住民の生ゴミ分別排出
次に各主体の活動について見ていくわけですが、まず、住民の生ゴミ分別排出です。長井の分別回収は全国一だと言われているわけですが、全国一の分別排出率をどのように実現しているのか、これを以下見ていきたいと思います。排出範囲は長井市の中心部の5500世帯ですね。だいたい人口の半分くらいが長井市の都市部にいるわけですが、ここから堆肥化して農村に回すということです。
なんで選ばれたかというと、消費者と生産者をつなぐという理念があって、この中心部が選ばれました。周辺の村部に関しては、もともと生ゴミを自家処理していた所が多いので、輸送コスト・収集コスト削減のため、この中心部が選ばれております。排出システムというのはどういうものかというと、レインボープランが始まる前に、どういった方法でやればいいかというのはさんざん勉強したそうです。
出てきたのが紙袋システムとバケツシステムというものなんですが、紙袋システムは、当たり前ですけど、紙袋に入れて集めるものです。結局バケツシステムが採用されたわけですが、写真にあるようにこういったバケツが各家庭にあるわけです。水がよく切れるようなざるもついています。こういったバケツは、容器代として2000円くらいで、紙袋よりも安く済むというメリットがあります。そういったメリットも重要なのですが、一番重要なのが、中身。紙袋であれば他人に見られずプライバシーを守るというメリットがあるわけですが、バケツの場合は収集所にあるバケツの中に捨てる段階で、他人に見られます。朝奥さん方が8時頃出てきて、すれ違って、「おはようございます」とか言って挨拶をしています。そのすれ違った人の出したゴミはバケツの中に見えるわけです。こういったことで、悪い言い方をすると、相互監視機能が与えられている。他人が見ているからちゃんと分別しようという意志が働く。
こういうシステムよって、もちろんシステムだけでなく、住民のモラルという点でも活動を行っていまする。また、市内の140ヶ所もの場所で、レインボープランについての説明を行い、その理念を住民に浸透させて、そういったモラルというか環境意識を向上させていく。こういったシステムとモラルと二つの面で取り組んでいくことによって、日本一の高い分別率を実現しているということになります。具体的には、平成11年度に集められた生ゴミは1523t、そのうち不純物がわずか80キロしかない。この不純物についても、後のセンターのコンポスト化の段階で振り分けされるんで、堆肥そのものにはほとんど不純物がないという状態が作られています。
コンポストセンターにかかる経費
次に6ページにもあります、コンポストセンターについてお話ししたいと思います。まず開発段階で、結構苦労があって、生ゴミの堆肥化とかの事業に関して研究する国の機関、もちろん民間機関もないわけで、自分達で全部やらなければいけなかった。もちろんこういった堆肥化を実施している先進地帯とかありまして、例えば長野県の臼田市とか、岩手県の紫波町というところなんですが、こういうところに視察に行くと。でも先進地というのは技術が古い所ですから、これだけでは参考にならないということで、自分達で様々な試行錯誤を経て開発を行い、やっと現地の堆肥の生産に成功したということです。
いったいこの堆肥化というのがどのくらいのコストがかかるのかということを見ていきたいのですが、建設費に関しては、初期投資額は3億8500万円、このうち農水省補助が50%、県補助が9%ということです。そのさらに後で追加投資が必要になって、それが2億5500万円。あわせて6億4000万が建設費として必要だということになっています。一方表2の管理運営というところを見ると、堆肥を農家とかあるいは家庭とかに売って販売収入が得られるわけですが、それがだいたい400万円。一方支出が4000万円以上あって、結局経費として3892万円というものが1年でかかっています。ここから堆肥化のコストを、補助金がなかった場合、社会的費用としてどのくらいのコストがかかるんだろうかということで、概算してみました。施設の費用が15年で償却するとして、51800円。それと比較するものとして、従来の焼却設備による焼却コストを出さなければいけないのですが、これが長井市で算出されてなくて、やむをえず環境省が出している一般廃棄物処理費用、一般廃棄物というのは家庭から出るゴミすべてと考えてもらっていいのですが、全国平均ですから、各自治体によっても変わるわけで、あくまでも参考にしかならないのですが、一応出してみました、43700円、平成9年度です。
こうして比べると、それほど高コストではないなということが、捉え方によりますが、言えると思います。さらに先程開発の段階で試行錯誤があったと言いましたが、その開発費が今後国とかが取り組んでくれれば自治体が負担する必要もないわけでそういうことも今後提言できるのではないか。
コンポストセンター規模の拡大の問題点
さらに次の7ページなんですが、レインボープラン堆肥化センター事業がまだまだ小さく、処理能力は年で2400tですからかなり少ないと言えます。規模がもう少し大きくなれば、規模の経済が働いて消費費用がより低減できるということが言えると思うので、さほど堆肥化事業は高コストではないと言えると思います。
ただし、◎のところですが、ゴミ処理全体として考えると、また新たな問題が発生する可能性があるということです。というのは、一般可燃物については、みなさんもご存知のようにダイオキシン対策の関係で、広域行政のまとまった形で大規模な焼却設備を立てることで対処しているわけですが、この焼却設備というのは、全連続運転と言われるものでして、24時間ずっと溶鉱炉も動き続けるわけです。こういった焼却システムは常にある程度ゴミの量を必要としている。つまり設備に関して大は小を兼ねるで、ゴミは少なすぎても問題だということで、こういうリサイクルとか減量化に対するインセンティブが働きにくい。長井市の中で行われる生ゴミ堆肥化事業は、長井市周辺の米沢市とかと一緒にやっていますがまだ小規模なものなので、こういった問題は起こらないですが、今後リサイクルとかあるいはゴミの減量化が拡大してくれば、こういった問題が顕在化してくる可能性もある。
ですから、リサイクル事業そのものだけでなくゴミ処理行政全体をパッケージとして考える必要があると思います。生産された堆肥2400tの内、生ゴミが1600t、畜糞が400t、籾殻400t。畜糞を混ぜないとあまりいい堆肥ができず、混ぜることによって品質も一定化するという効果もあるんで、畜糞もあればよりいい堆肥ができます。籾殻もこれも水分調整剤として混ぜることによって良質の堆肥を作る。2400tを詰めこんで出てくるのが、年間生産量500tです。わずか500tしか出てきません。これらは農家に対しては180t、1tあたり4000円で販売しています。だいたい堆肥の値段というのは一般市場で考えた場合8000円くらいだと思うので、かなり安くしていると言えます。農家が堆肥を使った農業生産に取り組みやすいように、こういった面でも補助しているといえます。一般家庭に対しては15キロ詰めて販売していて、これは15キロあたり320円、t当たりに直すと21000円くらいになると思いますが、ここからも、農家に対する4000円が安いことが分かると思います。有機栽培研究事業、これは農家に堆肥を使った農業を試験的にやってもらおうという事業です。これらの堆肥は売れ行きは上々、品質も比較的良くて、常に品薄状態にあります。ただし、この500tという数値は非常に低いもので、畑であれば25ha、水田でも50haしかまかなえないとうことで、堆肥が品薄状態になっていると言うんですが、今後拡大すればどうなるか分かりません。
堆肥化事業の成立条件
こういった堆肥化事業について見てきて、それが地方でも成り立つにはどういう条件が必要かということを考えてみました。
一番目として、農村地帯と都市部がバランス良く立地していることが重要な条件になるだろうと思います。東京のように大都市だけでも大変だろうし、あるいは生ゴミを出すところがない農村部だけでも成り立たない。そういった農村部と都市部のバランスの取れた立地が必要です。先程畜糞を混ぜるとよい堆肥ができると言いましたが、畜産農家も若干あればよりよい条件になるといえると思います。
2番目として、先程分別排出のときに相互監視機能が分別に対していい役割を果たしていると言いましたが、この相互監視機能が働く前提として、近所づきあいといった地域ネットワーク、地域コミュニティがなければ成り立たないと思います。例えば東京のように、お隣さんに誰が住んでいるかわからないという状況では、こうした相互監視機能が働きにくいと言えると思います。
3番目として、これは必ずしも必要と言えないと思うのですが、先程レインボープランの起こり方について話が出てたと思いますが、地域リーダーが呼び水的な役割を果たすことによって、奮闘が盛り上がってきた。さらに住民参加型自治と書いてありますが、こういう地域循環型システムというのは、農業生産あるいは他の産業が全部一体となって行われているわけです。ところが行政は比較的縦割りになりがちで、農業部門なら農業部門、ゴミ処理部門ならゴミ処理部門という形で縦割り構造になっている。そういった縦割り構造的なものは、循環に対して非常にやりにくいといえると思うので、そういったことから、レインボープラン推進委員会というのが、住民参加型の自治組織として、非常に重要な役割を果たすといえると思います。
以上見てきたように堆肥化事業に関しては、コスト的には比較的安く順調に行われています。ここがレインボープランにおいて一番成功した事例ではないかと思います。ここが成功しているから全国的にも有名な事例となり得ていると思います。ただし、堆肥を生産した後の農家の段階、あるいは農家が消費者に農産物を供給するという段階においては必ずしもうまくいかないということを次の章で述べたいと思います。
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