。将来のことを現在の立場で議論するわけだからツールがなければ分からない。温暖化は人間が原因かという議論は、温暖化問題予測のツールとしての気候モデルを信用するかどうかの問題である。明日の天気も分からないのに、100年後の温度がわかるかという意見もあるが、100年後の温度はまったくわからないかというと、そうでもない。完全ではないが、まったくでたらめではない。100点でなければ0点というのはロジックの飛躍に過ぎない。

地球温暖化は本当だとしても、それは人間が起こしたものなのか?

人間活動に伴うCO2の上昇を無しにして気候モデルを計算した結果、さまざまな要因を考慮に入れても、自然要因だけで80年以降の温度上昇は説明できず、再現は難しいと判断された。一方、人間活動を加えると、温度上昇は簡単に説明できる。反対する人はモデルが悪い、ちゃんとしたモデルであれば、人間活動に伴うCO2の影響なしでも計算があうと言う。しかし多くの人は、そんなにモデルに対しインチキをしているとは思えないので、人間活動は無視できないとだいたいは考えている。太陽活動に伴う変化を考えると、気候モデルはそれなりに変動もするけど、それだけでは最近の温度上昇を説明できない。別に最近の温度上昇すべてが人間活動とは言っているわけではないのである。 現在の対応策は、ポリシーノーリグレットで、わかってなくても対応しないといけない。 また、この気候モデルを用いた計算だけから京都議定書を結びましょうと国際的同意を結ぼうとしているのではない。現在の対応策はモデルの結果だけにとらわれず、もっと様々な観点(エネルギー問題、汚染廃棄物問題など)からも、「いけいけどんどん(何の制約もかけない)」は無理があるとされるのである。100億の人がいけいけどんどんで好き勝手やるのは早晩無理となるのは別の観点からもアグリーされる。その点からしても、気候モデルが不完全だからと言って何も対応しないと言うのは誤りである。
結論的には、 「たしかにまだまだ不確実・不完全なことは多いが、その程度は減少しつつある。±1℃くらいの幅はあるが、気候予測モデルはそういうものであり、間違いがあるというわけではない。」と言える。

人間活動が温暖化を招いたとしても、何が悪いか。

地球の歴史から見れば現在の二酸化炭素の分圧は最小に近いし、気候変化がもっと極端な時代があった。それでも環境変化に生物は適応してきた。しかし今日、我々の多くは自然にすんでいるのではなく、社会政治経済環境という人為的環境に住んでいる。よって何が悪いかと言うと、大きな撹乱が生じる可能性があるということである。実際に地球温暖化の影響は、現行体制を認めれば、貧乏人に強く出る。差別的に影響を与える。お金が十分あり、お金で何でも買える。この前提を満たせば何の問題もない。影響が出るのは必ず貧乏人。先進国は影響がなく、弱者にしわ寄せがいく構造である。核兵器は地球全体に平等に悪影響を与える。温暖化はそういうレベルの問題とは違い、影響を受けるのが一部なので、エゴが出てくる。自分は生き残れるという人が必ず出てくる生臭い問題である。 温暖化そのもの、3℃暑くなるのはたいしたことないが、ストレスが現在の社会経済環境を通して非常に増幅される。特に水資源は問題となる。もともと水資源の供給は自然的にも変動している。安定的に供給されるのは地下水である。水量が長い時間の平均できまるである。よって地下水で暮らせる程度の人口密度で、気候変動に対しても対応できる社会インフラがあれば、適切な対応ができるが、反面効率が悪くなる。そのため首都圏を発展させるため水資源をあちこちから持って来て、人為的な特殊構造でもってしのいできた。人工的な枠組みでやっているところに、根源的な変化が生じると、水資源インフラが使い物にならなくなるし、公共事業の破綻も生じる。
一方、温暖化の影響は人と国によって違う。例えば97.98年アメリカはエルニーニョがおき、史上最大の暖冬だった。その影響で消費エネルギーが減り、プラスとなった。アメリカ世論が「暖かくなるのはいいじゃないか、本当に温暖化して悪いのか?」となった。庶民レベルで温暖化はいいということになり、ローカルにうちは得するかもという風になると、合意形成はバラバラになっていく。影響評価をどういう原則で判断するかを温暖化の対策を決めるときに大切になる。
さらに言うと、温暖化・京都議定書は21世紀のあらたな世界のあり方をめぐるヘゲモニー争いという一面もある。日本はどうするか?日本はものすごく世界に依存しているトリッキーな存在である。例えば食糧自給率は40%に過ぎない。グローバルな経済とのリンクを考えると、グローバルな世界観を提示してやらなければ顰蹙をかう。今の生活はイージーな生活をしているから、それにふさわしいモラリティーをつけなければならない。温暖化の問題は、自然科学の方向性は見えてきた。残るは施策の問題が大きい。トヨタなど、ワールドカンパニーは環境に意識して取り組んでいる。売ったら勝ちという商業規範では許されないと認識したからである。世界中の人の価値基準が変わっているのでそれに見合った対応が必要である。グローバルなネットワークを無視しがちだが、思った以上に世界の人が色々なことを知っているということを理解した方がいい。世界のモラリティーは高まっていると思う。日本は金も出さないくせに、と金出さないと発言権なしとともすれば考えがちだが、お金は人の価値を決めるメジャーではない。21世紀を見つめた哲学とか主張とかが大切である。

「ゼミ『環境の世紀』演習編」
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